湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

ずっとお城で領主してる―FE風花雪月と中世の食⑦

本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』における、シルヴァンイングリットのガルグ=マク大修道院食堂の食事メニューの好き嫌い、中世ヨーロッパの「在地領主」「領地経営」にまつわる食文化について考察していきます。

 

ファイアーエムブレム 風花雪月 -Switch

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  • 発売日: 2019/07/26
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 メニューカテゴリの総論 いただき!ガルグ=マクめし―FE風花雪月と中世の食 や

キゾクキゾク鳴くふたりに絞った比較記事 薔薇と紅茶の貴族の宴―FE風花雪月と中世の食② 、

市街地の貧しい身分の食の記事 食ってけ!大貧民―FE風花雪月と中世の食③ 、

いわゆる「むらびと」の食の記事 生きる=おいしい?村人めし―FE風花雪月と中世の食④

貴族のお嬢さん修道院の食の記事 聖女の愛したお菓子―FE風花雪月と中世の食⑤

スパイス食とフォドラ外との貿易の記事 食彩の旅人―FE風花雪月と中世の食⑥ - 湖底より愛とかこめて

もごらんいただいてありがとうございます。

おかげさまで本記事シリーズの書籍化企画も滞りなく進んでおり、あとは照二朗がちょっと修羅場するのみとなりました(なので久し振りの更新になってしまったんですよね……)。ただいま再再再販中です。

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全員分の好み分析ページと全メニュー分のあれやこれや言いページ(レシピではないし写真も載ってません)、あと食べてるみんなの両面フルカラーポスターやお楽しみのごはんにまつわるゲスト小説を書いてもらって収録し、当初200ページくらいになる予定だったのですがサラッと250ページになってしまいました。参考文献一覧もあるよ! 幸いなことにご好評で初版はとらのあな様一般向け全年齢区分ランキングで一位もいただきました。

本をお求めいただき、当ブログのTwitterアカウントをフォローしてくださっている方にはささやかなオマケデータを公開しています。

 

 というわけで、本日は本に収録されている中から、ずっとご希望が多かったファーガス貴族層の一部をとりあげて記事にまとめたいとおもいます。ちょうどね、寒くなってきまたし、当方も青獅子クリアしましたので、この記事から数週「冬のファーガス祭」と題していくつかファーガス神聖王国関連の記事を上げる祭を敢行したいとおもっています。また更新がんばるですよ!

今回の記事のピックアップキャラですが。今回はFE伝統の「赤緑騎士」、シルヴァンイングリットです。

とかくメシが……貧しくて……という話になりがちなファーガス限界王国の台所事情、詳しくはどんなことになっているのでしょうか?

 

以下、この記事は支援会話や食事会話、エンディングなどのネタバレを含みます。

 

 

シルヴァンくんの好き嫌い

 「辺境伯」ってなあに?の記事でも述べたように、スレンとの境界防衛の防人であるゴーティエ辺境伯領には戦うための人員や物資や権限が集まることになり、その寵児として兄に殺されかけるほどリソースを注ぎ込まれてきたシルヴァンは貧しいファーガスの中では例外的なほど文化的に豊かに育ちました。

そんなシルヴァンさえも、

「俺、修道院に来て初めて気づいたんです。

 ファーガスのメシは不味い、って……」

とぼそりと言ってしまうような、えっ、何……。こわ……。

 

シルヴァンの基本データ

好きなカテゴリ・苦手なカテゴリ

野菜料理以外まんべんなく好き。野菜も嫌いというほどではなく普通。

好きなメニュー(12品)

・ブルゼン
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #卵 #食べごたえ)

・ベリー風味のキジロースト
(【甘いもの】#鳥肉 #果物 #焼きもの)

・魚と豆のスープ
(【魚料理】 #魚 #豆 #薄味 #あったかい #素朴 #汁物)

・ニシンと木の実のタルト
(【魚料理】#魚 #ナッツ #上品 #帝国風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・フィッシュサンド
(【魚料理】#魚 #キャベツ #すっぱい #庶民的 #手軽)

・二種の魚のバター焼き
(【魚料理】#魚 #上品 #伝統的 #帝国風 #焼きもの)

・魚とカブの辛味煮込み
(【辛いもの】#魚 #カブ #香辛料 #辛い #異国風 #煮込み)

・白身魚の甘辛炒め
(【辛いもの】#魚 #トマト #香辛料 #辛い #濃い味 #焼きもの)

