本稿では、ゲーム『アンジェリーク』シリーズの「守護聖」のキャラクターデザインにみられる「9つのサクリア」の解釈について考察してしゃべります。こちらは総論・目次記事となります。
無印~エトワール、および「神鳥の宇宙の守護聖」「聖獣の宇宙の守護聖」のキャラクターエピソードを例に出すことがあり、ネタバレを含みます。
『アンジェリーク サクリア占い』読めばたぶん全部書いてあるんじゃねえかなというようなことをしゃべるので、絶版でプレミアついてますがそれ買って読むのもいいです。
(当方は十数年前にチラッと立ち読みしただけで手に入れられませんでした、絶版してるけど買おうかな……)
『アンジェリーク』とは
『アンジェリーク』は1994年に光栄(現在のコーエーテクモゲームス)から発売された「ネオロマンス」というジャンルのゲームです。上の商品はプレステですが最初はスーファミでした。
ひらたく言うと「女性向け恋愛ゲーム」すなわち現在「乙女ゲーム」と呼ばれるものの世界初の例であったとして記念碑的作品であり、現在もシリーズが続いて今度新作が出るビッグタイトルです。正確には「ネオロマンス」は「恋愛ゲーム」ともちょっと違うのですが、そのへんについて語り出すと照二朗はクソうるせえので、興味ある方はネオロマンス最新作『遙かなる時空の中で7』の紹介記事の「ネオロマンスについて」の項をご覧ください。
「アンジェリーク」とは「天使」の意味をもった本作の主人公の少女のデフォルトネームであり、物語は彼女が次の「宇宙の女王」の候補に選ばれたことから始まります。
ハイ、わかりましたね、SFです。舞台となる世界はキャラクターデザイン的には一見近世~近代のややファンタジーな少女マンガっぽい西洋世界のように見えますが、科学テクノロジーによる星間移動や宇宙の観測・管理がなされ、そのうえで宇宙の女王とその手足となる大幹部「守護聖」の神話的な超常パワーによってバランスを保たれているクソデカスケールの世界なのです。
主人公とライバルは宇宙の女王としての手腕を学び、適性をはかるために、人類の文明が未発達な大陸の育成、すなわち政治を行っていくことになります。その試行錯誤のすえに女王となるもよし、はたまた出会ったステキな男性と絆をはぐくみ結ばれるもよし。シリーズを通してこの構造はおおむね共通です。どちらにせよメインの大前提となるのは女王としての政務をがんばることであり、女性の輝く社会進出を応援する現コーエテクモホールディングス会長・女傑襟川恵子氏の啓蒙パワーを感じる気合い入ったゲームとなっています。
↓初代のリメイクはこちら。↓
このビジュアルで政治ゲーである。
あいさつ回りや顔の広い有力者との個人的コネ作りが有効な戦術だったりする(マジで選挙活動だな)
ついでに恋愛っぽいシミュレーションのていをとった「マジで選挙活動」なゲームといえば↓これら↓も超オススメ
「サクリア」とは
『アンジェリーク』のゲームシステムの基幹となるこの「育成」は簡単なものではありますが、『信長の野望』など光栄のお家芸である「育成戦略シミュレーション」です。
大陸の育成っつっても具体的に何するんかっちゅうと、『信長の野望』の内政モードにも「治水」とか「往来」とか「治安」とかのパラメータがあるようにそれぞれ人類の文明に必要な属性のパラを高めていくことになります。このパラはその分野に金を割り振るとかではなく特定の属性のエネルギーとして直接注入することができ、そのエネルギーのことを『アンジェリーク』世界の言葉では「サクリア」という用語で呼びます。
んで、そんな特定の属性のエネルギーなんてどっからこんこんと湧いてくるのかといったら、それが宇宙の女王に仕える9人の男性「守護聖」なんですね。彼らは生身の人間ですが、ギリシャ神話の神々のように女王と同じ聖地に住み、下界と時の流れを異にし下界に対してその身のうちに宿る特定パラのエネルギー(サクリア)を注入する仕事をしています。定期的に代替わりし、そのたびに宇宙の意思によってその特定パラの代行者として選出されるのです。「神様の力の依り代として選ばれた存在」みたいな感じです。
(まあ「次代の神様として突然選ばれ人間界と違う悠久の時を生きることになる」とかけっこうエグい物語なんですけどそのエグさについてもちゃんと描いてるゲームなんですよね…)
「9つのサクリア」は、その「人類の文明、宇宙のバランスを保つエネルギー」という性質上、この世のすべての概念が、使用上9つの性質に分かれたものといえます。すべてのサクリアは世界のすべての場所に遍在し、そのパラによって土地の発展の個性はなんとなく決まっていくわけです。
