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守護聖デザインと9サクリア④―緑と鋼のサクリア

 本稿では『アンジェリーク』シリーズの9つの宇宙的属性、「サクリア」の象徴するもの、なかでも「緑のサクリア、緑の守護聖」「鋼のサクリア、鋼の守護聖」の対立軸について整理・考察していきます。

無印~エトワール、および「神鳥の宇宙の守護聖」「聖獣の宇宙の守護聖」のキャラクターエピソードを例に出すことがあり、ネタバレを含みます。

↓『アンジェリーク』シリーズと「サクリア」についての基本の論はこちらから↓

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 サクリア総論の記事では、『アンジェリーク』シリーズの9つのサクリアが「宇宙を構成するすべての要素や概念を9つに分けたもの」であり、毎度の守護聖の紹介順序は「文明が成長し、構成されていくさま」をあらわしていると述べました。

サクリアは基本的に、相反する2つの属性の対立軸が4本あり、その中央に風のサクリアが位置するという構成になっています。「光と闇」の対立軸について「水と炎」の対立軸について前回までに読解してきました。今回は第三番めの対立である、「緑と鋼」の対立軸について述べていきます。新作『アンジェリーク ルミナライズ』の守護聖達のキャラクター理解の一助ともなれば幸いです。

 

 

緑と鋼の軸―繁栄のタペストリー

 このジャケットの左上の二人、金髪の少年が神鳥の緑の守護聖マルセル銀髪で褐色の肌の少年が神鳥の鋼の守護聖ゼフェルです。このジャケットは珍しく、「人間関係が近しい席順」というか仲がいいあるいは絡みの多い者がおおむね隣接しており(集合写真か?)、実際マルセルとゼフェルは仲がよいです。

これまでに見てきた「光と闇」「水と炎」という対立概念サクリアの守護聖が神鳥の宇宙では主義主張が相反しすぎてかなり仲がよろしくなかったことを考えると、対立する緑と鋼が仲がいいことは意外なことです。歳が近い少年どうしなせいなのかな、と考えることもできますが、仲のよい守護聖の組み合わせが神鳥の宇宙とほぼ同じように設定されている新作『アンミナ』の緑と鋼の守護聖は歳が離れていても仲がよく設定されています。そしてこの対立守護聖どうしの仲が良い傾向(聖獣の宇宙だけは少し変則です)は「緑と鋼」だけでなく第四の対立「夢と地」でも同様になっています。つまり、前半の対立はそりが合わず、後半の対立はうまくやっているように分かれているということです。

もちろん聖獣の宇宙は少し違いますし、個人の性格のバランスもありますが、ここにはただの個人対個人の相性だけではないサクリアの性質上の意味もあります。

 

 9つのサクリアの紹介順序は「文明が成長し、構成されていくさま」の1サイクルをあらわしているとこれまでにも述べてきました。光が生じたことで天地や意識が開闢し昼と夜とが生まれ(光と闇)、昼と夜が生まれたことで大気や時間の流れが生まれ(風)、昼と夜の時間が繰り返していくことで寒冷と温熱の二極、母性と父性が生まれて家族が育まれ(水と炎)……というところまでが前回です。ここまでの前半の世界観はプリミティブ(原初的)な空と海の神話の世界でした。

ギリシア神話

多くの多神教では、まず宇宙の原初に大きな大きな神格である天空神や天体神、大地や水の神があり、その子供たち孫たちの代になって「農」や「工」の神が具体化・細分化されてあらわれてきます。ギリシャ神話でいえば、ウラノスやガイアのころから代を重ね神々の性質がより人間っぽくなっていき、葡萄酒の神ディオニュソスや鍛冶の神ヘパイストスに至ります。聖書においても、ヤハウェの神がことばを発し、昼と夜を作り、海と大地を作り、なんやかんや世界が完成したのちアダムとイブという男女を作り、その満ち足りた神話の楽園を追放されてから、彼ら家族には「農耕」のカインと「牧畜」のアベルが授かるのです。この「農」や「工」、すなわち「文明の発生」の段階こそが「緑と鋼」のサクリアの段階であり、そして「文明の発生」とは「緑」「鋼」幸せな結婚のことなのです。

