湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

フォドラ大陸・ちょっと未来の旅―FE風花雪月と中世の食⑧

本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』における架空の大陸「フォドラ」の食文化が、ゲームのエンディング後どういう変化をしていく可能性があるかを現実の中世~近世~近代ヨーロッパ食文化からいろいろ妄想して楽しんでいきます。

キャラクターごとのガルグ=マク大修道院食堂の食事メニューとその好き嫌い、中世ヨーロッパの食文化との関わりについて考察した『いただき! ガルグ=マクめし』シリーズのおまけ記事的なものになります。

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きたる2021年6月13日、『いただき! ガルグ=マクめし』書籍版の副読本、『フォドラ食物語』頒布開始の運びとあいなりましたので、今回はその記念記事となります。ワ~!! ドンドンパフパフ

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本体の『いただき! ガルグ=マクめし』はブログ記事をもとに加筆した分析とエッセーの本でしたが、今回の副読本は食にまつわる小話の「小説短編集」です。記事や本体の書籍といっしょに読むと風花雪月をより楽しんでいただけるようなこぼれ話集になりました。小説読みづらい方には申し訳ねえのですが、全108ページ全部食い物関係の話のまんぷくボリュームになっております。

また、各キャラのものの考え方やお話のテーマは年末に書籍化します『FE風花雪月とアルカナの元型』シリーズの紋章とタロットの関係が表れていたりいなかったりもしますので、それと合わせてもニヤリとしていただけるかと。頒布開始後、Twitterアカウントのほうでそのへんの裏話もする予定です。今回もTwitterフォロワー様用オマケがどーんとありますよ。

この副読本ではいくつかの短編が終戦後、つまり「ゲームのエンディング後」の世界の発展や希望を感じさせる話を描いています。先生と級長たち、さまざまな背景や可能性を持った多くのキャラクターたちが切り拓いたフォドラの明日は無限大の広がりをもっているはずです。今回は、その一端として考えられる予測にふれ、みなさまの中で彼らの未来を豊かに想像するきっかけにしていただけたらな~とおもいます。

そんでみんなごはん話書いておくれ(我欲に利用)

 

 

 

作中時点のフォドラめしおさらい

 まずは、ゲームの時間時点でのフォドラの食事情の特徴や現代との違い、課題についてざっとおさらいしていきましょうか。

「ガルグ=マク大修道院の食堂のメニューからして、フォドラの食文化は中世~近世ヨーロッパにわりとちゃんと準拠してるっぽいよ」というお話の発端は↓こちらの記事をどうぞー。↓

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中世から近世

 食堂のメニューの感じや全体的な技術水準からして(服飾デザインとかは置いとくとして)、フォドラの時代感はヨーロッパの中世後期~近世くらいの感じで数百年モチャモチャ停滞しているもようです。『風花雪月』の世界観は現代のわれわれのような科学文明が栄えて滅びたあとにソティスが自然を再生させて復興した文明みたいですけど、時代感としては現実の西暦でいう13世紀から16世紀といったかんじ。

かなり開きがありますしこの時代にはその前に比べてめまぐるしく世界が動いてるんですが(ペストとかルネサンスとかね)、この「開き」は地域によって食文化や流通の発達ぐあいが違うことからおこってます。地域差については次とその次の項目で。

加えて、この世界には魔法があるので加熱調理や冷蔵冷凍、発酵熟成など食べ物にかかわるインフラを補って現実よりかなり良い部分も多いです。まあ、ただし魔道や魔道使いの使用人を使える上流階級に限る、ですが。つまり現実より差が大きいんだな。

 

 中世後期の食事はまだカトラリー(ナイフとかフォークとか)や食器が流行らず、今からするとかなり野蛮っぽい食事をしていました。庶民は家の鍋で常にコトコト煮ているごった煮を木の椀に盛り、かたい黒パンをひたしてスプーンで食べます。貴族や有力者は木でできた大皿に剥製みたいにドーン!盛られた丸焼きの肉をマイナイフで切り取っては手づかみで食べ、汚れたおててはテーブルクロスでフキフキ。食後のテーブルクロスはドロドロ。お野菜はかったるいし位が低い食べものなので、裕福な人ほどあまり食べませんでした。

