本稿では『アンジェリーク』シリーズの9つの宇宙的属性、「サクリア」の象徴するもの、なかでも「水のサクリア、水の守護聖」と「炎のサクリア、炎の守護聖」の対立軸について整理・考察していきます。
無印~エトワール、および「神鳥の宇宙の守護聖」「聖獣の宇宙の守護聖」のキャラクターエピソードを例に出すことがあり、ネタバレを含みます。
↓『アンジェリーク』シリーズと「サクリア」についての基本の論はこちらから↓
サクリア総論の記事では、『アンジェリーク』シリーズの9つのサクリアが「宇宙を構成するすべての要素や概念を9つに分けたもの」であり、毎度の守護聖の紹介順序は「文明が成長し、構成されていくさま」をあらわしていると述べました。
サクリアは基本的に、相反する2つの属性の対立軸が4本あり、その中央に風のサクリアが位置するという構成になっています。前回は「光と闇」の対立軸について、今回は第二番めの対立である、「水と炎」の対立軸について述べていきます。新作『アンジェリーク ルミナライズ』の守護聖達のキャラクター理解の一助ともなれば幸いです。
水と炎の軸―母の胸、父の背中
また時代がかったCDジャケットかという感じですが、代表トップ2である光と闇に比べて二人がいっしょに写ってるショットというものがなくて……。これからみんなそうですが。
このアルバムジャケットの左上と中央右下の縦長のカット、髪の赤いのが神鳥の炎の守護聖オスカー、水色のが神鳥の水の守護聖リュミエールです。個人についてはまたあとで話すのですが、これだけでマッチョでギャングな男性性と女性と見まごうばかりの慎ましさたおやかさが一目でわかることとおもいます。
宇宙が開闢し、光の時間と闇の時間が繰り返されることによって、世界には「温度の循環」の秩序が生まれます。地軸の傾きによって時期ごとに日の当たり方が偏り、時間経過とともに熱い季節や寒い季節が生まれるようにです。
「オンとオフ」「昼と夜」というあまりに基本的で宇宙的なお空のクソデカ概念だった「光と闇」のサクリア対立軸の次の「水と炎」の対立軸は、やっと観点が「地上の基本」まで降りてきます。すなわち、「生命」や「季節」「家族」という文明活動の基本となる象徴、「寒冷と温熱」「母性と父性」です。
水が母であり、炎は父であるということになります。守護聖は全員男性であり、女王は宇宙の皆の母のようなものですが、「母性的なる概念」「父性的なる概念」は女性にだけ、男性にだけ宿っているわけではありませんし、「心の性別」みたいなものがあったとしてもそれとも関係ありません。
たとえば「光と闇」の対立軸で述べた、サクリアの位置関係は光と闇の水平線を境に「上のサクリア」と「下のサクリア」に分けられているという話。「上のサクリア」の表す「意識的で活動的な人為」は父性や男性性の方向で炎のサクリアも属しています。「下のサクリア」の表す「無意識下の受動的な自然の土台」は母性や女性性の方向で水のサクリアも属しています。こういった広い概念は物理的に男性である女性であるに関わりなく誰の中にもあります。ですから、男性の中で水のサクリアに愛された人を探すのも宇宙規模でみたら難しいことではないでしょう。
母性と父性、と言っても、特に父性に関してはどういった役割なのかピンとこない方も多いかもしれません。
↑同じコーエーテクモゲームスの制作の『FE風花雪月』の中で父性を表す象徴であるタロット「皇帝」のモチーフを当てられたキャラクター造形の解説記事を先日書いたので、興味があればそちらも参考にしていただきたいのですが、「父性的な親役割」とはざっくり言って「否定、批判、評価」です。この言葉だけ見ると、炎の守護聖たちとどう関係があるのかいまいちわかりづらいのですが、つまり父親的存在が子に教えるのは「勝敗がある世界」、勝利する強さだということです。強さは母性があらわす「無条件に愛される世界」とは真逆のものです。
