湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

【Ⅳ 皇帝】フラルダリウスの紋章ーFE風花雪月とアルカナの元型⑨

本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』の「フラルダリウスの紋章」とタロット大アルカナ「Ⅳ 皇帝」のカード、キャラクター「フェリクス=ユーゴ=フラルダリウス」「ロドリグ=アシル=フラルダリウス」との対応について考察していきます。全紋章とタロット大アルカナの対応、および目次はこちら。

以下、めっちゃめっちゃネタバレを含みます。

 

ファイアーエムブレム 風花雪月|オンラインコード版

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  • 発売日: 2019/07/25
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 『風花雪月』の紋章がタロット大アルカナ22枚のカードに対応している作中の根拠とざっくりしたタロットの説明、各アルカナへの目次はこちら↓です。

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紋章とタロット大アルカナの対応解説の書籍化企画、頒布開始しております。「タロットカード同梱版」と「書籍のみ版」のご注文をいただけます。(品切れの場合は数か月お待たせしますが増刷予定あります)

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どうも、湖底 冬のファーガス祭です。前回の聖インデッハで聖セイロスを除く帝国の聖人の紋章がひと段落し、去年7月から間は空いてしまいましたが(実はこの記事ひとつ書くのに一か月ちょっとかかってるんですよね…)ちゃんと青獅子ルートも終わらせたので、今回からファーガスに属する家の紋章のタロット対応解説をしていきたいとおもいます。

トップバッターは『いただき! ガルグ=マクめし』の書籍化に際してファーガス幼馴染四人のゲストごはん小説を書いてくださった梓川サヤ先生のリクエストで、推しのフェリクスくんにいろいろ言われてもらいます。

 

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紋章、十傑フラルダリウス。

対応するアルカナは皇帝

対応するキャラはフェリクス=ユーゴ=フラルダリウスロドリグ=アシル=フラルダリウスです。

フラルダリウス家は王家の盾なのに、おまえが皇帝なんか~~い

しかし「皇帝」アルカナには「王者」というだけでない中心的な意味があるんですよね。それが青獅子ルートのテーマにおいて、ディミトリという王の脇で支え補い叱咤するのにバッチリはまった力を発揮しているのです。したがって、この記事では青獅子ルートそのものやディミトリのもつ王家の「ブレーダッドの紋章」についても触れていくことになります。ディミトリの紋章は難しい紋章なのでもちろん個別にあとで書くんですけど……。

(聖セイロスの紋章、ブレーダッドの紋章、灰狼の学級の四人の隠された聖人の紋章などは書籍化企画に書き下ろしました。同人誌化アカウントを要チェックや @GargMac_meshi

 

 

「皇帝」の元型

 まず「フラルダリウスの紋章」と対応する「皇帝」アルカナのカードの中心的意味をみていきましょう。

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「皇帝」のカードです。

カードに象徴として描いてあるモチーフは、「王様」である人物が描いてある性質上、いろんな文化のバリエーションがあります。モデルとなる実在の王者があることもあります。ただ多くはキラキラした豪華な雰囲気というよりも「強くて賢そう」な王様が「王笏」「宝珠」をもち、岩山を背景に「四角い、無機質な、人工の玉座」にすわってしばしば左を見ています。

ひとつ前のナンバーの、アネットのもつドミニクの紋章に対応する「女帝」とペアになったカードです。女帝は具体的な女王をあらわすのではなく「家庭」とか「社会」とか「文化」とかにおける「母なるもの」「母親的な性質・役割」をあらわしています。だから、この王様があらわすのもまた、具体的な王様ではなく「父性」「父親的な役割」だということです。

父性って母性よりもきっとイメージがしにくいですよね。「皇帝」カードの中心的な意味からいうと、

「人工の論理性によって自然な世界を切り分け、

 厳しく是非を評価、それとこれとが違うことを断定する強い父」

に出会うという段階です。以下、皇帝アルカナの意味は赤字であらわします。

 

 「女帝」があらわす「母性的」といわれるような親の愛は無償・無条件の愛であり、「どんなあなたでもまるごと愛している」というものです。それがあると安心できますが、安心したうえで、そっから大人へ成長していくためには「評価」されることが必要です。「しつけ」というヤツですね。『エヴァ』の碇シンジ君は母親的な愛(「女帝」アルカナ)に包まれることを望みながら、強く理不尽で大いなる父親であるゲンドウ(「皇帝」アルカナ)に褒められ認められたいとも望む……みたいな話です。シンジ君の場合は、それ以前のロボアニメ主人公が父親的な世界の要請に導かれて英雄になっていた流れを破壊し母性との関係を深くした点が新しかったわけですが……。

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 「それはダメ、あれもダメだぞ」「おまえは間違っている」「おまえの負け」というcriticize(クリティサイズ、批判)が全くなければ幼児は善悪や勝ち負け、カッコいいふるまいや恥ずべきふるまいの別を学ぶことはできません。何やっても無条件にほめられ擁護され抱きしめられていたのでは、「この前よりよくやったぞ!」「おまえの勝利だ!」「すばらしい!」というほめ言葉が意味を持つこともないでしょう。

