湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

鷲獅子たちの彩色②―色で読むFE風花雪月

本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』の各勢力およびキャラクターイメージカラー色遣いの意味について読み解いていきます。

以下、テーマ性に関わるまあまあなネタバレを含みます。

 

 

 キャラクターの髪とか服とか、各地域の意匠デザインに使われているイメージカラーが、ヨーロッパ古来からの色彩文化に沿ってデザインされてるよ~という話をドラクエ11でもしていたのですが、『風花雪月』でもかなりそのへんが意識されたデザインでキマっているので、今日はそのあたりの話をサクッとしようかと……とか言って先日書いた記事がすごい文字数になってしまい前半でギブしたものが↓こちら↓!

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前回は導入として、中世ヨーロッパ社会の中で「衣装の色」がたいへん重要な人物像表示機能をもっていたことと、近年の日本の視覚表現の中でも伝統的色の意味が重視されていることを話し、『風花雪月』での具体例の前半戦として「エーデルガルト率いる帝国の赤」「ディミトリ率いる王国の青」について見てとれることを話してきましたよ。

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 というわけで後編の今回は、「クロードとゆかいな同盟の黄色「先生の黒」「女神の緑」オマケでその他の大人たちについても、色の西洋東洋現代社会での伝統的意味や人間共通の感性がもたらす効果について見ていけたらなと思います。

上中下構成になりませんようにマジで。

 

 

同盟―クロードの黄色、そして

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 まず同盟・金鹿の学級に関してはモブ兵士やジュディットくらいしか大きな面積で勢力カラーとしての黄色を身に着けておらず(ラファエルの金色はもとから彼の個人カラーですけど)、学級のみんながマジでてんでバラバラな色個性を主張し合っているという特徴をみなければなりません。これは帝国や王国のキャラたちと比べて明らかに違う点です。2020年5月号のニンテンドードリームでは「金鹿の学級のキャラの髪色にはかなり遊びを入れたよ」という旨を制作陣も語っています。

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この遊びがあっててんでバラバラな個性を主張し合う(のでまとまりに欠ける)というのが同盟という勢力の特徴そのものだとしょっぱなからクロードも言っています。同盟とは混沌のあやういバランスそのものであり、そして同盟をまとめるクロードの色である黄色がヨーロッパで伝統的に表してきた意味がまさに、この悪魔的な混沌、混乱なのです!

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  黄色が悪魔的な混乱の色っていうのは『幸せの黄色いハンカチ』とかの後の文化にいる現代日本人にはわかりにくいことです。しかしヨーロッパでは中世どころかほんの20世紀なかばくらいまでずーっと黄色はめっちゃネガティブな色であり、下のようなタンニン色は染め色としては最も卑しいもので、かといって鮮やかな黄色、クロードが身につけてるようなのは最悪の奇妙キテレツな色として扱われてきました。

黄薔薇の花ことばが「嫉妬」であることはよく知られてますが、黄色自体がネガティブな色なんだからしょうがないんですよね。

Tannin heap

現代でもハッキリした黄色は道路標識のためにも使われ、「危険」や「要警戒」を人間の脳に伝えてくる赤とは違った意味で最も目立つ色です。黄色は、「悪い意味で目立つ」。

ヨーロッパでは長い間、この目立つ色を被差別民族や特殊な社会階級の人々を見分けるための服や腕章の色として、彼らに身に着けることを強いてきました。社会から排除された人たちに、「私はやべえ奴で~す」と常に表示して歩かせたのです。『進撃の巨人』のマーレにおけるエルディア人の腕章みたいにね。

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 クロードがフォドラの中で(そして故郷でも)「異物」「異端」であることは実は服の色でさえ示されていたんですね。そしてこの黄色の「要注意人物」「混乱」という意味はクロードのリーガンの紋章が示す「月」アルカナの意味ズバリでもあります。

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一方で、この「卑しく危険な異端者」の色であるはずの黄色は「金鹿の学級」があらわすように金色とつながりがあり、金色は世界のどこの人類の文明でも尊ばれヨーロッパでも永遠と真実と神性の美をあらわす至高の色として扱われてきました。東洋においては黄色は金色と同一視され、「黄龍」すなわち金色の龍は中華皇帝の象徴で中国や日本では帝にのみ着用をゆるされる「禁色」でした。そして輝くような黄色は現代ではレモンがイメージさせるように明るく活動的で幸せな色でもある……。

なにこの極端な両義性は?

クソ黄色い服をまとったクロードがジャケ絵では天地さかさまの奇妙な構図(なんで一人だけ逆立ちして竹みたいの持ってんの?)で描かれ、金鹿の学級の級長をやっているという絵面は、クロードがもたらす価値観の混乱と転倒、危険をプレイ前から暗示していたわけです。

 

黄の意味―悪魔と黄金

 黄色がこのように「危険」と「至高」みたいな極端な両義性をもっていることには、そもそもヨーロッパの色彩学では「黄色」のこと「金」って言ったりするという事情があります。

どういうことかっていうと。下の紋章を見てください。

これは「赤い縁取り、黒(紺)の地に黄色い三日月2つ」のように見えますが、どう見てもこれ黄色なんですけど、紋章や絵のうえでは「金色」っていう設定になるんですよね。

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クロードと同盟ルートのテーマを表しているとおもわれるヨーロッパ四大元素「土」に対応するタロット小アルカナの「金貨」のカードの彩色をみてもわかるように、タロットとかヨーロッパの象徴的な図像ではまっ黄色がメッチャ黄金の場所に使われてるんですよね。確かにアニメ絵とかでも黄色って金髪の表現に使ってますからね。

でも絶対に「黄色」って言わないんですよ。これは「金色」なの。つまりヨーロッパでは絵柄上同じものに見える「黄色」と「金色」を、意味上・物質上は別物だと区別してるってことなんですね。確かに絵のうえでは黄色い布と金髪を同じ黄色い絵具で表現するしかなくても現実ではちがう色ですからね。こいつは混乱だぜ。ディミトリの「輝く青」が現実の服の色には存在しないのに絵にはそう描いてたのとある意味真逆です。

 

