この間「明日朝早いからよ」つって力尽きた記事をけっこう読んでいただけましたので、
予告通り上記事をふまえまして、中ボスの人のおもしろ服について少しお話ししましょう。
上の記事も「紋章の話の前に軽く書くか~」て言っててああなったので別記事に立てときます。
道化
中ボスの人のおもしろ服は、特にカワイイ切れ込み(スリット)で縞模様になったパフ・スリーブ、ギザギザの大きな襟、垂れ飾りなどから、デザイン的にはシルビアさんと同様にピエロ的な印象を与えます。
先日の記事で述べた通り縞模様/ピエロ的服装は社会からの逸脱や疎外を表す悪魔の烙印であり、かつ革命と独立を表す特殊な構造です。
すこし余談な例ですが、『ペルソナ5』にも似た局面の似た色彩の人間中ボスの人がいて、彼も縞模様であるとのこと(プレイしたんですけど画面が暗かったので聞いて知りました)。彼の場合は少し意味が異なって、『ペルソナ5』が中世ではなく近世~近代フランス的モチーフをとっていることからも「従属」「監禁」を意味する縞模様とみるべきでしょう。
シルビアさんの歓呼のされ方には檻の中のパンダ的な意味合いも入っていると先日述べましたが、縞模様は現在でも踏切とかに使われているように「禁止」や「封印」の記号としてはたらきます。囚人服や水着や下着に縞模様が多用されるように、つまり中心的な意味として、縞模様は「その面の内外を隔離し、片側をもう片側から守る」表示だということです。縞模様があるとき、そこには牢屋の格子、檻があるのです。しかしおとなしく牢に入っていてくれるものではなく、その檻の存在はまた、「勇者」が「悪魔の子」である、という問いのように、縞模様をつけている者と、見ている我々と、いったいどちらが檻の中にいるのかという不安な問いを発生させます。そして多くの場合、不自由で従属的なのは縞を見てはっとした者のほうであり、縞をつけている者は軽快に運命を追いかけるのです。
見る者の視点と考え方に転倒やめまいを起こさせる存在として、ピエロ=道化は古くから機能してきました。またペルソナ5の例になりますが、権力に反逆する主人公のコードネーム「ジョーカー」は当然トランプゲームのワイルド・カード(ペルソナ3~5では『ワイルド』のカードとは主人公の特別な力を表す言葉です)に由来しています。ジョーカーのカードには白黒の縞や市松模様の服を着た「道化」が描かれていますね。道化はサーカスで人を笑わせる職業人である以前に、常識を転覆することができる特殊能力を持ったある種の超人、専門職として王者のそばに仕えるものでした。
道化になるにはマジモンの狂人やそれを演じる者、障碍者たちが珍重され、なぜそういうフツウの社会では敬遠される(縞模様をつけられる)者が王者のそばに仕えて給料をもらっているのかといえば、「滑稽で笑える」という差別的な理由以上に「王者が間違ったことを言ったとき・宮廷の雰囲気が悪化したときに、『おかしい』道化だけが何を言って周りを笑わせても許され、王者は偏った方向を修正することができる」という政治生活的に重大な機能があったからです。つまり「王様は裸だよ」と言う人間が必要だということです。
シルビアが縞模様のピエロであることがすでにドラクエ11のテーマの限界を突破していることを表していると先日の記事で述べましたが、この「王様は裸だよ」がドラクエ11の世界の中で重要な突破口なのだと示す例が他にもあります。ホムラの里のテバ少年です。子供もまた、社会の中で道化と同じ機能をします。テバ少年の母は里の英雄・ヤヤクの秘密を目にしてしまい、ヤヤクによっていけにえに指名され口封じをはかられてしまいます。テバ少年はヤヤクを嘘つきとののしり皆の前で真実を言うのです。その場では「だまれ小僧おまえにサンが救えるか」的な一喝を受けて勝てないのですが、過ぎ去りし時を求めたあとは運命が収束したのか、ヤヤクのほうから主人公たちに悔恨と真実を打ち明けてくれて、事態はハッピーに済みました。道化の活躍によって、王様は「うすうす気づいてヤバいと思ってたけど、わし実は裸なんだわ、だれか服たのむ」と言うことができたのです。