優れているか劣っているかに関わらず平等に愛し認め、むしろ状況が悪いほど手厚くお世話をして見返りを求めない原初にして永遠のものが母性。それに対して勝ち負け、つまり強い者と弱い者、手に入れるものと失うものがある厳しい世界で、強くふるまえ、戦って勝利せよと教え、勝利する姿を見せ、いずれは子に越えられてゆくのが父性です。
水と炎のサクリアが、どうしてこの水→炎という紹介順なのかと疑問に感じたり、どちらが先だったっけと迷ったことはありませんか? 同じように母性と父性の象徴カードがあるタロット大アルカナでもこれとほぼ同じことがおこっています。現代の社会の文化はまだ男性が中心で、「男女」「父母」「ヒーロー的なものとヒロイン的なもの」の順番なのが一般的なのに、母性をあらわす「女帝」のアルカナは父性をあらわす「皇帝」のアルカナの前にあるのです。
これは、「母性」が「自然」に近いもので「父性」が「人間の文明」に近いことと関係があります。さきほど述べた「下のサクリア」と「上のサクリア」の関係ですね。自然と無意識の土台が先にあって、その上に人間は技術や意識を積み上げます。これは「水と炎」の次の対立軸である「緑と鋼」でも繰り返されている構造です。
人間の成長過程をみても、まずは保護者の母的な側面に「無償の愛」「無条件の肯定」を与えられて豊かな心をはぐくみ、その後で父的な側面に「しつけ」や「あれはいい、これはだめ」という評価を与えられて人間としての価値観や善悪、理性を学んでいくことになります。「たとえだめでも自分は愛されている」という愛と、「あの人に愛されるためにちゃんとしなければ」という愛は別のものだということです。
↑上2つ、コーエーテクモゲームスによる「父性」の象徴の記事です。「母性」のほうの記事は『FE風花雪月』のほうは次に書く予定。
水のサクリア―オアシスの調べ
神鳥/聖獣での役割:「優しさを司る」/「涼やぎを与える」
トゥルージェム位置:下部左
自然物:水、海、液体状態、魚、低温、低速、冷涼、寒色、水色の宝石など
概念:平等、節度、慈悲、寛容、女性原理、互助や公助、文治政治、持続可能な社会、自然への畏敬
人間:母性、活動量の低下、体液循環、静かな音楽、鎮静状態、共産主義の理想、菜食、非戦闘員(文民)、ケア役割、芸術鑑賞
水のサクリアの中心的なイメージは「無償の愛に、ゆったりとくつろぐ」ことです。
リュミエールがクラヴィスに付き従っているように、「リラクゼーション」との近さの点では闇のサクリアととても親和性があります。また、「活動のペースダウン」を表す点では鈍重を表す地のサクリアとも親和性があります。トゥルージェムの配置でも水のサクリアはそのふたつの中間に位置しています。
水と炎の対立において、水が母性と女性原理、炎が父性と男性原理をあらわしているのには「水や海は生命の母」であるイメージが関わっているみたいなことをさきほど言いました。それにプラスして、「優しさを司る」と「涼やぎを与える」というふたつのサクリア表現にどう関連があるのかも乗っかってきます。なんで突然エアコンのCMになったんだ?って思いません? き〜り〜ヶ〜〜峰〜
聖獣の宇宙の水のサクリアの表現「涼やぎを与える」というのは、情緒のない言い方をすると「高温のものや空間の温度を下げる」ということになります。温度が低くなる、ということは、科学的に理解するならば「物質の運動が低速になる」ということです。能動的・積極的・行動的・活動的だったすごいレベルの高いeスポーツみたいな目にもとまらぬ動きを、スローダウンさせて受動的で品のあるもの、他者を受け入れる余裕のあるものに変える力が水のサクリアです。ゆえに、母性の寛容と水のあらわす低温でやわらかな流れは関りが深いというわけです。外に戦いに出てなりふり構わず勝利するだけでは、優美さや気配り、弱者への優しさは生まれません。
