湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

月の裏側 無双クロードは「何だったのか」〔2〕―FE風花雪月考察覚書⑨

本稿では『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』(以下「無双」とも)におけるキャラクター「クロード=フォン=リーガン」および「黄燎の章」に注目した作中の経緯・『ファイアーエムブレム風花雪月』(以下「本編」とも)との差異の整理と、考察と感慨を展開します。

『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』全体の流れや「黄燎の章」ラストまでのネタバレを含みます。また、本記事は「無双のクロードについて謎なところひっかかったところ等について理解を深めたい人向け」の書き方のため、なんかクロードと制作チームをかばってるっぽい文章になっちゃうので、無双全体および無双のクロードのつくりや描写についてかなり低評価だぜ!許しがたい!とすでに判断をしている方は、数年が経ち……なんか許せそうな気がする……になってから読むようお願いいたします。

 

この記事は「ページ2」です。最初の記事はこちらから。

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長~くなりましたので、記事を三部制くらいに分けます。ページ1の見出しはこんなでした。

揺れる月影

クロード/同盟の表現テーマ

「土」の元素――現実主義と経済

「土」元素が大事にすること
「土」元素のよくない(?)ところ

「月」のリーガン――危険な変化

セイロスの紋章との対比
自由と危険

今回はこの続きのページ2、本編より多く描かれていたり、本編と状況が違うクロードのストーリー背景の整理まで。

 

無双クロードのストーリー背景

 無双クロードには本編クロードと比べて、大まかに言って

  • パルミラの王子であることがより前面に出ている
  • 『先生』がフォドラに現れなかったことによる変化
  • エーデルガルトの戦争シナリオの変化

という3つの変化が影響しているといえます。ひとつひとつ確認していきましょう。

 

パルミラ(草原の遊牧民族)の感覚

 クロードはフォドラの外の国、パルミラの王子として生まれ育ちました。無双にはパルミラ王子として血のつながった兄弟・シャハドが登場し、クロードがフォドラにとってもパルミラにとっても「異物」だけど両方の感覚を持った存在であることが強調されてます。

パルミラではシャハドをはじめとした周囲から「フォドラの臆病者」と排斥され理不尽に無視されることも多かったらしいクロードですが、やはり人生のほとんどを過ごしたのはパルミラ。彼がフォドラ人とは違う視点をもっているのはパルミラ王族の常識感覚をベースに持っているからです。それはどんな感じでフォドラ貴族と違う感覚なのか?

 

中央ユーラシア世界の王者観

 作中の描写とか地理とか、このゲームがファイアーエムブレムシリーズの伝統をオマージュしていることから考えると、パルミラとは「草原の遊牧民族」の国、現実でいうモンゴルなどの中央ユーラシア世界です。フンヌ(フン族、匈奴)やサカ、パルティア、チンギス・カン(テムジン)が統一したモンゴル帝国のような存在だと考えられます。従来のシリーズで草原の遊牧民族が出てくるとき(それこそ「サカ」とか)には現実の歴史どおり馬による騎射を得意とする戦士が多かったのですが、今回はなんか……竜に乗っとる……草食竜なのか……?

まあパルミラ飛竜の生態は置いとくとして、今回シャハドやナデルの出番が増えたことで解像度が上がりまして、やっぱパルミラはモンゴル帝国とかのような遊牧国家っぽいモチーフでよさそうです。もちろんファンタジーでフィクションなので現実の特定の国と同じではないんですが、中央ユーラシアの遊牧国家が風土的にもっている特徴はこんなかんじ。*1

  • オアシス周辺以外は水が少なく大きな植物が育たない土地のため、農耕定住生活をせず羊などの家畜を連れて草地を季節移動する。土地に縛られず自律的に居場所を選べる自由な民を自認する
  • 武力と移動力をもつ遊牧民と、定住するオアシス民はお互いにない特徴を融通しあって取引して暮らす
  • 季節移動や家畜の管理、他部族との戦闘など、部族の命運は部族長の判断ひとつにかかっており、強力なリーダーシップが必要とされる
  • 強力な指導者が現れると部族が連合して大きな国を形成するが、その跡継ぎはすでに部族を率いている王の子らや配下の有力者の中から会議で選ばれるため、しょっちゅう戦乱や国家の離散がおこる