近世になるとカトラリーや陶器でできた皿が流行しはじめ、貴族の食卓は現在のおフランス料理のイメージに近付いて洗練されたものとなります。「豪勢」や「贅沢」なだけでない「美食(おいしさの楽しみ)」がこのころやっと注目され発達していき、凝った調理法繊細なソース軽いお菓子が出てきます。おいしさのために食べるようになったのでダイエット的なことや健康が気になりはじめ、消化をよくするヘルシーな食材としてお野菜やハーブが評価されだします。

 

ヨーロッパの地理気候

 フォドラ大陸(ヨーロッパ)といっても広うござんす、大きく二つに分けると南の地中海性の温暖な気候北の寒冷湿潤気候があります。

今色分けしたのでなんとなく察していただけたとおもうんですけど、地中海性の温暖な気候っていうのがおおむね帝国同盟、寒冷湿潤気候っていうのが王国ってことになります。もうちょっと細かく分けられもするんですがざっくりね。

日本は温暖で湿潤な気候なので、同盟の一部に近いかもです。帝国にあたるとみられる南・西ヨーロッパは温暖でいつもカラッと晴れた湿度の低い気候、王国にあたるとみられる北ヨーロッパは寒くて暗くてジメッとしてる。

「中世ヨーロッパ風ファンタジー」や「おとぎ話」によく出てくるのは後者の方です。うっそうとした森に魔女や妖精や怪物がいるようなやつ。王国には湿地や川や湖、沼地、針葉樹の深い森といった地形が多く、他の地域と比べて「自然の大いなる力」と付き合っていると考えられます。

帝国にあたる南・西ヨーロッパはスペインやイタリアやギリシャのような明るい風光明媚さ。小麦、葡萄、オリーブ、熟成チーズ、柑橘類など甘酸っぱいフルーツを作ることができていると考えられます。とくべつ飢饉になったり天災があったりのトラブルがおこることがなければ、海や大地は恵みをもたらす母であり、食べ物に困ることはあんまりない地域です。

 

国ごとの差異

 『風花雪月』をふつうにプレイしているだけでも、「帝国のグロンダーズ平原は穀倉地帯」「王国は貧しい」「同盟は商取引がさかん」という国家性の情報が入ってきます。

よく日本文化論でも「稲作の農耕中心の集団統制生活が協調的な国民性を〜」とか「麦作と狩猟採集の西欧は集団行動の規律より成果が重視され〜」とかの話が出てきます。やっぱ食い物事情が人間の世界観や社会観を作りますし、軍を動かすには武器や戦法以前にまず兵站ですし、そもそも人間が戦争っちゅうもんを始めたのも食糧の備蓄の支配権をめぐってであろうと考えられています。それぞれの土地でどうやって食べ物を入手してるかって異文化群像劇にはすごくだいじですよね。

 

帝国

 帝国は穀倉地帯グロンダーズ平原を擁しているし、先ほど述べたように気候的にもたくさん食べられる作物があり、地中海の海の幸もあります。聖セイロスの授けた技術によって古代ローマ帝国のような圧倒的治水技術をほこり都市は上下水道も完備。さらに、現実の中世南西ヨーロッパと違ってこれも聖セイロスの授けた知恵なのか、皇帝や中央貴族の官僚という中央集権の効率的政治によって街道や港が整備されているはずです。流通がいい。ダグザ戦役で勢力が削られたとはいえブリギットを事実上の属州化していて、ペトラ世代の動向によっては交易ができます。

高い技術力が民間にも伝わっており、宮廷文化はさらに贅沢で洗練されているようなので、食事の雰囲気としては近世の「フランス・イタリア貴族」的なイメージに近いもようです。中流階級もパンとワインとオリーブオイルあたりの基本のおいしい食事ができているでしょう。

