本稿では『ファイアーエムブレム風花雪月』の中のヨーロッパ哲学四大元素のモチーフ、タロット小アルカナのシンボルと4つのルートの対応について考察しています。紋章と大アルカナの対応の目次はこちら。
以下、原作の各ルートのエンディングまでのネタバレを含みます。紋章と大アルカナの対応を考察・読解した同人誌に収録した四大元素と小アルカナの内容を増補していますので同人誌内容と一部重複があります。
風花雪月の紋章のタロット読解本、再販してます。
この『FE風花雪月とアルカナの元型』シリーズでは、作中に登場する英雄の遺伝表現型「紋章」の描写とタロット大アルカナがひとつひとつ対応して設定されてるみたいだぞ、という話題をずっと書いてきて昨年末に全紋章の読解を同人誌にしたため上梓しました。
んが、タロットには「大(メジャー)アルカナ」のほかに「小(マイナー)アルカナ」というものがありましてな*1。今回はそれに関連する話をします。大まかにいうと「4つのルートのそれぞれのテーマや描写が、小アルカナやそのシンボルをモチーフにしている」という話です。
「紋章と大アルカナ」のほうは作中でそれとなく示されているだけでなく、フォドラコレクションの公式設定資料などにも制作側がそのように設定して作っていることが明言*2されてましたが、この小アルカナのほうは特に公式のそういうのはありませんから、「そう読み取れるぜ」的な話です。
ただ、これは「タロットに対応して設定されてるって話」というより、キャラの服の色の話のときのようにヨーロッパ的な文化・思想の土台の話なので、服の色の読み取りのとき(下記事)みたいな感覚で読んでいただければいいかなーと。
小アルカナとは
まず、「小アルカナ」というのは簡単に言うと現代のゲーム用トランプのもとになったカードです。「4つのマーク」と「数」があります。*3だからトランプ同様50何枚とかある(トランプよりちょっと多い)。
タロットカードのフルセットはそのトランプみたいな小アルカナと、今まで紋章と対応してるよと記事を書いてきた大アルカナ22枚がセットとなった78枚パックです。カードとしてそもそも日本で「タロット」と呼んでるあのアレは英語だと「トランプ」といって我々のトランプって呼んでるカードと同じように呼ばれます。*4
どういうことかっちゅうと、タロットって占い用のカードである以前にゲーム用のトランプなんですよ*5。もともと小アルカナだけが賭け事のカードに使われており、ゲームを面白くするための「強い切り札」として大アルカナが整備されていきました。現代のトランプになるときに4つのマークに属さない「切り札」がジョーカー(大アルカナの愚者と同様のトリックスターの元型*6)だけになったんですが、古くは切り札はもっとたくさんあり、それが大アルカナだったんですよね。
タロット大アルカナ 22 枚の中には中世・近世ヨーロッパの人々の世界観が詰まっている~、という話をずっとしていますが、小アルカナもヨーロッパ世界観のシンボルを表しています。それは「四大元素」です。大アルカナの中にも、下の二枚のカードにみられるように「魔術師」の机の上のアイテム、ウェイト版とか同人誌オリジナルタロットの「運命の輪」「世界」の四隅のシンボル、「節制」の中のモチーフなどに繰り返し登場してますよ。
まあよく RPG でも属性になっている、火・風・土・水のことですね。古代ギリシャ哲学から世界は四つの元素でなると理解され、12 星座占いでも「風の星座」とかいって 4 つに分けたりしますよね。*7
ウェイト版の「魔術師」のカードの机の上には四大元素のシンボルとされるアイテムが載っています。これは小アルカナの 4 つのスート(トランプのハートやスペードなどにあたるマーク)のシンボルです。
4つのアイテムは「棒」と「剣」と「ペンタクル(丸くて五芒星の書かれたでかいどら焼きみたいなやつ)」と「聖杯」。ペンタクルは「金貨」とも表現されます。これが四大元素にそれぞれ対応してます。ウェイト版以前の古い版でも同じようなアイテムのシンボルが使われていて、ヨーロッパ文化に伝統的な表現なんですよね。*8
それらが、風花雪月では直接的に目に見える属性攻撃とかそういうんじゃなくて概念としてそれぞれのテーマになってるっぽいなーと当方は読んでます。元素は物理的なモノやエネルギーとしてだけでなく、それが象徴する意味をもち、大アルカナ22枚みたいにしてこの世の性質を4つに大別しています。*9ハリポタのホグワーツの寮の個性も四大元素とその性質から設定されているとのファン考察もあります。*10そんなかんじ。
どれがどの元素に対応しててざっくりした性質はどんなで、というのは同人誌の19ページくらいのとこに表っぽくまとめてあるんですが、以降ルートごとに対応をまとめていきます。
エーデルガルトの火――燃え上がる花
- 四大元素:火
- シンボルカラー:赤
- 小アルカナのスート:棒(ワンド、クラブ)
- トランプのマーク:クラブ(クローバー)
- 主な象徴性:上昇、理想、技術、武力
エーデルガルトおよび帝国、紅花ルートのテーマと火の元素があらわす意味の対応はすでに記事『プロメテウスの炎』や記事『盗んだ紋章石で走り出す』でも書いてきました。
赤が火や血や燃えるような生命の力をあらわすのは万国共通ですからそこはわかりやすいですね。
火の元素の中心となる意味は、「エネルギーが果てしなく上昇しようとする」ことです。
太古の昔、人類は道具と火の使用によって獣と峻別され、技術的な文明を発展させてきました。棒(ワンド)はその技術の奇跡をあらわす魔法の杖であり、芽吹き前へ進む日進月歩の熱意です。腕をもがれ、足をちぎられても前へ進む!