・激辛魚団子
(【辛いもの】#魚 #トマト #香辛料 #辛い #帝国風 #上品 #揚げもの)

・山鳥の親子焼き
(【辛いもの】#鳥肉 #キャベツ #香辛料 #珍料理 #辛い #食べごたえ #焼きもの)

・ガルグ=マク風ミートパイ
(【大人の味】#獣肉 #トマト #チーズ #伝統的 #ガルグ=マク風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・煮込みヴェローナを添えて
(【大人の味】#魚 #ヴェローナ #チーズ #濃い味 #煮込み)

苦手なメニュー(4品)

・獣肉の鉄板焼き
(【肉料理】#獣肉 #ナッツ #ワイルド #豪快 #食べごたえ #焼きもの)

・豪快漁師飯
(【魚料理】#魚 #ワイルド #豪快 #庶民的 #食べごたえ #煮込み)

・雑魚の串焼き
(#魚 #庶民的 #ワイルド #焼きもの)

・ザリガニのフライ
(#魚? #げてもの #おいしくない)

特記事項

ファーガス人の辛味好みの味覚、上品な成人男性の大人の味好み、文化的で繊細なお嬢さん的な好みの中間に位置している

 

北のお城のお嬢さん

 シルヴァンはフェリクスなどと同様、ファーガスの寒い気候に対抗するためとみられる辛い料理を多く好んでいます。しかしフェリクスとは違って肉には興味が薄く、どちらかというとワイルドな肉のおステーキなどは苦手なほう。

ファーガスの一般的な食事より美味しくちゃんとした料理らしいガルグ=マクの食事を喜んでいるので、苦手なものは少ないですが、見た目ワイルドすぎたり明らかにおいしくないものだけはきっちり苦手としており、豪快漁師飯を前に若干ひるんでいます。ベルナデッタやイグナーツなどとも共通するナイーヴで繊細な感性がうかがえますね。

 好きなもののはバリエーションに富み、キジローストを肉料理でもあると考えればあらゆる種類のものがバランスよく好きだといえます。節度に欠けるびっくり料理とかは好みませんが、上品一辺倒ではなく新しくオシャレなもの、取り合わせの鮮やかなものなど瀟洒なセンスのある好きメニューのラインナップです。シルヴァンのゲームシステム上の才能や成長と同じように偏らず、幅広く公平な教養と審美眼を感じさせて、この点はハンネマンにも似ています。

 

 なんかすごい褒めまくってしまったようですが、要はシルヴァンは軽薄にチャラけているように見えてかなりインテリで文化的な人間だということです。本人は「ファーガスは汗臭くてむさくるしいったらありゃしない、華がほしいですよね華が」みたいな感じに女好きムーヴで茶化しますが、フェリクスとはまた違う意味でファーガスの神聖でプロテインでゴリラな騎士社会からは一歩引くようなかたちになります。

シルヴァンのこのような文化的にすぐれた資質が磨かれた背景には(紋章の性質もありますがそれはタロット対応記事の方でお話しするとして)さきほども触れたゴーティエ辺境伯家の立ち位置が関係します。『「辺境伯」ってなぁに?』で詳しく述べていますがヨーロッパにおいて辺境伯の置かれる「辺境」とは辺鄙なド田舎という意味ではなく、敵対勢力と勢力範囲がカブったり異文化と衝突したりするフチに存在するため、その対処のために大きな権限を任されている要注意領地のことです。

ちょうど生徒たちの親族の中でも特に「優秀なやり手」として描写されているのもゴーティエ辺境伯とエドマンド辺境伯です。危険なフチ地域には外敵との戦闘や交渉のために多くの権限や物資や情報、考えるべき案件が日々集まり、状況は刻々と変化します。先述のふたりの辺境伯はそれを代表する八面六臂の聖徳太子的な政治家で、単に破裂の槍が使えればいいってもんではなくたいへんな頭脳労働も強いられます。蒼月の章終盤のゴーティエ辺境伯のナレ超人ぶりはやばい。

 

 よって、シルヴァンの育った環境は「金銭的、文化学問的に豊かで、当主候補にいくらでもリソースを傾けて優秀にしたい」というお家柄でした。ゴーティエ領はファーガスの中でもおそらく特に冬が長く厳しく、寒い季節はお外に出ず本を読んだり、盤上遊戯をしたり、凝った料理を食べたりで過ごすのでしょう。

