湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

食彩の旅人―FE風花雪月と中世の食⑥

本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』における、イグナーツ、シャミアのガルグ=マク大修道院食堂の食事メニューの好き嫌い、中世ヨーロッパの「スパイス」「フォドラの外」の食文化について考察していきます。

 

 

 メニューカテゴリの総論 いただき!ガルグ=マクめし―FE風花雪月と中世の食 や

キゾクキゾク鳴くふたりに絞った比較記事 薔薇と紅茶の貴族の宴―FE風花雪月と中世の食② 、

市街地の貧しい身分の食の記事 食ってけ!大貧民―FE風花雪月と中世の食③ 、

いわゆる「むらびと」の食の記事 生きる=おいしい?村人めし―FE風花雪月と中世の食④

貴族のお嬢さん修道院の食の記事 聖女の愛したお菓子―FE風花雪月と中世の食⑤

もごらんいただいてありがとうございます。

遅ればせながらFE風花雪月も発売一周年をむかえましたね!

それを記念してお知らせがあるのですが、この「FE風花雪月と中世の食」シリーズを加筆し『いただき!ガルグ=マクめし―FE風花雪月と中世の食(仮題)』として非公式ファンブックにまとめることが決定しました! ワー!

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マルオ先生に表紙・挿絵をご依頼し、記事に加筆修正するだけでなく「灰狼の学級」の追加キャラクターを含めた全員の食の好みを整理、そこから性格や習慣、好みの近いキャラやグループなどなどについてたっぷり語っていきます。もちろん中世~近世ヨーロッパの食文化に心を旅立たせていただけるコラム的要素も楽しんでいただけるようチマチマ執筆中です。

遅れがなければ11月ほどに頒布の予定ですが、ただ、なにぶんこのご時世ですので、免疫力モヤシマンである当方が東京さ行っでリアル同人誌即売会に出られるのがいつになるかもわからないですし、何より需要のある部数が読めません。

↓↓ですので、Twitterアカウントを持っていない方には申し訳ありませんが、第一次・需要情報収集に一週間のTwitterアンケートをもうけさせてもらいました。「本が出たら欲しいかな~」という方は回答にご協力いただけると幸いです。↓↓↓

 

 

今後頒布イベントや通販の案内などの続報がありましたら、各記事に追記やリンクしていきますね。上のアカウントをフォローしていただけると、お求めの際になんかいいことあるかも。

 

 さて、本題の今回の記事のピックアップキャラですが。今回は異色の組み合わせ、イグナーツシャミアです。

一体この二人にどんな共通の内容が?

それは二人の支援会話や支援Aエピローグにも、もちろん、食の好みにも隠されています。

 

 

イグナーツくんの好き嫌い

 イグナーツがのび太と言われるのはなにも髪形とめがねのせいだけではない(射撃の命中率がヤバいので)

今まで「都市部(下町・貧民街)の平民」や「農村に住む平民」の食生活について見てきて、生徒の中で家庭の事情で貴族だか平民だか微妙になっているとか異文化人だとか以外の平民キャラの食文化はみんなチェックしてきました。イグナーツを除いて。

それはイグナーツ坊ちゃんが洗練された貴族的教養人であるローレンツも舌を巻くほどの審美眼の持ち主であり、「豪商の子」というカネの豊かさ的にははんぱな貴族にもひけをとらぬ特殊な文化的立ち位置にいるからです(ラファエルと妹は田舎のじいちゃんに預けられて村暮らしをしていましたしね)。要はイングリットよりは確実にいいもん食って育ってます。(イングリット支援でも彼女の勇ましすぎる性格のせいもありますがイングリットの洗練されていない美的センスが美しいイグナーツの絵を一度破壊しています)

しかし豊かな商人や地方貴族が「いいもん食ってる」と言ったって宮廷料理を食べてるでもなし、この時代のフォドラにはたぶん帝都にくらいしか高級レストランとかあるわけもありません。まあ「肉」「粥」「味のしない汁」とかしか登場しないかわいそうなガラテア領の食糧事情は置いておいて、食べるものの「量」や「栄養」が確保されてるうえでの、さらにカネのかかった「いいもん」「食の豊かさ」とはなんなのか――考えてみてください。

 

イグナーツの基本データ

好きなカテゴリ・苦手なカテゴリ

肉料理は全体的に好きでも嫌いでもない。ほかはまんべんなく好き。

好きなメニュー(13品)

・ザガルトのクリーム添え
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・ブルゼン
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #卵 #食べごたえ)

・野菜たっぷりサラダパスタ
(【野菜料理】#キャベツ #タマネギ #ニンジン #食べごたえ)