『遙か』シリーズでいえば「天の玄武」「地の朱雀」と似た属性となります。
優しさを司る水の守護聖・リュミエール
初代アンジェリークの守護聖の中である意味もっとも謎めいたというか、解釈の難しい要素がいろいろブッこまれたキャラクターが彼、神鳥の水の守護聖リュミエールです。
まず、彼は一貫して女性的なデザインをされています。女性に間違われたり女性のようだと思われることもある、という描写もあります。ハープを奏で、水彩画を描き、草花を育て、私服まで見ても話し方や仕草も「とっても上品なお姉さま」のようです。上のコミックス表紙も一見百合です。しかし、「女性的」といっても夢の守護聖オリヴィエのようにピンクに着飾って化粧をしているわけでもなければ、女性ものの様式の服を着ているわけでもありません。本人も女性だと思われることには困惑しており、「私(わたくし)は男性ですよ(せせらぎのような声)」というスタンス。混乱する。
混乱しますが、これが「女性的な性質は女性だけに宿っているものではない」「まぎれもなく男性であることと、女性的な性質を持っていることとは関係がなく両立する」ということの表現になっています。これは男女を逆にしても同様のことであり、「社会に出て働き、人の心を積極的につかみ、勝利し、しかるべき地位につく」という従来男性的と考えられてきた行動を女性主人公がする『アンジェリーク』の女性エンパワメントのテーマに裏地をつけているともいえます。
それでいて、リュミエールはかなりの長身で脱いだらスゴイ系男性でもあります。そんなことが重要に絡んでくるイベントは特にないのに実は怪力の持ち主という、ちょっと一瞬引いてしまうようなたくましさ。海ィンのォ~~~男にゃァよォオオ~~~~じゃん。
かなり意外で「女性的に見えますけど頼りがいのある強い殿方なんですよ☆」という意図だけでは片付けられない謎の凄みのようなものを感じる設定ですが、これも「水」「母なる海」のもつ性質をリュミエールが強く宿している証です。
同様に「自然」を表しているサクリアでも、緑のサクリアが「自然の恵み、豊かな実り」を表すのに対し水は「自然の大いなる、畏怖すべき力」を表すという違いがあります。世界をめぐる大いなる水の力は悪意や意思がなくとも「ただそこにある」巨大な力であり、時として命や地形をも呑み込みます。このような母なる自然の「呑み込む力」「巨大さ」はユング心理学において「グレートマザー」のマイナス側面「テリブルマザー」と呼ばれ、それを古来から人間はドラゴンのような怪物や龍神、人食いの魔女や山姥として描いてきました。
アンジェリークでもギャグ4コマ二次創作などでリュミエールが「怒るとヤバい」「底知れない」キャラクターとして描かれがちだったのは、「水」の気配が正しく読み取られているということともいえますね。
涼やぎを与える水の守護聖・ティムカ
聖獣の水の守護聖ティムカは、『アンジェリーク2』で初めて登場した際は「品位の教官ティムカ」でした。当時の彼は14歳の素直で利発な少年で、この世界でいえばインドなど南アジア風の上質な衣装と装飾品をまとい、年上の女王候補に品位のなんたるかを教え、ヘタしたらジュリアスとかより器がデカいさまを見せつけました。
それもそのはず、彼は「白亜宮の惑星」の非の打ち所のない王太子として将来を嘱望される立場にありました(14歳の彼と恋愛エンディングをした際には将来のお嫁さん(王妃様)としてお持ち帰りされます)。守護聖としてスカウトされたときには既に即位し、立派な名君として立っていました。それを引っこ抜いてくるとは宇宙もヤバいことするよな。