 そんなわけでヨーロッパにおいて黄色はTPOによって蔑まれる危険な悪魔の色と、金色の表現に極端に区別されて使われてきました。黄色がなぜ蔑まれることになったかといえば、やはり目立つ色だからです。ヒトの目と脳に目立って見えることについては赤も同じなのにその意味が最も高貴な色と最も卑しい色に分かれたのは皮肉なことです。まあ黄色ってくすむと赤と違ってきちゃない感じだからな……。伝統的な仏僧の袈裟の黄~オレンジの色も「糞掃衣」といい、もとは「あとはウンコ拭くくらいしか使えないくらい使い古した布を継ぎ合わせた衣」という意味なくらいです。

Ajahn Outhai

ともあれヨーロッパでは赤は王侯貴族の身に着ける色、黄色は被差別民の身に着ける色であると「社会階層化」されてきました。

被差別民っていうのは具体的に言うと、裏切り者ユダの服を塗るのに使われたり(だからシルヴァンの項で述べた「赤毛」と同じようなネガティブ表現です)、キリスト教社会の中でユダヤ人やイスラム教徒など異教徒異端者が目印として着用させられたり、旅芸人、娼婦、子供や若者が身に着けることもありましたがいずれにしろ「狂気」や「悪魔憑き」、秩序ある社会の外にいるものを善き仔羊たちが避けることができるようにしるしをつけていたということです。

クロードの「隔てるフタをこじ開けてブチ壊すぜ」とか「新しい風」「フォドラの夜明けぜよ」みたいなのは現代人である我々には「新しくて自由で善いこと」のようにも思えますが、中世のキリスト教世界においては――フォドラにおいてそうであるように――新しいこと、珍奇なことは安全な秩序を壊す危険極まりない悪魔の所業だったのです。

 そして西洋でも東洋でも黄色の転じた金色が貴ばれているのは、当然黄金の色だからです。黄金はあらゆる古代文明で珍重され、神や王権の宿る金属とされてきました。なんでかっつうと、黄金(化学式Au)は酸化せず、自然から採取した時点から輝いており、加工も容易だからです。鉄とかは非常に有用ですが、加工にはものすごい高温の炎を要し、採掘しただけの鉄鉱石はただの赤黒い石でしかありません。現代で多く利用されている金属はほとんどみんなそうです。自然のままで光り輝く黄金は、人間にとって太陽の光の具現化であり、神が授けてくれた恩寵のように思われたわけです。しかも純金の輝きは永遠でもあります。

よって黄金は現代にいたるまで貨幣だとか交換可能な資産の保存(金の延べ棒とか金相場とかですね)だとかに使われ続けており、光、神、王権、真理、永遠といった神々しい意味のほかに物質的な財産のことも意味します。さっきの小アルカナの金貨のキングのカードなんかそういう方向ですね。「成金」って思い浮かべたとき金のゴツゴツの指輪と金鎖ネックレスつけてない?

クロードは別に成金じゃないですけど物質的で地に足ついた、「理想より命あってのものだねだぜ! えっヒルダなんで死ぬんだおまえ!?(本気でわからない)」という思想をしており、実際どこでも生き残ります。そして同盟は他勢力に比べて「経済」に優れており、まさに金色の勢力です。

 

同盟キャラのカラー

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金鹿の学級においてはことに「個性」が爆裂して強調されていますが、個性=善いことという現代では当たり前のような価値観も、中世ヨーロッパではぜんぜん当たり前ではなく、むしろ悪でした。みんなと同じに教義を守り、群れを作っていれば安全に暮らせますし、逆にみんなと違うことを突然やり出す奴がいたらそいつは狂人として黄色いしるしをつけられたのです。ある意味、カラフルでいろいろすぎる金鹿の学級は「全員が黄印をつけられている」ともいえます。

現代日本もまた、「個性は良いこと」というタテマエを教えらえながら「みんなと同じにできないことは悪」「出る杭は打つ」「空気読め」「忖度しろ」という常識が根強い社会であり、フォドラの中の同盟キャラたちの個性のとりどりさには学ぶところがあるはずです。

クロード

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 フォドラにおける異民族の表現である褐色(イエベ)の肌、黒茶のクセ毛、の目。服はベージュの地にのマント、の入ったサッシュを帯にしています。タイは。装飾は黄金

こいつはね本当さっきから危険人物だ異端者だって言いまくってますがヨーロッパ的に見るとロクでもない意味を暗示してくる要素しかない。申し訳程度に純白のタイをしていることで貴族であることが表示されてますが、そりゃフォドラ貴族秩序風紀委員ことローレンツにも目をつけられますわ。

唯一母方似と思われる緑目はフォドラ的に標準ですが、クソ黄色い服はもちろんのこと、褐色の肌、黒いクセ毛は赤毛に次ぐ悪魔的な髪の特徴とされましたし、差し色の五月の若葉のような緑色も青春の色でありつつ悪魔の誘惑の色とされました。きわめつけは黒とまっ黄色を激突させる根性です。黒とまっ黄色って、我々の生活の中でもよく見ますよね?そう、踏切の色、立ち入り禁止の色ですよ。

ふみきりくん (幼児絵本シリーズ)

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ハチさんの色でもあるこの色合わせはご存知警戒色の最も代表的なものであり、単色ではなく色の組み合わせとしては間違いなく人の世でいちばん目立つ、危険を表示してやまねえ色です。こんなん悪魔でしかないだろ。

しかしクロードは思う存分フォドラをしっちゃかめっちゃかにかき回して悪魔の所業をして、それで長居はするつもりがないのです。彼の故郷であるパルミラ――アジアでは黄色は王者を表す色です。フォドラ貴族秩序風紀委員は頑固な価値観をしっちゃかめっちゃかにされ、あとに残されます。

 

ローレンツ

 フォドラ貴族秩序風紀委員がまとうのは髪と目と鎧の青みの紫、そして金刺繍をほどこした白っぽい薄紫のパンツ、真っ赤な薔薇飾りです。金属装飾は白っぽい金。これはクロードとは真逆にたいへん伝統的な高貴さで保守的な色遣いといえます。

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紫は多義的な色だとベルナデッタの項で述べました。その意味は生まれの高貴さでもあり、うさんくささでもあり、ローレンツの独特の髪形と合わせてどちらもキャラクター性をよく演出しています。さらに青みの紫なのでベルナデッタの紫よりモッサさよりスマートさに寄ります。純白のシャツとタイ、白っぽいパンツやエーデルガルト以外でほとんど唯一目立っている輝く赤の薔薇飾りでどっからどう見ても名門貴族です。白は土に汚れぬ高貴さを、赤は領民に代わって戦い血を流す貴族の精神をあらわす色です。