デルカダールでは王様は裸というかモヒカンだったわけですが、悪いモヒカンが取り憑く前のデルカダール王や、英雄として持ち上げられるグレイグに、「王様は裸だよ」と言ってあげられる人間はいたのでしょうか。いたとすれば、そしていつしか言っても無駄だと諦めてしまったとすれば……。
中ボスの人の吹っ切れたおもしろ服は、赤を除けば主人公の服の色彩と同じです。
白ワントーンきれいめ、タッキースタイル
構成色を見ていきましょう。メイン黒、赤の縞、紫のラインです。
グレイグの私服の色遣いと並べ方は(本人がそういうつもりもなく着ているのもあって)普通にださくてやばいやつなのですが、こういう悪趣味感のある多色の組み合わせやビビッドな縞を「あえて」使うのを現代のファッション用語では「タッキー」スタイルといいますね。
魔城のデザインをロウおじいちゃんがクソミソに言ってることからしてああいう色遣いはあの世界的にも悪趣味なもので間違いないらしいよ。
そこに注目するのはまた、彼がもともと「私服は白で統一している」人間だったからでもあります。
もともとの構成色はメイン白!、赤であり、血と命と強さと高貴さと気高さを表す至上の布色・赤は続投しています。彼が騎士として・貴族としての自分と魔としての自分に共通する美を赤には見出していたのがうかがえます。
最も問題になるのが、「純白の軍師」とも呼ばれ私服を白で統一しているまじりけのなさです。白ワントーンきれいめコーデです。確かにデルカダールやダーハルーネで会うホメロスの姿は、見た目は非常に清冽で印象的です。主人公たちを「ドブネズミども」と呼ぶように潔癖さを(お口は汚いが)あらわしており、事実白は汚れを寄せつけぬ貴族的な輝きを強く示す色でもあります。
白ワントーンきれいめコーデからのタッキースタイルへの転換はファッション用語上考えられる限りもっともショッキングなイメチェンのひとつです。しかし、実はこのような転換はごく最近現実のファッショントレンドに起こったことでもあります。それは「ノームコア」からタッキーへのトレンドの移り変わりです。
ノームコアファッションとは「究極の普通」を意味し、アップルの故ジョブズ氏みたいな、いつも白とか黒とかの無地でベーシックな形の服、あるいはジーンズを着てるといったものです。スタイルがいい人、自分自身という素材を見せたい人にはシュッとはまり、機能的で清潔感があり、またアップルの提唱するミニマルで無駄がなく暮らしやすいライフスタイルに合致した服の着方です。
ホメロスのもともとの私服はおそらくノームコアと言うにはきれいめだったと思いますが、シンプルで清潔で無駄がなく、彼の属する社会階層を表示する機能的なものだったことになります。そして「シンプルで無駄がなく何者であるかを表示する機能」をもっていることに関しては、ドラクエ11世界の一般民衆がしているコーデの多くもそれにあたるわけです。もともと、生きていくのに最適化された服というのはノームだということです。
タッキーファッションが流行した背景には、ノームコアへの反動があります。
ノームコアムーブメントは、ライフスタイルの洗練とファッションのシンプル化を巻き起こしました。それにより、ユニクロをはじめとした無地デザインやノンロゴのブランドが大きく売り上げを伸ばした一方で、大きなブランドロゴがアイコンだった「アバクロンビーアンドフィッチ」が経営的に大ダメージを受け、倒産寸前になるなど社会的にも大きな影響も及ぼしました。
しかし、シンプルな服装で個性を表現するには、本人によほどの魅力が無ければ難しいので、結果として誤った解釈である「ファッションについて何も考えない」という人々を生み出しました。
すると、満足できないファッショニスタたちは個性の表現として、色彩の激しい色使いやアニマル柄などの「きわどい」ラインを攻めるようになりました。それが、タッキーファッションの勃興です。
誰かのルールにしばられたくはないの
わがまま ドキドキ このままでいたい
ファッションモ~ンスタ~! ファッションモ~ンスタ~!