 緑と鋼の「幸せな結婚」とはどういう意味の言葉かっていうと。まず「水と炎」の対立も「女と男」「母と父」という夫婦関係を意味しているって前回述べましたよね。水と炎の夫婦性ってのは、激しく惹かれ合うけれども激しく反目しあい、ときには憎しみ合い滅ぼし合うようなやつです。それに対して、「緑と鋼」はドラマティックで激しいロマンス性があるのではありません。そうじゃなくて、そもそも人類の文明につきものな「農耕」や「都市」というものじたいが、緑と鋼がともに働き、楽しいダンスのように結びつかなければ成立しないということです。

人類文明発祥の地メソポタミアは豊かな土壌の流れ込むティグリス・ユーフラテス川の流域に人類が麦を育て始めたことから始まります。緑のサクリアの代名詞のようにも思える「麦の豊穣」ですが、麦がたくさん収穫できることのために必要なのは肥沃な大地や雨など自然の恵みだけでしょうか? 「採集」だけでなく「農耕」と呼べる状態になったならば、それは計画を立て、農具や暦を作り、効率を上げるためのさまざまな工夫をしはじめた、ということです。

そして麦がたくさん実ると、食べ物があるので人は未来への繁栄の展望、すなわち欲望をもち、どんどん人口を殖やします。人口が増えれば集落が大規模化していき、住みよい都市や神殿が建設されます。都市文明の中で多くの人が出会いともに働くようになると「あれがほしい、これがほしい」という潜在需要は高まり多様化し、その需要を満たしさらに喚起していくような商品や仕事が考えられ、提供されます。このように「緑と鋼」の対立する力は終わりなきコール&レスポンスをデュエットし、資源技術」「需要供給」「達成挑戦縦糸と横糸となって文明という色とりどりの織物を織りあげていくのです。

 

 もちろん、緑と鋼の縦糸と横糸の織りあげる文明のタペストリーの中には、凄惨な戦争やキツい過ち、「人間の醜悪さ」と呼ばれるようなすべても描きだされています。欲望や成功は嫉妬やむさぼりを招き、技術や挑戦は倫理にそむく取り返しのつかない暴力を生み出すことがあります。神々の時代は終わり、物質文明は使うものの心しだいであり、最も「暴走」に具体的な懸念があるペアといえるかもしれません。そう考えると初代のキャタクターデザインがそこに「未成年の少年」ふたりを配したのはうまくできていますわ。ハァーッ。

 

 

緑のサクリアー約束の地

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神鳥/聖獣での役割:「豊かさをもたらす」/「生命をはぐくむ」

トゥルージェム位置:下部右

自然物:有機物、燃料、肥えた動植物、肥沃な水や土地、微生物、穀物、葡萄、食糧、緑色、野生の花など

概念:自然、ありのままの本質、増殖、豊穣、自然の代謝、収穫、幸運、欲望、快適、資源、余剰、アナログ、霊感(インスピレーション)

人間:願いが叶う、貯蓄、人脈、美しい肌や髪、健康優良、天賦の才、天然素材、飲食物、農業従事者、気前のよい資産家、芸術を生み出す

 

 緑のサクリアの中心的なイメージは「無限に繁茂し実る生命のエネルギー」です。

人間が手を加える以前からある偉大なる自然のパワー、人間が普段意識していない自らの本質に眠るパワー、ただそこに存在するなみなみとした資源を表すので、トゥルージェムの位置は自然や無意識や実存を表す下側です。

人間にとっての、ていうか「生物全般にとっての」豊かさの根源は、「生きていくための資源がある」「共同体の規模を大きくできる(生殖)」ことですから、「豊かさをもたらす」神鳥の緑のサクリアと「生命をはぐくむ」聖獣の緑のサクリアのリンクは比較的わかりやすいです。聖獣のほうは今まさに始まったベンチャー宇宙なので、よりそもそも論的な言い方になっていますね。それは鋼のサクリアも同様です。あとでまた話しますね。

 

 緑のサクリアは成長すること以上に「収穫する」ハーヴェストを意味しますから、「夢が叶う」「富や名声や幸福を手にする」力です。実力だけでなく謎のラッキーや天に愛されているとしかいいようのない成功も含まれます。ちょうど新作『アンミナ』の緑の守護聖ミランも幼い頃から緑のサクリアがダダ漏れになっており「神」とあがめられていました。マルセルもセイランも少なくとも彼らの人生観においてはじゅうぶんに満たされ恵まれた、完成された豊かな核となる何かをもっています。