紫が多義的な色なのは赤と青という正反対の印象の色を混ぜて作られる混色であるせいですが、これによって紫は「すべてを持っている」ことの象徴でもあります。ローレンツが直系子孫としてもつ「グロスタールの紋章」が対応する「隠者」アルカナは「すべてを持って仕上がっており、熟考する老賢人」をあらわす紫と直結したカードです。反面「隠者」と紫色は「すべてを持っている」ゆえに自己満で頑迷なナルシストを表すものでもあります。

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また、ローレンツの白っぽいパンツには紫の横ラインが入っており、ギザギザパターンの金刺繍に縁どられています。この完全に一定で左右対称(シンメトリー)なパターン(模様)を繰り返すことはおごそかで静的な威厳を伝える効果があり、しかもそれがの模様刺繍であることは、フランス王家の百合パターンの紋章などに代表されるような最大級のお上品さです。ここでクロードのアシメで混沌なデザインのサッシュベルトも見てもらいたいところですね……。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/06/Arms_of_the_Kingdom_of_France_%28Ancien%29.svg

 

ラファエル

 明るい金色の髪と目、ベージュマスタード色の布の服と皮鎧をつけています。(あと腕に装着してる盾がお花の紋がついててカワイイ)

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ラファエルはヒヨコのように明るい色の髪と目が個人カラーで、クロードの強い黄色のようにストロングな狂人ぶりを見せつけてはきませんが、こういった「危険人物」ほどではない淡い黄色はヨーロッパの伝統的には子供の色でもありました。子供は「悪魔」ほど積極的に秩序を乱さなくても、まだ秩序や理性を身につけていない存在だからです。盗賊を殴り殺して「初めて本気で戦ったけどよぉ、オデ、わりと強えんじゃねえか?」とホワホワ感慨を述べ、常識に縛られたローレンツやマリアンヌを驚かせるラファエルの天使のピュアさはみものです。

全体の印象を締めるための黒を除けば服装はいたって庶民的、田舎の村で暮らしていたのにふさわしく村人の色です。ローレンツの着ているような真っ白や青白いような布は庶民には維持できずどうしても薄汚れたベージュっぽい色になりますし、染めもくすんだマスタード色やくすんだ薄緑、くすんだ薄青、茶色系などに限定されます。金属鎧は高価なので、アッシュと同じく皮鎧をつけていますね。

布服のマスタード色部分のかたちはよく見るとエプロンみたいなかたちをしておりカワイイ。マスタード色~オレンジ色は食欲を刺激する色の中では庶民にも身に着けられる色であり、これが戦隊モノで古くはイエローが「カレーキャラ」「あんまり格好良くはない」のイメージだったことに通じています。ラファエルの料理人人生を暗示していますね。

 

イグナーツ

 くすんだ薄緑の髪を切りそろえ、瞳は茶色で素朴です。布服は白と黒と若草色で、同系の緑色に染めた鳥の羽飾りをつけています。

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同じ平民の布服の装いでも、財産をすべて手放して士官学校に学び、田舎の村で宿屋のおやじ(という年齢ではないが)をしていたラファエルと違ってイグナーツ坊ちゃんは洗練された芸術家らしいかっこうをしているのが見てとれます。はっきりした白と黒の服を着ていますね。

個人カラーでマントに広い面積で使ってもいるのが若草色ですが、緑色もヨーロッパにおいて悪い意味含むいろんな意味がある色です。イグナーツにおいてはそれは自然世界の美しさ青春をあらわす色として見えます。緑のくわしい意味と理由については女神の眷属の項でも述べたいとおもいます。

また、イグナーツの胸にはもしかしたらデッサン用のペンなんだか知らんけど着色した羽飾りがあり、腰回りの飾り布は濃淡の緑のストライプ(縞)模様です。この「羽のアクセサリー」は魂の飛翔や反骨を示し、「縞模様」というのもハイセンスなアーティスト親の言いつけに反する反秩序のロックンロールだぜ、を表すものです。これについても、もう一人縞模様の人がいるのでまたあとで。

 

リシテア

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 真っ白ふわふわな髪とい瞳、服はベースで青みの紫にわずかにの糸飾りや刺繍などの装飾が随所にほどこされています。

 白がベースである以外はデザインの意味合いの基本はローレンツとほぼ同じです。服の縁は精巧な金刺繍やスカラップレースに飾られ、この「金のパターンの繰り返し」もローレンツと同じく高貴で静かな威厳をかもしだすものです。いい貴族の家のお嬢様以外の何者でもありません。紫色は彼らが共通して持つグロスタールの紋章「隠者」アルカナのカラーでもあります。

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さらに5年後の服のタイツにまで使われる異様なほどの白さは彼女のもとから白い肌や赤い目とあいまって先天性色素欠乏症(アルビノ)を思わせます。実際はリシテアの髪はヤバ実験を受ける前は違う色をしていたらしいのでそうではないのですが、アルビノの人は紫外線などから身を守れずある意味で「身体が弱い」、そしてウサギさんを連想させる色彩と小柄ふわふわなシルエットもちょっとつついたら死んでしまいそうな薄命さとかわいそうかわいさを思わせます。

純白に赤の組み合わせは下々には手の届かない色であるのと同時に、日本の巫女さんの千早など神に近い、人間を離れてみずから発光するような色です。リシテアの「天才児」のイメージにふさわしい人間離れ、浮世離れです。

 

マリアンヌ

 薄青の髪、濃い茶色の瞳。くすんだ薄青のドレスの上に暗い金古美の縁飾りの紺色のオーバードレスとケープを着ています。

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青獅子の学級ですか?というくらい青いです。まあ彼女とディミトリはかなり重要なテーマが似通っていてその縁もあるのですが。

くすんだ薄青なんてしみったれた陰鬱な色は本来貴族のお嬢さんが着るような色ではないのですが、金縁でネイビーのオーバードレスが制服のように行儀良い令嬢のイメージにとどめています。エドマンドおじさんのコーデなのかな?