・満腹野菜炒め
(【野菜料理】#トマト #キャベツ #豆 #食べごたえ #焼きもの)

・魚と豆のスープ
(【魚料理】 #魚 #豆 #薄味 #あったかい #素朴 #汁物)

・ニシンと木の実のタルト
(【魚料理】#魚 #ナッツ #上品 #帝国風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・豪快漁師飯
(【魚料理】#魚 #ワイルド #豪快 #庶民的 #食べごたえ #煮込み)

・二種の魚のバター焼き
(【魚料理】#魚 #上品 #伝統的 #帝国風 #焼きもの)

・パイクの贅沢グリル
(【魚料理】#魚 #ニンジン #香辛料 #高級 #焼きもの)

・激辛魚団子
(【辛いもの】#魚 #トマト #香辛料 #辛い #帝国風 #上品 #揚げもの)

・山鳥の親子焼き
(【辛いもの】#鳥肉 #キャベツ #香辛料 #珍料理 #辛い #食べごたえ #焼きもの)

・ガルグ=マク風ミートパイ
(【大人の味】#獣肉 #トマト #チーズ #伝統的 #ガルグ=マク風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・キャベツの丸煮込み
(【大人の味】#野菜 #魚 #苦い #豪快 #煮込み #ほぼ汁物)

 

苦手なメニュー(3品)

・魚とカブの辛味煮込み
(【辛いもの】#魚 #カブ #香辛料 #辛い #異国風 #煮込み)

・魚介と野菜の酢漬け
(【大人の味】#魚 #カブ #珍料理 #すっぱい #異国風)

・ゴーティエチーズグラタン
(【大人の味】#鳥肉 #ナッツ #チーズ #パイ・タルト・グラタン焼き)

 

特記事項

 好きなものがそれなりに多く、嫌いなものが少ないよい子。育ち盛りの男子なのに肉に対しての感情が無

雑魚の串焼きやザリガニのフライなどの雑な料理もそういうものとして素材の味を普通に食べる。苦手なものの要素を好きなものと見比べると、「チーズがだめ」や「辛いスパイスがだめ」「食べにくいものがだめ」などのように「要素が嫌い」というものはないようで、味を全体のコーディネートで審美しているようにみえる。

 

旅する食卓

 現代の日本でもそうであるように、食というのは腹を満たし体を正常に動かす栄養を得、好きな味を舌にのせるためだけのものではなく、多様な文化に触れるという目的ももってきました。われわれは食卓の上の麻婆豆腐やカレーやドンタコスで、中国にもインドにも中南米にもちょっぴり心を遊ばせます。そういう、自文化の伝統を守るだけでないバリエーション豊かな「〇〇風」料理や食材は食卓の「いろどり」というもので、エキゾチックな彩りを食べることで世界中を旅しているのです。

イグナーツ坊ちゃんも、食事に求めているのは十代男子的な「食欲を満たし体を作る!!」とかではないらしいことが「肉メインの料理に対するなんとも思ってなさ」からもわかります。リンハルトや信心深いキャラたちのように血のしたたる肉がムリというのでもなく、マジほぼ無。

「食卓のエキゾチックな彩り」といって思い浮かぶのはどんな食べ物でしょうか? さきほど麻婆豆腐とカレーとドンタコスを挙げましたが、これらすべてがいわゆる「スパイシー」な料理であることに気付かれましたか。たぶん、現代日本で「エキゾチック(異境的)」「エスニック(民族的)」といった場合、料理の味を決定づけるのは各種のスパイス、あるいはフルーツであるはずです! そして、ガルグ=マク大修道院の食堂メニューにおいてそういう彩り豊かさを代表する料理が、イグナーツも好む多種のスパイスがふんだんに使われた「パイクの贅沢グリル」です。これを好むのはなんでもおいしく食べるレオニーさんを除いては大人の教職員たちや帝国貴族、同盟貴族たちです。

スパイスの歴史 (「食」の図書館)

スパイスの歴史 (「食」の図書館)

 

 メニューカテゴリの記事でも触れましたが、「ヨーロッパっぽい土地とスパイスとの関係」というのはすごく注目されてきたテーマで、そしてそれはイグナーツの背景と強い関りがあります。それはでかいカネの動く壮大な商取引と、そして異境への憧れの話だからです。

ヨーロッパにおいてかつて「黒胡椒には同じ重さの黄金と同じだけの価値がある」「黒いダイヤ」などというようにブラック・ペッパーの貴重さがヤバかったことは有名です。黒胡椒のピリッとしたさわやかなフレーバーは、肉を長期保存するヨーロッパ人たちが変質したお肉のへんなニオイをごまかしておいしく食べるのに最適でした。だから庶民にいたるまでみんな欲しくて、高価!