こう言うと万能のスーパーパワーのようにも聞こえますが、富や成功や才能のお膳立てが快適に授けられたら、それが人間的な人生の幸せなのかというと微妙なところです。

インドの神話物語『マハーバーラタ』の代表的な英雄のひとりであるアルジュナは『Fate』のキャラクターとしての異名を「授かりの英雄」といい、原典からしてあらゆる才能と美しさと善良さと幸運と富名声をほうぼうから授かりまくるタイプのヒーローです。『Fate』では彼はその人生において授かるものにふさわしく完璧に優れてあろうとし、またそれをバッチリできちゃう能力も運も授かっていたがために、「自分だけが望むものを、間違ったり羨んだりしながら掴みにいく」ということだけはイマイチできなかった、という渇きをもったキャラクターとして描かれています。

水も、肥沃な土地も、富も、才能も、美も、それがあってもただ「ありのままに、ある」だけ。あって、数や量が増えていくだけ。なきゃ困ることは確かでも、「ある」ことに意味を見出すのは人間の意思や行いであり、それは「緑」の神的な力の先(つまり、鋼のサクリアのほう)にあることです。だから緑のサクリアには人間の力の及ばない巨大な蛇や魚や、『もののけ姫』のシシ神様とかが目の前でジッ……としているような怖さ、畏れ多さもあります。

同コーエーテクモゲームス制作協力の『FE風花雪月』のキャラクター名前由来読解の記事などで、「ディミトリ」というキャラクターの名前が豊穣神デメテルに由来していること、彼の豊かな優しさと荒れ狂う怪物性のバランスの話をしたりしてますが、それもまた緑のサクリアやね

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『遙か』シリーズでいえば「地の朱雀」と似た属性です。

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豊かさをもたらす緑の守護聖・マルセル

 この完璧な美少女が神鳥の緑の守護聖・マルセル様だ~~ッ この守護聖にめったに様をつけないおれも思わず様付け。

 ↑こっちの絵も美極まってるからオススメ

 美少女絵について話しにきたんじゃなかったわ、このマルセル様、明らかに主人公以上の美少女とみまごうビジュアルにたがわず素直で天真爛漫で泣き虫で甘えん坊な末っ子気質(マジで生まれは大農園の末っ子ちゃんでした)、唯一主人公より年下で当然守護聖達の中でも新米で、そのラブリーさを愛され育てられている……までは見た目通りなのですが、そのマイペースさ「芯の強さ」とかを超えた肝の太さたるや、リュミエールをしのぐほど。『白い翼のメモワール』などは特にマルセルのストロングさを鑑賞するOVAですね。

彼は守護聖という役目として・人間としてはまだまだ未熟な少年であると描かれているにもかかわらず、ラブリーな小さな体にデッケェ自然の真理パワーを当然のように宿しており、「豊かさ」という概念がどういうものなのかについては迷うことがありません。たくさんの家族、たくさんの家畜、たくさんの実り、たくさんの愛情、たくさんの幸福に生まれたときからずっと囲まれて育ったから感じとれる「何か」の結晶を、マルセルは持っています。

 

 マルセルの「緑」的パーソナリティをあらわす面白い特性のひとつが、「食べ物の好み」です。彼は小鳥の「チュピ」ちゃんを友達としていつも連れていますし、生き物全般に優しいのでさすがにこいつにフライドチキン食わせたらヤバそうだなということは予想がつくのですが、よくよく好みを見てみると、別にマルセルはヴィーガンだとか目の前で肉食うと必ず悲しい顔するとかそういうことはないのです(ちなみにフライドチキンが本格的に苦手なのはルヴァです。おっとりしているので骨付き肉が食べづらく、しかも本を読むので油っこいフィンガーフードは勘弁だからです)。

じゃあマルセルはいったい何肉が苦手なのかというと、「まだ小さい子供の動物を食べるのはかわいそう……」という基準なのですよね。いうまでもなく仔羊のナントカや仔牛のカントカは高級な西洋料理にはお決まりのメニューであり、光の守護聖ジュリアスや『アンミナ』のロレンツォなど上流階級のキャラクターの好む上質な食材です。つまり逆に言えば、マルセルは「命をとるな」ではなく「生まれた命をいただくならば、ちゃんと適切に肥育してから食べるべし」という主義をもっているということです。