マリアンヌの服全体、特に学生時代マリアンヌの薄青の髪は「青ざめた色」としての青の効果を示していますね。「輝く青」ではないいわゆる「ペールブルー」というやつには、顔色が悪い、不健康で不活性、静脈血、食欲がない、鎮静、ダウナーの意味があります。マリアンヌは基本自分一人で活動的になるのが困難な人です。フェルディナントやレオニーのカラーと逆であるといえばわかりやすいでしょうか。それがまた、ローレンツには「静謐の美」であると見出されるのですが。

陰鬱のペールブルーだったマリアンヌの髪の色は、5年後に晴れやかな顔をしたときには、たまに明るい空の青のように活動的にも見えるのがうまいとおもいます。

 

ヒルダ

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 薄ピンクの髪と目、服は(黒染めの革色含む)半分、ピンクと赤半分ずつくらいです。ピンクは現代日本ではエロスや女子のキュートさを象徴する色ですが、欧米ではベビーピンク、プルプルポニョポニョの健康的若さをあらわす色として使われます。まあどちらもヒルダちゃんですね。

実はこのヒルダちゃんの服装、クロードに次ぐくらいヤバくて。皆さんも5年後再会したとき「うわっ! ヒルダ、かなりセクシー系に舵きってきたな!」みたい思ったとおもうのですが、ヒルダの服装にはケツ骨出そうなドロテアにもまさるヤバさがあるんです。

それが、さっきイグナーツの項で言いかけた「縞模様」です。

ヒルダの服はパフスリーブ部分がピンクと黒のストライプ状になっているだけでなく、デコルテ周辺の白い肌をツートンに区切るような黒の使い方が目立ちます。こういう二色の縞や市松格子のようなコントラスト模様は「黄色」と並ぶ「逸脱者のしるし」として使われ忌避されました。ピエロが縞模様のパフスリーブや白黒のツートンを身に着けてますよね。あれは狂人のかっこうなのです。だからヒルダのかっこうはヘタすると娼婦であり、いやこんな上等の仕立ての服着てる娼婦はおらんけど、大丈夫か!?とホルスト兄さんをハラハラさせる色遣いなのです。支援Sエンディング絵ヤバいでしょ……。

しかし、縞模様も黄色と同じくやっぱり複雑な意味をもっています。まずヒルダのもつ「ゴネリルの紋章」に対応するアルカナは「運命の輪」ですが、運命の女神は明暗一体となった縞模様の服を着ているといわれます。

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また、縞模様は目立つ構造だから逸脱者のしるしに使われましたが、常に動いて進んでいるようにも見える動的な目立ち方なので、近代以降は価値観の自由や革命ファッション・リーダーの象徴としてもみられるようになりました。「自由人」ヒルダちゃんなのです。

下記事は似たような意味合いで縞のパフスリーブに変身した人の関連記事です。

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レオニー

 オレンジに近い赤茶の髪と目。服はオレンジ系の薄茶で、茶色のなめし皮鎧との金属鎧を複合してつけています。学生時代も黒の腕サポーターが印象的です。

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レオニーの髪はアネットやフェルディナントの明らかに橙色でーす!という色より暗くまだ現実的な茶髪で、同色の目とあわせて彼女が特に何も特別な運命をもって生まれていない地味~~なあたりまえの平民であること、あたりまえの平民がど根性の努力だけでそこに立っていることを印象づけています。紋章なんて持ってなくてもレオニーさんは学級のエースになれる!

5年後傭兵をやっている服装も色自体は平民の質素なものながら、しっかりした皮鎧と部分金属鎧で、彼女が戦いのプロとして命をかけた仕事をこなしてきたことがわかります。金属鎧やスポーツマンの「アンダーウェア」みたいな部分は黒く、こういう黒は無駄のないスポーティーなストイックさをあらわしているでしょう。兵種コスチュームも黒ベースでカッコいいです。

同学級では金属鎧以外ラファエルと似た色合いと意味、マリアンヌと対照的な色合いと意味になっています。つまり、すこぶる健康的です。レオニーもラファエルと同じく戦隊モノでイエローやオレンジに据えられる(花より団子)タイプですね。

 

大人たち―先生の灰色

 先生が傭兵時代に呼ばれていた「灰色の悪魔」という異名は色だけでない強い意味を持っています。

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灰色は現代ファッションや日本のワビサビ、粋(いき)の文化からすると渋くて落ち着いたカッコいい色のイメージですが、「灰色の空」など心情に関わる描写に灰色をもちいた場合を想像してみてください。あんまりよくない、不吉で陰鬱な印象でしょう。

ヨーロッパの伝統的には灰色は「死者」や「死神」、「不毛の荒野」、「不気味」、「無感情」「無機質」、そして灰かぶりシンデレラで表されるように「美を損なうもの」を意味しています。コスタス兄貴が「無表情に剣を振りやがって!」と言っていましたが、生徒たちに出会うまで花ひらくような笑顔を知らず無感情にただ死を運ぶだけの不吉な剣だったことが「灰色の悪魔」という異名だけで表されています。先生の装いは実際どちらかというと灰色というより黒に近いので、異名に「灰色」という言葉を使ってあるのは意図的なことでしょう。モーツァルト暗殺伝説の謎の「灰色の男」などもこの意味で使われています。

 しかし、灰色には黄色と同じようにポジティブに転じた意味もあります。灰色は先生自身のルートである「銀雪」ルートが示す「銀色」「白」そして「水」属性の性質と同じように柔軟性・協調性をあらわし、他のどんな色をも受け入れて馴染むつなぎとなる効果があります。

パケ絵では右にエーデルガルトの赤、左にディミトリの青、上にクロードの黄色が配置され、四分割されたようになった下方には紫~白の空と黒灰色の先生の姿が描かれています。紫はユーザーインターフェースでも第一のキーカラーとして扱われていますから、先生の色は白~黒のグレースケールと紫色とみていいでしょう。

この、先生に白~黒と紫色が当てられているというのはすごく面白くて。なぜなら、かつて先生が「灰色の悪魔」であったという表現に加えて、

 

①白や灰色や銀色はすべてをつなぎ姿を変える「銀雪」の柔軟な水の性質をあらわし、黒と紫も東洋の五行思想では水属性をあらわしている

②グレースケールの無感情無機質さは無垢さをあらわすものでもあり、先生が徐々に感情を表出させていくことに合っている

③黒と紫には「すべてを持っている」の意味があり、白~灰色も「何とでもなじめる」「なんにでもなれる」を意味し、「すべてを司る」はじまりの女神の炎の紋章に合っている

 