さすが帝国は強いですね。あんなに大きな兵力をひっさげてエーデルガルトが挙兵できるためにはまずこの食糧的な土台がなければです。攻撃されたなら蓄えが少なくても応戦するほかありませんが、やはり仕掛けていく側は莫大な資源を必要とします。

 

王国

 王国はいうまでもなく食糧的に貧しいです。土地が貧しいよということはイングリットの実家について特に語られていますが、そのあたりの中央ファーガスの領地ではだいたいそんな感じでしょう。寒い土地でじゅうぶんに育つ作物は少なく、植物があまり育たなければ土壌の質も充実しません。狩猟採集や漁労をがんばるか、農法をめちゃくちゃ改善するかです。食事の雰囲気としては中世後期(粥!肉!手づかみ!)寄りで、味付けのバリエーションがあまり普及していないもよう。

しかも、王国はもともと帝国と聖セイロスの勢力に敵対していた部族社会だったので、聖セイロスの自然への秩序だった対処法や効率的な政治の方法が伝わっておらず、自然をうまく扱うことも難しいし、領地ごとに通行税を課して流通は悪いし、という問題もあります。ただし、たくさんある川を使った舟の交易には優れているはずです。また資源や知恵の不足を技術で補おうとするためか、王都には庶民も入学できる魔道学院があります。今後の成長が楽しみな地域ですね。

 

同盟

 同盟ももとは王国と同じで帝国と聖セイロスに敵する部族社会だったのですが、王国から独立することになってから帝国の進んだ技術や文化にかぶれる者が多く、また気候風土的にも王国より食べ物が豊かです。エドマンド港やリーガンの領都デアドラなどの水上交易がさかんで、パルミラやモルフィスなど東方世界と隣接しています。東方から伝わる香辛料が他地域に比べて安価であるはずで、エキゾチックな料理が受け入れられています。

情勢が読めないし各領主の足並みもそろわなさすぎ、という問題はありますが、そのぶん貴族たちは実務的で経営的なビジネスっぽい存在になっており、利害関係の中でそれぞれ切磋琢磨したり妨害しあったりしています。それゆえに、商取引を介したなんつーか貿易戦争みたいなものもあって、進んでるなあ。同盟は戦後パルミラとの通行が生まれて一番もろに変化を受けるようでいて、根本的にはあまり変わらないのかも。最も個性豊かで異国的なものの多い地域です。常に地味に紛争がおこっているきな臭い地域、カネがものをいいまくる地域ともいえますが。

(帝国は身分が、王国は力が、同盟は利害がものをいう世界観だったってわけですね)

 

禁忌

 作中時点でのセイロス教は、しばしば主の名のもとにフォドラの民に「こういうことはしてはいけませんよ」「それはアウト、没収ですよ」といろんなものを禁止してきました。もちろん民を善なるものに育てる宗教としてまっとうな禁止が多かろうとおもうのですが、そのうちには技術の発展の妨害も含まれていました。

冒頭のネメシスVSセイロスのムービーをみるに、あの千年以上前から戦争の様子や軍備はほぼ変わった様子がありません。つまり、政治や社会倫理は整備されても、技術的にはたいした進歩がなく停滞していたということです。DLCのアビスの図書館に隠されている資料などをみるに、教会は少なくとも「望遠鏡」「石油」「活版印刷」の発見をピピーッってしてもみ消しており、どうやら解剖なども禁止しているようです。確かにこれらは人類の科学文明の躍進のターニングポイントとなった事物であり、教会はフォドラの人類が科学を発展させ世界に対して傲慢になるのを防ぎ、牧歌的な神秘(女神に与えられたという設定の紋章にもとづく貴族制を含む)の中で生き続けるように管理しているもようでした。

レアはおそらくソティスが去ったなるべくそのままの世界を、中の人間を善なるものにしつつキープし、復活したお母さまにお返ししたかったんでしょうね。旧科学世界の残党とみられる闇うごのことをよく把握できてなかったのに、望遠鏡や石油などが飛躍的で危険な技術発展につながることをどうやって知ったのかには謎が残りますが……。