「緑」は収穫の鎌なくして人間の益になることはありません。マルセルは天真爛漫で子供っぽさを残しながらも、そういった「生きているだけで何かを害する」加害性に自然な覚悟をもった、心深き少年なのです。

 

生命をはぐくむ緑の守護聖・セイラン

 この『Twinコレクション』というシリーズは、ツインという名のとおり一本につき2キャラをピックアップしたビデオシリーズでありまして、ほとんどの巻でそのキャラ好きな人が同じ要領でこのキャラも好きってことはまずないやろというみごとな結局いっぱい買わせる作戦、もとい、キャラクターの魅力の絶妙な組み合わせの闇鍋がおこなわれていたのでした。オスカー&オリヴィエとクラヴィス&アリオスくらいだったんじゃないか、方向性が似てるペア。

この巻のジャケットもホラ……わかるだろ……このリモート収録の合成画像みたいな空気感の違いがサ……。

元気でハッピーでカワユい!マルセル様の隣にいながら、なんだこのスーパーすました磁器製の人形は……彼がのちに聖獣の緑の守護聖となるセイラン、芸術家です。エラい違うな! 光~炎までの前半では、レオナードの前職のようなビックリはあってもおおむねまとうオーラとしては神鳥と聖獣で大きく違うことはありませんでしたから、それも後半のサクリアのおもしろいところですね。

 

 セイランは初登場時19歳とかでありながら宇宙の主星に名が知れるほどの気鋭の芸術家であり、その作品ジャンルは絵画、造形、詩文など多岐に渡り芸術的感性そのものが服着て歩いてるみたいなやつです。服の中からあふれる芸術的感性が買われ、新しい宇宙の女王の「感性」を鍛える教官として女王試験に招聘されました。

「芸術」というのは当然美的な分野なので、どちらかというと夢のサクリアの領分のようにも思えるかもしれません。しかし、「感性」というワードが実はポイントになっています。感性とは世界から「感じとる」「感じたものを表現する」という力であり、あらかじめある美しい花の種と豊かな土から花を咲かせるようなもの。無から有を作り出したり、存在しないものを思い描いたりすることではありません。あくまで、「ある」ものの美しさを取り出して見せるというだけ。セイランの芸術性というのはおそらく、一本の木材の中に眠っている仏様を発見して彫り出す感覚の仏師さんのような、自然の植物の一見無秩序な曲線に美を見出すような、かなり有機的なものなのです。

また、高尚な言葉遣いをするキャラクターが多い『アンジェリーク』シリーズの中でも、セイランは特別な話し方をします。ものッすごい頻度で皮肉を飛ばしてくるんですよね。この皮肉がまた「素直じゃない」とかそういうレベルのものではなく、むしろセイラン自身は非常に自分の気持ちに素直であっけらかんとしたタイプ。周囲の人に衝撃を与えたり偉い人や温和な人にも容赦がなかったりするので、彼には「人間嫌い」のような評判がついてまわりますが、セイランが嫌いなのは人間の欺瞞や取り繕った虚飾であり、人間そのもののことはむしろ(美しい自然と同じように)好きです。彼自身が芸術品のような美形なのにいろいろなファッションに着飾ることには興味がなく、都会の喧騒を避けたところにアトリエをかまえて隠者のような生活をしているのは、本質的な美を感じ取るためでしょう。

セイランの皮肉は人間社会の当たり前の衣を取り去り、その人本来の姿を見出すためのものです。「人間の本性」というと一般的には醜いもののように思われがちですが、きっとセイランにとっては人間の飾らない本質は美しいものなのでしょう。だって、生命は生きてることじたいが美しいのですから。

 

現実世界での緑のサクリア

 緑のサクリアが人間の暮らしている共同体に注がれた場合、その共同体の文明は幸福な結実や、社会成員みんなに富や幸を分け与えること、オーガニックでていねいで満足感のある暮らし向きを尊ぶ方向に向かっていきます。よって企画事業の円満なグランドフィナーレや富の再分配、科学技術と適切な距離をとることなどには緑のサクリアが必要だといえます。

「金持ち喧嘩せず」という言葉の逆で、緑のサクリアが不足すると人は満ち足りる感覚や心の余裕をなくし、常に満たされぬ飢餓感にガツガツを空転させたり、人から奪ったり奪われたり、自分や他人に嘘をついたりと「心が貧しく」なります。逆に緑のサクリアばかりが過剰な人が多いと、社会からは工夫や分業やスキルアップの機運がだんだんと失われ、非文明化方向に逆走するでしょう。