しかし棒は同時に、人類が道具という技術を使った原初の目的……敵を殺すための威力を増強させるこん棒を示唆するものでもあります。トランプの「クラブ」のマークも「ゴルフクラブ」のようにこん棒をあらわす言葉です。*11エーデルガルトやカスパルの「斧」というメイン武器はこのこん棒の系譜にある武器ですね。力をたたきつけるもの。
プロメテウスなどの技術英雄が人類に与えた「火」が戦争に使われて神々を嘆かせ、大量破壊兵器や核の炎へつながり人類全体を脅かしていることもまた、火の性質です。エーデルガルトが戦争を始めたことのように、理想に向かって何かを変えようとする情熱の力は先鋭化し、プリミティブな倫理観からみたら破壊や暴力性としかみえない様相を示すこともあります。
帝国に協力しているやみうごが持つオーバーにハイなテクの力はまさに「火」です。アビス書庫の文献によればおそらく、かつてハイにテクな文明の行き過ぎをソティスの大洪水という「水」がリセットし、今のフォドラの地上の環境が生まれたのでしょう。
ディミトリの風――艱難辛苦の嵐
- 四大元素:風
- シンボルカラー:青
- 小アルカナのスート:剣(ソード)
- トランプのマーク:スペード
- 主な象徴性:非物質、信義、言葉、切り分け
ディミトリや王国、蒼月ルートのテーマと剣のシンボルがあらわす意味の対応は記事『青き獅子の心臓』や記事『蒼き月の亡霊』でも書いてきました。
エーデルガルトが赤で炎なのは明白ですが、ディミトリや王国のカラー「青」は風の元素に当てられるとピンとこないかもしれません。青や水色って現代日本では一般的に水属性の色として使われてますからね。しかしヨーロッパの象徴性では、タロットカードの中での使われ方もそうなんですけど、青や薄青は「天」の色として扱われ*12、大気、つまり風の元素をあらわしました。
また、服の色の記事でもディミトリが身に着けてるようなビビッドなブルーというのは「ありえない異様な色」「自然界には存在しない色」というニュアンスであり、「ブルーローズ(青薔薇)」というのがありえないこと、奇跡を意味する言葉であるように青は風の元素のさす「物質的にはこの世に(まだ)存在しないもの」をあらわす色でもあります。
そう、風というイメージしづらい元素の中心的イメージは「目に見えない、物質的にはこの世に存在しないものの力」なんですね。
それは腹にたまらない信念であり、今の現実の足しにはならない過去の亡霊や未来への夢想であり、利害関係なく人を助けたく思う仁愛、風のようにはかない理想を口にする言葉の力です。現実的には何も変わらないかもしれなくても、まだ遠い未来を想って信じることを言葉にし、効果が出なくても対話をつくす忍耐力です。
けれども風の元素や剣のシンボルは嵐や離別のような苦痛もあらわし、対話や信念を追い続けることがいかに苦難の道であるかをあらわしています。
なぜ一見武力をあらわすようにみえる「剣」というシンボルが、炎の力ではなく風の信念に対応しているのかというと、当方が考えてるのだけでもいくつかの理由があります。
まず、「剣」は実は単純な武力としてはあまり強力なものではない、というのがあります。歩兵の武術としては基礎で武装していない人の命を奪うには十分ですが、リーチでもコスパでも槍や弓に遠く及びません。力をたたきつけるならこん棒や斧のほうが単純明快です。おまけに剣は鉄部分が多く、作るのに大きなコストがかかります。つまり剣は「武力」よりももっと儀礼的だったり概念的な側面の強い「象徴としての武器」なんですよね。*13トランプのスペードのマークはイタリア語でスパーダ(剣)、剣の柄と刃をシンボリックにあらわしています。*14
ふたつめの理由もこれに関係します。戦場の主力が弓矢や槍騎馬突撃であっても剣は「騎士の魂」として扱われました。騎士は剣にかけて誓いをたて、剣に信念を託したのです。*15これが武力的には強い槍や弓とは決定的に違う、剣だけにある誇り高い特徴です。このふたつの理由から、FE主人公の伝説武器の多くは(先に注釈として入れた『ラングリッサー』シリーズのラングリッサーとアルハザードやスクウェア・エニックス『ドラゴンクエスト』シリーズのロトのつるぎや天空のつるぎ等ほかのRPGのメイン伝説武器も)剣のかたちをとっています。
みっつめの理由は、今言った精神的な部分以外のもうひとつの剣の特徴と関係します。槍や弓やこん棒や斧のもつ殺傷力とちがう剣の道具としての個性は、「切る」ということです。人間を殺すのに刃は必要ありません。力を増幅させ集中させるしくみさえあればいいし、圧し潰したり焼いたりしても人を殺す力になります。しかし「ものを切り分ける」のには、刃物の鋭さが必要です。