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もちろんその評価基準がいちじるしく偏ったものだったり、子ひとりひとりのキャパをオーバーしまくる指導がいつも行われていたりすればそれは暴力ともなりますが、子供は「父」的存在からの否定や評価を受けることによって、「快・不快」や「喜び悲しみ」といった自然な感覚をこえた判断基準……「理性」を学習していくことになります。

この、皇帝アルカナのキーワードである「理性」はまた、実はディミトリのもつブレーダッドの紋章と対応する「力」アルカナのキーワードでもあります。「現実」という言葉に「夢」「理想」「虚構」というそれぞれ違った対義語があるように、二枚のカードが示す「理性」もそれぞれ焦点がすこし違っています。なので、ディミトリや青獅子ルート全体のテーマもチマチマ絡めつつ、フラルダリウスの紋章と皇帝アルカナの話をしていきたいとおもいます。

また、対となる「女帝」アネットのドミニクの紋章のこともあわせて読むとわかるわかるが増すとおもわれます。

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ロドリグの「皇帝」―評価する父

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 ロドリグは蒼月ルートにおいて、まさしく皇帝アルカナの表している「父親」の役割にあります。フェリクスやグレンのマジ父であることはもちろん、父性の強さを失ってしまったギュスタヴ、父を喪ったディミトリ、誰もディミトリにバシッとした道を示せないファーガスのみんなに対してよき父親のロールを果たします。

ふつう「皇帝」の示す典型的な父親像といったらいわゆる「厳格で理屈屋でとりつくしまのない頑固オヤジ」(この意味ではフェリクスのほうがそうです)なので、名門貴族の当主のくせにかなりフランクでチョイ悪イケオジなロドリグはひねりのきいたキャラクター造形です。フェリクスのほうが大紋章持ちでより本来の紋章の性質に近いということかもしれませんが、表面的な皇帝らしさからは「ずらして」あるわけです。それによって逆に、彼の言行の中にある真意がきわだって光ります。

「貴殿には最後まで、あの方の復讐心を
 否定してやってほしい。それだけです。」

 

なすべきこと

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 混迷するディミトリ軍にロドリグがやってくると、彼は実にテキパキと軍の万事を前に進めていきます。フラルダリウス家は元来ブレーダッド王家の剣となり盾となり、その意思をくんで王国を取り仕切ってきた王国第一の公爵です。帝国でいえばエーギル家、教会でいえばセテスの立場です。つまり皇帝アルカナを背負っている通り、「実質的に指導者っぽく行動する」のはフラルダリウス家だったともいえるでしょう。ロドリグの王であるディミトリの父・ランベールの存命中も、彼の唱える理想のためさまざまな政務をなんやかんやしてきたとのこと。

この世を自立して生きていくためには、ことに、指導者であるためには、「なすべきことを決め、果断に実行する」という思考力と勇気が必要になります。この「べき」というのが、「皇帝」を理解するうえでのキーワードのひとつです。

 

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 「なすべきこと」、すなわち「行動を決める際の秩序」というのにも種類があります。タロットでもいくつかのカードにそれが表されています。すでにキッホルの紋章との対応記事でのべた「正義」のカードは「皇帝」のカードよりも総合的判断や公平さ(fairness)を重視する点で違っていますが、それはどっちかっていうと「秩序の基準」っていうより「方法」の話なので今は置いとくとすると、秩序のあり方において「皇帝」と比較すべきなのは「法王」と、やはりディミトリの「力」です。

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「秩序」や「法」(女神転生シリーズでいうLAW属性)、「道徳」といったとき、ことば上最もイメージと合致するのは「法王」アルカナです。聖ノアの紋章、コンスタンツェに対応します。「皇帝」と同じく「指導者的な父性」をあらわすので、その違いが比較しやすいカードです。法王とはいうまでもなく「ローマ法王(教皇)」などの宗教的指導者を意味し、高尚な精神世界の道徳を教える存在です。

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「皇帝」はだから、「法王」と比較して戦う王、騎士たる貴族たちを表しています。宗教世界・精神世界の指導者ではなく、いわゆる世俗の強さの支配者というわけです。インドのカースト(正確に言えばヴァルナ)制度でいうところの、第一身分バラモン(司祭階級)に次ぐ第二身分クシャトリヤ(王族・武人階級)のような位置づけです。日本の中世社会における皇族(祭司王)と将軍家(実質政治)にも対応します。最も高く尊いことになってるのは宗教的指導者ですが、世俗権力を動かし、世俗で実際に起こっている問題に対処し勝利するのは世俗の鎧を着た王者の仕事です。

精神世界を高めることには勝ちも負けもありませんし古から永遠不変の教えがありますが、世俗のできごとに対応すると具体的で物理的な勝敗がありますし、勝つためには「強さ」こそが秩序となります。いや「力こそが正義」って野蛮な悪役みたいなこと言いましたがそういうことじゃなくて「合理的かどうか」「目的を達成する論理として正しいか」が皇帝AIの優先する「なすべき」基準だということです。

