湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

薔薇と紅茶の貴族の宴―FE風花雪月と中世の食②

 本稿では『ファイアーエムブレム 風花雪月』の食堂メニューの好き嫌いによる、キャラの食の好みの考察、とくにローレンツ=ヘルマン=グロスタールフェルディナント=フォン=エーギル!!(!!)の対比について書いていきます。

 

 先日の夜中におなかをへらしながら書いたガルグ=マクめし記事にもたくさんのなるほどをありがとうございます。

いただき!ガルグ=マクめし―FE風花雪月と中世の食 - 湖底より愛とかこめて

今日またちょっとゲームは進めたんですけど、えっと……メリセウス?メルセデス? なんでこんなに当方の進みがクソ遅いかって、同盟ルートでは最大限支援回収しようとして全スカウトしてひたすらめしを食わせているからなんですね。そりゃめしの話もしますよ。一回の散策で9食食べてるもん(あと一回は合唱してる)

 おかげさまで前回のごはん記事には好評をいただけたので、また今度書くかもと言っていたキャラごとの食の好みの概観の中でも、今回は「ザ・貴族」の両雄ローレンツとフェルディナントの好みの違いのおもしろさに絞って話を。

 以下、この記事は食事会話や支援会話、あと金鹿の学級ルートについてのネタバレを含みます。

 

 

凡例

 今回はローレンツとフェルディナントの対比をみますが、今後全キャラをみていきたいので、今回の彼らを分析のしかたの凡例としたいとおもいます。

チェックする基本データは

①好きなカテゴリ、苦手なカテゴリ

前記事で整理したメニューの6カテゴリのどれが概ね好きか嫌いか。

②好きなメニュー、➂苦手なメニュー

個々のメニューに関しては、上位6カテゴリだけでなく「肉」「上品」「庶民的」「カブ」などなどの性質も複数もっているため、それらを「#トマト」みたいなタグとして列挙します。クックパッドみたいに。

④その他特筆すべき事項

です。これらを挙げたのちに、なんかいろいろ難癖をつけていきたいとおもいます。

たぶんほんとはエクセルとかにまとめて、一覧性のある情報として見られたほうがいいとおもうので、たぶん他のキャラたちの分析もご好評頂けるようなら本にまとめたほうがいいのかなーともおもっています。

 さて、ではローレンツの好みの話です。

 

ローレンツくんの好き嫌い

R.シュトラウス:英雄の生涯、町人貴族&「ばらの騎士」組曲 他

R.シュトラウス:英雄の生涯、町人貴族&「ばらの騎士」組曲 他

 

  ローレンツとフェルディナントはことあるごとにキゾクキゾク鳴く生き物であり、食事にも「私たちいつもいい家でいい作法でいいもの食べてました~!(^^)」という旨の特殊会話が存在、支援会話でも名門貴族どうしの会話らしい共通のたしなみと教養をクッションにした節度ある・意識高い・お上品を見せつけてきました。

さぞかし貴族的な料理が好きで、下賤な料理出すとウゲッてなるんだろうな。雑魚の串焼きとか。

 

ローレンツの基本データ

好きなカテゴリ・苦手なカテゴリ

 偏ったカテゴリの好みはなし。辛いものに苦手な食べ物が多いが激辛魚団子は普通。強いて言えば魚料理大人の味に好きなものが多い。

好きなメニュー(10品)

・ザガルトのクリーム添え
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #パイ・タルト・グラタン焼き

・ダフネルシチュー
(【肉料理】 #鳥肉 #タマネギ #薄味 #あったかい #同盟風 #煮込み #汁物

・タマネギのグラタンスープ
(【野菜料理】 #タマネギ #魚 #チーズ #あったかい #煮込み #汁物

・魚と豆のスープ

(【魚料理】 #魚 #豆 #薄味 #あったかい #素朴 #汁物

・ニシンと木の実のタルト
(【魚料理】#魚 #ナッツ #上品 #帝国風 #パイ・タルト・グラタン焼き

・二種の魚のバター焼き
(【魚料理】#魚 #上品 #伝統的 #帝国風 #焼きもの)