「切り分ける」ことは、くっついていたものを離別させるという悲痛もともないますが、それは親と子が一人一人の人間として分かたれるように、人間として生きていくために世界を切り分け分節していく理性の輝きです。あれとこれとは違う、こういうところが違う。人間が世界を分節するために使う理性こそが「言葉」の力であり、その意味で剣の鋭い輝きは言葉の象徴といえるのです。*16
クロードの土――恵み遙かな大地
- 四大元素:土
- シンボルカラー:黄橙色、金、植物の緑
- 小アルカナのスート:金貨(ペンタクル)
- トランプのマーク:ダイヤ(ダイヤモンド)
- 主な象徴性:物質、感覚、利害関係、現実主義
金鹿の学級の土元素のテーマについては服の色の記事②でけっこう述べています。
金鹿の学級の級章やクロードを見ればわかるように、「黄色」は金色に通じ、輝く色なだけでなく、繁る緑色とともに豊かな大地の恵みをあらわします。
ルートの名前が翠「風」なので風じゃねーの?と悩むところではあるのですが、さきほど述べた通り「風」の元素の象徴は「蒼ざめた(死や悲痛を意味する)」「天空」であることからして「風花雪月」の中では「蒼い月」がベストってことになります。一方土のほうは「風花雪月」の中にはっきりそれっぽいものがないために、「みどりの風」と言うことで「壁を壊して風通し良く、ひとつの大地を平等な恵みでつなぐぜ!」というクロードの土元素的な思想らしい感じが出ているんじゃないかなあとおもうところです。これは四大元素の風のあらわす概念とはまた違います。
土の元素の中心的なイメージは「地に足をつけた豊かさ、交易の現実的な力」です。
エーデルガルトの理想、ディミトリの信義、あと主とかの愛も人間の人間らしさに必要な精神ですが、まあ、腹を満たしてくれるわけではありませんわな。それに理想や信義って万人に共通するものではなく、階層や文化の違い、心理的な遠さで「そんなお題目知らんがな」ってたやすく通じ合えなくなってしまうものでもあります。故郷でもフォドラでも異分子であるクロードはそのことをよく知っています。
しかし、利害関係や取引でなら、弱く愚かな小さき人間たちも思想や文化の壁を越え、ある意味平等に手を取り合うことができます。きれいごとをいくら並べても、大地の上に生き、そこから得るめしを食って生きていかなければならず、うまいものや美しいものを喜ぶことはみな同じだからです。君主たちの中ではクロードが唯一「命乞い」をすることはプレイヤーに強い印象を残します。クロードはヒルダが自分の戦いに死ぬまで付き合ったことにも心底驚いており、マジで生きてメシ食ってナンボだろと思っています。
クロードは事故で跡継ぎをなくした会ったこともなかった祖父に「紋章持ちで同盟の手綱をとれる頭や後ろ盾のある跡継ぎ欲しくないか~?」と持ち掛けて秘密の取引をし、盟主の家におさまりました。先生や学級の仲間たちのことも最初はどう利用できるかという目で見ていましたし、それはクロードだけでなくローレンツやヒルダなども同じようなものです。
そして、生き延びるための利害関係や取引で始まった握手は、共闘するうちに本物の信頼に変わっていくのです。交易の風はさまざまな壁を壊し、手を取りあえる相手とのつながりを遙か大地の向こうまで広げていきます。
他の学級と違い商家の生まれであるラファエルやイグナーツ坊ちゃんが士官学校のメインメンバーに食い込んできてることや、マリアンヌの養父が港の運営で財をなしていることでもわかるように、同盟では商取引の経済が政治のメインになっているようです。王や皇帝のような一頭をいただいているわけではない各領主たちはそれぞれに利害を調整しており、会社の経営者のようです。
土の元素、金貨のシンボルが示す「豊かさ」とは、「カネ」とは、直接的な財貨だけをあらわすのではありません。ヒルダが男の子におねだりをして面倒を押し付けるだけではなくお礼や好意を返しWin-Winの関係を築くような、交換によってこの世に富の量を増やす人間の営みのことです。*17
トランプのマーク「ダイヤ」のひし形はダイヤモンドのきらめきであり、やはり財貨や、それがもたらす人生のうるおい的美しさ(ヒルダのアクセサリー作りやイグナーツの絵画芸術、うまい料理を作るようになるラファエル)をあらわします。*18それが人生の「豊かさ」というものです。
先生・眷属の水――愛を繋ぐよすが
- 四大元素:水
- シンボルカラー:白、銀
- 小アルカナのスート:聖杯(カップ)