 こうした性質から、緑のサクリアは人間の役割でいえば「社会奉仕する名士」「精神的指導者」にあたります。「湧き上がるものを与える」というのがキーワードになります。スピリチュアル系やアート系の能力は、緑のサクリアと夢のサクリアのどちらにもちょっと違うかたちで含まれているかんじですね。

 

鋼のサクリアー荒野の開拓者

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神鳥/聖獣での役割:「器用さをもたらす」/「存在を創り出す」

トゥルージェム位置:上部左

自然物:無機物、鉱物、金属、やせた土地、極端な気候、硬いもの、鉱山、火薬、金属光沢、建築物、雷電、車輪、自然界にないものなど

概念:人工物、人為的、創造、工夫、システム、技術、仕事、効率、逆境、不屈、欠乏、合成、デジタル、都市

人間:不遇、アイデア、都会人、ハングリー精神、反骨心、栄養補助食品、エンジニア、科学者、建築家、イノベーション

 

 鋼のサクリアの中心的なイメージは「環境を変え、なかったものを生み出す創意」です。

さきほど緑のサクリアのセイランの項で、セイランの芸術性とは「すでにある」「あふれ出る」ものを感じ取ってお出しするものであって「無から有を作り出したり、存在しないものを思い描いたりすることではない」と言いましたが、この「無から有を作り出す」ことが鋼のサクリアのほうの概念になります(ちなみに「存在しないものを思い描く」のは夢のサクリア)。これが、先程「ベンチャー宇宙である聖獣の宇宙ではよりそもそも論的な言い方になっている」といったアレで、「存在を創り出す」鋼のサクリアって言ってますね。

より正確に言えば、「無から有を作り出す」の「無」というのは物理学あるいは化学的に想定されたマジモンの無の空間とかではなく概念的なものです。緑のサクリアが司るのは「増殖」であるため、生物の種があって、葉っぱが増えて、受精して、実が増えて、という感じで「同じものが増えていく」「遺伝的につながって増える」という網目状の生産形態でした。それに対して鋼のサクリアは、「この木の棒と石を組み合わせて斧を作ったぜ!」とか、「AとBを化合させてAともBとも性質の違う物質Cを作ったぜ!」とかみたいな、ほっといたらとてもそうはならんやろという大変化をおこすということです。そこには革命があり、思春期の少年少女が反抗期のカオスから無限の可能性へ飛躍するダイナマイト的パワーがあります。

 

 人類らしい文明の物質側面を作るのは、とにかく鋼のサクリアです。「鋼」という言葉だとどうにも産業革命以後のシステマティックな大量生産の工場だとか、そうでなくても文字通りの鉄の鍛冶技術とかを想像してしまいますけど、産業革命が250年前なのに対して人類の歴史は4万年とか、それ以前にあった連綿とした「緑」(人の手の入らない自然の命)の世界は36億年とかですから、「鋼」があらわすのはもっと概念的なことです。

緑のサクリアで実り多き土地にたくさんのごはんが手に入れられたら、よりみんなのためになる農具や調理器具や建物を作る人が出てきます。食べ物を直接ゲットする狩人や採集者だけではなく、間接的に誰かの役に立ってありがとうや対価をもらう「仕事」というものが生まれ、建物は集まって村や都市を形成し、世界のしくみを利用する輸送船や風車のようなシステムが開発されます。

これら、鋼のサクリアの作り出す「技術」はまた、緑のサクリアの司るシャーマンのような特殊な天才の力とは違い、学べば誰にでも用いることができるように設計されるのも特徴です。開発する人には才能が必要であっても、普遍的に皆に使えるルールとして作られるのです。数式のように。ともすれば非人間的な冷血ロボのようにも思われがちな鋼の力ですが、そこには不器用な人間愛があります。Love...