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では、「法王」「皇帝」それぞれの秩序の王に対して全然王様っぽくないディミトリの「力」のアルカナがそれらとどう向こうを張っているのかといえば、これもまた「道徳」をいかに「なすべき」かをあらわしているというところです。詳しくは書籍版の個別ページで触れようとおもいますが、「力」アルカナが重視しているのは精神を高める徳性でも現実で勝利する道理でもなく、愛と心が命じる優しさ最も素朴な人間の善である仁愛の道徳です。

天・地・人でいうならば、「なすべきこと」の基準としては「法王」が天の基準、「力」は地の基準。「皇帝」は人の基準とでも申しましょうか。

↓これはファーガス(北国)の天地人男・直江兼続の記事です。愛。↓

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 このように、ひとくちに「なすべきことをしよう」「正しいことをしよう」と言っても3つも4つも観点があるわけです。えらいこっちゃ。がんばって生きていこうぜ。

 当たり前のことを言うようですが、現実世界で行動をおこすことには感情的な迷い間違いや失敗を恐れる気持ち、取り返しのつかないことに手を下してしまうのを避けたい気持ち、どの選択をしても取りこぼしてしまうものがあることへの嘆き……などが常について回ります。これは政治家とかじゃなくても誰の人生でもそうです。人はたいていすべきことを合理的に・適切に・ノータイムでは選んでいけません。実際は迷い、無駄な動きをいっぱいしながら、なし崩し的にモチャモチャと進んでいくことになります。特に青獅子ルートではそういった人の迷いがディミトリ軍のハチャメチャな進軍ルートにも表れています。

しかしながら、いずれにせよ時が進んでいき、何も選択しないこともまたひとつの選択である以上、生者は勇気をもち、能動的に行動を選択していく「べき」です。たとえその行動をあとで間違いだと思ったとしても、たとえその行動で誰かが傷つくことになったとしても、今できる最善の「すべきだ」と考えられる手を可能な限り素早く打ち、勝利する勇敢をもた「ねばなりません」(べき三段活用)。

ロドリグはディミトリにとって、そのときの王国軍にとってするべきことを湿っぽい感情はとりあえずおいといて合理的に判断し、スパッと実行!することができます。フラルダリウス家は良くも悪くも「自然な感情をもって生きているものたちの王」である王家の迷走を適切に否定し、それとこれとを切り離し、優しき王の道の藪を切り払ってきたのです。

 

先達の背中

 「父性的」な親役割とは、母性的な親役割のように子に向き合って触れ合って実際的なお世話をするものではありません。ちょっと距離をおいたところから、「このように生きるんだぞ」という強い姿を示してみせるものです。いわゆる「背中で語る」ってヤツ。皇帝アルカナのイメージの中では「背中」もけっこうキーワードです。フェリクスも自分ちの英雄の遺産・アイギスの盾を背中にしょって戦うし、アイギスの盾自体も竜種の肩甲骨から削り出したみたいですしね。

この背中で語る高倉健しぐさはめちゃめちゃカッコいいのですが、デメリットとして、子の感情をケアすることができない、触れ合って微妙な気持ちのニュアンスを伝えることができないということがあげられます。これが、ロドリグがフェリクスにド嫌われるきっかけになったグレン事件です。

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ロドリグはグレンの死に対して「それでこそ立派な騎士の最期」と言ってみせ、強くあるべき理想やせめてもの心の支えとなる誇りやせがまん騎士は食わねど高楊枝を示したのですが、それを兄が死んだというショック状態の中で聞いたフェリクスは死ぬのが立派だってのか親父殿のバカーーッてなり、かくして親子は断絶。

でもこのようにして反抗期をおこすこととか、親子的な関係の心地よい一体感を切り離して大人になれるようにしていくこととかも皇帝アルカナの父性の性質ですからね。フェリクスが父親を否定するのもまた、新しい強くよき父の芽生えです。グレン事件はたいへん「皇帝」的なできごとだったといえるでしょう。

 

 良くも悪くも皇帝は「手本」や「勝ち筋」や「勇敢」を子らに示すものです。良くも悪くもっていうのは、「悪い」っていうよりか、それが「次の世代に乗り越えられていく壁」としてあるということです。皇帝の逆位置の意味として「権威や権力の濫用」「間違った支配」というような意味があります。どのような強く正しい父親、かつてのどのような善政であっても、いずれは古臭くて今を生きる若者にとっては狭苦しく有害なものとなります

アニメ『少女革命ウテナ』ではヒロイン姫宮アンシーの兄である「鳳 暁生」が皇帝の逆位置の状態を呈しています。「かつて王子様だった」が今は「力で学園を支配する悪しき大人」となってしまった彼は、一見理想的な強い大人ですが、学園の若人たちにとっての「世界の果て(現行の秩序の限界、抑圧、壁)」となり果ててしまっています。

第38話 世界の果て

第38話 世界の果て

  • 発売日: 2017/12/24
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しかしこの話で難しいポイントは、暁生のことをいま「悪しき大人」って言いましたけど、彼ら「皇帝」たちは別に悪いことをしているわけではないということです。暁生は物語の悪役として描かれていたとしても、ロドリグはぜんぜんそうではないですよね。

えっどういうこと?