シルヴァンは紋章持ちであるうえに生来そういうインテリジェントな文化が好きでさまざまな才能に恵まれ、小さい頃は親の与えてくる文化学問をみるみる吸収して優秀な厩戸皇子として育ちました。不幸なことに、――そしてゴーティエの歴史ではきっとよくあることに――、紋章を持たず望まれたタイプでもないマイクランが先に生まれていたのですが……。インドアで繊細で上品で、皆に囲まれきらきら溺愛される子供のシルヴァンを、粗野で愛されないマイクランは「お嬢さん」と揶揄して憎み何度も外に放り出しました。

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ファーガスのマズいメシ

 さて、そんな文化的審美眼のすぐれたシルヴァンを生み出した豊かなゴーティエの財力と権力でも、シルヴァンは例の「俺、修道院に来て初めて気づいたんです。ファーガスの料理は不味い、って…」をしみじみ言ってしまうような微妙な料理を食べてきたことになります。まあ初めて気づいたっていうのが誇張だとしてもファーガスでは平均的に料理がマジィ、権力を持っていてもそれが当たり前である、ということになります。まあ確かに権力があっても石をパンに変えられはしないですからね。素材か調理のどちらかが悪いのでしょう。

調理のことに関しては、ファーガスはセイロス教の影響が強いので「美食や贅沢が過ぎるのは悪徳」という観念が強くておいしい調理法にこだわることが慎まれている(イギリスの清教徒がメシマズジョークでからかわれがちな食文化だったのはこういう理由もあります)可能性もありますが、真相を確かめるすべはありません。もしかしたら野菜を茹でて、茹でて、そして茹でて(イギリスジョーク)出しているのかもしれません。

イギリスはおいしい (文春文庫)

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  • 作者:林 望
  • 発売日: 1995/09/08
  • メディア: 文庫
 

 やっぱり料理のおいしさの大部分は素材からでしょう。ファーガスの地理は北フランスあたりから北東、ほぼロシアぐらいにかけての北ヨーロッパにあたり(今回作っている本には各国が現実の地理気候だとどのへんにあたるのか、育ちそうな作物なども書いています)、オリーブの木や葉野菜はもちろん場所によっては小麦も葡萄も育ちにくいはずです。貧しい土地代表のガラテア以外でも「ファーガスは貧しい国だ」としょっちゅう明言されています。最北にあるゴーティエでももちろん多様な食物は育ちづらく、現代のドイツらへんのようにポテイトゥも食べないので、想像するに燕麦……いわゆる「オートミール」、大麦、ライ麦、それを粥にしたものと、バター、塩漬け豚か魚、干した魚などをぐだぐだに煮たものあたりが常食になるしかなく、確かにおいしくないし楽しそうでもないんですよね。

 

 そして、ファーガスのメシがこのような献立になるのには土地の制約ともう一つ、それ以上に重大な問題があるのですが、それは今回の記事ではイングリットの好みを整理した後にお話しましょう……。

 

イングリットくんの好き嫌い

 食べることといえばやはりイングリットをおいては語れません。趣味:食べること。ずっといっぱい食べて笑顔になって、いっぱい動いていい汗かいていてほしい。

同時にこのイングリットの「食べることが大好き」というキャラクター造形は、近年ガラテア領をおそった記録的な飢饉と、それが象徴するファーガスの土地の慢性的な貧しさを常に示すものでもあります。領地を持った立派な貴族の当主であるはずのイングリット父すら味のしない野菜くずの汁をすするような状況、飢えと寒さのせいで本来死ぬはずでない領民もたくさん亡くなったに違いありません。イングリットがごはんにジュルリとしていると、単にかわいいという気持ちといっしょに、こう……『はだしのゲン』で「ヤミ米じゃ!ヤミ米が手に入ったぞ! とぎ汁をおかあちゃんに飲ませてやるんじゃ」って喜んでるみたいなつらさ悲しさを……感じ…………。

……………………(無言でパンケーキを口に運ぶ)

 

イングリットの基本データ

好きなカテゴリ・苦手なカテゴリ

 肉料理が好き。他も等しくみんなおいしい! 好みがうるさい帝国人は食べ物に感謝すべき。香りと渋みが独特の大人の味は苦手なこともある。

好きなメニュー(16品)

・ブルゼン
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #卵 #食べごたえ)

・ベリー風味のキジロースト
(【甘いもの】#鳥肉 #果物 #焼きもの)