 

 はじめは「もっと皆を幸せにできるように」と使われだす技術ですが、文明が繫栄すると、人口はあふれ、集落の間の争いがおこり、技術は人を傷つけるためにもジャンジャカ使われるようになります。そして争いに敗れたり争いを避けた人々は、緑の恵み多くない新しい土地を切り拓いてそこに住むようになりますね。敵がいないもんだから。ニッチってやつだ。ここがまた、鋼のアイデアぢからの活かされるところです。

地球全体を見ると、特にがんばらなくても水や魚や木の実が手に入り、凍え死ぬこともないような豊かな土地では「技術」が興隆しない傾向にあります。そもそも農業らしい農業をする必要もないし、でかくてツヤツヤな葉っぱがあればそれを皿にも鍋にもできるので陶器や鍋釜を作る必要はないし、堅牢な建築を作る必要もありません。「必要は発明の母」という言葉もあるように、不便や足りないものが多いからこそ人は創意工夫する、疑問があるからこそ研究をする、そういうあくなきハングリー精神こそが人類を荒野や砂漠や極寒の地や宇宙にまで前進させてきたのです。

上のフィクション作品の中の架空のことわざですが、当方が好きな言葉のひとつに「英雄は荒野からやってくる」というものがあります。何も持たないからこそ、持たざる者の気持ちを知り、すべてを掴もうとする、全力で策を練り力を磨く、イノベーションをおこすのだと。

緑のサクリアの項ですべての才知と善と幸運を持った「授かりの英雄」アルジュナの話をしましたが、そのライバルには母に棄てられ奴隷の身分ながらも気高く人に与え続け最高の戦士へと身を立てた「施しの英雄」カルナがいます。苦境の時こそ試される真価、すべてを失い削ぎ落とされた逆境で、光り輝く鋭い眼光。

生まれつき豊かな人脈も、運命の幸運も、勝手にやってくるハッピーエンドもない、だから自分で自分の納得できる人生を道路工事したるワイ!という意識と人為こそが鋼のサクリアです。だから目覚めた意識と人為をあらわす上位置にメチャクチャふさわしい! 『ファイアーエムブレム風花雪月』の紅花ルートもそういう感じですよね。ヨーロッパの「地水火風」の四属性哲学においては「技術」「人為」は紅花ルートに対応する火の属性にあたります。

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『遙か』シリーズでいえば「地の青龍」「天の白虎」と似た属性です。

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器用さをもたらす鋼の守護聖・ゼフェル

 時代がかったCDジャケット集の中でもひときわカッコいい、90年代の時代のセンスに合致してファッショナブルだゼ。ヒップでグランジでありながらゴージャスな、神鳥の鋼の守護聖ゼフェルです。

全体的に欧風でファンタジー系な神鳥の守護聖の服装の中でも現代的あるいはSF的なモチーフが取り入れられ、作品によってはB系っぽいファッションもあったりで彼の「技術力」「反骨」「少年らしさ」という鋼っぷりがよく表されています。新作『アンミナ』のゼノもそうですが、鋼の守護聖の少年というのはグレーやガンメタルという近代的でアーバンなおしゃれさの色を基調とすることもあって、テクノのエッセンスの入ったファッションで楽しいんですよね。(ゼノの場合、キーカラーの鮮やかなピンクがネオンカラーや合成染料的な発色でまた「鋼」みがあります)

 

 ゼフェルは新作『アンミナ』で急に家族や友達と引き離され守護聖のお役目につかされて苦しむ水の守護聖カナタの話題でもよく引き合いに出されたキャラクターです。彼こそは、急な守護聖交代のてんまつによって傷つき、仕事に対して反抗的な気持ちを持っている守護聖の元祖です(いやもっと元祖はクラヴィスなのか?)。

ゼフェルは機械文明の発達した惑星で技術者になる夢をもち毎日機械いじりをしている普通の16かそこらの少年だったのですが、前任の守護聖のサクリアの急激な減少によってすみやかに聖地に連れてこられ、しかも前任の守護聖がひそかに女王補佐官とイイ仲であったりもしたため不安定になった彼に当たられろくな引継ぎもできずに守護聖になりました。ちなみに、マルセルの場合は前任の守護聖とたいへん円満な関係を築いて理想的な引継ぎができたということです。この運の差もまた「緑と鋼」的ですね。

ただ、カナタとゼフェルの仕事への反抗は意味合いというか心持ちが違います。カナタの場合は「順応に時間をかける」「十分に悲しむ」という水のサクリアの性質が出たものであると考えられますが、ゼフェルは女王試験を経て十分に仕事に対する意識ができてからも相変わらずなにかと反抗的なのです。これは「鋼」の性質じたいが反抗期というか、「世界に疑問をさしはさむ問い」を含んでいるからです。知恵の実を食べろとそそのかすエデンの園の蛇といったところでしょうか。