 上の2点なんかは、季節移動をする生活様式以外はクロードが同盟で実現したい社会像ともつながってるんですね。「自由」「交易」です。モンゴル帝国とその発展形である大元帝国では、広大な支配領域に貿易流通は振興させましたが宗教や生活様式を押し付けず、けっこう現地のやり方に任せた統治をおこないました。これまたクロードっぽいですよね。

問題は下2点です。遊牧部族/国家のリーダー観はフォドラとはずいぶん異なっています。大規模な農耕を営めない厳しい自然条件の中で部族が滅びず富んでいくためには、長がやるぞ!って言ったら号令一下、部族のみんなが長の判断を信じていっせいに家をたたんで家畜も連れて大規模な移動や軍事行動をします。

遊牧民は定住民のように家財とか腐らない蓄えとかをもたないので、もし部族長の判断がめちゃくちゃ間違ってたらみんな家畜とともに共倒れしたり、敵に家畜や女性たちを略奪されたりします。そういうことになると困るので、部族長には単純な世襲ではなく「王の器」ある者が選ばれたり、ダメなリーダーは廃されたりします。遊牧部族の長にはフォドラ貴族以上の戦略眼と果断なリーダーシップが必要とされるってことですね。

作中でシャハドは「次なるパルミラの大王にふさわしい軍功を立てる」ためにフォドラの首飾りを落とそうとしました。「大王」という言い方からして、クロードの父王はテムジン(チンギス・カン)のように草原を統一して諸部族をまとめている王の中の王であるようですね。そしてシャハドの性格や態度からして彼は有力部族を後ろ盾とした高貴な母親をもつ大王の長男っぽいのに、それでも次の大王になるため功を急いでいます。これはパルミラ王権の継承が長幼の序や外戚の権勢では決まらない、「王の器」によって決められる現実の遊牧国家と似た方式であることを示しています。(そしてクロード=カリードには「王の器」「天眼」があり、父王にかわいがられている)

シャハドが兵站や配下の士気の低下を視野に入れず、「器」を超えた大軍をうまく動かせなかったことで有力者ナデルにハデに見放されたのはそういうパルミラの常識をあらわすエピソードです。しかもパルミラでは、ナデル配下のパルミラ兵によれば、戦乱の際には「勝者は敗者の財産を早い者勝ちで好きに奪ってヨシ!」という常識もあり、特段それが悪逆非道だというノリでもありません。勝った側も負けた側も取ったり取られたりを当然と思うし、使えねえリーダーは背かれても廃されても当たり前、という同盟以上のあっけらかんとしてスーパードライな風土なのです。

同じ厳しい自然環境を生きる民でも、王国の恩讐や信義を重視する辛気臭いウェットさとは全く雰囲気が違います。そういう軽やかに乾いて醒めた常識感覚から、クロードはフォドラ人一般よりも手段や道筋を選ばず目的に向かうことに躊躇がありません。ヒルダを殺した相手にだって交渉して命乞いをしてのけますし、お互いの利になるなら恫喝同然の取引のもちかけ方をしてもOKだと思っています。「遺恨」ってなにそれおいしいの?

 

「異物」あるいはコウモリ

 シャハド見捨てられエピソードはおおむね「暴君がついに配下に愛想を尽かされたm9(^Д^)プギャー」というスカッ!とする話として入ってきました。しかし、「実力を示す者がリーダー」という方式は、裏を返せばパルミラは血で血を洗う後継者争いが当たり前に起こる戦乱の社会だということをあらわしています。

たまにああやって小競り合いを起こして、武功を立てて強さを誇りたいんだと思う。
そんなことで、死人まで出して…… 馬鹿みたいでしょ?
それで、戦いの後は決まって宴が開かれて、身分も関係なく朝まで大騒ぎするんです。
死んだ仲間を弔う意味もあるんだけど、ただただ騒いで盛り上がって……。(中略)
武功を競ってる暇があったら、親を失って困ってる子の面倒をちゃんと見てほしいし。