とかとかの(相互につながっているけど)複数の意味で合致した描写だからです。

 

灰色の意味―不吉と調和

 なぜ灰色がそんなに不吉と死そのものの意味なのかというと、灰色がすべてを褪せさせる色だからです。前回記事からずっと「くすんだ薄い色」というのは庶民の卑しい色だったと述べてきましたが、庶民の服だって染めたてはもうちょっとマシな発色をしていたのです。それが汚れて洗濯してを繰り返してるうちに、みんな干し草色とかベージュとかっぽく灰色じみていく。

もちろん布だけの問題じゃなくて、すべてのものは古びると色が灰色っぽく褪せていきます。人間の頭髪やひげだってそうですし、枯れた植物の色、腐っていく肉の色もです。すなわち灰色は自然界からして老化と減衰の色なのです。

さらに、明るい晴天の青が人間を活動的にし、鮮やかな夕焼けの赤が人間にドキドキの危機を感じさせるように、灰色は暗い雲の色でもあります。日照のないどんよりとした曇り空は人間を鬱々とさせますし、雨雲や嵐は寒々しくときに命を奪っていきます。「暗雲が立ちこめている」といえば前途がヤバいことの表現です。こういったわけで灰色の小鳥や小人はしばしば死やペストの遣いとして描写されました。

ペスト (新潮文庫)

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 また、灰色は純白や黒といったハッキリした高級感を感じさせる色と違い彩度がない石の色であることが際立つので、味気なく無感情で退屈な印象を与えます。

 

 しかし灰色は白と黒の混色であり、これは同様に先生の色である紫や黒にもあてはまるのですが、すべてとの調和を感じさせる色でもあります。

 

大人たちのカラー(ツィリル入り)

 先生には黒っぽい灰色と挿し色の短剣の青くらいしか色が使われてないので、もういっぱい語ったしスルーします。

 教会関係者の人間キャラのカラーも、鮮やかな色の生徒キャラに比べ全体に灰色がかっていたり黒っぽい色が目立ちます。さきほど灰色や黒は混色であり調和を意味することを述べました。先生の色だけでなく、いわゆる「渋い色」というのはもちろんすべて混色であり、ハンネマンをはじめとする大人たちにはみなこの渋みの混色が使われています。

大人だから落ち着いた重厚な色を着てるんだよというファッション常識的なことでもありますが、これはりっぱな大人が着ていた場合人生経験や人間的な含蓄をあらわす効果もあります。

ハンネマン

 灰色の髪とひげ、緑みの青い瞳。灰がかった彩度低めの茶色の上下服とコートの襟などに、タイは渋めの若草色です。

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ハンネマンの上下に分かれた共布の、体に沿った仕立ての布服、同色のコートは、襟のかたちが違うとはいえ明らかに現代の男性正装であるスーツスタイルのように見えるようデザインされていますね。このように同色のセットアップは上質なきちんと感を演出し、さらにグレースケールか色味おさえめの茶でやるとたいへんフォーマルです。

フェルディナントやローレンツは戦う華やかな貴族の見本のような配色と仕立ての服装でしたが、ハンネマンの配色と仕立ては非戦闘的な貴族、すなわち「紳士(ジェントルマン)」の見本のようだといえるでしょう。王国貴族の戦士ぶりに対して帝国貴族が紳士化していること、帝国の文化がハイソに発展していることが見てとれます。挿し色の渋め若草色は抹茶色のように落ち着いた色合いながらイグナーツの項で述べたように青春の色でもあり、伊達男のオシャレ~さを感じさせます。いやマジでハンネマンカッコいいな……憧れる……。

髪とひげが灰色なのはもともとなのか白髪が混じっているのかは不明ですが、どちらにせよ年齢感を演出しています。しかしオシャレ~に整えられているので衰えてみすぼらしい感じがなく、逆にいわゆる「ロマンスグレー」の上品なカッコよさが出ています。また、灰色の髪とひげ、青い目、白い肌は対に作られているマヌエラと比べると非常に白人らしい色だとわかるようになっています。

 

マヌエラ

 茶髪の生徒たちより彩度が低く明るい茶髪と同色の瞳。濃い灰色がかった深緑のドレスをいチョーカーで吊り、いファー襟のオフショルコートを羽織って、化粧の色味とグッチャグッチャのヒモ類は鮮やかなオレンジ

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落ち着いて締まった濃い色ながら誘惑的な緑色のドレスで、谷間とかふとももとか見えてますが、一番広い面積で印象に残るのは白いコートです。丈も袖も長めで、おそらくこれは彼女が医者であるという白衣のイメージでデザインされています。長い白衣着てると中がどんだけセクシーな格好でもけっこう大丈夫に見えるよね。性癖が加速する人もいるかもしれないけど。

医療従事者の白衣や白っぽいウェアは衛生、清潔をあらわし、けっこうヨゴレ系のセクシーさをもつマヌエラに汚れない気高い美しさを付与しています。これはナースに対するものですが「白衣の天使」という言葉もあり、白はもちろん聖性、神性の色でもあります。マヌエラがガサツでだらしない性格に反して深く清らかな信仰の心を持っていることにも白は似合います。

ハンネマンと比べると、そして登場人物全体の中でもかなりイエベ系の髪と目と肌であり(帝都周辺の平民の生まれなので、イタリア~スペインくらいの人ということでしょう)、オレンジ系の化粧とアクセントカラーが健康的・活動的に似合っています。大人の中ではマヌエラのオレンジは特別に鮮やかで明るく、またネガティブな意味としては「下品」の色でもあり、マヌエラの奔放な落ち着きのなさに合っています。結び方もグチャグチャだしな。

 

ギルベルト

  娘のアネットと同じオレンジ色の髪と青緑の目、髪はいく筋か白髪交じり。全体にスゲー暗灰色っぽい鉄色の鎧、布部分にオレンジ系の茶色も。

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白髪もあるし、ギルベルトは灰色のネガティブイメージ「老化」「減衰」「暗澹」に寄っていますね。まあ暗澹としてる理由についてはかわいそうなことですけど、娘にも「暗い感じのおじさん」的なこと言われてたしもともと明るいタチではないのでしょう。しかし灰色の暗さと地味さは重装と合わさると重厚さや堅実さでもあります。