実は、宇宙がそのようにヤバい人選をしたのは前作までの攻略キャラクターをみんな守護聖にしないといけないからよォという大人の都合的な理由ばかりではなく、「品位」と「水のサクリア」に大きな関りがあるからというちゃんとした理由もあります(と当方は思っている)。
『アンジェリーク2』『アンジェリーク トロワ』で3人の教官たちがアンジェリークに教える女王としての資質・心構えは「精神」「感性」「品位」の3つに分けられます。メンタルの強さを鍛える「精神」や感受性とセンスを高める「感性」は何を勉学するのかおぼろげながらわかりますし、確かに宇宙の女王には必要だわなとなるのですが、それに比べると「品位」はちょっと意味がボンヤリしています。そりゃあもちろん宇宙の女王には宇宙のトップたる品格を持っていてほしいものですが、ただ礼儀作法の教養を学ぶことが目的…とも思えません。
そんな「品位」についてインタビューされた際、ティムカ様(14歳)はなんとお答えになったかといえば、「品位というのは、ものごとに向き合うとき心の余裕をもつことだと思うんです」とのお言葉。
これを見た十数年前もうおれはハハァーーッ(五体投地)ってなったね。
ティムカ様(もう様づけを隠さないよ)は女王候補に宇宙共通レベルの礼儀作法を教えるだけでなく、それを通して王たる者の静かなる構え、節度と落ち着きと余裕の精神を教えるためにふさわしい存在として全宇宙から選出されたというわけです。
この静かな構え、節度、余裕、ゆったりとした「品位」……というものが「水」のサクリアのもたらす「涼やぎ」、活動量を下げるという概念なのです。光のサクリアや炎のサクリアも王侯にふさわしい性質がありますが、それは戦って勝利し、正義をあまねく示す「帝王」の性質です。それに対して水のサクリア的な王侯は、優しく広く慈悲深く民を助ける「名君」の性質をもつといえるでしょう。
現実世界での水のサクリア
水のサクリアが人間の暮らしている共同体に注がれた場合、その共同体の文明は異質な他者や弱者に対して寛容で、断絶を回復し、自然の循環を尊ぶ方向に向かっていきます。よって社会的平等の実現やインフラ整備、持続可能(サステナブル)な社会へのとりくみなどには水のサクリアが必要だといえます。SDGsです。
水のサクリアが不足すると人は余裕や気遣いをなくし、他者や弱者に不寛容になるだけでなく自分をケアし養うことにも関心がなくなってセルフネグレクト状態になります。逆に水のサクリアばかりが過剰な人が多いと、社会は発展や上昇の意欲を忘れ、競争や淘汰が減った結果平等に停滞するでしょう。
こうした性質から、水のサクリアは人間の役割でいえば「ケアサービス」や「環境保全」にあたります。
かつてアンジェリークシリーズには『ラブラブ天使様』というソシャゲがあってのう、守護聖たちが現代人だったら……という設定でプロフィールが再構築されておったんじゃよ。そこではティムカ様は元のとおりさる国の若き王、リュミエールはピアニストという設定でした。「アーティスト」の性質をもつサクリアや登場人物は『アンジェリーク』シリーズには他にもいますが、リュミエールの音楽は荒んだ心の慰撫や鎮静をもたらすものとして扱われています。
炎のサクリアー鉄火場の薔薇
神鳥/聖獣の宇宙での役割:「強さを司る」「熱さを与える」
トゥルージェム位置:右上
自然物:炎、火山、気体・プラズマ状態、肉食動物、高温、高速、温暖、暖色、赤い宝石など
概念:競争、破壊、上昇志向、華美、果断、攻撃、男性原理、自力救済、経済成長、自然の利用
人間:父性、活動量の上昇、筋力、ロックやポップス、興奮状態、資本主義の理想、肉食、戦士(軍人)、結果を出す剛腕
炎のサクリアの中心的イメージは「打ち破り、追い越し、勝利する」です。来た! 見た! 勝った!(ジュリアス・シーザー)