――本編「世界を分かつ壁」戦闘後 ツィリル

無双でシャハドがおこしたほどの規模でなくとも、武功を立てるための命知らずな戦いを多くのパルミラ人は「それでこそ戦士だぜ!ウェーイ!」的に尊んでいるところがあるようです。命が軽いと言いましょうか。シャハドも「おまえのような半端者に許されて協力するぐらいなら死んでやるワイ! はよ殺せ!」みたく言っています。

 クロードはパルミラ的価値観をベースに持っていますが、このへんについては賛成できないようです。クロードはパルミラの「ドライで自由な利害関係」「身分関係なく大騒ぎするパリピ宴」は大大大~好きですが、「そんな簡単に戦って死ぬな! 生きて取引してナンボだろ!」という価値観も持っています。

クロードの価値観はフォドラ人やプレイヤーにとっては「異邦人っぽくてドライ、何考えてるのかわからなくて不穏」な感じに見えますが、反面パルミラでも「戦いを避けるフォドラの臆病者が! ケッ! 異物ー!」と言われて差別と偏見にさらされてきたようです。

クロードはシャハドら「兄弟」たちと協力し合いたいのに偏見の目で見られ排斥されて苦しみました。好戦的な豪傑や圧倒的な実力者、他を黙らせた強者しかものを言ってはならないような世界を憎みました。「世の中は強い奴、弱い奴、自分と違う奴、いろんな役割のいろんな奴が生きててこそ楽しいんだろ! クソがー!」と故郷を飛び出しました。しかし母親の縁を頼って忍び込んでみた新天地・フォドラもまた、ガチガチに凝り固まってカビ生えた保守的な慣習に縛られた排外的な場所だったのです。もうだめだ~。

それでクロードは気付いたのです、「俺の夢見る世界に生きるには、どうにかして壁を壊して内と外を混ぜるしかないんだ」と……。

 

『先生』と士官学校時代の不在

 次に、本編と違う無双世界のフォドラ情勢についてです。無双世界の情勢の変化は、起点としては「『先生』が発生しなかったこと」の一点につきます。

これは全体のテーマ的には、無双が本編と違って「『神話』ではない、あくまで人間たちの物語」として描かれていることを意味しています。本編は最終的に先生がただの人間として生まれなおす紅花ルートを含め、先生という「新しい神」と人間たちが紡ぐ「新しい神話」だったわけなので。このへんの全体テーマの読解もまた別記事を作る予定ですが……。

 

『先生』が発生しなかった影響

 『先生』がフォドラに発生しないことになった起点は、シェズと級長たちが「偶然の出会い」をしたことです。時刻(夜中)と場所(ルミール村から少し離れた森の中)からして、シェズは本編で級長たちと灰色の悪魔が出会うよりも先に級長たちに出くわしています。シェズが偶然そのへんで迷って寝てなければ、自動的にもう少し後の「夜明け」ごろに灰色の悪魔と「必然の出会い」をかましていたはずです。

そしてシェズが級長たちと先に出会って、灰色の悪魔が出会わなかったことによる直接の影響は以下のとおり。

  • ソティスが二年後まで起きなかった
  • イエリッツァ先生が担任教師になった
  • いずれかの学級にシェズという強力な戦力が追加

下二点は意味わかるとして上の、無双において「ソティスが二年後まで起きなかった」のはなぜなのかについては今回あんまり関係ないけどテーマ的に重要なんで、また全体テーマ読解の記事で触れますね。そこはとりあえず「士官学校に神の力が降臨しなかったんだな」くらいで置いておいて……

 まず、ポッと出計算外の傭兵が教師にならず皇帝の工作員の一人であるイエリッツァがいずれかの学級の担任教師になったことはエーデルガルトにとってラッキーな追加ボーナスでした。その学級を誘導してやりたいことを達成させることができますからね。しかも、イエリッツァ先生の学級には強力なシェズパワーもあります。こうしてうまいことやったのが、無双世界の初月の課題での闇うご隠れ家殴りモニカ救出です。