・獣肉の鉄板焼き
(【肉料理】#獣肉 #ナッツ #ワイルド #豪快 #食べごたえ #焼きもの)

・バクス漬けウサギの串焼き
(【肉料理】#獣肉 #ニンジン #ワイルド #濃い味 #焼きもの)

・ダフネルシチュー
(【肉料理】 #鳥肉 #タマネギ #薄味 #あったかい #同盟風 #煮込み #汁物)

・熟成肉の串焼き
(【肉料理】#獣肉 #タマネギ #ワイルド #濃い味 #焼きもの)

・キジの揚げ焼きデアドラ風
(【肉料理】#鳥肉 #ニンジン #チーズ #焼きもの)

・野菜たっぷりサラダパスタ
(【野菜料理】#キャベツ #タマネギ #ニンジン #食べごたえ)

・ニシンの土鍋焼き
(【魚料理】 #魚 #カブ #庶民的 #焼きもの)

・ニシンと木の実のタルト
(【魚料理】#魚 #ナッツ #上品 #帝国風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・豪快漁師飯
(【魚料理】#魚 #ワイルド #豪快 #庶民的 #食べごたえ #煮込み)

・フィッシュサンド
(【魚料理】#魚 #キャベツ #すっぱい #庶民的 #手軽)

・魚とカブの辛味煮込み
(【辛いもの】#魚 #カブ #香辛料 #辛い #異国風 #煮込み)

・白身魚の甘辛炒め
(【辛いもの】#魚 #トマト #香辛料 #辛い #濃い味 #焼きもの)

・激辛魚団子
(【辛いもの】#魚 #トマト #香辛料 #辛い #帝国風 #上品 #揚げもの)

苦手なメニュー(3品)

・魚介と野菜の酢漬け
(【大人の味】#魚 #カブ #珍料理 #すっぱい #異国風)

・キャベツの丸煮込み
(【大人の味】#野菜 #魚 #苦い #豪快 #煮込み #ほぼ汁物)

・雑魚の串焼き
(#魚 #庶民的 #ワイルド #焼きもの)

特記事項

肉魚や辛いものに好きなものが多いため好みが「(酒飲み)大人組」に近いが、嫌いなものが少ない点でセテスに最も似ている。酒も飲みません。

また、外伝や支援で特に仲のよいドロテアとはこれでもかと好みが合わない。食い詰めた経験があるもの同士だが食い詰め方のタイプが違う。(イングリットは食べるものがなければ釣りで魚を得られる環境だが、ドロテアは貴族屋敷の裏口から出た残飯などを食べていたため魚の生臭さが嫌なのだと考えられる)

 

耕せダフネルトラクター

 イングリットはプロフィールや会話の中でも食べることが大好きなくいしんぼさんなことが語られているわりに、そこまで好きなものの数が多いわけではないのが意外かもしれません。レオニーさんなんか19品好きなもんあるからな。しかし

「食べることは好きですが、好物となるとやはり格別ですね(好き)」

「やはり毎日きちんと食事をとれるのは素晴らしいことだと思うのです(普通)」

という食事コメントをみるに、特定の品を好きだとか嫌いだとか以前にちゃんと食べられることが好きという泣いちゃうような状態らしいのですよね。

 食べた~!感があり、豊かで、元気の出る肉料理が特に好きで、魚も好き、野菜も好き、どちらかといえばボリュームのあるものを好みます。

こうなると数少ない苦手なものの意味が気になってきます。大人の味2品については「独特の魚の臭みを楽しむ」とか「渋みと苦味がたまらん」とかの大人の境地に達するような豊かな食文化経験がないのかな(これはちゃんと処理されていない料理なのでは?とか思っている)とも思われます。魚は大好きなのに「雑魚の串焼き」を苦手としている理由については、本のほうでゲテモノ二種についてのコラムとからめてお話しています。

 

 人間は慢性的に食べるものが少ないと風邪などに負けて容易に死にますし、ひと月も食べるものがなければ普通にみんな死にます。

なに当たり前のことを確認してんだ?と思うかもしれませんが、輸送や経済が未発達だった中世ヨーロッパ世界では、ひと月も絶やさずたくさんの領民を養う食べ物を行き渡らせるのはかなり戦略を要する大仕事だったということを確認したいんですよ。