しかし、大航海時代の船乗りたちの一獲千金の憧れだったのは黒胡椒だけではありません。今やスーパーで数百円で小瓶を買える、ジンジャー(しょうが)、アニス(八角)、シナモン、クローブ、ナツメグ、ターメリック、クミン、あるいは南のフルーツや「砂糖」も、食卓というキャンバスに色や風味の彩りをのせるために熱烈に求められて、すっごく高価でした。じつは中世のちゃんとした(つまり、金持ちや貴族向けの)料理って、中世の洋服がそうであるように今から考えるとびっくりするほど「色」が多くて重視されてたんですよね。だって上流階級のちゃんとした料理って宴会料理だもん。今「彩り豊かな料理の色」っていったら赤とか緑とか黄色とかのことですけど、中世では白・赤・緑・黄だけでなく「黒」とかあまつさえ「青」とか言い出すんですよ。その「色」を追求した名残として現代に残ってるのが、「白い食べ物」を意味する「ブランマンジェ」ですね。

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当然「青色〇号」みたいな色は出せなかったとしても、そういう多彩な色や豪奢な香りをめざしてさまざまなスパイスやハーブが上流階級の料理に使用されました。

フォドラでは「魚の辛いなんとか」みたいな料理が帝国風料理、王国風料理問わずあるところをみると胡椒や生姜、トウガラシ的なカプサイシン系のどれかの辛い香辛料が現実の中世よりは手軽に手に入るみたいなんですが、王国出身のキャラは基本的に「パイクの贅沢グリル」にピンとこず、寒さを乗り切るのに役立つ「辛味」でない彩りとしての香辛料にはうといようです。逆に同盟出身のキャラは香辛料の彩りのある料理を好む傾向にあります。これは普通にスパイス全般の値段がめちゃ高ぇから、まさしく「ぜいたく品」だから質実剛健のメシマズの国ファーガスではあまり扱われないということではないでしょうか。ファーガスの飯、全体的に茶色いし香りに華がない。

うれしい楽しいスパイスが高価~だったのは、また同盟で比較的手に入れやすいっぽいのは、多くのスパイスの原産国である遠いアジア(フォドラからみたパルミラやモルフィス、さらにその向こうの島々)から何人もの商人の手を中継されてそのたびに値段が倍倍になったからです。同盟はスパイスの仕入れ元である南東の地域と帝国貴族を中継する経済活動がさかんなはずで、つまり帝国や王国よりもまだ安値でスパイスを買うことができます。これは異国の文化の品々についても同じです。

だからイグナーツのパイクの贅沢グリル好きをはじめ同盟キャラが香りや色の彩り豊かっぽい食事を好む傾向にあるのは、イグナーツがいろいろな文化芸術に触れて美的でロマンティックなセンスを磨いてきたことと根っこが同じなんですよね。現実の歴史でも、(プロテスタントの思想の影響はあるとはいえ)教会芸術ではない個人の美的な心を楽しませるための「お花とくだものの静物画」とか「聖書や神話と関係ない人物画」とかがはじめて隆盛したのは大航海時代の経済で世界のテッペンをとったオランダでした。「同盟商人の子」という生まれだからこそ、彼はああいう芸術家になったのです。

当時移動手段は限られているしそんな速くもないし船は危ないし、中世ヨーロッパに住んでいたほとんどの人は自分ちの半径1キロからほぼ出ることなく一生を終えました。その中でも大きな距離を行き来しまくる特殊な仕事がイグナーツやラファエルの両親のような大店の商人でした。だからイグナーツはスパイス多彩な料理や異国の芸術にも触れて育ってきたのですが、それでも世界はなお広く、ヨーロッパの商人の手にスパイスがわたるころにはもとの値段も産地のことも、サッパリわかんなくなっていました。このもどかしさ、「中継貿易に何回も上乗せされないで直接仕入れてぇー!」という動機が、ヨーロッパ人を大航海時代へ、そして新大陸の発見へかりたてていくことになります。エピローグによっては、イグナーツもカネのためではなく美的な好奇心のために同じような「遠いもどかしさを越えていく」フォドラの外への冒険をしました。

余談ですが「経済」に強いレスター諸侯同盟の都「水の都デアドラ」のモデルであろうとおもわれる現実の都市ヴェネチア(ベニス)こそは、中近世の異境との取引を一手に中継し利ザヤをガッポガッポし繁栄自治を極めていた商人の都だったのでした。エドマンド公が領有する良港というのも、ヨーロッパの覇権をとった貿易港・オランダのロッテルダム港みたいな立ち位置なのかもしれませんね(位置的にはオランダはファーガス地方に属するはずですが、あの国、海洋貿易や漁業の話……あんま聞かないので……いい港がないんじゃないかと……)。

 

異境の楽園?