- トランプのマーク:ハート
- 主な象徴性:結合、感情、愛、包み満たす
3級長のルートテーマはポケモン御三家的カラーとしてハッキリと押し出されていますし、ゲームの基本構造が「3つの学級から1つを選ぶ」というものなので、4つめの元素は隠し要素的なとこがあります。だがしかし、上のスクリーンショット……ゲームを起動して最初のローディング画面に輝く炎の紋章が、実は地味にこの水の元素を表現しています。紫色の炎の紋章は、心臓が全身に血を運ぶように脈打って輝いているのです。
心臓がどうしたって? 四大元素の水、小アルカナの聖杯のシンボルに対応するトランプのマークは「ハート」、つまり体に血液という水を巡らせる心臓です。*19「炎の紋章」という名前ですが、紋章が刻まれた神祖の紋章石は先生の心臓のペースメーカーとなり、心臓の拍動の代わりにソティスの天刻の拍動が先生の全身に血を巡らせてるわけです。
あと、風の元素のとこでも言ったように「水属性は青」というのが現代日本では一般的な認識ですが、中世ヨーロッパの色の使い方だと水をあらわすのは青色ではなく「白」「銀色」でした。*20黄色が金色と同じものとして使われたように、白もまた銀色の代理として使われました。つまり「白/銀色」の「水」である、銀雪ルートですわな。
水の元素の中心的なイメージは「異なるもの、壊れたものをつなぎ、満たし、統合する力」です。
銀雪ルートに「雪」と表現されているとおり、水は固体・液体・気体のすべてに状態変化してさかんに世界を循環しています。血液が人間の体を循環するミクロコスモスと同様、世界全体を循環している水の流れは世界中のいのちのつながりや、人間が普段見ているのよりずっとスケールの大きな世界との合一を象徴します。*21ソティスやレアやジェラルトや亡くなった母シトリーの人生とつながって先生が生まれてきたこと、そしてずっと偉大な存在としてフォドラを見守ってきたレアが雪のように静かに世界に還っていくことなどが、「時のよすが」です。
先生が選んだ学級は先生によってつながり、5年後の約束で再会し、団結し、分断され荒れ果てたフォドラを統一することができます。傷をいやし裂け目をつなぐのは水のうるおいです。「分かれていたものをひとつに統合(unite)する」ことは初代FEから「炎の紋章」に多用されてきた性質ですね。
また、異なるものや壊れたものをつなぐ水の力ってのは、つまり愛と情緒の力のことです。ハートですからね。
先生は「ハート」の機能をソティスにやってもらっていたために、自分自身の情緒が機能せず赤ん坊のころから泣きも笑いもしませんでした。それが、20年間先生の体内で力を取り戻していたソティスのお目覚めと生徒たちとの出会いによってやっと自分ハートが起動。学生時代編は「先生が少しずつ怒ったり笑ったり感情が表に出るようになっていく」という変化が副旋律になっています。聖杯は「内なる体験」を意味します。*22その内なる旋律はジェラルトの死に際して流した「初めての涙」としてクライマックスを迎えます。涙こそまさに感情の水であり、ハートから全身にゆき渡る血と同じ生命の海の水です。
元素どうしの関係
「火」と「風」
火が酸素を含んだ風によって大きくなるように、風の助けを受けて火は力強く燃え続けます。どちらも軽く、上方にある元素であり*23、猥雑な現実よりも高潔な理念をあらわします。
これは作中では「ディミトリがエーデルガルトに贈った短剣」にあらわれており、たとえ二人の行く道が異なっていても、ディミトリが贈った未来を切り開く信念のおかげでエーデルガルトの理想を追う心はくじけなかったのです。
「火」と「水」
四大元素中最も激しく対立し滅ぼし合う元素です。火と水は真っ向から出会うと爆発とともにお互いを消滅させ合ってしまいます。これはエーデルガルトが隠しルートである紅花ルート以外では人間ラスボスの立ち位置であり、必ず先生に討たれることになることにあらわれています。
しかし、火と水はもしも重なり合えたならば錬金術的に「無限の大宇宙」をあらわすシンボルとなります。*24それはまさにエーデルガルトと先生のもつ「炎の紋章」と同じ意味合いです。
「風」と「土」
火と水のように激しく対立はしませんが、風と土も真逆の性質をもちます。*25風は軽くて目に見えず動き回り、土は足の下の基礎となりどっからどう見ても現実であるため、真逆なんだけどあんま干渉しあう関係じゃないってことですね。