それに反して髪と目の色が明るくカワイく温かみがあり、このおっさんが単品で出されてきたらなかなかトンチキかわいいデザインだったかもしれません。作中事実としてはそりゃギルベルトの髪色がアネットに遺伝したんですけど、プレイヤー的にはギルベルトのかわいいオレンジ色はいつもアネットの明るさやドジさ、あったかいおっかさん味を思い起こさせます。

 

アロイス

 灰がかった濃いめの茶髪と髭、同じ色の瞳、セイロス騎士団の白銀暗い赤の装飾の鎧。短マントはくすんだ黄色というかまあ庶民的な色です。

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レオニーやマヌエラと同じく平民ですよ~!という地味めな茶色の髪と目と肌色。セイロスの剣であり盾たる白銀の騎士なのですごく白いりっぱな鎧を着ており、体制側のちゃんとした善い人なんだな!と登場時からわかるのですが、マントの庶民的~な色でカッコよくなりすぎないようになっています。これでマントも暗い赤だったらアロイス相当カッコいいぜ。まあそれがカトリーヌなんですけど……。

他に白面積の大きいマヌエラやカトリーヌ、リシテア、レアなどは他に強めの色が入っているので、キャラで最も「全体が白っぽい」のはアロイスということになります。他の色味の少ないザ・白!というのは陽光ピュアさをあらわします。

髪や肌の色が庶民的なため白の「人間離れ」の意味がまったくあたらず、なんだかずんぐりとした体格や童顔とあいまってなんか白くてもこもこのでかい犬(サモエドか?)みたいなかわいらしさのアロイスにおいては、全体の白さは「騎士団の太陽」とあだ名される正直で快活で善人そのものの愛すべき人柄を伝えてきます。

 

カトリーヌ

 褐色というより小麦色の肌に薄い金の髪、明るい青の目。鎧はセイロス騎士団の白銀暗い赤の装飾のもので、マントの内側も暗い赤、服の布部分はじゃっかんベージュです。レオニーと同様に日々の仕事での実用装備なので、布はきらきらしい純白ではなく使用感のあるちょい汚れ色です。野外任務も多いしね。

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ドゥドゥーの薄色の髪とブルベ褐色肌の組み合わせはそういう民族なんやな…て思われるところですが、カトリーヌはかなりみごとな青い目と、荒れ気味とはいえ金髪なので、ファーガスの北方白人が日焼けしたんやな……てなります。これは色の効果というよりも、小麦色の肌・毛先の傷んだような無造作な左右分けの金髪・短眉という組み合わせは1.5昔くらい前ならヤンキーの特徴でしたね。

カトリーヌの青い目はへたするとディミトリよりも鮮やかで明るい青みがあり、3Dモデルでの目力はすごいものです。一見ヤンキーチックな見た目の印象に反する目の鮮やかな青さはファーガス貴族的で、彼女が名門貴族の出なこともなるほどね感があります。

また、こういう攻撃的な熱い人物の目が涼やかな明るい青だと、逆にその心の炎が引き立つというのはけっこう日本のキャラクターデザインでは多用されている組み合わせでもあります。

 

シャミア

 紺みの髪、濃い灰色にも見える赤み紫の瞳。のビスチェ型皮鎧とパンツ、ジャケットやブーツなどは暗い青緑です。

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赤黒のシルヴァンと白緑のイングリットが今作の「赤緑騎士」として対応していると前回述べましたが、大人連中でももう一組「赤緑」っぽく対応しているのがカトリーヌとシャミアです。対称的なのに「相棒」として仲がいい彼女たちが対として演出されていることは「白と黒の砥石」のクエストでもわかります。シルヴァンとイングリットと同様、赤緑かつ白黒なわけです。シルヴァンイングリットとは逆に白赤のカトリーヌ、緑黒のシャミアとなっています。こちらのペアは髪と目と肌の色もオセロ(女芸人ではない)のように逆ですね。

シャミアの緑は青春や誘惑の若緑ではなく、ミリタリーの緑です。灰がかった緑は目立たず汚れにくく迷彩効果もあり、典礼用でない実用軍服によく使われています。シャミアのジャケットはそれより青みが強いですが、色温度が低く草木の影や夜の闇に紛れる隠密狙撃行動に適している色です。

暗い青緑と黒はブルベ系のシャミアの体の色彩にマッチしてカトリーヌと逆に肌の白さが強調されておりたいへんオシャレでもありますが、ダグザ人ってどんな人種なんだ……?

 

ツィリル

 ツィリルは大人じゃないけどしょうがないからここに入れるんだよ。

 イエベ褐色の肌とのクセ毛、明橙色の瞳。第一部では下働きの少年らしいめっちゃ簡素なベージュの服を、第二部ではくすんだ青緑の布服にの部分鎧をつけています。

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サンプルが少ないので確実さはないですが、ツィリルとナデルを見るに典型的パルミラ人の特徴はイエベ褐色の肌・黒のクセ毛・金~明橙色の目なのではないかと推測されます。クロードがあんなエキゾチックなナリできさまパルミラ人だな~!とならなかったのは、野蛮人が紋章持って公爵家の跡取りになっとるわけないやん……という常識カモフラージュもありますが、おそらく母方ゆずりの緑の目の外見のせいもあるんじゃないかなと。

第一部の下働き少年の服は寒々しいほど粗末で、そうそうこういうのが卑しい下働きの色な!という漂白されないモサ色をしています。たぶんこれかなり粗い麻の布かなんかですよね。着心地もよくなさそうですが、本来こういうのが一般的庶民の「むらびとのふく」ってやつですからね。

第二部のくすんだ青緑も、シャミアほど色がハッキリしてないですし卑しい庶民向けの色です。でもシャミアと同系色で部分鎧も黒なので師弟おそろい感がありますし、ニョッキリ育ったツィリルにとって青緑は五行思想の「木」属性、若木がぐんぐん伸びるような「勢いのある戦士」「青年」「急成長」の色でもあります。

 

眷属たち―女神の緑

 女神と半女神である先生、女神の眷属たちの髪と目の色(そして竜化した眷属の血の色)であるもまた、黄色と同じく激しいネガポジ側面のある色です。

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これまでにもたびたび述べてきているように、薄くくすんだ緑はヨーロッパ伝統では庶民的な地位の低い色、鮮やかな若緑も子供や若者のラフなかっこうの色に使われ、ちゃんとした大人が大々的に身に着けるべき色ではありませんでした。緑は黄色ほど危険表示ではないにしろ悪魔的な色とされたのです。