まあ、何はともあれ、「復活したお母さまにフォドラをお返しした」ことになるレアはどのルートでも一線を退き、未来はこれからの先生とみんなの手にゆだねられることになります。その後発展するかもしれない科学技術をどうしていくかも、人が選択するままに。

 

ちょっと未来の展望

 とまあこんな土台をふまえて、終戦後のフォドラ統一国におこりうる食べ物関連の変化を予想していきましょう。

もちろん、食材や味付けの組み合わせが無限大であるように、これらの変化どうしが組み合わさってフォドラに何をもたらすのか、食事情以外のこともいろいろ考えて遊んでいただけたら幸いです。

 

流通の変化

 エーデルガルトか、ディミトリか、先生か、誰が王になるにせよ、戦後フォドラは統一国となりますし、殺してなければクロードがパルミラの王位に、ペトラがブリギットの王位につきます。

まず、統一国となることで大きく変わると考えられるのは流通に関する政治です。戦前の王国や同盟は、王や盟主が名目上のまとめ役にすぎず強い決定力をもちませんでした。これは現実の中世ヨーロッパの状況と似た部分です。現代の国家観や古代ローマ帝国時代と比べると何が違うって、領主それぞれの分国支配状態をしてるとでかい街道が整備・保全できないんですよね。

荷馬車が通れる大きな道を整備することはたいへんな事業なので、広域の領主たちに呼びかけて資金や労働力を集め統制した土木公共事業をやるだけの中央のリーダーシップが必要です。古代ローマ時代なら帝国に組み込んだ属州にガンガン街道を整備していましたが、中央の力が超越的じゃない中世戦国時代でそんなことやろうとしても総スカンくらって終了です。しかも街道は作ったら作りっぱなしでいいわけではなく道が荒れないように保全しないといけないし、野盗に対する警備とかも必要だし、全体にゆきとどいた秩序がないと使えないんです。

↓だいたい同じ勢力に属しててもイエごとに全然バラバラやないかーい、という中世(十字軍のころ)の貴族や王家や皇帝の状況をロールプレイできるゲームは『パレドゥレーヌ』のほかに『クルセイダーキングス』おすすめ!↓

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ディミトリの父ランベールは国の改革を望んで王権を強化したのが反発を招きました。そのきな臭さに闇うごが乗じてきてダスカーの悲劇で潰されてしまったというセンが濃厚ですが、彼はこういう街道整備とか(それこそ疫病関連の上下水道の敷設とか)のため諸侯の団結による国の福祉を望んでいた可能性が高いですね。まあ、それは王国につけいるスキがなくなってしまうということで、闇うごに目をつけられることになるのですが……。

 

ともあれ、戦後求心力のある王者によって統一され、改革の気風もあるフォドラでは全体に号令して街道やその整備法が作られることになるでしょう。クロードも外からつるはし持って壁を壊す応援をしてくれるだろうし。

分国支配状態では交易品には領地ごと城砦ごとに細か~~く税金がむしりとられ、遠い場所に輸入されてくるころには何百倍の価格になってしまうという問題もありますが、税について中央ではっきりと決めることができればそういうこともなく、交易品の価格は安定し市場に出回りやすくなるはずです。特にファーガスの交易路にあたる北ヨーロッパの川なんてすごいですからね、中世に通行する船から税をとった砦がもう見える範囲に三つくらい並んでたりすんの。税!また税!そして税!もう税とかじゃなくてカツアゲじゃん!(中世の領主なんてそんなもんですよ)

加えて、フォドラが外の世界とつながるための「一歩外」であるパルミラとブリギットの新王はどちらもフォドラの事情に明るく改革や交易に前向きです。これまでも恐れ知らずの商人たちのおかげで外のものは少しずつ入ってきていましたが、「食文化」という点からいうとやっぱ流通量とか、どれだけ一般の庶民にも浸透するかとか、農業の変化とかが重要になってきます。これからは「珍しい舶来品」がたんに「新しい食べ物」としてみんなのものになっていくのかもしれません。