父性・男性原理に対応する炎のサクリアは水のサクリアとは反対に、弱くても保護するのではなく強くなるよう叱咤激励します。ここでいう強さとは物理的肉体的な強さだけではなく、抽象的にいえば「価値」のようなものです。なんでも無条件に愛される段階を超えて、より価値あるもの、よりカッコいいもの、他より優れているものを目指さんとする上昇志向が炎のサクリアの基本です。光のサクリアが正義を示して後ろを照らすのと同様に、カッコつけた背中で美学を魅せる、それがマッチョな男というもの……。
男には 自分の世界がある たとえるなら
空を駆ける ひとすじの流れ星
孤独な笑みを 夕陽にさらして
背中で泣いてる 男の美学――大野雄二作詞『ルパン三世のテーマ』より
「父性・男性原理」が「背中」を示してくることに関しては同コーエーテクモゲームス制作の『FE風花雪月』のタロット皇帝アルカナの記事もご参考にどうぞ。
炎、つまり高温の気体は水のサクリアの低温とは逆にさかんに運動し、そして果てしなく上昇しようとするものです。ヨーロッパの四大元素「地水火風」でも火の元素は上昇志向や、技術革新、どんどん時を先に進めようと活動して羽ばたいていこうとする人間性を意味しています。
この炎のサクリアの特徴は、いわゆる織田信長の一般的イメージみたいな性質です。同コーエーテクモゲームス制作の『信長の野望』『戦国無双』シリーズや、ネオロマンスでも『下天の華』『遙かなる時空の中で7』に描かれた織田信長像は、古く形骸化したものを破壊し、革新し、世の時を進め、新たな世を創造していく風雲児としての姿です。炎のサクリアは意識的で活動的な点は光のサクリアに近く、新しく美しい理想を目指す点では夢のサクリアに近い性質があります。また、「進む」という意味で風のサクリアとも親和性があるといえ、風の守護聖ランディが炎の守護聖オスカーを剣の師匠として尊敬しているのもうなずけます。
自然の土台に対する人為、人工をあらわす光・炎・夢・鋼ら「上のサクリア」の中でも、炎のサクリアは「勝ち負けがある」「自他を傷つけるかもしれない」という、概念的にいえば血が流れる状況においても果敢に決定し、挑戦していく、そしてみごと勝つという覇気の強さをあらわしています。勝利の美酒があるためは、敗北するかもしれないリスクや自分がうち負かした敗者の屍が「必要とされる」のです。「正しさ」というより「勝つこと」が重要になる局面――つまり、鉄火場――で輝きます。
『遙か』シリーズでいえば天の朱雀、それに地の青龍と地の白虎ちょっとずつを混ぜた感じです。
強さを司る炎の守護聖・オスカー
神鳥の炎の守護聖オスカーは、対立関係にある水の守護聖リュミエールよりもだいぶハッキリとした、一見してわかりやすいキャラクターの味付けです。このコミックス表紙の強引なティーンズラブやハーレクインの相手役男性的な構図からもわかるように、「情熱の色男」。じつに炎の男らしい概観です。ファイヤーッ
しかしこのオスカーの中にも、「硬派な軍人然とした、上司や仕事に忠実なマッチョな姿」と「軟派に多くの女性を口説く、プライベートの姿」という相反する属性の絶妙なバランスが隠されています。まあ『アンジェリーク』が発売されるさらにひと昔くらい前のホモソーシャル(いわゆる男社会)では、この両方を備えている男こそが脂ののった真の強い男……というモンだったのですが。オスカーはジェームズ・ボンドのような、強さとワルさとギラリズムをもった男っぽい男の代表です。女性的で油っこくなくてサラサラのリュミエールとはまさに魅力の方向性が真逆。スチル見ただけでヘアワックスといかにも男物の香水のにおいする。
