本稿では『ファイアーエムブレム風花雪月』および主に『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の中のヨーロッパ哲学四大元素のモチーフ、タロット小アルカナのシンボルと4つのルートの対応について考察しています。紋章と大アルカナの対応の目次はこちら。
以下、本編および無双の各ルートのエンディングまでのネタバレを含みます。
風花雪月の紋章のタロット読解本、再販してます。
この『FE風花雪月とアルカナの元型』シリーズでは、作中に登場する英雄の遺伝表現型「紋章」の描写とタロット大アルカナがひとつひとつ対応して設定されてるみたいだぞ、という話題をずっと書いてきて全紋章の読解を同人誌にしたため上梓しました。
そしてこのたび『「無双」増刊号』として、より高解像度に印刷したおまけタロットカードをセットにしたご愛読者様限定のミニ本を6月発行いたします。パフパフ~~ 今回の記事はその内容のWeb収録第一弾です。
物理本のお求めはこちらのリンクから。パスワード式の限定品ですので、お手元に『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』の本をご用意ください。
今回の記事内容は紋章に対応した大アルカナではなく、物語の分岐、それぞれの国のテーマに対応した小アルカナや四大元素の読解です。
公式にモチーフにされていると明言がある大アルカナと違い、小アルカナや四大元素もモチーフになってるよ説にははっきりした公式見解はないためこちらはより「※個人の解釈です」みが強いのですが、無双でより補強されたな~ってくらいのかんじです。話半分に読んでね。
前提、小アルカナと四大元素
まず、タロットには「大(メジャー)アルカナ」のほかに「小(マイナー)アルカナ」というものがあり、小アルカナとはトランプのように4つのマークに分かれた数札のことです。今回はそれに関連する話をします。
大まかにいうと「4つのルートのそれぞれのテーマや描写が、小アルカナやそのシンボルをモチーフにしている」という話です。
小アルカナは一枚一枚のカードには大アルカナほど強烈な意味はありません(大アルカナはジョーカーのようなトランプの「切り札」がいっぱいあるものなので)。しかし数になぞらえられた「流れ」、すなわち動機や課題や挫折や達成をふくんだ物語が4テーマぶんあるということなので、いくつかの大きなルートがある風花雪月のようなゲームに合っています。(このほかに、『ペルソナ5』などもこの小アルカナ的テーマ分けをモチーフにしているとみられ、ちょくちょくいろんなとこに頻発します)。
タロットカードはヨーロッパの哲学や思想、人生観のいろいろな側面をシンボル化したものなので、小アルカナが四つに分けているヨーロッパ世界のテーマはヨーロッパ哲学における「四大元素」になぞらえられています。風花雪月はかなり現実のヨーロッパ(や日本)の歴史的テーマをモチーフにしているので扱いやすいカテゴライズですね。
タロットの小アルカナのスート(マーク)、トランプのマーク、ヨーロッパ哲学四大元素の対応はざっくりこんなかんじ。
ワンド(杖、棒)
トランプのクラブ(クローバー)に対応。火の元素。
理想や進歩、情熱を表す。
ソード(剣)
トランプのスペードに対応。風(天空)の元素。
信念や言葉、苦痛を表す。
ペンタクル(金貨)
トランプのダイヤに対応。土の元素。
利害関係や豊穣、安楽を表す。
カップ(聖杯)
トランプのハートに対応。水の元素。
融和や順応、情愛を表す。
ちなみにカップ(聖杯)の水元素はこの記事上だと表現できないけどヨーロッパの伝統色的には「白」「銀」にあたり、なんか……色的にもホラ……そうなわけ
三叉の希望(本文ここから)
前提の確認はここまでにして、ここから『「無双」増刊号』の本編になります。ブログ記事にするにあたって装飾などを加えています。