・パイクの贅沢グリル
(【魚料理】#魚 #ニンジン #香辛料 #高級 #焼きもの)

・ガルグ=マク風ミートパイ
(【大人の味】#獣肉 #トマト #チーズ #伝統的 #ガルグ=マク風 #パイ・タルト・グラタン焼き

・魚介と野菜の酢漬け
(【大人の味】#魚 #カブ #珍料理 #すっぱい #異国風)

・キャベツの丸煮込み
(【大人の味】#野菜 #魚 #苦い #豪快 #煮込み #ほぼ汁物

苦手なメニュー(8品)

・獣肉の鉄板焼き
(【肉料理】#獣肉 #ナッツ #ワイルド #豪快 #食べごたえ #焼きもの)

・バクス漬けウサギの串焼き
(【肉料理】#獣肉 #ニンジン #ワイルド #濃い味 #焼きもの)

・熟成肉の串焼き
(【肉料理】#獣肉 #タマネギ #ワイルド #濃い味 #焼きもの)

・豪快漁師飯
(【魚料理】#魚 #ワイルド #豪快 #庶民的 #食べごたえ #煮込み)

・魚とカブの辛味煮込み
(【辛いもの】#魚 #カブ #香辛料 #辛い #異国風 #煮込み)

・白身魚の甘辛炒め
(【辛いもの】#魚 #トマト #香辛料 #辛い #濃い味 #焼きもの)

・山鳥の親子焼き
(【辛いもの】#鳥肉 #キャベツ #香辛料 #珍料理 #辛い #食べごたえ #焼きもの)

・雑魚の串焼き
(#魚 #庶民的 #ワイルド #焼きもの)

特記事項

 「量が多い」、「肉肉しい」または「ガツンとインパクトのある味」、要は十代の男子が好むようなものに好きなものがまったくない。

 ↓こういうのだよ

 

理想の貴族たる者

 はい、案の定雑魚の串焼きにはウゲッてなってました。ローレンツは味自体の偏ったえり好みをしない模範生ですが、こう並べてみると味の傾向ではなく、調理法や食べ方が上品に整ったものであるかどうかをまず考え、断固BBQなどしねえという作法的な観念が第一に浮かび上がってきます。

 これはローレンツの話というよりも中世後期ヨーロッパ全体にかんする余談が少し入るのですが、実はガルグ=マク食堂のメニューの感じと3Dグラフィックには微妙なところにズレがあります。なんのことかというと、カトラリー(ナイフとフォークとスプーンとかのあれ)です。現代の日本では高級で典雅な料理の代名詞ともなっているフランス料理さえ、15世紀に当時ヨーロッパ最高の文化を謳歌していたイタリアいちの豪商(銀行家)メディチ家のお嬢さんがフランスの王室にお嫁にくるまでは王族でもお肉とか手づかみで食べるのがあたりまえで、上流階級でもカトラリーは肉魚を切り分けるためのマイナイフ一本とマイスプーンひとつ携帯しているだけというのがふつうでした。ラファエルがでかいマイスプーン落としてましたね。

だから食堂のメニューでも焼いたお肉ドーン、ことに「串焼き」というBBQ料理形態が多いのは手づかみムシャムシャ的に正しいことなのですが、なんかガルグ=マクの食堂、料理の左右にナイフとフォーク出してくれるんですよね。そもそも汁物でもない料理が個別にサーブされることじたい中世にはなかった概念です。中世の食事風景はおおむね、机に大皿料理がドン!ドン!されて手の届くとこにあるものを手で取って食べる感じです。

王妃カトリーヌ・ド・メディチ―ルネッサンスの悪女 (PHP文庫)

王妃カトリーヌ・ド・メディチ―ルネッサンスの悪女 (PHP文庫)

 

 おそらく食事の作法はだいぶ近世に移行していて、上流には広がってきているのでしょう。ローレンツは食べ方が優雅でないガツガツした感じのものをまず嫌っています。

 

 食べ方でなく中身に着目しても、ローレンツはじつに名門貴族の模範らしい食べ物の好みをしています。要素としては、

●庶民的な食材「カブ」入りの料理を忌避しないまでもほとんど好まない
(これは他の貴族らしいキャラクターにもおおむね共通して見えます)