どういうことかっちゅうと。昨今も、名誉ありし人が差別発言などで考えの古さを露呈し、それがいまの為政者、いまを生きる人々の手本としては不適格であるとして退くことになる事例にはいとまがありません。しかしこれ、流れじたいはまったく正しいことであり、かつての社会や人の生き方を無価値とするものではありません。「正義」アルカナに対応するフェルディナントやセテスの意外な柔軟性が示しているように、世俗を生きる人間としての道徳・善悪は日々刷新されてしかるべきものです。www.homeshika.work

今日も風呂入れば垢が落ち、汚れはよくないことだけど、角質くんは彼の役割を精一杯果たしてきたことに変わりありません。ただ、しかるべき新陳代謝(ターンオーバー)があるだけ。

ロドリグがフェリクスに騎士に関する価値観の違いでメチャクチャ嫌われたのはロドリグの価値観が悪いのでもフェリクスがわからずやなのでもなく(わからずやではあるけど)、もはや子の価値観が親の世代を超えていける時を迎えているということです。言い換えれば、よく新陳代謝して、大きくなった、ということです。父の腕におとなしく抱えていられないほど。

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 物語のなかではしばしば、主人公の「偉大な父」が最初から失われていたり、「父と自分と子」の使命の継承をテーマとする『ドラゴンクエストⅤ』では偉大な父の死が大きな契機となったり、あるいは『オイディプス王』の物語類型にみられるように父を殺し新たなる王に立ったり、というように、「父の退場」が描かれます。

『風花雪月』でも物語類型にもれず、主人公先生と父ジェラルトとの別れは主人公先生の救い主としての覚醒と同じタイミングで起こっています。クロードは父親のルールのはたらく国からあえて飛び出し、エーデルガルトは力を奪われた父親の無念の上に立ちました。父的な存在から分かたれ、あるいは離れ、少し違う道をゆくキャラクターは他にも多く描かれています。それは、教育を受け自立した大人になる若者たちを描いた『風花雪月』に似つかわしい表現です。

特にディミトリの父は物語の開始時にすでに失われており、その幻影からの分離が主要なテーマとして描かれています。蒼月ルートのよき父、真なる騎士の手本の姿であったロドリグもまた退場します。そして彼らを超えていく新しいものとしてディミトリとフェリクスは立ち上がる。

古きよき秩序は、新しき秩序に道を譲り去る。それが、「父」なるものの仕事でもあるということです。

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その新しき秩序も、いずれ古くてダメな大人ということになり、そのまた新しい子らに倒されるでしょう。それでいいのです。「父の死」という概念は、本質的には憎しみや悲しみによる殺伐としたことではなくて、新しい夜明け、父がフェリクスやディミトリたち子供に遠い希望を見せてもらえるすばらしい瞬間であるはずです。

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ぬわーーーーーーっ

 

 

フェリクスの「皇帝」―選定の剣

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 すでに以下の記事の「フェリクス=ユーゴ=フラルダリウスの両断」の項でも書いているように、フラルダリウスの大紋章をもつフェリクスには「皇帝」アルカナの「あれとこれとをスパッと両断!」のパワーが顕著に発現しています。

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フェリクス両断剣は切れ味鮮やかすぎて、また彼がその切れ味を鈍らせる必要のない非常に恵まれた環境で……というかなんというか、とにかく自分を曲げずにのびのび思うまま育ってきたために、彼にとってのあたりまえの感覚はフォドラ人の常識とは大きく違っています。しかもフェリクスは「皇帝」らしく力だけでなく論理的な頭も強く育ったので、他人に対して自分のあり方を譲歩する必要がありません。だからフェリクスは「一匹狼」でいられますし、はたから見たらものすごい傍若無人な変わり者で、その天然素材の常識外れさは「あえてやってる」クロードをしのぐものともいえるでしょう。

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しかし、実はそんなフェリクスの慣例や常識を外れた考えは、ロドリグの軽やかさと同じで「本来の道理」「本来の戦士・騎士がなすべきこと」をストレートに出力したものにすぎず、本当は周りのフォドラ社会のほうが本来のものからねじれ変わり果ててしまっただけです。大紋章が遺伝的に「先祖返り」的なものであるからなのか、フェリクスは100%原液・いにしえの騎士みたいな男であり、かえって今の騎士社会の中では色が全く違っているんですね。しかも本人は天然なので「自分、不器用ですから…」ということにも気付いてない。高倉健よりレベルが高い。

ここからはロドリグの「社会性の中の大人の皇帝」よりプリミティブな、フェリクスに表された「原初の皇帝」の姿をひもといていきましょう。

 

理知の雷

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 フェリクスはパッと見で剣術馬鹿キャラでありながら、よくよく見ていくと理路整然としてとても頭がよく、理論派、行動のともなった理屈屋であることがわかります。カスパルかと思ったらけっこうリンハルトに近かったみたいな感じです。

普段一匹狼で他人とコミュニケートすることに関心がないために無口なように見えますが、主張しだすと突然弁が立ちます。親密な感情を交流させるための言葉の使い方はてんで苦手ですが、数学の証明、研究論文のような弁論は得意です。「AはBである。BはCである。すなわち、AはCである」みたいなしゃべり方しますよねフェリクス。このへんについては「恋人たち」アルカナのフレンとの支援の項でも触れています。