同時に、現代日本人を含むヒトの感性が緑を見て感じるポジティブイメージは「生命」「植物」「有機的」という印象です。だから自然の回復力を励起する「治癒」の魔法エフェクトにもしばしば緑っぽい色が使われていますよね。森林浴のこもれびや自然治癒力が「癒し」のイメージにつながり、『風花雪月』ではリンハルトなど回復キャラに緑色が当てられることも多いです。「成長」「青春」「恋」の色でもあり、物語の美しい妖精のお姫様などが緑のドレスをまとっていることも多いですね。ティンカー・ベルもそうです。

ティンカー・ベル (吹替版)

ティンカー・ベル (吹替版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 

おもしろいのは、緑を「悪魔の色」とした中世ヨーロッパでも、いま緑のポジティブ・イメージとして述べたような印象は感じとられ、用いられていたってことです。しかも黄色のように、ネガティブの黄色とポジティブの金色に分けられているわけでもありません。つまり、緑のポジティブ側面と「悪魔の色」であることは別物ではなく、つながっているということです。

どういうことなのか???

 

さらには、ファイアーエムブレムシリーズの中で緑は特別な意味をもつ色でもあります。

それは、竜の色です。

ゲームボーイアドバンス三部作など例外もありますし、そもそもユニットをわかりやすくするために人間の髪にも緑は使われてるんですが、FEにおけるマムクート(竜族)の代表であるチキちゃんや神竜王ナーガ、竜の大地母神ミラなど「竜」たちの髪には緑色が中心的に使われてきています。これには緑という色の意味との深いつながりがあります。

 

緑の意味―繁茂する自然

 緑がなぜ「生命」「植物」「有機的」「癒し」「青春」「恋」でありながら「悪魔」ということになるのか。その理由はたったひとつです。自然の色だからです。自然の植物が勝手に伸びて青々と茂る色だからです。

これだけだとわけがわかりませんね。なぜなら現代人は「自然」というのはとにかく善いものだと思っているからです。

こういう現代人の観念には実は罠がひそんでいます。人間にとって自然は、ほんとうに「守るべき、ありがたい、心身を癒してくれる善いもの」でしかないのでしょうか?

 

 近年、自然派生活やロハス、スローライフスローフード、自給自足のつつましい生活……などへの関心が高まり、牧場や農林業体験がレジャーとして一定の人気を得ています。美しく力強く、人間のせせこましい尺度で動かない雄大な自然に触れて、「人間らしさ」みたいなものをとりもどし癒されることができるというわけです。確かにそれは真実よい効果です。都市の生活に人間性をそこなわれてる人たちはどんどんやったらいい。

しかし、いわゆる田舎の自治体が推奨する「Iターン(都市部から出身地ではない地方に移住すること)」に乗っかって田舎暮らしに憧れて生活し始めたシティーボーイたちが、美しいばかりでない自然に幻滅して都会に戻ってしまうというようなことが多発しています。自然は人間が「守ってやる」「都合よく利益を引き出せる」「癒してくれる」というような愛玩奴隷などには決してならず、人間に不都合な性質は山ほどあるし(カメムシとか)、感情や論理も通用しないし、人間の想像を超えた災害もホイホイおこす、畏怖すべき大きな大きな怪獣なのです。

都会の人、ものすごい土砂崩れとか河川の決壊の写真見て「いやこれは日本の写真じゃないでしょw」みたいなこと言ったりするよね。このやばい自然は、まだ日本にいるのです。トトロ。昨今のウィルスとの戦いにしても、人間はまだ全然世界をコントロールなんてできてないんです。

 

 人類の文明が発祥するとき、メソポタミアの神話ではギルガメシュ王が森の神である怪獣フンババに戦いを挑んで殺し、その杉の木を伐採して大きな都市と農地をたてました。もともと文明とは自然=森の緑の神を征服することによって発展してきたのです。この人間の技術文明の性質が紅花ルートの「火」属性に描かれており、紅花ルートのラストは「緑の血を流す神の獣を、斧で伐り倒す」というものです。

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現代ではちょっと自然伐り倒しすぎたためヤッベ!という揺り戻しがきていて、「人間も自然の一部なんだってこと思い出そうね!テクノロジーは非人間的!」という方向性がだいじにされていますが、歴史的には長いこと「人間的」であるとは自然を超越することだとされてきました。

特にヨーロッパ全体の価値観に特大の影響を与えてきたキリスト教の考え方では、自然は神が人間に好きにしていいよ~と与えてくれたもの、人間と自然は対立物で人間は自然を有効に支配・利用すべきだとみてきました。それは「人間の中の自然、獣性」とかについても同じで、たとえば「おトイレいきたい」のことを英語では"Nature calls me.(自然が呼んでるぜ)"と言うように生理現象も「自然」ととらえ、幼児はトイレトレーニングをして人間らしくなっていき、性欲や食欲や睡眠欲などなども慎ましくコントロールする理性こそが人間らしさだとされたのです。それは今でも事実ですよね。こういった慎み深い人間らしさはフォドラ貴族秩序風紀委員のローレンツの行動によくあらわされています。

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 つまり「緑」の象徴する自然とは、人間にとって命を与え癒してくれる母でありながら、文明のために征服し略奪する対象であり、ときに動物的で退行的な欲求に誘惑してくる悪魔でもあり、人類を無慈悲にたやすく呑み込める倒すべき恐怖の怪獣でもあるのです。

これは自然神、大地母神のもつ性質そのものであり、キリスト教世界は土着のそういう神を「悪しき竜」であると描写してきました。ワラキア公ヴラド三世が「ドラキュラ」と呼ばれた「ドラコ」とは「竜」と「悪魔」のどちらの意味でもあり、そこにたいした違いはありませんでした。

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ギルガメシュ王が森の精霊にして怪獣フンババを殺し都市を拓いたように、悪竜を殺し異教の村をキリスト教に改宗させた聖ゲオルギウスが農民の守護聖人であるように、われわれ人間の文明は、美しい竜と対立し、心優しい竜を殺し奪って進んでいくものであるという避けられない葛藤を、ファイアーエムブレムシリーズは悲しきマムクートたちの緑を通してずっと描いてきているのです。西洋的な竜とはそういうものです。東洋の「龍」との微妙な意識の違いは上記事を参照してみてください。

 