●他の野菜メインの料理もほとんど好まない

よりもお腹にたまるものより汁物など量感の少ないものを極端に好む

●味付けが強いものを好まない

 前の記事でも述べましたが、中世の貴族にとって野菜、ことに土中にあって卑しい食物とされたカブをメインとした料理なんてのは田舎の下賤な庶民が食べる大量生産品であり、「満腹野菜炒め」が示すとおり肉体労働者(筋肉をいじめるラファエル)などのすーぐ空いちゃうおなかを満たすための安上がりなかさ増しにすぎませんでした。下賤な肉体労働者はおなかがすくので、たくさん食べます。フランス革命前の美食を極めた貴族が吐いてでも食べてたみたいなときとは違って、このぐらいの時代は貴族より肉体労働者のほうがごはんの回数も量も多かったのです。

逆に言えば、「いっぱい食べる」というのは貴族として下品なことであり、「気前よく客人に食事をふるまいながら自分はあまり食べない」みたいなことが超COOL! でした。このあたりはラファエルとの支援会話にもあらわれています。

 さらに、宗教の影響もあります。セイロス教で慎み深いことが美徳とされるように、キリスト教でも強欲や貪食が罪とされます。前の記事の魚料理の項で「フィッシュ・デイ」の話をしましたね。断食、肉を断つことは敬虔な聖人、理性的なりっぱな人物に近付く道でした。われわれ日本人はこういうのを仏教的な「殺生戒」あるいは神道的な「血の穢れ」の観点で見てしまいがちですが、セイロス教やキリスト教では地に満ちる植物も動物も人間への恵みとして神が与えたものとされるので、理由はそこじゃないです。だから肉と魚に区別があるんですね。「殺すな」という意味だったら魚はええんかーいって話ですから。

キリスト教では肉を食べることで体が熱くなり、そういうエネルギーは肉欲の罪につながる悪いものと信じられていました。味付けの強いものも同じようなかんじです。貴族の贅沢な味である甘いおやつ的なものも、嫌いではなくてもそんなに好きではありません。

現代において「人間らしさ」とは泣いたり笑ったり怒ったりする感情のことだととらえられることが多いですが、それは機械と比べたとらえかたです。産業革命とか機械文明より前のヨーロッパ世界では、人間らしさとは獣と比べて、理性的で抑制的であることを意味していました。あらゆる強い欲動物としての本能を神に与えられた理性の下に支配し、涼しい顔で抑えてみせるのが理想の人間というものなのでした。

よくイギリスの料理はマズイって国民性ジョークになってたりするじゃないですか、あれは食材の豊富じゃなさとかの問題ももちろんあるのですが、敬虔な清教徒(ピューリタン)の多いイギリスにおいては、古くから「食事をウメェウメェと食ったり美食にこだわったりするのは悪徳だし下品」という観念が強いという一因もあるのです。 

 だからマヌエラの辛味好みの「塩辛いものでお酒飲むの大好き~♡グデングデン」みたいな布陣はローレンツの忌避するところであり、その証拠にローレンツは「ジャンクなつまみっぽい辛いもの」は嫌いでも上品に小さなクロケットにされた「激辛魚団子」は別に普通です。こいつは辛い物が苦手なんじゃない、慎みのない料理が嫌いなんだということがわかるのです。「慎み」というものはローレンツとマヌエラの支援会話のキモでもあります。慎みのないマヌエラは、しかし人生訓をローレンツに教えてやるように、「忘れろと言われても忘れられない、するなと言われても抑えられない。そういうものよ、人間って」と言うのです。

ローレンツの「作法主義」について詳しくはこちらもどうぞ↓

www.homeshika.work

 

いばらの鎧

 ローレンツの食の好みは、優雅な作法を外れずに、貴族として理想の正道を行き、欲を抑え自分を律していくものです。だからこれは「ローレンツの好み」というより「貴族として模範的な好み」が先に来ているとみられます。これ、ローレンツがよく支援会話で呆れられてるやつですよね。いわく「融通がきかない」「型にはまっている」「理想理想」「もし平民の女の子を好きになっちゃったらどうするの~?」……