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 ところで、突然ですがさっきから話題になっている「スパイス」とはどういう範囲、どういう定義のものか説明できるでしょうか? どちらも「香辛料」という大きなカテゴリに入るとおもうのですが、昔「ハーブ」と「スパイス」ってどう分けてんだ?って考えたことがあるんですよ。

ハーブは香りや薬効のある生の草花とそれを乾燥・加工したものだなってわかるんですけど、スパイスってそれと何が違うのか? スパイスと呼ばれるものは草の体部分じゃなくて実や種なのかなとも考えましたが、クローブは花、シナモンは樹皮、ターメリックやジンジャーは根っこの部分だからそれだと説明がつきません。ハーブと違うスパイスの共通の特徴といったら、ほとんどすべて「乾いている」ことくらいしか思いつきませんでした。そして、それはズバリ正解ではなかったのですが本質と関係がありました。

正解を言うと、「スパイス」という言葉の本来の意味は「オリエントとの交易で手に入れた種々の商品(ラテン語species)」です。つまり「すごい遠くからきた交易品」のことなので「乾いている」のは結果的に当然だし、はるか遠くとの交易の主要品目はもっぱら現在スパイスと呼ばれているようなアジア・アフリカ・アメリカ系香辛料だったというわけです。オリエントっていうのはヨーロッパからみて日が昇る(オリエント)方向、すなわち東のほうにあるメソポタミアやインド、中華、日本、東南アジアの島々のことです。転じて「オリエンタリズム」といったときにはヨーロッパ的なものを現代的・文明的な中心とみたときの「異境ごのみ」ぜんぶのことをさすようになりました。「僕、フォドラの外の世界に興味があって……」です。「中国趣味」をあらわすシノワズリの壺、日本のヤキモノとかウキヨエとかもオランダ商人によってヨーロッパの趣味人たちに届けられました。下のクロード・モネのジャポニズムな絵は有名ですね。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/99/Claude_Monet-Madame_Monet_en_costume_japonais.jpg

しかしこの「異境ごのみ」オリエンタリズムという言葉は、現代ではしばしば悪い意味で批評にもちいられます。なぜかというと、さきほど「オリエント」とはヨーロッパを文明の中心とみたときの異境をさすと言ったとおり、「自分がいる文化が文明的で、その外側は素朴で未開的だ」という差別的な意識とつながっているからです。それだけでなく、そういう「エキゾチックさ」みたいなものに憧れと夢を抱いて実態を尊重しない態度は、異文化を美化・消費するだけに終わってしまうからです。

これはその時代のヨーロッパ人だけの問題じゃなく、たとえばわれわれが旅行に行ったときも土地の伝統の食べ物とか踊りとかをたんなる扇情的な見世物として楽しんじゃってるのかもしれない、それは文化の尊重や学びとはいえないしちょっと馬鹿にしてんのかもしれない……という意識をもち、注意深く見つめようとすべきです。

 

 前置きが長くなりましたが。この「スパイス」と「オリエンタリズム」の問題はイグナーツの芸術的成長にもメニューの好き嫌いにも関係あります。イグナーツは信仰心からではなく「女神」を好きなものに挙げ、「女神への恋文」とかいう落とし物でもこちらをギョッとさせてくるように(したよね!?)、女神という天上の理想の、しかも女性という「自分とは違っている遠い存在」に好き放題ロマンティックな憧れを投影していました。実は中世ヨーロッパのスパイス事情にも「理想の楽園」が登場(?)します。さきほども述べた通りメチャクチャ中継貿易されて出所がわかんなくなっていたスパイスたちは「地上の楽園」で「精霊たち」が採取してるとか信じられおり、中世のレシピによく登場する「グレーヌ・ド・パラディ」というスパイスはそのまんま「楽園の種」を意味します。イグナーツも高価なスパイスを買い求めるヨーロッパ貴族も楽園の幻想に恋をしていたのです。

実際は東南アジアの普通の島で普通に暮らしてるおばちゃんが取ってたりしたんですけど、「遠い憧れ」のままにしておけばロマンティックだもんな。「なんかよくわからんが貴重なもの」にはありがたみがあり、使う側の権威や陶酔を高めます。でもそれは、イグナーツの「洞察」という才能に合っているでしょうか? イグナーツは権威に酔いたくて絵を描いてんじゃないのです。