こういった意味で、女神の眷属たちの緑の髪と瞳は自然のパワーや永遠のサイクル豊かに萌えいづる生命力「人間ではない」世界の偉大さや畏怖、恐怖をあらわしています。アガルタの民が高度に人工的な機械文明を築いていることと真逆の有機的で植物的な力です。

 

女神系キャラのカラー

 そういうわけで女神の眷属たちの髪と目の色の説明はみんな済んじゃってるんですが、緑の中でも色味が少しずつ違ったり、服の色とのコンビネーションもあります。

例えばソティスを基準にすると先生やレア、フレンの髪と目の色は薄く、セテスの色は黒っぽく濃いです。これは年齢感を表示するのに役立っていますね。「ベビーピンク」のことでも述べたように白っぽい赤みはプルプルぽにょぽにょの若さをあらわします。「白きもの」化したレアの血は緑色なので、クリアな白っぽい緑は眷属においてベビーピンクみたいなものです。

少女の体のフレンはもちろん、(セテスの子フレン以外では)眷属の末っ子の甘えんぼさんであるレア、そして黒いコスチュームとあわせて最も白く光るようにクリアな色なのが先生です。先生が「カラをやぶって生まれたばかり」だということを表示しています。これも先生の性質である「夜明け」に通じます。

レア

 薄くクリアな緑の髪と瞳。大司教の服は全身純白のドレスと、金古美のケープマント、冠。セイロスのバトルコスチュームは純白金古美の鎧と鉢金。

濃い紺色も(フレンは黒ですが)女神や眷属のコスチュームに共通した色です。輝く青の彩度をそのままに暗くしたような紺色(メルセデスのショールと同じです)なので聖性や敬虔をあらわし、また紺色は重厚で密度高く締まった印象を与える色でもあり、制服の色でもあります。レアとセテスが体制的・聖なる・善なる・えらい人であることを表示するのに最適な色といえるでしょう。黒や赤でもえらい人っぽいことは示せますが、彼らのように野心ではなく揺るぎない善と信仰の使命によって政治しているえらい人というあんま人間にはいないタイプにはやはり青です。

純白は聖セイロスの紋章に対応する「女教皇」アルカナの「少女」「処女」「巫女」のテーマカラーです。大司教の権威を脱いだレアは純粋無垢でかわいらしく儚く一途な少女であり、また神の声を聴きヒステリックなまでの常軌を逸した無慈悲をおこなう巫女でもあります。

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カワユ…

また、金古美の装飾部分は紺と合わせないとちょっとセピアな黄土色のように見え、白とあわせてセイロスのバトルコスチュームの古代ギリシャローマ感を演出しています。

 

セテス

 濃い緑の髪と髭と瞳、服の色はレアと同じで金古美です。

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緑の髪と目はやはり色がクリアであればあるほど人外感が出ているので、濃くて暗い緑によってセテスはかなり人間に近い落ち着きをもった竜なのだという感がうまれます。セテスはローレンツに近い常識正義風紀、地に足をつけた重厚なキャラクターですから、濃い色が合っています。重厚感と善性・体制をあらわす紺の面積もレアよりずっと広く、セテスの個人カラーは紺だといっていいでしょう。

オーバー袖の内側にのぞく純白のシャツが清廉潔白、浮世離れしたピュアさもチラ見せしてきて、やばいなんか変な気分になってきた

 

フレン

 薄くクリアな緑の髪と瞳。服は金古美です。

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黒のドレスと金古美の組み合わせが、フレンの童女なのにいやに古風という印象を表示しています。黒と金古美は重々しくアンティークな色あわせですし、小学校入学式みたいな感じでお嬢様がお仕着せられる色でもあります。

色だけの話ではないのですが、フレンの服は首を高く覆う白い襟ポフンとした大きなおリボン袖ウエストのない幼稚園服(スモック)っぽい広がりの裾などロリータなお人形さんを思わせるちょっと動きにくそうなかたちをしています。フレンは何百年も寝てることあるので、棺の中で「眠るお人形さん」みたいになっている期間もこういう格好しているのでしょう。

セテスの趣味か?

 

ソティス

 の髪と瞳。金古美の服と冠、のリボンをつけています。

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先生やレアやフレンの緑は明るくてヤバそうな感じもおぼえるものですが、ソティスの緑はセテスのような落ち着きがあり、かつ豊かで健康的なコンブみたいな色です。毛量もめちゃめちゃ豊かであっちゃこっちゃにハネまくっており、ソティスの髪は「繁茂する自然」そのものです。紺色と金古美はやはり聖性と重厚感をあらわしています。

眷属たちと明らかに異なるのは、ソティスが紅白のリボンを均等にまとっていることです。左右の手首にそれぞれ巻き、緑の髪に編みこんで三つ編みにしイタリア国旗みたいな食欲そそる健康的色遣いになっています。マルゲリータピッツァ。服のなんか妙な装飾と合わせて、ヨーロッパ中世とは明らかに違う古代文明の民族衣装だぜ感をまず伝えてきます。

紅白は日本での「紅白戦」とかの用法がそうであるように「対立するふたつのもの」を表す色あわせです。「左右の手」という対立し決して同じにはならない部分に巻いていることから、これは「対立という概念」そのものを表していると考えられます。エーデルガルトの赤とディミトリの青とも似たようなものですし、その他さまざまな対立概念すべてをソティスの両手が表しています。理想と現実、規範と自由、経済とカネで買えないもの、竜と人。あらゆる敵同士と、離れる恋人同士と、理解しきれない友達同士。

その紅白のリボンをソティスは「生命」「自然世界」をあらわす緑の髪に三つ編みに編み込み、すべての対立を織り合わせ繋ぐ力こそが真の女神の力で、先生の炎の紋章の力だと示しています。

 

 

 思ったよりハイカロリーな記事になりましたが、なんとかメインキャラを前後編で終わらせることができました(サブキャラはやらんぞ)。キャラのカラーだけでなく小道具や背景やライティングの演出でも色の意味を利用してる欧米の映画は多いですし(最近では『ジョーカー』や『ミッドサマー』なんかメッチャそうですね)、グラフィックの向上によりそこんとこを気にしてくる日本の作品も今後ますます増えてくるでしょう。

色の視覚効果と伝統的意味をチラッと頭におくことで、これからいろんな作品を見る楽しみ方が増えれば幸いです。

 

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