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聖セイロスの紋章(女教皇)、ドミニクの紋章(女帝)―FE「無双」風花雪月とアルカナの元型②

本稿では『ファイアーエムブレム風花雪月』および主に『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の中の「聖セイロスの紋章」と「エーデルガルト=フォン=フレスベルグ」、「ドミニクの紋章」と「アネット=ファンティーヌ=ドミニク」と「女教皇」「女帝」のタロットの対応について考察しています。紋章と大アルカナの対応の目次はこちら

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以下、本編および無双の各ルートのエンディングまでのネタバレを含みます。

風花雪月の紋章のタロット読解本、再販してます。

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 この『FE風花雪月とアルカナの元型』シリーズでは、作中に登場する英雄の遺伝表現型「紋章」の描写とタロット大アルカナがひとつひとつ対応して設定されてるみたいだぞ、という話題をずっと書いてきて全紋章の読解を同人誌にしたため上梓しました。

そしてこのたび『「無双」増刊号』として、より高解像度に印刷したおまけタロットカードをセットにしたご愛読者様限定のミニ本を6月発行いたしました。パフパフ~~ 今回の記事はその内容のWeb収録第二弾です。

物理本のお求めはこちらのリンクから。パスワード式の限定品ですので、お手元に『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』の本をご用意ください。

うっかりお手元に本がなくてパスがわからない方は記事の最後にヒント書いたよ

 

 今回の記事内容は「聖セイロスの紋章」と「女教皇」のアルカナ、および「ドミニクの紋章」と「女帝」のアルカナの読解です。

 

前提、「女教皇」と「女帝」

 アドラステア皇家とセイロス教中央教会枢機卿に伝わる「聖セイロスの紋章」はタロット大アルカナの「Ⅱ 女教皇」に、古の十傑ドミニク直系のドミニク家など王国貴族に伝わる「ドミニクの紋章」は「Ⅲ 女帝」に対応しています。

すでに本編から読み取れる各アルカナのモチーフについては単独記事をもうけています。↓このへん↓を前提としたうえの追加で今回はしゃべっているので、よろしければまずこちらをご参照ください。

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すでに当該記事、または拙著『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』を読了されてる方は、ざっくりした「女教皇」「女帝」の性質(各アルカナの意味に特に関連深いところは以下赤字であらわします)だけおさらいして本題へどうぞ。

女教皇と女帝を今回セット記事としたのは、この2つの隣接したアルカナ両方が「母親役割」「社会の中の女性ジェンダー」「母性の女神」の性質をもち、それでいて違う意味だからです。

「女教皇」が理知的・教育的で子供たちを守り導くことにおいてリーダーシップをとるママである一方、「女帝」はあったけえ無償の愛とアンパンマンが自分の顔を食べさせるようながんばりで家庭の生活を守るおっかさんです。

「女教皇」の主な意味

正の意味

少女、変容、女性の生理、感性の鋭さ、聡明、教育、慈悲

負の意味

ヒステリー、不穏、孤独、無理解、スパルタ式、秘密の暴露

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「女帝」の主な意味

正の意味

母親、妊娠、性愛のよろこび、豊かな実り、努力、家族の無償の愛

負の意味

ひがみ、挫折、過保護、スポイル、無駄、周りが見えない

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女教皇 聖セイロスの紋章(ここから本文)

 「神をも焼き尽くす炎」であり「変革と狂気の巫女としての女教皇」であった本編のエーデルガルトの描写に比べて、無双ではエーデルガルトの「子を庇護する母としての女教皇」、セイロスの紋章とセイロスとの約束の冠を戴くアドラステア皇帝の本来的な姿が描かれました。

 制作側の表現意図として、本編はよりセンセーショナルに彼女の血を厭わない覇道ぶりを伝える特徴づけをしたかったはずなので、本編ではエーデルガルトは闇うごとタッグを組んでラスボスの立ち位置にいました。ファイアーエムブレムで伝統的な「赤い敵の帝国」のラスボスヒロインを描きたかったのもあり、本編のエーデルガルトはなかなかの悪行の道を進みました。

本編で「悲劇の過去をもつ敵帝国の覇道の皇帝」というキャラ見せはじゅうぶん成ったため、無双では闇うごと手を切ってまともな人間の手続きによる戦争をプランニングするバージョンを描くことができました。力が足りないことだけは不本意ながら、ある意味「王者として彼女が本来やりたかった方針」は無双のものであることになります。
本編と違う無双のエーデルガルトの方針は以下の通り。