そこをはっきり指摘されるのが、まさに今回のペアであるシャミアさんとの支援です。シャミアはキャラクターたちの中で「最もフォドラから遠いところ」から来た「異境の射手」です。シャミア以外にもイグナーツはペトラやツィリルとも絡みますね。イグナーツとシャミアの支援はイグナーツがシャミアに声をかけづらくモゴモゴするばかりで「ほとんど何も起こっていない」ように見えます。しかしこれは「知りたい異質なものの実態にちゃんと踏み込む勇気」をイグナーツが出すことについての話なのです。

シャミアは

「相手の考えはちゃんと聞いてみないとわからないし、それを遠慮して勝手に想像すべきではない」

「わからなくてもどちらでもいいと思っているのか?」

「異文化のことは、話に聞くのではなく実際に体感してみなければわからない」

と言います。これは「オリエンタリズム」的な無責任な幻想の押し付けや浅い興味だけの理解を拒否し、実態を見ろ、という言葉です。異文化にしても、考えの異なる人間どうしにしても、同じことです。シャミアはフレン誘拐事件の際にも疑われ、「私がフォドラの人間じゃないっていうのはいいセンだがそれで疑うのは根拠が薄いな」みたいになっています。シャミアを疑ったのはペトラの暗殺者センサーだったからそれは偏見っていうわけでもないですが、それまでにもよそ者であるシャミアは勝手に想像され勝手に偏見を受けてきたはずです。

幸い(?)シャミアはそういう偏見の視線に傷つきまくる性質ではありませんでしたが、イグナーツのように「見たい」「知りたい」と本当は思っている人間が、幻想に目を曇らせてしまうのはもったいないことです。シャミアは大人として「実際に見ろ、踏み込んで事実を知れ」と彼の素質を導きました。

憧れるばかりだった異文化も、自分とは格が違うと遠くから見ていた他人も、踏み込んでみれば膨大な情報が体感できます。そして「本格トルコ料理」とかがガチで本格だったときにありがちなこととして、その中には当然自分の口に合わない味だとか、イグナーツがキッパリとしたシャミアと話すときどうもオドオドしてしまうような対人摩擦とかもでてきます。イグナーツの苦手な食べ物の中にもダグザ系の料理が2つ入っており、憧れる異国の食べ物も好みに合うとは限りません。それで全然いいのです。ちゃんと、自分の舌で、体で異境を味わった証拠なのですから。

イグナーツにはわりとバリエーション豊かな女子との支援Aがあります。抽象的な理想の女神の絵を描いていたイグナーツはやがてパートナーとなった女性や、彼女たちとともに冒険する新しい景色の「自分の外の具体像」の中に神に通じる美を見出してすばらしい芸術を生み出していくことになります。スパイス、「オリエントの楽園」のほんとうのありかを求めてヨーロッパ人が冒険するようになったオランダ黄金期やルネサンスの絵画は、それまで超越的な神の権威化を描き続けていたことから自由になり、風景や自然物、写実的な人物のすがたをいきいきと描きはじめたのです。

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シャミア氏の好き嫌い

 このシリーズでフォドラ外出身のキャラの好みを分析するのは初めてですね。一人の好みを文化の典型みたいに見るべきではない、それこそ実際にダグザに行ってみろなのですが。だいいちシャミアは人生のほぼ半分をフォドラで過ごしていて、料理にもずいぶん慣れたことも織り込んで考えなければなりません。

そのうえで「ダグザ」について確認しておくと、図書館の本の「南北に長い大陸」「砂漠から密林までいろんな地理がある」との記述や帝国との位置関係から、「ダグザ」っていうのは現実でいう南北アメリカ大陸を総称したフォドラ語と考えられます。

現実の地球の地理とは違い風花雪月の世界の大西洋はけっこう小さいみたいで、昔からブリギット諸島を中継地として帝国と貿易も、もちろん戦争もありました。シャミアのルックスもわれわれが知るネイティブアメリカンの特徴と違ってえらい肌が白いんですけど、そこはまあ「異民族」が例外なく褐色の肌というのもどうかと思うし、地理はアメリカに似てても遺伝的特徴が違う人たちが住んでても特におかしくないのかなと。フォドラに攻め入るほど海洋移動技術も発展してるみたいですし。だからシャミアの食の好みは実際のアメリカ大陸と関係ねえのかな~と思ってたら、案外関係ありそうだった。

 

シャミアの基本データ

好きなカテゴリ・苦手なカテゴリ

肉、野菜がおおむね好きで、魚料理と大人の味に苦手なものが多い。

案外かわいいのか?