このせまいこころの檻も! こわして自由になりたいの!
なあホメロス!
自らが何者で世界に何をしていきたいのかについて、上にいて支配し守る者たちと下にいて無力に守られている者たちの固定と断絶について、考えず満足しているのが当たり前である世界に、
ホメロスはタッキーを突きつけてみせたのです。
↑はイシの村は上とか下とかから自由だよということを読み解いた記事ですが、そういえばエマも相当自由な色のカッコしてますよね。エマのワンピースの色は先日の色の記事の中世ヨーロッパ基本色のどれにも属さない、しかし空と海と世界の美しさの色としてドラクエ11の中でたまに使われています。
真実と愛と道しるべの光
ホメロス(白)の構成色の白・赤のみ、そして長くまっすぐな金髪ですが、全く同じ色彩を我々はメインキャラに見出すことができます。
そう、かのパーフェクトヒューマン、ベロニカ先輩ですよ。
ベロニカ先輩の項で述べた通りバキッとした赤と白という組み合わせは至高の気高さと輝きを表す色であり、加えて長くまっすぐな金髪は真実、あらゆる美徳、永遠性、乙女や青年のきわだった美しさと能力のあることの象徴です。
中ボスの人は主人公一行にベロニカの幻影を見せて恨めしげなアテレコをすることによって動揺をさそうのですが、実はベロニカとホメロスは本当に似たものであり、色以外にも相似な点が多くあります。
双子とみられ、親もなくラムダに下された赤ん坊であった彼女たちに本来「姉」も「妹」もないはずなのに「ベロニカは姉でセーニャは妹」が当たり前であるほどにセーニャはいつも天才ベロニカの後ろをついて歩いていました。突然同じデルカダール王の養い子の境遇になり、故郷や家族が滅びたPTSDに泣くグレイグをなんでもできる神童のホメロスは世話し先を行ってみせたということで、おそらく子供のころはホメロスのほうがベロニカと同じような感じで「兄」のようにしていたのでしょう。
留学を経て長じてからは、知っての通りグレイグは2メートルになり、めきめき強くなり、メチャクチャ期待と人気を寄せられ、その中身がどういう意味かはそれぞれの解釈となりますが、とにかくホメロスはそんなグレイグに握手をスルーされてズーンだったのです。ベロニカにも実は似たことは起こっています。離れ離れになっている間にベロニカが縮んだのです。これは相対的に言えばグレイグ(セーニャ)が伸びたのと同じことです。迎えに来てもうたた寝してて起きないし。しかし、ベロニカはズーンしません。なぜベロニカがズーンしないのかが、ホメロスの道筋を考える一つの要素になるでしょう。
ベロニカがいつもセーニャを導き愛し、その魂を与えたように、今がどうであれ、ホメロスの光の色はグレイグにとって導き愛してくれるもの、魂に与えられた栄養であり、彼の中の真実で黄金なる存在だったのです。
黄金は愛と永遠と真実です。甘い蜂蜜の夢です。だから、中ボスの人スタイルの髪は、黄金でなく褪せていなければならなかったのです。
黄金の鷲
このあたりで中ボスの人の色の話は終わりになりますが、黄金といえばでっかいものがありますね。デルカダール王国のシンボルであり、像にまでなってる(ということは国章や国旗には珍しいことです)黄金の双頭鷲です。
これはロトのマークが「とりさん」であることもあり、ドラクエ11の中で単に敵国のマークとしてだけでない大きめの扱いをされているようにおもいます。もともとこの色の話も各キャラの紋章の話をしようとしての前提話だったので、せっかくピンズの中にもあることですし次の記事でついでにちょっと話そうかなとも思っています。
実際の歴史上の双頭鷲シンボルにも言及することになっちゃうから文字数多くならないように軽~くをこころがけたい
(大抵無理)
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