 

新しい炭水化物

 「新しい食べ物」が庶民に流通するいちばん重大なヤツは、やはり炭水化物……日本でいう「主食」でしょう。人類の文明の発展と炭水化物(糖質)を実らせる穀物類の農耕には切っても切れない関係があります、なぜなら穀物は効率よく人口を養うことができ、食べるものがあって人が増えたところに文明はできるからです。逆に言えば、穀物が実らないところでは広い土地に少ない人数でも養いきれずちょっとしたことで飢えることになります。そう、イングリットんちですね。イングリットんち、ひいてはファーガスを不作から救おう。

先述のとおりパルミラ経由で東方世界、ブリギット経由でダグザ大陸と交易することで入ってくる可能性のある炭水化物作物は主に3つあります。ジャガイモ・トウモロコシ・コメです。

 ジャガイモは中世ヨーロッパ風異世界の農業改革ではおなじみの食材です。ファーガスにあたる北フランスからドイツの料理にはマジでジャガイモが登場しまくりますが、ジャガイモはコロンブスらがアメリカ大陸(フォドラにとってのダグザ)から持ち帰って以降ヨーロッパで育てられはじめたものです。皮や芽に毒性はあれど寒冷地ややせた土地でも多くの炭水化物の実りをもたらしてくれるイモは『まおゆう』でも寒冷な地域の国力増大戦略に使われ、まさにファーガスにうってつけ。同様にまだ米どころでなかった戦国時代の日本の東北地方にジャガイモの実りをもたらす話が、『風花雪月』の兄弟作的な『遙かなる時空の中で7』にも描かれています。

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また、ついでに「サツマイモ」もアメリカ原産です。ジャガイモが寒冷地対応であるのに対し、サツマイモはやせた特殊土壌対応というかんじ。日本語で「薩摩芋」というとおり南国(薩摩藩は現在の鹿児島県)から飢饉を救済する作物として広まりました。芋がらも食べられるしよい作物だ~。

今回の『フォドラ食物語』の本を購入されたTwitterフォロワーさん限定おまけ話にも、地味にジャガイモがチラ登場……?

 

 また、トウモロコシもアメリカ大陸、ダグザからもたらされる新作物です。ジャガイモよりさらに「野菜」のイメージが強いかもしれませんが、トウモロコシはりっぱな穀物で糖質です。コーンスープ、めちゃくちゃ糖質だからダイエットしてる諸君は気をつけろ。日本のスイートコーンは世界的にもビックリするほど甘いんですけどね……。

「主食」としてはタコスやトルティーヤなどの薄い皮が有名なので、なんとなく南国のイメージが強いとおもうんですけど、種類によっては現代でもヨーロッパの寒冷な地域でけっこうたくさん育てられています。フランスの生産量とかかなり多い。日本の茹でてまるかぶりするトウモロコシみたいに甘くてプリプリのやつではなく、主に家畜の飼料として利用されています。でも家畜の飼料が増えれば畜産の実りが増えて食べるものは増えますし、それにカブももともとは家畜の飼料用だったのでそれを利用した人間用の料理も出てくることでしょう。

『フォドラ食物語』のファーガスめし改善話にも登場。

 

 ヨーロッパでパエリアやピラフなどに使われているコメは、現実世界の歴史ではイスラム勢力が現在のスペインやポルトガルなどの西ヨーロッパに遠征して支配していたときに伝来しました。この「イスラム勢力の遠征」がなさそうなのが現実のヨーロッパとフォドラの違いのひとつです。よって、コメはこれからパルミラ経由で伝来してくるんじゃないかなーとも考えられます。