いうなら、ディミトリはクロードから見たら腹にもたまらん信義を大事にしてわからんな~という感じ、クロードはディミトリに比べてゲンキンで貴族というより商人のよう、ということです。これは学生時代からのクロードとディミトリの関係にもあらわれていて、彼らはお互いにぜんぜん違うな~ということがわかったうえで政治家どうしちょうどいい距離感でわりと仲良くやっています。
蒼月ルートのデアドラ救援でクロードは上のようなことを言います。ロナート卿の挙兵に際しても、エーデルガルトは「私は、戦いが避けられないのであれば、勝てる状況を整えてみせるわ」、ディミトリは「たとえ勝機がなくとも、剣を取り、戦わねばならない局面があるのは確かだ」、クロードは「勝算もないだろうに、何がしたいんだか」とよくテーマの対比された三者三様の反応をしていました。クロードは現実的な利害関係の「ゲンキンさ」で動き、利のない戦いに全く価値を感じないですが、ディミトリや王国の信念は目に見える実利ではない、目に見えない尊いものに命を懸けるのです。
そのことを、クロードとディミトリはお互いに共感はできないまでも「そういうことをするやつもいいものだよな」と遠くから思い合っています。
「風」と「水」
水にとっての風は荒ぶる嵐であり、静かな水面を波立たせるものです。蒼月ルート以外でも先生やプレイヤーに最もショッキングな感情を喚起(↑「えっそんなかわいそうなことになって死んだー!?」の図)するのはディミトリの顛末や死でしょう。しかし、風によって水の感情は言語的な役割や方向性を与えられもします。*26先生はディミトリにっていうより、ロドリグの言葉に導かれてディミトリの道を見守る者となることができました。
風にとっての水は、言葉や荒ぶる苦痛の嵐を愛や魂に結び付けていくために必要なものです。*27ディミトリは学生時代にも「先生のためなら俺はやる」と先生の意思を力の安定の支えとしていましたし、ロドリグの親的な愛や先生の辛抱強い見守りがディミトリの闇レスバと復讐心を正しい力に変えました。
断ち切る剣や信念をあらわす言葉は、それだけあってもむなしく悲しい力。心と愛をともなうことで真の叡智になります。
「土」と「水」
土と水はどちらも下の方にある重い元素であり、人類が武器だとか叡智だとか理想だとか言い出す前からあらかじめあった、生き物としてのプリミティブで基礎的な部分をあらわします。土のあらわす食べ物や生きていて楽しいってこと、水のあらわす身近な愛や他者とつながれてうれしいってことは精神的にも欠かすことができません。だから金鹿ルートってわりと理念のための悲壮な決断……みたいな感じじゃなく人生楽しげな雰囲気になりますね。
ただ、土の現実主義は水の神秘的で大いなるつなぐ力に現実的なプロデュース、プロモートをしてくれるもの*28なので、クロードは先生をダンスに引っ張り込むし、「先生の炎の紋章を軍旗にデザインしたからこれのもとでフォドラの夜明けを目指してみんなやってこーぜ~!」ってティーアップしてくれるし、ゲンキンなやつがでかい力を利用してるって言ったらそれまでですけど、地に足付けた世間に向けて売り込み、力がうまくはたらくよう使ってくれます。
以上、四大元素と小アルカナのスートそれぞれの象徴性についての記述は、辛島宜夫『タロット占いの秘密』(二見書房・1974年)、井上教子『タロットの歴史』(山川出版社・2014年)、レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)、鏡リュウジ『タロットの秘密』(講談社・2017年)、鏡リュウジ『鏡リュウジの実践タロット・リーディング』(朝日新聞出版・2017年)、アンソニー・ルイス著 片桐晶訳『完全版 タロット事典』(朝日新聞出版・2018年)、アトラス『ペルソナ3』(2006年)などを参考としています。
四大元素の話は紋章×タロット同人誌の付録カード解説動画のほうでもしてます。これは前編のアーカイブ。
風花雪月ファン向けに中世騎士社会を解説する別ゲー(別ゲーなの!?)の実況も随時更新してますよ。
↓おもしろかったらブクマもらえるととてもハッピーです
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あわせて読んでよ
*1:辛島宜夫『タロット占いの秘密』(二見書房・1974年)12-13頁、レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)21頁、井上教子『タロットの歴史』(山川出版社・2014年)13頁など多数
*2:『ファイアーエムブレム風花雪月 Fodlan Collection アートブック』に「※裏設定として、体のどこかにアルカナ・コードを示す表示があります(この固体は額)」のメモ書きが見られる