  • 南方教会を再興。中央教会を帝国の管理下にすることを狙う。

セイロス教徒であるフォドラの民たちを新しい秩序で教え導くため。

  • 「帝国は臣従した者を必ず守る」という公約で臣従を勧告。

問答無用の征服ではなく「従うか、敵するか?」と聞いて落ち着いて調略し、味方になった者は手厚く庇護する。

 より保護的になったエーデルガルトママ。アドラステア皇帝は本来フォドラすべての民を守る覆いです。それでも「従うか戦うか白黒つけろという態度は、「女教皇」ならではのパッキリした少女性ですね。

 

女帝 ドミニクの紋章

 アネットとドミニク家の「女帝」は本編よりも悲劇的な側面の解像度が上がったアルカナのひとつです。

 ドミニク家をとりまく状況は、本編では「十傑の直系ながら、当主が紋章をもたず政治勢力的にも弱小の家なので周囲の諸侯の顔色をうかがって身を守る必要がある」ということくらいしかわかりませんでした。無双ではドミニク領ののどかな美しさ、交易の豊かさが判明しただけでなく、赤焔ルートでの敵としての描かれ方が際立ちました。ドミニク家とアネットは「英雄の遺産を持った十傑直系」として、ガタガタの王国西部諸侯の負け戦の士気を上げるために戦わせられるのです。

本編でもアネットが伯父さんに「紋章持ちの騎士の娘なんてボサッとしてたら貴族の男に買われてそれで人生終了だ」と言われて厳しく育てられたというエピソードがあり、拙著の中でそれは「女帝」アルカナのもつ身体やがんばりを搾取される女性ジェンダーの運命を示していると述べました。

赤焔ルートでセイロス教旧来の規範が生む馬鹿馬鹿しい悲劇を強調し、エーデルガルトが壊したいものが心で理解できる戦いとして、「騎士貴族階級に生まれたから、負ける戦いも立派に戦って死ななければならない」「名誉ある家と血に生まれたから、『みんなを元気づけたい』だけの戦いを好まない優しく愛らしい娘さんが命を削る武器を握らされる」アネット戦の位置付けはむごく、みごとな演出です。

 

吟遊詩人シモン

 無双で新たに存在が確認されたアネットのいとこ、ドミニク家の紋章持ちの嫡子であるシモンらしき男が帝国の前哨基地に登場するのも象徴的です。

彼はアネットと同じく歌と平和の謳歌を愛し、騎士として戦って死にたくなんかないという性質です。しかし彼の家柄と血に宿った紋章がそれを許してはくれず、アネットを含む家族にこんな戦争からはみんなで逃げてしまおうと言いたくても絶対断られるので、彼には放蕩息子と呼ばれ家族と永遠に別れるという極端な選択肢しかなかったのです。家族が嫌いなわけじゃないのに。そこにいると自分の人生が吸い尽くされてしまうからです。

シモンくんがただシモンくんとして生きられる場所は王国にはなく、たとえ家族の仇にあたる勢力でも、もはや帝国が秩序を変えてくれるかもしれないと思ってそっちに流れていくしかありません。戦後の日本人がアメリカの勧めてきた日本国憲法に自由で平等な人権のある世の希望を見ていくみたいな、愛するものや自尊心を焼け野原にしながらもトボトボ自分の人生を歩き出すシモンくんだったのですね。幸あれ……。

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そういう話題の『虎に翼』もオープニングからして女帝アルカナ話だから見よう

 

アネットの新曲

 無双ではさらにパワーアップしたアネットの歌も聞けます。「あつあつの身体でお風呂に入ろうの歌」「沼の底から色とりどりの魔獣の歌」「数百匹の熊が輪になって踊る歌」と盛りだくさん。お風呂の歌は本編でフェルディナント・マヌエラ支援にも登場した歌劇の曲、

赤き雨を浴びて、燃える大地越えて 空を割る剣を、呼び戻す天を 
復讐の時、立ち上がれ 復讐の野に、咲き誇れ、血潮の花よ

という歌がうろ覚えで「お風呂に入ってのぼせたら休憩してまた入ろう」とかになってしまったものです。決戦の勇壮な剣舞も「女帝」のセンスにかかれば生活の楽しさのお歌に! 色とりどりの魔獣や熊が湧きまくる歌も自然の無限の生命力の恵み超えて脅威を感じさせ、アネットがディミトリと似た怪獣の地母神の性質を持っていることがあらためてしみいります。

 

次回の「無双」増刊号は「戦車 ダフネルの紋章」「力 ブレーダッドの紋章」を再録予定です。

 

ペルソナシリーズのアルカナの旅路もよろしくね!! この記事シリーズと対応させるためにも次の次に予定しているペルソナ版の「戦車」アルカナも書いていかないと……。

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文庫50ページとタロットカードのセットの書籍版、パスワード限定通販してます。えっ手元に本がないからパスワードがわからない? これから本編の本と同時に注文したい? しょうがないなあ……。ブログにもある「シルヴァンの支援会話の読解の見出し」です。

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