当然、特定のサクリアの申し子として選ばれた守護聖のみなさんはそれぞれの性質を色濃く宿しているからそうなったわけで、9人の守護聖には全員違いまくる個性が集結して大ゲンカとなります。なんせ宇宙は広いので年齢や性格や前職が違うどころか出身身分も違う、生まれた星の環境も文化も違うという、グローバルを超えたユニヴァーサル。確かに必然的にユニヴァーサルな個性が女王のもとに集うことは宇宙を治めるうえで非常に有用なことです。
この構造は『遙かなる時空の中で』の八葉選出でも同じであり、作品をつくるうえでは社会や歴史をさまざまな観点から描写して見せるのにうってつけですし、乙女ゲーとしてさまざまな好みに合った個性をお出しすることにも合ったシステムです。
前置きが長くなりましたが、今回の記事ではその9つのサクリアの象徴する事物と、過去作品のキャラクターにおける表れ方を整理・解説していきたいとおもいます。これから発売になる完全新作『アンジェリーク ルミナライズ』の新しい宇宙の守護聖たちの個性を見る際の参考にもなれば幸いです。
ただ『ネオアンジェリーク』については無印しかプレイしていないので、Specialの追加キャラクターでたぶん揃ったであろう9つのサクリアの配役については全く知らんのですよね。あしからずご了承ください。
9つのサクリア
東洋の八卦に対応した『遙かなる時空の中で』シリーズの八葉の表現は、青龍・朱雀・白虎・玄武の「四神」に属性が分かれてその中でも天地がある、という感覚です。それに対して『アンジェリーク』シリーズのサクリアの分け方の感覚は「二者の対立軸」を基本とします。「光と闇」「水と炎」のような関係性ですね。それが4ペアあり、4本の対立軸が車輪の中の放射状の直径、スポークとなった中心に特殊なサクリアがひとつあって2×4+1=9となっているイメージです。それが作中でも視覚的に表現されたものが……コレや!!
『アンジェリーク エトワール』に登場する、サクリアを集め放出するためのデバイス「トゥルージェム」です。サクリアを貯蔵したジェム(宝石)が並んでいます。2つほど欠席が出てますが、左の黒紫のが闇のサクリア、右の金色のが光のサクリアですね。円の中で反対席に向かい合っているものどうしが対立関係をなしています。
当方が初めてアンジェリークシリーズをプレイしたときには、守護聖の担当するサクリアを見て「光の守護聖、闇の守護聖、水、炎、風まではわかるけどよ『鋼』とか『夢』とか妙な属性だな、ネタが切れたんか?」とおもっていましたが、さにあらず。「この対立軸だからその属性の名前になるのか!」と、恥ずかしながら『エトワール』でやっと理解したんですよね。
(あるいは、2や4や8を基本の数とする東洋の世界観と異なりアンジェリークの洋風世界では「3人の教官」「3人の協力者」というふうに西洋世界で重視される「3」のバランスを基本として、3×3=9とみることもでき、特にシリーズの「3」である『アンジェリーク トロワ』ではその構図が採用されています。この記事ではサクリアの象徴イメージを理解しやすくするため、2×4+1=9の構図について述べていきます)
対立軸は以下の4つです。
①光と闇の軸
②水と炎の軸
③緑と鋼の軸
④夢と地の軸
そして、対立軸に属さない「風のサクリア」がある、という感じです。
アンジェリークシリーズをご存知の方は気付いておいでかもしれません、この対立軸は、光と闇の後に風を挿入すれば守護聖紹介の毎回の順序と一致しているということ。
実は守護聖を並べる際のおなじみの順序にも意味がありまして。まず最初に天地開闢の光と闇が生まれ、世界が生まれたことで世界をめぐる風が生まれ、時の循環によって水と炎が生まれ……というふうに、実はサクリアは守護聖紹介の順番にだんだん概念が高度になっていくというか、文明の発展のサイクルの順番をあらわしているのです。そのあたりについても整理していきますね。
しかしそういったサクリアの性質、作中でなんとな~くわかるように体系的に語られたのは『エトワール』でやっとこさでしたが、当然守護聖の紹介順は最初期からいっさい変わっていないわけで、こうした世界観の整理や理解は作り手側には最初からあったことになります。光栄ってそういう土台の世界観や作り込みをガッツリ深遠にやっておきながらまるで主張しないんですよね……。(名作『ジルオ-ル』や『FE風花雪月』もいい例です)主張しすぎてももちろんウルセーでしょうが、商売をしろ商売を……。
各サクリア記事へ
夢と地のサクリア(近日更新予定)
風のサクリア(近日更新予定)
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