*3:サリー・ニコルズ著 秋山さと子、若山隆良訳『ユングとタロット 元型の旅』(新思索社・2001年)16頁
*4:日立デジタル平凡社編『世界大百科事典 第2版』(平凡社・1998)「トランプ」の頁
*5:鏡リュウジ責任編集『総特集*タロットの世界』(青土社・ユリイカ12月臨時増刊号第53巻14号・2021)10頁、17頁
*6:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)45頁によれば「わたしもほかのタロティストも、ジョーカーは「愚者」に由来するものではないと考えています。実際にジョーカーはニューヨークのポーカー・クラブで、カード・ゲームをより面白くするための「ワイルド・カード」として考案されたものです。とはいえ、それは宮廷道化師に基づく「愚者」と同様の元型から由来するものであることは間違いないでしょう」、アトラス『ペルソナ3』で愚者のアルカナをもつ主人公の力は「ワイルド」と呼ばれ、『ペルソナ5』では「ジョーカー」「トリックスター」と呼ばれる
*7:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)199-207頁
*8:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)201頁
*9:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)201-207頁
*11:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』クラブ(シンボル)の頁
*12:徳井淑子『色で読む中世ヨーロッパ』(講談社・2006年)40頁
*13:日本古代の「七支刀(しちしとう・ななつさやのたち)」は実際の武器として用いるのは難しい儀礼用の形状。日本コンピューターシステム株式会社『ラングリッサーⅡ』(1994年)によれば「アルハザードも魔族をまとめるための象徴でしかない。剣そのものが強いのではない。剣に集まる者どもが偉業を成し遂げるのだ!」
*14:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』スペード(シンボル)の頁
*15:レオン・ゴーティエ著 武田秀太郎訳『騎士道』(中央公論新社・2020年)172頁によれば、騎士の叙任は「剣または剣帯を授与する様式と、肩を打つ様式の二つがある」。肩打ちは剣で行う
*16:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)267頁
*17:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)198頁
*18:任天堂『バディミッションBOND』のポーカーゲームでも舞台となる島の代表的な4つの文化に対応させてスペードのマークは「忍び(武力)」ハートのマークは「巫女」クラブのマークは「ショーマン」ダイヤのマークは「カジノ街」をあらわすとされる
*19:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』ハート(シンボル)の頁
*20:徳井淑子『色で読む中世ヨーロッパ』(講談社・2006年)38頁
*21:ミシェル・フイエ著 武藤剛史訳『キリスト教シンボル事典』(白水社・2006年)161-162頁
*22:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)240頁
*23:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』四大元素/四元素の頁
*24:大槻真一郎『錬金術入門』(産調出版・2008年)
*25:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』四大元素/四元素の頁
*26:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)240頁
*27:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)269頁
*28:レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)240頁