現代では日本を含む先進国と呼ばれるような国の総生産のうち、田畑で作ったものを近所で食べる農業などの地産地消範囲の第一次産業が占める割合はほんのちょっとです。無理になんでも消費地で作ろうとしなくても、その土地で作れないものは輸送ネットワークを用いて取引を回せば多くの人が豊かなものを手に入れられるし、より多くの富を生むことができるからです。あんまり低すぎたり特定のどこかへの依存が高すぎれば問題ですが、食糧自給率じたいにそんなにこだわる必要はないのですよね。

しかし、災害かなにかの拍子に自分の町がその経済の網から切り離されてしまったら、どうなるでしょう? 物資がくるのは一~二か月先、しかも困っているときにかぎって、他の地域からくる物資がやたらと高値だったりしたら……。

それが地域を襲う「飢饉」の基本状態です。

特に、ファーガスでみられるような中世ヨーロッパの在地領主による土地支配はとにかく農業や林業や畜産、さっきの住んでるとこの近辺での地産地消の第一次産業で自給自足していたので、気候を原因とする麦の不作があるとたちまちアワワワーッと動揺しました。それでもたくさん実ったときの備蓄があればまだ細々とやっていけるんですが、去年から微妙だったりなんかするともうアウトです。近くから借りるしかありません。

普段独立独歩で勝手に生きている領地どうしの間の交通事情は悪く、行って荷を借りて戻ってくるまでには数か月かかることもあります。その間に人、死ぬ~~~~。しかも暴利をふっかけられます。こうしてガラテア領の貧乏スパイラルは続き、農家の長男(概念)のイングリットは持参金目当ての結婚を迫られます。

 

 天災なんだからお国からの支援とかないの~って思っちゃうところですが、中世騎士領主層と騎士たちの王との関係は

「領地の所有ケツ持ちの見返りに戦時などに協力し忠誠をつくす(これを封建といいます)」

というものです。つーわけで、貴族が「王国維持費・共済金」としてのデカい税金を払ってるわけでもなんでもないし「国税」みたいなものが「全国民(そんなものはない)」から納められる国家体制でも全然ないため、そもそも王家に配下の領地の経済的ピンチを救う筋合いもその力もありませんでした。ファーガスは近年ブレーダッド王家の権威が曇ってきているわけですが、別に曇ってなくてもファーガス的な在地領主の同盟関係にすぎない国家体制における「王」って現代のわれわれがイメージする王様よりずっと力は弱く、ほぼ旗印にすぎなかったんですよね。

 

 イングリットのもつ、ダフネルの紋章に対応するタロットは「戦車」です。馬の引く戦車は十分な飼い葉がなければ走ることができません。

同盟のダフネル家から進撃して分かれたガラテア家の祖は領地と王家からの信を得ましたが、やせた土地、貧しい実りに苦しみ紋章は途切れました。今度はイングリットが畑を耕す馬引きの犂耕車を戦車とし、ごはんを富ませてガラテア中興の祖となるのです! 耕せ、ダフネルトラクター!

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救え! ファーガスめし

 ゲーム上でもとにかく「防衛戦を続ける体力がない」「日常的に賊が出る」「土地が貧しい」「料理がマズい」とさんざんに言われているファーガス限界王国の現状ですが、じゃあいったい何をどうやったら豊かになるのでしょうか? そこんところ、シルヴァンの項で「あとで話すね」つったファーガスの問題点とともにお話していこうとおもいます。

 

 まず第一には農業の改革です。ファーガスにあたる中世の北ヨーロッパでも農法は改善されていっているのですが(中世時点の農法については本のコラムのほうでまとめています)、それでも足りないらしいのがファーガスです。とにかく寒いですからね。

いわゆる「なろう系」の中世ヨーロッパ風異世界転生でも農地を4つのローテーションに分けカブとクローバーを休耕作物として育て効率化する「ノーフォーク農法」(実際には十八世紀から)を導入したり、寒冷でやせた土地でも収量豊かな炭水化物を実らせるジャガイモを育てたりというのがテッパンです。

『風花雪月』制作協力のコーエーテクモの新作で風花雪月とかな~~り類似の魅力を持つ『遙かなる時空の中で7』(オススメです)でも、とあるルートで民が食うに困っていた戦国時代の東北地方にジャガイモが導入されていてファーガスファンは必見です。いやマジでマジで。

遙かなる時空の中で7 通常版

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実はこの記事の次はそのジャガイモをファーガスに導入ルートの感想書こうと思ってるとこなんですけど……。

 