オスカーは強くてイケイケの男なのに、上司のように仰ぐジュリアスや女王陛下への忠誠心は猟犬のごとく高いです。これも男社会には当たり前のことのようですが、「強さ」「価値の高さ」を重視する炎のサクリア的には、既に勝利していて勢いさかんなものには「力こそ正義」とばかりにしっかりと従います。強くても明らかに間違ってるものとかは近いうちに滅びるのでダメですが、「勝ってるもの」にはそれなりの妥当性があるはずと見る自由主義(新自由主義か?)的な態度です。
また「プライベートで女いっぱい口説く」という個性については、たんにオスカーの性欲が旺盛でとかそういう問題ではなく、「節操がない」ことじたいが、炎のサクリアの性質であるともいえます。炎のサクリアの示す「熱」とは物質の運動が激しいことであり、オスカーはミツバチのごとく周囲の女性たちに寄っては離れすることで彼女たちに情熱のおすそ分けをしているのです。そういうせわしない短気さや直接的さ、攻撃性を身上とするオスカーが節度や寛容やオブラートのリュミエールとウマが合わないのは江戸っ子と京都人の対立みたいなもんといえるでしょう。そりゃ根深いわ。
熱さを与える炎の守護聖・チャーリー
また脱いだ。よう脱ぐな炎の守護聖は(この時点ではまだ炎の守護聖ではありませんでした)。
聖獣の炎の守護聖チャーリー、本名をチャールズ・ウォン。彼もティムカ同様に最初は守護聖ではない役回りで登場し、のちに守護聖として宇宙に選ばれた人間です。
さきほど炎と水のサクリアの対立を江戸っ子と京都人と言いましたが、ある意味では大阪人と京都人の対立とみることもできます。そのあたりのイメージの理解を深めてくれる要素として、チャーリーは関西弁と標準語が混じったような言葉を話し、おもろうてちゃっかりしてもうかりまっか?な大阪商人の見本のような性格です。チャーリーは女王試験時期の公園をにぎやかす屋台の兄ちゃん、「謎の商人」として最初は登場しました。
大阪商人のようなっていうか、事実として彼はアンジェリーク宇宙における「日本でいえば大阪」のような商業とビジネスの惑星出身で、全宇宙をまたにかける大商社グループ「ウォン財閥」の総帥その人だったのです。公園の屋台、豪華すぎる。
『アンジェリーク2』ではうろんなテキ屋の兄ちゃんの格好をしていましたが、正体がわかった『アンジェリーク トロワ』では財閥総帥の色男らしいハデで高そうなスーツ姿で髪とかビシーッとキメてきました。つまりチャーリーがもつ「炎」とはビジネス的な強さなのです。そして「商業」「経済」というものは、強い力であるだけでなく非常に「炎」的な性質をもっている。
ここで、もう「昔『ラブラブ天使様』というソシャゲが、現代パロでのう」の話をしてしまうのですが、現代の地球風にアレンジされたチャーリーの立場は「シンガポールの多国籍企業グループのトップで、F1レーサーでもある」というものでした。情報が……情報がうるさい
「商業惑星」が「シンガポール」に置き換わってることもおもしろいですが、まず「シンガポールに本拠を置く多国籍企業グループ」ということと彼の「チャールズ・ウォン」という名前の語感からそれとなく感じられることとして、彼の「全宇宙に散らばった商業経営者の大財閥」というのはシンガポール華僑のようなものだったのか、というのがあります。華僑は古くから商業ビジネス的な移民として各国に渡りいわゆる「中華街」のネットワークを全世界に形成してきた中華系の人々です。『花咲ける青少年』とかを読むべし。
「ウォン」という彼の姓(つまり、財閥の家名)は中国語でかなり一般的な「王さん」「黄さん」「翁さん」といった姓の読み方でもあり、炎のサクリアの表す「勝ち取る」という意味の英単語「Win」の過去形「Won」を想起させたりおまけに現在の韓国の通貨の名前でもあるという、たいへん景気のいい音をしています。