 

好きなメニュー(12品)

・ベリー風味のキジロースト
(【甘いもの】#鳥肉 #果物 #焼きもの)

・桃のシャーベット
(【甘いもの】#お菓子 #果物 #冷たい)

・獣肉の鉄板焼き
(【肉料理】#獣肉 #ナッツ #ワイルド #豪快 #食べごたえ #焼きもの)

・バクス漬けウサギの串焼き
(【肉料理】#獣肉 #ニンジン #ワイルド #濃い味 #焼きもの)

・ダフネルシチュー
(【肉料理】 #鳥肉 #タマネギ #薄味 #あったかい #同盟風 #煮込み #汁物)

・熟成肉の串焼き
(【肉料理】#獣肉 #タマネギ #ワイルド #濃い味 #焼きもの)

・野菜たっぷりサラダパスタ
(【野菜料理】#キャベツ #タマネギ #ニンジン #食べごたえ)

・赤カブ尽くしの田舎風料理
(【野菜料理】#カブ #ヴェローナ #庶民的 #食べごたえ #煮込み #焼きもの)

・満腹野菜炒め
(【野菜料理】#トマト #キャベツ #豆 #食べごたえ #焼きもの)

・ガルグ=マク風干し肉炒め
(【辛いもの】#肉 #豆 #濃い味 #香辛料 #焼きもの)

 

・激辛魚団子
(【辛いもの】#魚 #トマト #香辛料 #辛い #帝国風 #上品 #揚げもの)

・山鳥の親子焼き
(【辛いもの】#鳥肉 #キャベツ #香辛料 #珍料理 #辛い #食べごたえ #焼きもの)

 

苦手なメニュー(13品)

・ザガルトのクリーム添え
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・ブルゼン
(【甘いもの】 #お菓子 #ナッツ #果物 #卵 #食べごたえ)

・キジの揚げ焼きデアドラ風
(【肉料理】#鳥肉 #ニンジン #チーズ #焼きもの)

・タマネギのグラタンスープ
(【野菜料理】 #タマネギ #魚 #チーズ #あったかい #煮込み #汁物)

・ニシンの土鍋焼き
(【魚料理】 #魚 #カブ #庶民的 #焼きもの)

・ニシンと木の実のタルト
(【魚料理】#魚 #ナッツ #上品 #帝国風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・二種の魚のバター焼き
(【魚料理】#魚 #上品 #伝統的 #帝国風 #焼きもの)

・パイクの贅沢グリル
(【魚料理】#魚 #ニンジン #香辛料 #高級 #焼きもの)

・ガルグ=マク風ミートパイ
(【大人の味】#獣肉 #トマト #チーズ #伝統的 #ガルグ=マク風 #パイ・タルト・グラタン焼き)

・煮込みヴェローナを添えて
(【大人の味】#魚 #ヴェローナ #チーズ #濃い味 #煮込み)

・ゴーティエチーズグラタン
(【大人の味】#鳥肉 #ナッツ #チーズ #パイ・タルト・グラタン焼き)

・雑魚の串焼き
(#魚 #庶民的 #ワイルド #焼きもの)

・ザリガニのフライ
(#魚? #げてもの #おいしくない)

特記事項

好きなものも嫌いなものも多めではっきりしている。魚、大人の味に苦手なものが多いのは確かだが、甘いものも好きなものと嫌いなものに分かれており、実は詳しく見ると苦手なものには共通点が……。

 

神秘の大陸

 シャミアの苦手なものの共通点を探る前に、「ダグザ」と「フォドラ」、南北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸の食のつながりについて拾っておきます。

 さきほど述べた通り、シャミアの出身地ダグザの元ネタであるアメリカ大陸は南北に分かれていて、今ではU!S!A!などがたくさん都市や工業地帯を形成していますが基本的には広大な自然が広がっています。

中世ヨーロッパ風~のライトなフィクションの世界観で頻繁に問題になるのが、現代のヨーロッパの食文化に欠かせない食材が現実の中世ヨーロッパにはぜんぜん存在しなかったという点です。俗に「ジャガトマ警察」と呼ばれる史実厨っつーか、説得力のある硬派な中世ヨーロッパ世界観であるかのひとつのチェック項目として「中世風の世界だな、じゃあじゃがいもやトマトがフツーに出てきてねえだろうな」というのがあるのです。現代ではドイツの代名詞とさえいえる「じゃがいも」、同様にスペインやイタリアの「トマト」、それどころかトウガラシ系の多くの辛いアレやナスやトウモロコシやサツマイモやカボチャ、インゲン豆、ピーマンパプリカ、イチゴやパイナップルやカカオにいたるまで、じつに食卓の「彩り」の白と緑以外のほとんどが「新大陸」南北アメリカから持ち帰られて以降(コロンブス以降なので16世紀とかですよね)ヨーロッパに広まったものなのです。