『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』には、『Fire Emblem Warriors: Three Hopes』という英題がつけられています。「Warriors」は無双シリーズをあらわすワードです。
風花雪月本編の英語サブタイトルが『Three Houses(三つの寮)』であったことと比較すると、「House(寮)」の部分が「Hope(希望)」に変わっているかたちです。無双では学校での寮生活が早々に終わってしまい本編のようにメインコンテンツではないという理由はもちろん、無双が「希望」というテーマをもった作品だということがうかがいしれます。
「希望」というとフワッとしたきれいな言葉ですが、「Hope」はまた、「期待の新人」「将来への望み」のこともあらわします。タロット大アルカナでいうと「星」のアルカナを象徴するような言葉であり、したがって強力な光ではない、頼りなくあやうい小さな光のニュアンスももっています。
本編は「新たなる神たる先生」の物語に生徒たちの物語が色をそえるかたちでしたが、無双は三人の若き君主たちの世を変えんとする夢と、それぞれの国の未来の望みを背負った期待の若者たちの物語です。シェズは神ならぬ単なる小さな希望や野望でしかない若者のひとりとして、その三つの希望のどれかに参加していくことになります。
本編の四大元素
本編でも、おそらく風花雪月四つのルートがタロット小アルカナの四つのスートとヨーロッパ四大元素をモチーフにして個性づけされていましたが、無双ではそれがよりはっきりと描かれていました。詳しくは拙著『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』や当ブログの四大元素に関する記事を参照するとよいかと思いますが、本編の場合、四大元素の性質に沿った四つのルートのテーマは以下のようなものでした。
エーデルガルトと帝国の「火」(紅花の章)
神を倒し、神から自立しより高みを目指そうとする人間の理想の力。
ディミトリと王国の「風(天空)」(蒼月の章)
忍耐強く対話を試み、綺麗事を信じ続ける人間の悲壮と言葉。
クロードと同盟の「土」(翠風の章)
利害によって文化や思想の壁を乗り越える人間の感覚と経済。
眷属と先生の「水」(銀雪の章)
情と命の力によって異質や敵をつなぎ結び合わせる大いなる愛。
こういう図解をしながら風花無双をあらためて読解する実況をYouTubeでやってるからチャンネル登録よろしくね!
特に三つの国のルートでは「獣とは違う人間らしさとは何か」に要点を置いて、それぞれの元素らしい「人間性とは」の答えを描写していました。
先生の「水」の力は、レアら女神の眷属やソティスにもあらわれているとおり、人間の歴史や進歩がどうとか以前のプリミティブな力です。そのプリミティブな世界意思のような水流エネルギーがどれかの国を後押しすることによってその国が勝ったわけです。
特に日本にはこうした「命の流れ」「罪けがれを流す」といった水の龍神の力が無意識に重視される価値観があり、風花雪月の大部分に制作協力したコーエーテクモゲームスの和風文化もの『遙かなる時空の中で』シリーズのモチーフにもなっています。それに四大元素の「水」、風花雪月本編の先生には親子や伴侶との「愛」「結合」のテーマがあり、これは大多数の人にとって無条件に正しいと感じられ、感情を強く動かされるテーマです。
そのため本編は「人間にはいろんないいところ悪いところがあるけれど、先生が後押しした道は正しく進む」という満たされた印象が感情に残るように作られています。
(本編だけではそれがデフォ状態なのでわからなかった、無双から本編を見たときに逆にあきらかになった「本編の特徴」についてはnoteの個人的メンバーシップでつらつら書いたりもしています)
無双の四大元素