「中華街」ときいて思い出すイメージが赤を中心とした派手やかな景気のいい街の様子であるように、華僑の人々が全世界にネットワークを張り巡らせること、船や航空機でビュンビュン商業することは「拡散」や「移動」というエネルギッシュな景気のよさです。「景気がいい」つまり「経済の成長」というものの本質は、「価値がぐるぐると回ること」です。物質が運動し、速度を増すことこそが、すなわち熱であり、チャーリーが「熱さを与える」炎の守護聖になったのは暑苦しいという意味ではなく「価値をぐるぐる回す」力によるものです。まあせわしなく利益を求めていく商人のようすはときに「ガツガツしてる」などと言われて、やや品がなく暑苦しいことも事実ですけど、それはもう経済成長というもの自体が熱いもんなんだ、ということです。
そして、経済がグルングルン回って給料も物価も上昇していくことを「インフレーション」と呼び、バトルマンガとかで主人公と敵の強さの水準が果てしなく上がりまくることもインフレと呼ぶように、炎のサクリアはそういった「加速」を煽ることを意味しています。(こういうとこも「風」のサクリアと似ていますが、その微妙で重要な違いはまた風のサクリアの記事で。)だからチャーリーが社長業のかたわらF1レーサーもやっているのはよくできています。
「レーシング」こそはまさに炎のサクリアの表す「競争」の最も純化された姿のひとつです。『Fate Grand Order』の過去の水着イベントでレーシングが扱われたときの主催者は「美と愛と戦いの女神イシュタル」でした。そのレーシングに速さだけでなく「美しさと強さを競う」ことも盛り込まれていたことは象徴的です。イシュタル的な、F1的な美とは「みんなちがってみんないい」美ではなく「競い、なんらかの勝敗がつく価値」である美なのです。すべてのものはオンリーワンであるとはいえ、商業的価値にはどうあれ値段がつくものです。
現実世界での炎のサクリア
炎のサクリアが人間の暮らしている共同体に注がれた場合、その共同体の文明は上昇志向や美学をもち、旧体制を変革し、経済を活性化させる方向に向かっていきます。よって停滞の打破や資本主義的な経済成長などには炎のサクリアが必要だといえます。天災からの復興などには水と炎両方のサクリアが必要とされるでしょう。
炎のサクリアが不足すると人は向上心や競争意欲、いわゆる覇気をなくし、負け癖がつき自己効力感のない状態になります。スピリチュアル系をうたった詐欺とかにもひっかかりやすくなるでしょう。逆に炎のサクリアばかりが過剰な人が多いと、社会は誰にでも強く価値あるものであることを求めブレーキをなくし、優生思想や戦争に向かうでしょう。
こうした性質から、炎のサクリアは人間の役割でいえば「戦士」や「ビジネスパーソン」にあたります。
かつてアンジェリークシリーズには『ラブラブ天使様』というソシャゲがあってのう、守護聖たちが現代人だったら……という設定でプロフィールが再構築されておったんじゃよ。もうチャーリーの話はしましたが、オスカーはもともとの前職である「軍人(の家系)」というのから大幅チェンジして「アメリカの弁護士」になっていました。「戦って勝利する」という炎のサクリアの性質は物理的な戦いに限りません。現代の戦士とはまさしく「訴訟で勝つ」弁護士であり、弁護士は政治家や裁判官とは違い「正しいことを遂行する」のではなく「目標条件を勝ち取る」ための仕事です。しかも訴訟の国・アメリカであるのがまたいい感じですね。デモと訴訟はロスの華ってところです(マスクはしたほうがいいよ)
次回は「緑と鋼のサクリア」をお届けします。
↓おもしろかったらブクマもらえるととてもハッピーです
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あわせて読んでよ(ヨーロッパ四大元素「地水火風」に関する記事です)