上に挙げたものをいっさい使わない西洋料理とか考えてみると、確かに肉!魚!パン!オイル!チーズ!ワイン!カブ!で堂々完結してしまうんですよね。そういう食卓をよく思い浮かべてからもう一回さっきのリストを見ると、大航海時代のヨーロッパにとって新大陸の作物がどれだけ珍奇で色彩と個性に富んだものに見えたか少しでもわかろうというものです。

こういったジャガトマ事情は、ダグザ(アメリカ)大陸が現実よりずっとフォドラ(ヨーロッパ)の西部に近く戦争や交易がある状況の風花雪月の世界でさえもかなりシビアに処理されています。料理の材料としてトマトは登場しますがドライトマトという交易品っぽい状態からの調理が一般的ですし、なにより寒冷地でも小麦より効率よく実るジャガイモがフォドラにあればファーガスは貧しさから解放されていたはずです(つまり、残念ながら存在しないということです)。

ジャガイモは農業経済のあり方を変えるほどの福音であり、経済と民主的精神の物語である『まおゆう魔王勇者』の最重要アイテムにもなっています。だからジャガトマ警察はただの重箱のスミをつつきたい史実考証厨というわけでもなく、ジャガイモは「中世らしい社会」にそぐわない、重装歩兵や騎士の戦いに突然なんでもないことのようにジュラルミン製の戦闘機が現れたらイヤだろ……みたいな、そのくらいジャガイモをはじめとする新大陸の作物は強いのだということです。

 そんな、ヨーロッパと世界中に激甚な恵みをもたらした新大陸の作物ですが、これらが多彩なのは新大陸が神がホイよと用意してくれた豊かなリソースの塊だから……というわけではもちろんありません。当時のヨーロッパの人々はあるいはそう思っていたかもしれないですが……。アメリカやダグザに神秘の新しい交易品がたくさんあったのは、大きな理由として単純にすごいタテに長いからです。日本列島のタテの長さですら、北海道から南の島々まで生えてる植物がまるで違い、同じ天気の景色さえ違います。南北アメリカ大陸なんてその5倍くらいのタテがあるのだから、北海道と沖縄くらいの差が5回起こってても不思議はありません。海が凍るようなところも土埃舞うサバンナのようなところも、アマゾンの密林も草木茂らぬ高山地帯もあります。当然、現代では「新大陸」なんてひとまとめに言ったりはしません。北アメリカ大陸、南アメリカ大陸でさえデッカイのですから。

風花雪月の時代のフォドラでは、まだその全体を「ダグザ」とひとまとめに呼んでいます。われわれはシャミアがカナダ出身なのかブラジル出身なのかさえ、知ることはありません。ひとまとめだから。「アジア人」とかより雑! 興味を持っているイグナーツさえ「フォドラの外の世界」とフンワリまとめてしまうほどまだ解像度が低く、そりゃシャミアも「ダグザってどんな感じのところですか?」と聞かれても答えてやれないですよ。

理解には切り分けること、切り分けるにはまず飛び込んで生の情報をまるごと浴びることです。シャミアは家の中で「太陽ってどんな感じですか?(0v0)」「虹ってどんなものなんですか?(0v0)」と聞く子供を連れて外に出てやったのです。もしかしたら、シャミア自身も「この大陸の外はどんな感じなんだ?」「ここよりいい生活にありつけるのか?」と、先生に似ていたという導いてくれた誰かに聞いたことがあったのかもしれません。その結果いいことも悪いことも起こりましたが、フォドラに来てみなければありえなかったさまざまな縁により、シャミアはわりと楽しく暮らしています。

 

今きてる! インディアンフード

 前置きが長くなりましたが、シャミアの苦手なものの共通項をみていきます。そうすると、当方は今回まとめてみるまで気付いていなかったのですが、ここにも現実の食文化と対応した特徴が見受けられます。

シャミアの苦手な食べ物は多め(13品)で、カテゴリや主だった要素だけ見ていると「チーズが苦手なのかな?」くらいしかわかることがありません。「大人の味」カテゴリに苦手なものが多いように見えて、魚介と野菜の酢漬けは大丈夫なので子供舌なのではなく独特のにおいのあるチーズがだめなだけのようです。