 ローレンツが極端な味の好みがない優等生なのも、「好みの美味♡」というところにこだわって食べ物を好むなど「平民の女性に身も世もなく恋をする」ことのようにはしたなく貴族の責務を外れた不信心なことだという観念があるのかもしれません。じっさい、ローレンツと先生の支援会話や散策会話には彼が「貴族の務めとしてセイロス教の敬虔な信徒であること」を意識しているということが何度も示されています。

「信仰心」「敬虔」という感覚は現代日本の多くの人にはわかりにくいものですが、それはレオニーの食前の祈りのように「神への思いが心のうちから自然素朴に湧き出てくるもの」のこともあれば、メルセデスのように「人々に奉仕したいなどの気持ちが宗教の精神に合致したもの」のこともあるし、ローレンツのように「自分の精神や行動を高潔に保つための理想の枠組み」としてみていることもあるのです。そんなローレンツにとって、セイロス教に疑いをさしはさみ、フォドラの枠を壊すクロードはまさに正反対の価値との運命的対面なのです。

彼のまとう細身の美しい鎧は、禁欲的に慎み深く締まった細い体、その中に秘めて律したあつい血と情熱を、理想の貴族のかたちに縛りつけています。

 

 あっ、あと、ローレンツの食の好みのキッチリとした枠にちょっと外れてみえるメニューもひとつあって、「魚介と野菜の酢漬け」です。えーカブが目立つちょっと珍しい感じの料理をローレンツが食べてるだと~と若干困ったのですが、最近偶然似たレシピを目にしまして。

 美しくシャレオツで上品な量のカルパッチョやでこれ これは確かにアリでは……? と思われましたので、この記事の末尾で作ったレポートをしようとおもいま~す。

 

フェルディナントくんの好き嫌い

ロイヤルアルバート レディー カーライル  ティーカップ&ソーサー

ロイヤルアルバート レディー カーライル ティーカップ&ソーサー

 

  ローレンツが理想の貴族を目指すなら、このフェルディナント=フォン=エー↑ギル!!は貴族の中の貴族。やはり貴族らしい食性をしているのでしょうか。貴族の食の理想の規範をローレンツベースにおいてフェルディナントの好みを見ていきましょう。

 

フェルディナントの基本データ

好きなカテゴリ・苦手なカテゴリ

 苦いものカテゴリがすべて苦手、辛いものや肉料理で好きなものは珍しいが、他カテゴリはまんべんなく好きなものがある。何より苦いもの以外で苦手なものはひとつもない

好きなメニュー(13品)

・ザガルトのクリーム添え
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・ブルゼン
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #卵 #食べごたえ

・ベリー風味のキジロースト
(【甘いもの】#鳥肉 #果物 #焼きもの)

・ダフネルシチュー
(【肉料理】 #鳥肉 #タマネギ #薄味 #あったかい #同盟風 #煮込み #汁物)

野菜たっぷりサラダパスタ
【野菜料理】#キャベツ #タマネギ #ニンジン #食べごたえ

・タマネギのグラタンスープ
【野菜料理】 #タマネギ #魚 #チーズ #あったかい #煮込み #汁物)

満腹野菜炒め
【野菜料理】#トマト #キャベツ #豆 #食べごたえ #焼きもの)

・ニシンの土鍋焼き

(【魚料理】 #魚 #カブ #庶民的 #焼きもの)

・ニシンと木の実のタルト
(【魚料理】#魚 #ナッツ #上品 #帝国風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・豪快漁師飯
(【魚料理】#魚 #ワイルド #豪快 #庶民的 #食べごたえ #煮込み)

・フィッシュサンド
(【魚料理】#魚 #キャベツ #すっぱい #庶民的 #手軽

・パイクの贅沢グリル
(【魚料理】#魚 #ニンジン #香辛料 #高級 #焼きもの)

・山鳥の親子焼き
(【辛いもの】#鳥肉 #キャベツ #香辛料 #珍料理 #辛い #食べごたえ #焼きもの)

 