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言語活動のうち、「世間話」「雑談」のような親密さを伝え合いキャッチボールしてじゃれ合うための活動は、ぶっちゃけ言語じゃなく「ドララ~」とかでもそれこそキャッチボールでも可能なことです。人間の言語というものの本来の目的は、共通のルール、共通の理屈で、正確にものごとを整理・伝達することではないでしょうか? 数字や数学記号のように。「皇帝」アルカナにはそういった「理(ことわり)」の性質があり、案の定、今まで触れてこなかっただけでフェリクスには理学の才能があったのでした。

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この、母性の「情」に対する父性のもつ「理」の性質はしばしば神話においては主神クラスである男神の「全知」の権能にあらわされます。ゼウスやオーディンなどですね。彼ら主神クラスの男神はしばしば雷霆、いかずちを武器とします。フェリクスは珍しいトロン撃ちであり、雷の魔道を得意としています。ペルーンやインドラ(帝釈天)などでも、最強かつ理知的、マジェスティックな男性原理には雷属性がつきもの。雷はりりしい輝きと音で母なる大地を撃ち、ともに豊穣をもたらす父だからです。『ペルソナ』シリーズでも「皇帝」アルカナに対応するペルソナには基本雷属性が当てられることが多いです。

 

 「皇帝」のもつ理知の雷は雷なので、空気中を伝わる光と音のように、電力や電波を使った現代の通信のように、ほとんどタイムラグや抵抗を受けません。「皇帝」にはしばしば現実にあるさまざまな雑事を考慮しない傾向があります。化学や物理分野の基礎計算では「ただし器の厚みは考慮しないものとする」とか「摩擦係数、空気抵抗はないとする」とか「理想気体において」とかいうのって多いですよね。そしてこういう雑事をとりあえず置いておくことで、勇敢果断に正しい公式をあてはめられるわけです。

 

フェリクスは騎士道の欺瞞を蛇蝎のように嫌っています。しかしさきほど100%原液・いにしえの騎士と言ったように、フェリクスの中には本物の、本来的な騎士の姿があります。主に、①剣術好き ②狩猟好き ③主君への態度 にそれがみられます。

まず「①剣術好き」ですが、一見剣術を好みまくることは作中時点での騎士貴族階級としてはじゃっかん卑しいというか、そういう泥臭いのは傭兵にまかせといて馬とかに乗った方がいいんじゃねえの……とみえます。実際5年後の貴族嫡子の前線ユニットで馬にも乗らず近接武器一丁(パンツ一丁みたいに言う)でドカバキしているのはフェリクスだけ。フェリクスのキャラクター性自体もいわゆるFEシリーズ伝統の「ナバール」、流れ者の傭兵キャラのようで公爵令息としてミスマッチに見えます。しかし、『蒼き月の亡霊』の記事でも述べたように「剣」とは槍や弓に比べて高価であり、平民にはそうそう持てない騎士の力や理念を象徴する輝く宝物だったのです。

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ディミトリとの支援会話にも名物・ゾルタンの剣が登場します。切れ味のよい美しい剣を貴ぶことは戦士としての魂を貴ぶことと同じです。作中の貴族にとっての剣は体面のために使う典雅な決闘武器となっていますが、フェリクスにとって、本来の騎士にとって剣は魂なのです。

「②狩猟好き」もほぼ同様です。作中時点の貴族社会では貴族的趣味とは紅茶や詩作やファッション、華麗に加工された料理や芸術の鑑賞……みたいなインドアでおきれいな感じになっていますが、『いただき! ガルグ=マクめし』の書籍版のコラムでも述べたとおり狩猟は洋の東西を問わず貴族の軍事トレーニングであり、「軽井沢の別荘のコートでテニス」的な高級スポーツでもあったのです。本来の武人としての騎士貴族がたしなむべき代表的趣味は狩猟です。

そして「➂主君への態度」。作中時点で一般的に考えられている「騎士道」の理想は美しく思考停止的な装飾に酔っているところがある……ともいえます。イングリットとの支援会話で顕著ですが、ともすると「主君にとにかく従い、主君のために命を散らす」ことをロマンとしてしまう騎士道の甘美さをフェリクスは否定します。主命かどうかはたいした問題ではなく、それが妥当かどうか自分で判断を下す。「主君が間違っていたら、従わず否定する」のも、主君に盲従するのではなく協力者として主君を助ける真なる騎士の役目だったはずです。

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直感的で粗削りですが、ディミトリにノーを突きつけまくるフェリクスはもう誰もが忘れてしまった真なる王の騎士の仕事をしているとさえいえるのです。

 

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 このように「世間のならい」より先に「本来の理路」を自然に悟っているフェリクスは

「貴族どもは誇りがどうの言っててダメ、勝つためにはその場に適したなんでも使うべき」とか

「知り合いを斬るのが怖い? 後ろから斬ればいい。顔がわからなければいいわけだから」

とかみたいな現実の微量抵抗を完無視したこともスパーンと言います。

フェリクスとしては別に人をイラッとさせるために屁理屈をこねてるわけではなく(実際屁理屈ではない)、本来の目的を合理的に達成する方法、まっすぐな解決策をむしろ親切にも提示してくださっているわけです。ただそれは人間の猥雑な感情や迷いを考慮に入れない、強いだけのアンサーであるともいえます。よく男女などのあいだでも「ただ愚痴を聞いてつらい気持ちを共有してほしい感情寄りの人」と「素早く問題を要約して解決しようとする理屈寄りの人」の間でウワーッが起こってしまうことがありますよね。フェリクスもそういうのに困るタイプ。自分のも他人のも、感情とは付き合い方がよくわからないので……。