しかし、無双の三つの国のルート、三人の君主には「先生の助力」というものがどこにも加わりません(「灰色の悪魔」を味方に引き入れる場合も、彼は単に強力な傭兵にすぎず、力であっても神ではありません)。銀雪ルートのように中央教会が新生するのでもない。フォドラが変革する時期を迎えているにあたって、特に女神の圧倒的水流エネルギーが後押しをしない、人の力だけで試行錯誤をしていく……という、ある意味正しい歴史の動かし方を描いているのが無双であるということです。
本編での級長キャラは主人公である「先生」に選ばれ導かれ奉戴された「新しい神の選んだ王」となりますが、無双での級長キャラは「人間の君主」「フォドラの人間たちの変化が望んだ王」として未熟なリーダーシップをふるいます。
不完全であったり、行き過ぎているところがあったりしても、絶望に横たわるのではなく世に何か新しいことを問おうとする若者たちの試行錯誤によって人の世は進みます。完全に正しい結末が約束されていなくてもよい。他の若者たちが、あるいは次の世代の若者たちがまた別の方向へ行き過ぎれば、振り子のようにジグザグと進んで行くことになるのですから。それが本来人の歴史にきらきらと小さく輝く英雄たち、「将星」……「Hope」というものです。とっちらかったそれぞれの希望の星が、いずれ星座のように結ばれます。
そのため、無双ではより級長たちと各勢力のもつ四大元素のテーマが「未熟な若者の挫折と立ち直り」「新しい世を目指すときのトライ&エラー」にフォーカスされていました。各ルートの章の名前にすべて「焔」「燐」「燎」と火が入っているのも、「先生」とエーデルガルト以外も皆が世を変える「炎」の力になるという意味に見えます。
もっかい貼っとこ
エーデルガルトと帝国の「火」(赤焔の章)
「焔」は燃えあがる火をあらわす。理想の炎は合理的で、強く速くフォドラを染め上げるが、ついてこられない者のほうが多く常にそのフォローに追われて失速しやすかったり、味方にすらよく理解を得られず孤独であったりする。
炎の最先端にいるエーデルガルトの代わりはいない。
ディミトリと王国の「風(天空)」(青燐の章)
「燐」は屍からあがるひとだま、青白い幻のような光をあらわす(「蒼月」と同義といえる)。
過去に根付く大義や王としての責務の苦痛を一人で背負い、個人としての生を簡単に捨ててしまおうとするディミトリ。困難で混乱した情勢を地道に忍耐と理によって片付けなければならない。
クロードと同盟(連邦国)の「土」(黄燎の章)
「燎」は夜を照らすかがりびをあらわす。弱く不明瞭で、それでも安楽と包括性を志向するためにすべてを疑い疲弊する。クロードは強いリーダーになろうとすると失敗し、皆に弱みを見せて協力してもらわなければ立ち行かない。
(特に難しい無双クロードについては独立記事シリーズや読解本、読解実況をやっています)
月の裏側 無双クロードは「何だったのか」〔1〕―FE風花雪月考察覚書⑨ - 湖底より愛とかこめて
そして、無双の人間の力によるフォドラ変革期では「灰色の悪魔」もまた、「主人公=プレイヤー」でなくなったことでただの人間(あるいは本人の人格を明け渡した女神)になり、一人の若者としての彼らしさを際立たせることになりました。
「水」の英雄である彼は特に目的なく災害のような力を振るい、友好的に関わることになった人を思想にかかわらず愛し、特に父親を深く愛するがゆえ、その復讐において人生を捨てて鬼神と化すのです。同じく水元素を象徴するレアと同じように……。
本編でも生徒たちというもうひとつの愛が寄り添ってくれなければ、彼は復讐という愛の深淵に落ちて戻ってこられなかったのかもしれません。
次回の「無双」増刊号は「Ⅱ女教皇 聖セイロスの紋章」と「Ⅲ女帝 ドミニクの紋章」の二本を一記事に収録予定。エーデルガルトママとアネットおっかさ~ん。
「Ⅰ魔術師 聖マクイルの紋章」のモニカやシェズ&ラルヴァタッグの「愚者」性などについては、無双で鳴り物入りの新登場だったのでいったん飛ばして物理本がお手元に届くまでもったいぶります。
ペルソナシリーズのアルカナの旅路もよろしくね!!
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