苦手なメニュー(5品)

 ・ガルグ=マク風ミートパイ
(【大人の味】#獣肉 #トマト #チーズ #伝統的 #ガルグ=マク風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・煮込みヴェローナを添えて
(【大人の味】#魚 #ヴェローナ #チーズ #濃い味 #煮込み)

・魚介と野菜の酢漬け
(【大人の味】#魚 #カブ #珍料理 #すっぱい #異国風)

・ゴーティエチーズグラタン
(【大人の味】#鳥肉 #ナッツ #チーズ  #パイ・タルト・グラタン焼き)

・キャベツの丸煮込み
(【大人の味】#野菜 #魚 #苦い #豪快 #煮込み #ほぼ汁物)

特記事項

 香辛料に慣れていると思われる金鹿の生徒や教会の大人たち以外にはあまり好まれていない「パイクの贅沢グリル」を好み、上流貴族として食べ慣れていたことがわかる。

 

わくわく!庶民の食事探検隊

「貧しい食事であっても、作法は守るべきだ。
 そうは思わないかね? フェルディナント君」

「もちろんだとも。貧しい食事であれ、
 作ってくれた者に敬意を払って食さねばな」

 貧しい食事貧しい食事うるせーーーーーーっって感じですが、この食事特殊会話は実は二人の「貧しい食事」に対する見方が端的に表れたすごいセリフだったのだとおもうのですよね。

何かっていうと。

 

 まずとりあえず、フェルディナントの食の好みは「大人の味(苦いもの)嫌い」が最も特徴的にあらわれており、それはヒューベルトとの対比を意識されているとみてよいでしょう。前の記事の「苦いもの」の項でも述べたように「大人の味」は感覚の麻痺や微量の毒への慣れによって食べられるようになる味覚であり、物理的な毒物だけでなく世界の暗部に慣れているヒューベルトと、明るく素直に自分の価値を信じるフェルディナントという正反対の強さを対比させています。

珈琲の世界史 (講談社現代新書)

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 そして苦いもの嫌いの次に目につくのが、彼の意外なまでの庶民的料理への興味です。もちろん、とにかく早く量を食いたいカスパル偉い兄貴も怪しいキノコ食べてしまうヒルダなどいい家柄の貴族の中でもぜんぜん貴族っぽくない豪快な食べ物の好みをしているやつはいますし、そもそも好みがちゃんと規範におさまっているような奴は融通のきかないローレンツくらいなのですが、これだけキゾクキゾク言い、「貧しい食事」などとウエメセなことを言っている典型的貴族の(ように一見みえる)フェルディナントが、「ニシンとカブをつみれにして土鍋で焼いたやつ」とか「魚をいろいろぶつ切りにしたごった煮汁(骨出てる)とかを好んで食べてるのはちょっとはっ?てなるところです。

もう一度言いますが、別に貴族が貴族らしくない食べ物を好んだってそんなことはよくあります。感覚の問題なんですから。それにしても貴族の中の貴族フェルディナント=フォン=エーギルがですよ、食べ盛りの生徒達には人気でも先述の理由で貴族的にはちょっと下賤なおなかにたまる野菜料理である、「野菜たっぷりサラダパスタ」「満腹野菜炒め」などまで喜んでもりもり食べるのです。

 じゃあ大人の味が苦手なのは味覚が鋭敏なわけではなく案外バカ舌ってことなんか?というとまたローレンツといっしょになって

「悪くない料理だが、いかんせん素材がな」

とか煽ってきます。味はわかってるアピール。

 

そして、このお坊ちゃんは、雑魚の串焼きを出されても嫌がらない

他にも嫌がらない育ちのいいキャラも少しいますけど、イングリットだって嫌がっとるわ

 

平民の酒場へ

 このフェルディナントの「庶民的料理への興味」「(食わず)嫌いのなさ」をみて、思い出されることがあります。まさにフェルディナントとローレンツの支援会話です。

 ローレンツとフェルディナントは「貴族が、平民の使う酒場を利用する」ことについて話します。ローレンツは婚活以外のシーンでも貴族と平民の線引き、枠線を重視しています。それは貴族の特権を守るためではなく、先に述べたように貴族には上に立つものとしてより厳しくおのれを律することを課し、また平民を守るためです。