フェリクス両断剣は迷い悩むモチャモチャ王国を補ってくれるダイヤモンドカッターですが、時と場合で使いようだし、使い手に愛と生身のハートあってこそ、といえるでしょう。そしてフェリクスにとっての愛とハートを担当してくれる同体のものが、ディミトリなのです。

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文明の四角形

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 ブレーダッドの紋章の「力」アルカナとフラルダリウスの紋章の「皇帝」アルカナは(特に「力」のアルカナを8番とする風花雪月の解釈をとると)とくべつ関係が深いアルカナの組み合わせというわけでもありません。しかし、そこには風花雪月の青ルートのテーマならではの関わりがみられ、ニクいね~という感じなんですよ。

そのまえに、さきほどから繰り返していますように、「皇帝」とは父性、男性原理。はっきりと対になっているのは母性、女性原理である「女帝」です。またあとで対応するアネットとの関係のことは話すのでざっくり言うと、このふたつのカードは「男女」「父母」であるほかに「自然と文明」の対立をあらわしています。

「Ⅲ女帝」と「Ⅳ皇帝」の順番が、なぜ女帝が先なのかとかどっち先だったっけとか思ったことがある方もいるかもしれません。流れで考えましょう。「自然が繁茂する世界がまずあって、そこを人間の剣が切り拓いた」のだと。

ホモサピエンスはまず採集をして暮らしていました。自然の懐に抱かれ、母から乳をもらうように自然から少しずつもらっていました。そのうち人間は道具を作り、木を伐り、家を建て、農耕をし、村を形成していきました。「刃物」と「理知」をもって、母なる自然を整地しはじめたのです。

「整地」という言葉はいまやマイクラ用語でもありますが、人間がスパッと切って使えるよう整えたものというのは、ことごとくが四角い図形をなしています。周りを見ていただいて、まったくテレビは四角、窓も四角、棚も四角、ティッシュ箱も四角、お菓子袋も四角、当然この記事を見ているモニタも四角いことでしょう。

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この四角い文明世界のつくりだけを見るならさながら、われわれ自身がマイクラのキャラのように四角でできた生物であるかのようですが、ぜんぜんそうではない。自然世界は四角くない。にもかかわらず、人間の理知はものを四角く切り取り、目に見えぬ概念も「東西南北」「上下左右」といって4つに分割して理解したがるのです。

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イングリットとの支援会話で、戦術の意見交換に出席させられたフェリクスは「進軍路がないなら山を切り拓け」とかの奇想天外ながら一応理に適った、ハッとさせられるような発想の意見を言い捨てていったことが語られました。摩擦係数ゼロの理論で現実をスパッと斬る皇帝の剣は問題の所在がわからなくなった議論に道をつけるのにうってつけです。このように、不定形でモフモフな自然を直線でもって切断し、分節(部分に分ける)する理性の剣の力が皇帝のもつ人間の力です。

「分節」ってふだんあまり使わない言葉なので詳しく言うと、たとえば幼児が見えている無限の景色の中で「お花」をはっきりと認識することは、「おはな」という言葉を覚えて使っていくこととセットでおこります。「おはな」という言葉と意味をゲットすることで、幼児の視界の中では「おはな」にあたるであろう存在が背景世界から切り離されて、個別のものとして見えてきます。そのうち幼児は「おはな」のほかに「くさ」「き」という言葉を得、それらを違うものとして意味を切り離して見ることができるようになります。そしてゆくゆくは目に見えない概念についた言葉を理解するようになり、概念を分類し、大カテゴリや小カテゴリをもうけて脳内で世界を整理していくようになります。

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感性や情念の観点からいえば、生きている人間も死んでしまった人間も同じように愛しいものです。しかし現実はちがいます。フェリクスは恋しい幻影をみずにはいられない者たちに「生者は生者、死者は死者だ」「そいつはとうに死んだ」「それは幻想で現実とは違う」と言葉ではっきりと二者を切り離します。

これが皇帝のもつ「言葉による分節」の力であり、「目に見えない思想の継承」「言葉による対話」をテーマとする青ルートの物語に不可欠な剣なのです。

 

 そして、タロットの中で「未分節な豊かな自然」を表しているものは女帝のカードだけではありません。そのひとつが、ディミトリに対応する「力」のカードです

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「力」のカードが意味するのは人間の外界としての自然ばかりではなく、むしろ人間の内側にある自然のほうです。つまり、人間の獣性のもつ巨大で暴力的な力です。獅子の姿で表される、嵐のように偉大で善悪を超越したその暴威を、乙女の姿で表される愛と優しさと忍耐という理性が常に寄り添って付き合っていこうとする、美しくも危険なバランス。