それ以外は、焼き菓子は苦手だけれど甘い味は好きみたいだし、魚に苦手な料理が多いようだが激辛魚団子は好物、と単純ではありません。それで料理の味や材料をもう一度見てみた結果、シャミアの苦手は2種類の要素に分けられることに気付きました。

 

①「乳製品」系統

ザガルトのクリーム添え、ブルゼン、キジの揚げ焼きデアドラ風、タマネギのグラタンスープ、ガルグ=マク風ミートパイ、ゴーティエチーズグラタン

②「ニシンとカマス、生臭い魚」系統

ニシンの土鍋焼き、ニシンと木の実のタルト、二種の魚のバター焼き、パイクの贅沢グリル、雑魚の串焼き、ザリガニのフライ

よく見る前はアッシュのように「チーズ料理が苦手」のように見えていましたが、「バターやチーズなど乳製品が苦手」とみると甘いものは好きなのに焼き菓子が苦手なことを理解できます。そして魚もローチ(ナマズ)やトラウト(マス)などの小骨のない淡白な白身魚は食べるが、「小骨っぽくて魚っぽ~い魚、とくにニシンが苦手」ということがわかりました。

実はこのシャミアの「肉と野菜とよく食べる」「乳製品を食べない」という特徴、ネイティブアメリカン(インディアン)の伝統的な食習慣と同じ特徴なんですよ!

ネイティブアメリカンの美味しい生活

ネイティブアメリカンの美味しい生活

 

ダグザの技術力が現実のヨーロッパ中世時のインディアンより高いっぽく、住んでいる人の容姿や文化がちょっと違うっぽくても、地理や産物が現実と似ている以上食習慣は似ていても不思議はありません。ヨーロッパ人の入植までのインディアンは、狩猟して肉を食べ、川でシャケとかマスをとって食べ、トウモロコシを粉にして焼き(タコス的なものですね)、木の実をとったり野菜を育てたりして食べていました。ヨーロッパで一般的な食習慣との大きな違いは「ウシやヒツジ、ブタなど大型哺乳類の家畜を育てないこと」「小麦を食べないこと」です。ついでに言えば砂糖も使いません。よってバターもチーズも小麦粉もシャミアは食べ慣れておらず、甘い果物は好きでもバターたっぷりの焼き菓子はちょっと、という感じなのでしょう。現代の日本では想像がつきませんが「家畜の乳臭さ」というのはそれを小さい頃から嗅ぎ慣れていない人からするとウワッとくるのだろうなとおもいます。

シャミアが苦手とするニシンなどの小骨っぽく生臭い系の魚も、アメリカ大陸だと左上はじっこ~~にしか生息していませんから、これも食べ慣れていないと考えられます。魚の臭みも乳臭さと同じで慣れていないとギョワッとするものですよね。

 そして、このインディアンの食習慣の「乳製品を食べない」「ラードを使わない」「小麦粉を食べない」「砂糖を使わない」「肉と多彩な野菜と穀物を食べる」という特徴は現代の生活習慣病や慢性的な食物による消化器官のダメージを予防する「低脂質」「シュガーフリー」「グルテンフリー」の食生活としてコレやー!と注目を集めており、たしかに健康的でバランスがとれたものです。シャミアのしなやかで強い美しさもきっと……。やっぱ筋トレのときは砂糖食ってたらいかんよな(反省)……。

インディアンフードが今来てますぜ。

こういう健康的な食習慣がダグザ料理だとするなら、外の世界へのキラキラしたファンタジックな想像は偽で、赤土のような剛健で豊かな味がするはずです。ヨーロッパ人は「楽園」にはふくいくたる香りとハチミツと乳の流れる川があるとか想像してきましたし、フォドラ人もそういう甘美でまったりとした想像をしているでしょう。しかしダグザには酪農も甘露もなく、かわりに想像したこともないような生きた植物や動物や空や土があります。

 

 スパイスや砂糖ももとは「サプリメント」や「医薬品」としてアラブ世界の医学書を通じてヨーロッパに入ってきたものです。人間は健康になるために、新奇なおいしいものを試すために、いろどりを楽しむために、食を通じて毎日旅をしてきました。

食のわくわくの旅は国境や海を越え、今われわれがしているように時代や世界さえ越えます。『FE風花雪月』も一周年を迎えましたが、こんなに食の情報量をつめこんでくれたこの作品を、これからも読者のみなさまといっしょにゆっくり旅していけたらと願っています。

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