彼にとって貴族と平民は羊飼いと羊であり、柵を作ってやらねば羊は野の獣に害されたり、羊飼いのする作業に引っかかったらケガをしてしまうかもしれません。だからローレンツが「貴族が平民の酒場を利用すべきではない」と考えるのはだらしなくない作法を保つためでもあるし、平民の暮らす平民のための場所を荒らさずその秩序を保護してやるためでもあります。もし平民の酒場を貴族が利用するとしても、それは「貴族が街に暮らす平民に金を落とす」という意味で意義があるとしています。これも、貴族と平民に徹底して枠線を引いた言葉です。

 そんなローレンツの考えに対してフェルディナントは「素晴らしい考えだな」と素直に評価し、自分の考えを「気恥ずかしい」と謙虚にしながらも、「貴族と平民の垣根を払う」ということを真に考えていたのです。逆じゃん!!!!

フェルディナントは、貴族が平民を治めるにしてもそれには貴族と平民が相互に理解し合うことが不可欠だと考えています。確かに、格差が「身分」として常態化したような社会では人々は「役割分担」のレベルを超えて断絶しはじめ、さっきの羊飼いと羊の比喩じゃないですがお互いを同じ人間とも思わなくなります。それは平民にとっても支配者にとってもぜんぜん幸せなことではなく、いずれ社会システムもうまく回らなくなります。フェルディナントは為政者としてそういうところに目をつけているのです。

こういった格差の固定化の問題は現代日本にも通じるテーマであり、ドラクエ11などでも描かれています。

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 だからフェルディナントは「貧しい食事」も先入観なく食べてみますし、それで味が気に入ったら素直に好き!素晴らしい!ってなります。最初に引用した食事特殊会話でもローレンツが「貧しい食事」に対して作法は守るべき」とか言うのに対しフェルディナントは作ってくれた者に敬意を持って食さねば」とおさんどんの平民に思いをはせるのです。

これに関連して二人はメルセデス相手の支援会話でも対照的な態度をみせ、もう貴族という枠組みの中にいないメルセデスをローレンツはまともに見ないようにし、フェルディナントは「君の心身は今も貴族」と言います。ローレンツがひどいやつなのではなく、枠を払って素直に中身を見るのはとても勇気のいることです。アイデンティティが揺らぐ危険なことです。しかし、フェルディナントは「自信家」なので、なんかしらんが揺らがぬ自分像をもっていて人の話は聞かねえしその後勝手に自分で考えて頻繁に凹んで認識を改めることにも躊躇がない。このふたつの「フェルディナントあるある」は一見真逆のことのようにも思えますが自分の存在に根拠のない自信がなければ、「悩んで盛大に凹む」ことも「素直に認識をあらためる」ことも「平民に混じって酒を飲む」こともできません。

 フェルディナントは「自分=貴族であること」が根本的に揺らぐことのない、黄金の自己肯定感をもっているから、そういうことができるのです。

自己肯定力~そんなことで私の価値は変わらない~

自己肯定力~そんなことで私の価値は変わらない~

 

 ↑リンクの本に

子供は過去の体験が少ない。だからこそ未来に向けて生きる力が強い。

という内容があります。

フェルディナントが「大人の味」を好まないことについて、前の記事の苦いものの項で「大人の味を好むのは世界の毒への慣れであり、子供舌はそういう毒を敏感に感じとれるピュアな能力でもある」的なこと言いました。もちろんフェルディナントだって、子供のころに平民の集まる場所で何かよくないことが起こり嫌な思いをした…などのことが度重なっていれば、こんなに素直に「貴族と平民がお互いに知り合うのは善いこと」などとは思えなかったはずです。士官学校に来るまでのフェルディナントにそんな経験はたぶん少なかったのでしょう。

それを世をすねた人間は「おめでたい世間知らず」と嫌いますが(ヒューベルトとかたぶんそう思ってましたよね)、毒を知らずに育った人間だからできることもある。持てる考えがある。ローレンツの「線引き」との対比はもちろん、エーデルガルトのもとでヒューベルトを補完する立場としてフェルディナントがいることにはそういう大事なはたらきがあるのかもなとみえます。

 

番外編「魚介と野菜の酢漬け」

 本題はまあこのへんにしといて、照二朗のガルグ=マククッキングはっじまっるよー!