フェリクスはディミトリを「猪」と呼び、その行動をいちいち批判的に裁定します。獅子のいない日本で猪のことを「シシ」とも呼ぶことは偶然ではありません。ヨーロッパ大陸にも基本的にライオンは住まないため、「自然の王者たる獣」として猪と獅子は似たような象徴性をもっていて、そのように日本語でも呼ばれました。

他の誰も手を出せない猛獣たる自然のたてがみを、闘牛士のごとく、鮮やかに戦いながらスパスパ切って整えていくことが、皇帝の剣にならできます。ロドリグがそうしたように。まだ幼いフェリクスの剣はその意味をよく知らず、不器用なものだったとしても。

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話を切る男、歌い踊る女

 フェリクスは雑談や世間話をしないため普段は口数が少ないですから、他人と葛藤する支援会話にはキャラクター性が豊かに示されています。フェリクスはおかしなことを言っているわけではないのですが空気を読めずマジレスが突き抜けているので、同じく合理性を重んじるタイプ以外の会話は結果的におもしろくなってしまうことも多いです。

合理的で実際的なタイプ仲間のセテスやレオニー、非合理な女子代表のドロテアやベルナデッタ、そのどちらでもあるリシテアなど、同学級外の支援会話も実によくできています。フェリクスの皇帝性を頭において、もう一度彼の支援会話を見直してみるのも面白いでしょう。

 

VSアッシュくん

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 今までの説明でしばしばフェリクスとイングリットの支援会話が話題に出たように、「当世風の騎士道」とフェリクスとの対立は今作において「真の騎士」の姿を切り出す役割を果たしています。そして「騎士道」という思想について、イングリットと表裏一体、同体をなしている役柄がアッシュです。

フェリクスの「理知」「理屈」という性質が最も鮮烈に示されるのが、このBランクまでしかないアッシュ支援です。フェリクスは昔馴染みたちの騎士としてのあり方にも否定的ですが、なにしろ昔馴染みですから言葉少なですし、「こいつにはこの件に関して言ってもどうしようもない、もう知らん」とある程度見切りをつけてヤバいときだけ怒ろうとおもってるんでしょう、いまさら弁論をふるってくれることはありません。しかし聡明で善良な平民が騎士道に夢を見てノコノコやってきたら話は別です。ひとつ、ディベートで見せたフェリクス選手のトロンのごとき雷の舌鋒をリプレイしてみましょう。VTR、スタート。

……くだらんな。

そんな作り話にのぼせ上がるような
人間ほど、無駄死にする。

友情、忠義、正義……そんなもののために
命を捨てる愚者を、英雄と囃し立てる。

思想を統制するという意味では、
暴君よりもよほど性質が悪いな。

ハイ、これがそれまで4文節以内でしか言葉を発しなかったフェリクス選手の突然のノンストップ長ゼリフ、みごとな流星の連撃でしたね。文法、論述の流れも無駄なく美しいたたみかけです。狼の異名は伊達じゃないーッ(実況)

こんな哲学も一般に流通していないようなフォドラの社会でですよ、個人の「思想」に言及し、「思想を支配者側が統制するのはよくない」という近代になってやっとまともに問題として発見されてきたような概念をサラッと問題視し、しかもそれを美しい物語・名誉として流布する政治的宣伝…プロパガンダの危険性までもひと息で整理して言い立てています。青獅子の学級で知能高いキャラといえばアネットとシルヴァンですが、このときのフェリクスときたらリンハルトやクロード並の時代を超越した知性です。

もっと言えばフェリクスは王侯の基礎の基礎教養レベル以上の帝王学に特に関心もないはずですから、この発言のもととなっているのは知識ではなく自分の頭で考えた理路です。フェリクスの中には正確な演算機能がある。

まあそいつ数年前まで貧民やってたんだから手加減しといたれやという問題はあるのですが、本気のある相手を下に見て手加減したりはしないというのも「皇帝」流の親愛の示し方なのです。相手とおちゃらけた距離を保とうとするシルヴァンとは真逆の「優しさ」ともいえるかもしれません。

 

 そしてそんなフェリクスの非常識攻撃(親愛)を受け、きっと言ってることの全部を理解もできなかったでしょうに、アッシュはその姿を「物語の騎士にそっくりで格好いい」と憧れの目で見るのです。騎士道物語の王道からは外れた、しかし、アッシュがまっすぐに憧れるということは、それは本物の、騎士の中の騎士だということです。

 

VSアネットくん

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 「ここだけフェリクスが圧倒的ボケ」との評判高いアネット支援です。記事の最初からしばしば説明に出ているように、フラルダリウスの紋章の対応する「皇帝」のアルカナとドミニクの紋章の対応する「女帝」のアルカナは対の関係、父と母の夫婦関係にあります。

「食糧や住居、平穏など、家族の暮らしの満足さを与える母」「花咲くようにあふれる感性、みずみずしい情愛」を表す「女帝」の個性は、例の「アネットの歌」にあらわれています。アネットの歌の歌詞分析(?)などは別途ドミニクの紋章の個別記事で行う(?)ので置いておきます。とにかく、フェリクスはわけがわからないながらもたちまちにアネットの歌と踊りに魅了されてしまいます。