コメはおいしいだけではなく、実は単位面積当たりの炭水化物収穫量が麦より段違いに多いという特徴があるんですよね。東南アジアなどコメが育つのに最適環境以外ではかなり手間のかかる作物ではあり、そのせいで同じ農耕民でも西欧と日本の民族性の違いができたんじゃないのかという文化論もありますが、飢えてる人からしたら手間はかかってもいっぱい実った方がいいに決まってますよね。だから、条件的にコメを育てづらいところ(たとえば日本でもうどんの県とか)以外では麦ではなくコメを育てているところは多いです。

フォドラとおコメのこれからについては、ひとつの想像を『フォドラ食物語』の短編に収録しています。

↓これはおれの故郷の越後の新しいおコメ。今でも農業改善のための新しい品種は作り続けられています。みんな食べてね↓

 

新しい野菜

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 新しい穀物と同様に伝わってくる可能性が高いのは新しい野菜です。

ことに、ダグザにあたる新大陸アメリカ原産でそれまでユーラシアにはなかった野菜は驚くべき種類の豊富さで、かつ、現在の世界各地の料理に「もともといましたけど?」みたいな顔で組み込まれて定着しています。そもそもドイツにおけるジャガイモがいい例ですけど。シャミアの食の好みの項でも話しましたが、アメリカ先住民のもともとの食生活は案外野菜中心なのでした。

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「それ15世紀とかまでなかったの!?」となるかもしれない、個性的なアメリカ野菜を紹介していきましょう。

トウガラシ類

 四川料理にも15世紀までトウガラシなかったなんてうそやん……。

トウガラシ類はわれわれが一般的にイメージする「鷹の爪」タイプのトウガラシのみならず、ハバネロジョロキアとか青唐辛子とかもそうだし、というか「ああいう形の、ツヤツヤした実の中が空洞で種が浮いてる」タイプの野菜すべて……つまりピーマン、パプリカ、ししとうのたぐいは全部アメリカから発見されたものです。

それまでショウガや胡椒でしていた辛味づけにトウガラシが加わるとまったく味のバリエーションが違ってきますよね。それだけでなく、このたぐいの実は彩りも豊かです。

ナストマト類

 トマトソースが新大陸発見後にできた新しいヨーロッパ料理の定番だというのはよく知られていますが、最初はトマトは赤い実を育ててかわいいねってやる観賞用植物としてヨーロッパに広まりました。現代日本ですら、「昔のトマトはもっと青臭くて食べづらくて…」と聞くほどですから、当時のトマトは青臭さと酸味でちょっと食べる感じではないですね……だったのでしょう。ガルグ=マク大修道院でも主にドライトマトの状態で料理に使われているようすです。食べ物として広まったのは、ピザのソースにするとなんかうまいぞ!ということが発見されたことから。

そんでこれも意外なことにナスもトマトと同じ仲間(ナス科)でアメリカ原産です。なんかもう「実野菜」「夏野菜」のたぐいはほとんど15世紀までの新大陸以外の世界にはなかったと考えた方がいいですよね。きゅうりぐらいじゃねえの?(きゅうりはヒマラヤ原産で古代からアジアにも南欧にもあります)

カボチャ類

 ナスと同じく、カボチャも日本で煮つけが伝統的和食顔してますが伝来したのは江戸時代中期くらいです。これも「炭水化物」の仲間ともいえますね。瓜のなかでは糖質が多く含まれておりエネルギーになります。ハロウィンは古いヨーロッパ(ケルト)土着のお祭なので、本来はあのランタンはカボチャじゃなくてでかいカブを彫って作ります。そう考えると今のハロウィンってもはやカボチャ色がイメージカラーのカボチャ祭みたいになってますから変な感じですよね。

また、さっききゅうりは昔から広範囲で育てられてたと言いましたが、きゅうりと見た目と食感は似てるズッキーニはカボチャの仲間ですんで、これも新大陸から伝来するまではありませんでした。

だからドラクエでコイツ↓が出てくると微妙な気持ちになンだよね(ドラクエに時代感などないが)(カジノの周りにネオン街とかある!)