同じように話しぶりにツンとした棘があるのが先ほど紹介したセイランですが、もちろん二人の司るサクリアは真逆、ここの対比もおもしろいところです。セイランの禅問答のような皮肉が世界の「ほんとう」の芯のエッセンスを搾り出そうとするものだったのに対し、ゼフェルの反骨精神は「本当に世界はそうであるしかないのか?」「他にどうにかやりようがあるんじゃないのか?」という批判的知性の爆薬なのです。

 

存在を創りだす鋼の守護聖・エルンスト

 まーたTwinコレクションで一緒になっていやがる……。

先ほどセイランの項でも話しました通り、このTwinコレクションなるビデオシリーズはあんま好きな層がかぶらなさそうで普通セットにならなそうなキャラを二人一組にバラけさせたおもしろ企画だったのですよね。マルセルとセイランに続き、のちに鋼の守護聖となるエルンストもまたゼフェルとTwinコレクションだったのです。

見てくれよこの違いを。マジで人間性としては共通点がないように見える。ヒップなゼフェルとスクウェアなエルンスト。

 

 エルンストは10歳で主星の王立研究院付属大学的なものを飛び級で最年少卒業したエリート中のエリートで、王立研究院の主任研究員でした。新作『アンミナ』でいうタイラーや「あいつ」と同じような立ち位置ですが、段違いに人間離れした研究オタク。人生全体の中でも人間より研究対象と向き合っている時間のほうが圧倒的に長く、対人関係は四角四面です。登場時プレイヤーによく呼ばれていたあだ名はロボ。栄養補助食品を食べる。今にして思えば、「科学の研究」「四角四面さ」「サプリメントや合成食品」もばっちり鋼の領分ですね。

それでいて、このロボは命令されたことだけをやってるのではなく、飛び級しまくって20代から主星の研究院主任とかやっててプライベートってなにそれおいしいの?という生活を誰に言われるわけでもなく続けているわけですから、そのハートには尋常でない情熱が宿っているのです。宇宙の謎を解き明かしたい! 宇宙が誕生し事物が変化していくさまを観測したい! という、少年のままの純粋無垢な情熱です。『宇宙兄弟』読みたくなってきたな……。

「宇宙」という研究分野は、一見連続性のない、無から有が生まれるような不可思議な現象の宝庫、まさに最上級の「荒野」です。キッチリした四角い服しか着ない銀縁メガネのエルンストは、宇宙という荒野を永遠に冒険し開拓するロマンティックな少年なのです。

 

現実世界での鋼のサクリア

 鋼のサクリアが人間の暮らしている共同体に注がれた場合、その共同体の文明はいま以上の利便性や活動範囲拡大のための工夫をこらすことや、夢の技術を実現させること、新しい仕事の創出を尊ぶ方向に向かっていきます。よって企画事業のイノベーションや最新鋭のトガッたニッチ産業、科学技術の発展などには鋼のサクリアが必要だといえます。共同体や企業をデカく強くするなら光・炎・夢・鋼の「上のサクリア」、堅実で身近なものにするなら闇・水・地・緑の「下のサクリア」といったところ。

鋼のサクリアが不足すると人は批判的知性をなくし、よくない現状でも異を唱えず惰性や同調圧力に負けがちになります。逆に鋼のサクリアばかりが過剰な人が多いと、社会は心の豊かさや幸福感を置いてけぼりにして技術や新しい商品を先鋭化させまくっていくことになり、自然界や人間自体の中の自然の生き物としてのやわらかい部分を無視してしまいます。。

 こうした性質から、鋼のサクリアは人間の役割でいえば「発明家・起業家」「抵抗組織(レジスタンス、カウンターカルチャー)」にあたります。「現状を変える」というのがキーワードになりますから、職業としてはいろんな仕事の人に必要な能力です。逆に言えば「何も勉学や仕事をしていない」状態とは相反するものという感じですね。「常に覚醒している」光のサクリアや「常に高速移動している」炎のサクリアともまた違ったワーカホリック性があります。鋼のサクリアは「常に何かを変える仕事をしている」のです。止まらない歯車のように。

 

 

 

次回は「夢と地のサクリア」をお届けします。

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