 えーと「魚介と野菜の酢漬け」がさっき見たローレンツの貴族的~な好みにはじゃっかん外れ値なのでは? おまえの言っていることはデタラメなのでは? と不安になったので、実際に見て確かめてみるために作ることにしたのですね。もちろんゲーム上のグラフィックではなんかシメサバみたいなものに野菜の酢漬けがつけ合わされてるのが見えてるんですが、なんかフレーバーテキストに合わせて現実的でおいしそうに作るとしたらどんなかんじなのかな?と。

カレドニスガーをシメる

 まず「魚」ですが、材料であるカレドニスガーは硬いうろこを持つ、日本だと「アリゲーターガー」とかの「ガー」なので、さすがに釣らないと手に入らねえよ。なので魚肉の性質として「脂が少なく、熱を通すと鶏のささみっぽい」ということからカジキ、生食用のカジキが見つからなければビンチョウマグロなどの脂や旨味少なめの白っぽいマグロが近いんじゃないかなと思います。
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 これを酢でシメていきます。まず表面の湿り気は生臭さのもとなのでよくキッチンペーパーやふきんでふきふきします。当方はシメサバを作るときは砂糖→塩→酢の順で別々にシメてるのでそれでやってみようかなあ。砂糖や塩でシメると魚肉の内外の砂糖・塩濃度差による浸透圧でお水が表面に抜けてきます(きゅうりの塩もみと同じ現象です)。この砂糖や塩をして浸透圧でお水を出すということが中世を含む冷蔵庫とかなかった時代の食糧保存のふたつの基本のうちのひとつです(もうひとつは簡単ですが、まあそれっぽい料理の話のときにでも)。なぜなら食べ物を腐敗させる細菌さんたちも水分を含んだ細胞であり、そこから水分が抜けていくと活動できなくなるからです。また、酢も酸性のpHを示し、酸性下で活動できる腐敗菌は少ないです。

 

赤カブをピクルスする

 せっかく今が旬なので、地元の赤カブを買い求めました。白カブやたまに赤カブはスーパーでも売っていますね。現代日本で売っている品種の白カブはつるりとしたキレイな顔をしていますが、赤カブは洗浄されて袋ごしに手に取っただけでも土の香りがします。農民~~。

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サラダ用にはでけえなというわけで今回は似た代替品を使っていきます。この赤カブは今度赤カブづくしの田舎風料理でも作ってみましょうかね。

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ハツカダイコンです。赤くてサラダに映え(ばえ)ます。硬い茎と葉は味噌汁の実にしました。カブやダイコンのたぐいは葉っぱもおいしく食べられ、生でも食べられ、じつに庶民の味方ですね。
今回は時短のため切ってから調味液に漬けますが、あらかじめ丸でピクルスにしたものを切ってもいいですね。塩もみし、酢に漬けていきます。

 

盛りつけ(原作に忠実でない)

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 完成したものがこちらです。なんか肉のタタキサラダみたいですね。これはローレンツもいける根菜の出し方ではないだろうか?

味の方ですが(もぐもぐ)、青魚以外でも酢でシメるとおいしいんだな!?と新たな発見。そしてやはりこれはシメサバとかのやつなので、フェルディナントが苦手とする独特の大人の味ではあるな……とおもいました。いやこれおいしいですわ。他にもガルグ=マクの食堂メニューは調理法の想像はついてもそういう組み合わせウチじゃしないな……というものが多いので、フェルディナントを見習って食わず嫌いせずいろんなのを試してみたいですね。

 

庶民の食事編その1もできたよ

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記事書くのもゲームを進めるのも遅いので、とりあえず金鹿を終わらせます。それでは残りをいただきます。僕としたことが、食事の途中で別の仕事をするなど貴族にあるまじき無作法を失礼いたしました。

 

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