ピーナッツ、その他マメ

 ピーナツバターは現代のアメリカのジャンクなおやつや中華料理の材料としても人気、日本でも「落花生」の名で千葉県とかでさかんに育てられています。これもアメリカ原産。

ナッツ類は効率的に良質の油脂をとることができるグッドなフードです。スーパーフードといえばキヌアとかも南アメリカ原産ですね。高栄養なナッツって基本的に「木の実」を収穫するもので、アーモンドは育ててましたがそんなにたくさん収量があるものでもなかったのですが、落花生は豆的にガシガシ栽培できるのが魅力。風車があればピーナッツ油を圧搾することもできます。

また、マメ科の作物はヨーロッパではエンドウマメ(いわゆるグリーンピース)やソラマメやヒヨコマメが食べられていましたが、インゲンマメのたぐいはアメリカ大陸原産です。インゲンマメはサヤインゲンなど莢を食べられたりもしますね。

嗜好品

 食べ物としてというより、経済的な意味で忘れちゃいけないのが嗜好品作物です。アメリカ原産で世界に広まった嗜好品作物はおもにカカオ、タバコ、コカです。コカっていうのは麻薬のコカインの原料だし「コカ・コーラ」のコカです。現在でもコカコーラにはコカインを抜く処理をしたコカの葉が配合されています。こうやって並べて見ると、酒を除けば嗜好品界はアメリカ原産のものに支配されているといってもいいでしょう。

これらはたんにハッピーな嗜好品ではなく、本来というかなんというか、「用途」としては医薬品でした。麻酔や気付け薬といった技術として入ってくることを止めることはできず、しかし人々は夢中になって求めるようになる……というのは、東方のスパイスが高騰したのと同じですね。

 

農業技術

 ファーガスの農業には希望が見えますね。イングリットが実家に戻るルートのエンディングでは、彼女が領地の農業を改革してみんながおなかいっぱい食べられるようにがんばったと書かれています。

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現実でも、ほっといたらごはんいっぱい食べられない北ヨーロッパでは農耕や動力などの技術発展が目立ちます。文明が発生するのは食べるものがたくさん作れるからですが、技術が高度になるのは不足ややらねばならぬ必要があるからです。原始的な技術でノホホンとしていては暮らしていけないのです。

農業改革としては、これまたヨーロッパ系異世界の改革としてテッパンな「ノーフォーク農法」への切り替えが予想されます。またの名を「四輪作法」。輪作というのは同じ畑で毎年農耕していると特定栄養素の欠乏による連作障害をまねくっぽいぞということが古代からわかっているので、耕作地を区切って「休ませる」「耕作する」土地をローテーションするということです。

温暖で豊かな地中海世界では、耕作地は二つに分けて「羊さんとかを飼ってウンチしてもらったり葡萄作ったりする」「麦作る」のローテで十分でした。現代の地中海式農業もおおむねそんな感じです。それが北西ヨーロッパに広がるとなんか物足りず、しかも地中海と違うむしろアドバンテージとして夏でも雨が降ったので、夏になんとかしてもうちょっと収量がアップしないかな!?と「三圃制」の3エリアローテーションが開発されました。放牧と冬麦の畑に加え、夏に育てる麦をデビューさせたのです。これが中世くらい。この北ヨーロッパの農業はすごいことだったんだよ~ということと、ファーガスの政治体制とのかかわりについては拙著『いただき!ガルグ=マクめし』のコラムをどうぞ。

それをさらに4エリアに分け、「根菜作る」のエリアを入れたのがノーフォーク農業です。根菜は家畜のエサにも使われたことで飼料の供給が安定し、より羊毛や乳加工品などを作ることができるようになりおカネにもなりました。効率がいい!