 第二に、ニシンの塩漬けやタラの塩干しをメインとした交易です。ファーガスにあたる北ヨーロッパでよくとれるこれらの魚は食卓もお財布も潤わせます。商業の歴史に輝く覇者、オランダやハンザ同盟もしょっぱい魚の交易からやがてすごい富と文化を手にしています。風花雪月ではその役目はエドマンド辺境伯領に取られている状態ですけど……。

と、ここでさっき飛ばしてきた「ファーガスのメシがマズになってしまう、寒く貧しい土地の制約以上に重大な問題」が出てきます。それは交易がさかんでないことです。料理の豊かさって、素材のままでおいしいものがとれればそりゃいいですが、それでも同じものばかり続けばダメなわけで、材料のバリエーションで解決する部分が大きいんですよ。たとえばただの塩茹での野菜や肉魚でもオリーブオイルやワインビネガーのソースをかけたり適切な香辛料をふるだけでおいしく楽しい一品になります。

いろんなものが領内で作れないのなら、交易で手に入れればいい……のですが、もちろん、交易がさかんに行われていないであろうと予想した理由もまた、ファーガスにはバッチリあるんですよね。

 帝国貴族と王国貴族の暮らしの特徴の違いについて、散策会話でアネットが話してくれることがありました。「主に帝都に住む帝国貴族に対し、王国貴族は自分の領地の城砦都市で住んでいる」と。

帝国は(皇帝に実権があるにせよ大貴族の官僚たちに実権があるにせよ)中央集権化が進んでおり、中央の鶴の一声で帝国全土を動かせます。一方、ファーガス貴族の領国経営は城下町を中心としたそれぞれ独立性の強いもの(日本の守護大名のような感じ)のため、交易路の整備や通行税の問題などで足並みがそろわないんです。王に対して独立独歩な封建騎士領主層の性質については↓こちらの記事↓もどうぞ。

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まあ封建領主がバラバラに動いてお互い通行税をとりあいになっちゃうのも自然なことなんですよね。長い目で見れば経済は富と幸せをもたらしますが、短期的に自領だけを守るならリスキーなことですもん。交易したい奴から橋渡るたびに通行税とってけば一応懐はうるおいますし、街道って本質的にいろんな領地を突っ切ってるわけで隣の領地と協力して整備せねばなりません。おまけに風花雪月時点で王国領からガルグ=マクに向かう街道であるマグドレド街道ではロナート卿が反乱を起こすわ、王国領には賊が日常的に出るわで、やっとられんわ

 

 ディミトリが即位したあかつきには高い支持率と父の事業のひきつぎをもって、国内が和をもって尊しとなす政治がとりあえず実現できそうですが、ファーガスが豊かになる交易のためにはもうひとつ、実はファーガスとスレンとダスカーとの和が不可欠です。

ファーガスの状況をみるに、あまりいい海の港がないようです。スレンではタラがバサバサとれている可能性があります。そして何より手広い魚の交易を可能にするのは大量の塩です! ガッチリ保存しなければ遠くとは取引できませんから。特別豊かでもないのに塩をきかせた料理が多いダスカーには良質な塩の生産地があるセンが濃厚です。

 

 防備より交渉を、変わらない戦いより変わる勇気を、守るための変化を。シルヴァンがスレンとの国交を築いたファーガス地方には、おいしい交易品が豊かにめぐるのかもしれません。農法改善の領主(イングリット)と和平交易の領主(シルヴァン)の両輪で、目指せおいしいフィッシュアンドチップス! チータラ!

 

この他、書き下ろしのディミトリ、フェリクスにみられる「ファーガス独特」の食の歴史と文化事情ゴーティエチーズグラタンについて、各国の食の特徴、さまざまなフォドラ外の文化のヒント、そして全メニューに関する歴史随筆などなどをたっぷり250ページ収録した『いただき! ガルグ=マクめし』は12月中旬~下旬に通販開始。【追記】読みやすくなって再再再販!

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次回はファーガス(戦国時代の東北地方)にジャガイモを導入する実質風花雪月(遙かなる時空の中で7)のルート感想をはさみ、年内中には青獅子の紋章タロット対応記事を一本上げるつもりです。実は、タロット解説記事もちょっと豪華な本になる……予定……?なので、情報が気になる方はぜひ当ブログのTwitter アカウントをフォローしてみてください。

 

 

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一か月後誕生日です!! 一か月後誕生日です!!!! おめでとうおれーーーー!!

 

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