フェリクスくんとアネットくんがラブ的に相性がどうかというのはおのおのがたそれぞれのフォドラにおまかせしますが、性質として「皇帝」は「女帝」の歌舞に魅了される運命にあります。というより、「女帝」である自然を切り拓くものを「皇帝」と呼ぶように、「皇帝」の四角い理性を魅惑して感性の世界と接続するミューズとなるものこそが「女帝」だと言ったほうがいいでしょう。

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アネットの歌が主題となるのは他にクロードとアネットの支援会話があります。クロードの場合、アネットの歌と踊りはどこか故郷の祭に似ていたと言い、歌詞の意味とも相性がよさそうで自分で似たような歌詞を作ってみたりもします。対照的にフェリクスはアネットの踊りを「剣術の足さばきにも似ていたような」とか、歌詞をドストレートに理屈で解釈しようとして考え込んだりとか、まるで見当違いのコントです。なのに、なぜかまた見たい。聞きたい。頭から離れない。

理屈の硬い鎧は武器に負けることはありませんが、鎧の中に入り込みいつしか満開となる愛らしい花に武骨な男はぽうっとなり、その花を愛でる言葉など出てこなくても、自分にも心があったことを思い出すのです。フェリクスもまたアネットの歌を恋う言葉を知りません。皇帝は、不条理で有機的な自然に心惹かれ、そして自分でもそのことをよくわからない。剣と理に生きてきた、不器用な男だから……。

 

この剣に託す

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 フェリクスが皇帝男であることはよくよく書いてきましたので、結びとしてもう一度この問いを。「なぜ、ファーガスは『皇帝』が王ではないのか?」

ロドリグやフェリクスには合理的で正しい思考力と果断な行動力があります。フェリクスは人にものを伝えるのに向いている方ではありませんが、人に愛され旗印となることができないような人間ではありません。指導者にふさわしい能力を示しています。

対してランベールとディミトリは圧倒的武力と仁愛をもっていますが、よく言われるように指導者「向きの能力」をしているとは言いがたいです。ディミトリが失われた民の嘆きや愛や復讐を制御できずダバダバになっていたのはもちろん、ランベールも政治的選択としてよろしくない立場のパトリシアさんにめっちゃLove……なって後妻にとってしまったりと、なにかと自分の中から湧くパワーに振り回されがちです。

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しかし、剣や理論や言葉はあくまで「人間の使う道具」です。それも、「心ある人間が振るうべき道具」です。

そこに守るべき心がなければ、愛すべき優しさがなければ、一緒に進もうと手を引く気持ちの力がなければ、皇帝の強さも賢さも、あえて振るうに足る意味はありません。ディミトリという王も守るべき誰かも得なかったフェリクスは一人「流浪の剣」となり、ただの一本の刃物となります。

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ブリテンを救う真の王にのみ抜くことができたアーサー王の聖剣のように、鷲獅子戦争のキーフォンとルーグ以来フラルダリウスはブレーダッドの剣となり盾となりその露払いをしてきました。正確にはその剣はふさわしい王を選ぶのではなく、みずからの王が王たるものになれるよう、道を違えそうなときに否定し、叱咤し、ときには敵となることも辞さぬ剣です。『麒麟がくる』すげえよかったよな……。

麒麟がくる 完結編 NHK大河ドラマ・ガイド

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  • 作者:池端 俊策
  • 発売日: 2020/11/13
  • メディア: Kindle版
 

本来あるべき騎士とは主を信じながらも健全に意見し、真心で主を思うほどに諫めるもの。フェリクスはスカウトによってディミトリについてゆかない道を選んだときも、いつもディミトリの正しさのこと、それを自分がどうしてやれるかということを考えています。

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我が父祖の血と、我が名誉にかけて、この剣に託す。
変わることなき忠誠と、永遠の親愛を。
戦場においては、我が身をもってあなたの槍となり、あなたの盾となることを。
願わくば、我がすべてを託したこの剣を、あなたに捧げん。
我が主よ、我が誓いに偽りあらば、この剣で我が首を刎ねたまえ!

――『パレドゥレーヌ』剣の誓約の口上より

フェリクスはディミトリの剣と盾。ディミトリはフェリクスの愛と心臓。王と騎士は互いに守り、守られるもの。

エーデルガルトが「あなたのように恵まれた人にはわからないでしょう」と苦しげに言ったのは、強く高くあらねばならぬ皇帝と違ってディミトリという弱く惑う王にはフェリクスが、ロドリグが、悩み苦しみの心を対等に囲んでくれる仲間たちがずっといたということ……を言っていたのかもしれません。

 

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次回、冬のファーガス祭はまだ冬と呼べる期間中に(マジで)(まだ全然冬だよだって越後は今ドカ雪だもん)アネットかイングリットかシルヴァンの紋章対応記事を上げようかなとおもっています。あとできたら3月21日に東京ビッグサイトでリアル同人誌即売会があるんですけど、そこに『いただき!ガルグ=マクめし』の副読本その1のミニ本が間に合ったら、そんで感染状況が奇跡的に改善してたら出したいな~~とも。

遙か7も終わってないのにペルソナ5SとバディミッションBONDを積んでいる照二朗でした。光栄の作ったゲームで大渋滞だよ!!

 

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