しかし実は、中世農業を改革したるワイ系創作によく取り入れられるノーフォーク農業が現実で広まったのはなんと19世紀初頭……ナポレオンとかが活躍してたほど近代の話です。フォドラの農業がどこまでみんなのおなかをいっぱいにできるか、それはみなさんのそれぞれの心の中で……。

 

化石燃料

 DLCのアビスの教会によってもみ消されたらしき資料のなかに、「ダスカー半島にてねばっこくて黒っぽい液体が発見されたけど、教会に危険だからさわっちゃだめって言われたよ」というものがあります。これは「原油」であると考えられます。つまり化石燃料です。石炭は蒸気機関や産業革命を推し進める原動力となり、石油は現在でもわれわれの生活の土台エネルギー資源であり続けています。

フォドラには「魔道」という技術があるのでこうした資源の革命性は現実世界ほど大きくはありませんが、それでも適切な教育を受けた特権的な知識人のみが意志を持って使う魔法と、大規模な工業を自動的に動かす力となることができる化石燃料とではけっこうな違いがあります。活版印刷と同じく、技術知識を爆発的に広め、その使用や消費のスピードを指数関数的に上げていってしまうおそれのあるアイテムです。それが禁止されなくなり、再発見されるかもしれません。

石炭とか石油は燃やすとにおいやススがあるのであくまで動力源であり料理には直接関係ありませんが、たとえば「煉獄の谷アリル」が古代に光の矢っぽいものを受けて火がついてから今でも燃え続けているのは「天然ガス」のせいである疑いが強いです。現実の地球上にもああいう地形は存在します。ガスの利用法がわかればけっこうなお料理革命に……。

まあしかし、化石燃料という「太古の死の蓄積」のおかげで近代〜現代の便利な文明が発展してきたとはいえ、それによってハイスピードで枯渇や環境汚染の問題が広がってきたこともまた、現代のわれわれは知っています。そういうのの果てに自滅していったと思われるわれわれと似たアガルタ人のうえにもう一度文明をはじめたフォドラ人の彼らが、やっぱりわれわれと同じ道をたどってしまうのか、それとも……。

このへんについてもTwitterフォロワーさん限定おまけストーリーにもチラチラ入れてあります。

 

魔道具

一般的にファンタジー世界で魔道具っていうと「誰でも魔法の効果を発揮することのできる便利アイテム」のことをいうんですけど、ハンネマンが開発して「魔道具の父」となった魔道具っていうアイテム、いまいち内容がよくわからん新技術なんですよね。

記述やハンネマンの目的からするとそれは「紋章をもつものともたないものの力の差をなくす道具」、すなわち誰でもローコストで使える道具によって紋章と同等の効果を出し、その結果として紋章持ちの特権性と神秘性を下げる、というものだと考えられます。加えて紋章のもつ特異性は実質的には戦闘に役立つ力でしかないとリンハルトに看破されているので、つまりこう、魔法を封じ込めた便利グッズというより人間の身体能力や魔力の底上げ……?ということに……?

ともあれ、そうだったとしても食文化的に確かなことがひとつあります。才能や高等教育を受けなければ使えなかったちょっとした魔道の力が、誰にでも使えるようになるということです。従来のフォドラは熱や乾燥や冷気といったクオリティオブライフを上げる魔道が、知識人や魔道使用人を使える裕福な人にほぼ独占されていたはずです。もちろん悪用や社会秩序の混乱には注意が必要ですが、それは身分感の差異だけでなく、生活水準の差異も縮めることになるでしょう。そして技術が市井に広がることは多様化や効率化につながり、市民文化の中でどんどん新しい生活魔道の使い方が生みだされてくるでしょう。

たとえば冷蔵庫とかね。そのあたりの「ハンネマン先生の試作品」についても『フォドラ食物語』の中にチラッと出てきています。

 

 

と、いうわけで新刊『フォドラ食物語』をどうぞよろしくお願いいたしますだよ。

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そしてみなさんの切り拓いた戦いの先に、生徒だったみんなたちが大人になって進んでいく世界に、どんな食事の喜びや悩みや出会いがあるのか、ぜひ思い描いてみてください。

「ちょっと未来のフォドラ」は、プレイの数だけ開けているのですから!

 

 

(ちなみに記事のタイトルは当方が好きな「笑ってコラえて」のコーナー「日本列島ちょっと昔の旅」からとったのでした)

 

↓おもしろかったらブクマもらえるととてもハッピーです

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