赤ルートの序盤をやるとバックステージがよく見えますが、こうしてラッキーにもモニカを救出できる条件がそろったために、エーデルガルトは予定変更して今ぞー!と闇うごとの決別を断行しました。その結果起こったのが帝都から闇を祓う政変と、早々の黒鷲の学級のみんなの学校中退です。

時を同じくして、これはシェズ乱入や『先生』不在とは関係なく普通に本編と違うことが起こっただけですが、王都でリュファスが兵をおこしました。そして帝国も王国もゴタついているドミノ倒しを受けて同盟にはシャハド軍が襲来。三国とも士官学校どころの騒ぎではないことになりました。

 

結果的に士官学校が休校、解散!となったのは本編の第一部終了時点でも同じなのですが、生徒たちが解散した時点でのクロードにとっての本編との情勢の違いは以下のとおり。

  • 世の中を変えられそうな特別な力(『先生』)と知り合っていない
  • エーデルガルト&闇うごが突然戦争をおこしていない
  • たった2~3か月で学校生活終わっちゃった
  • レアが『先生』に後事を託して行方不明になっておらず、ピンピン現役

『先生』がガルグ=マクに現れて力と不思議な魅力を示していた場合、「既存の社会秩序と関係がなく、『天帝の剣』を使う最強の人間」というのは、自分側についてようがついてまいがクロードにとって都合のいい手段もいいとこ、超スーパーラッキーカードです。いわば本編のクロードは「神を信じてない俺に天使が降りてきたんだが?」みたいな感じで非現実的にラッキーだったのですね。

だから無双のフォドラの盤面は、エーデルガルトにちょっとラッキーが起こり、ディミトリに良い悪い両方あるアクシデントが起こり、クロードの手札が普通だった……という感じの、現実的なゲーム運びになったともいえます。つまらなくはあるかもしれませんが、クロードらしさは見やすくなっているのかもです。

 

学校生活が少なかった影響

 「士官学校時代」の時間が少なくなって最も大きな違いがある生徒はクロードだといってもいいかもしれません。

帝国や王国のメンツはもともと君主キャラと面識やそれまでの人間関係がある者が多く、国内のキャラ同士に限れば士官学校が2か月で終わろーが一年弱で終わろーが大まかな関係性や人物理解は変わりませんよね。しかし、同盟のメンツは帝国のようにしょっちゅう宮城で顔を合わせてきたわけでも、王国のように親の代から続く絆や忠義、もしくは熱い友情で結ばれているわけでもありません。

最序盤にクロードが自学級の生徒たちを紹介するときには、ローレンツを「真面目かと思ったら女好きの気取った野郎」ヒルダを「あれほど怠惰って言葉が似合う奴もいない」と浅く評します。その「知らんけど感」にも如実に表れているように、クロードは士官学校での一年を通して同級生たちへの理解を深め、級長の中で最も大きく級友たちへの評価を変えていきます。

しかも入学したばかりのクロードはフォドラに来て日が浅いフォドラ一年生で、フォドラの感覚に対する理解はペトラやドゥドゥーどころかツィリルにも劣ります。だからこそ、「士官学校行って、フォドラのことや歴史の謎をいろいろ学んで、できれば人脈カードも作って、壁の壊し方をどうにかこうにか考えて……」と思ってたっつーのに、帝国と王国がゴタゴタしたおかげでその計画がドミノで倒れてオール台無しだよ。まあやれることをやれるようにやっていくしかないな……。

これが、二年後序盤の無双クロードになんか元気と余裕がなかったことの理由のひとつでもあります。無双クロードは『先生』という神話的ラッキーカードを得られなかったのはいいとしても、得られるはずだった「フォドラの生活感や価値観を同級生たちの中で少しずつ学んでいく楽しい日々」「よく知らん奴らと少しずつ正体を明かし合ってできる強い絆」を得られなかったのです。やば、かわいそうでちょっと辛くなってきた。

当然、パルミラ出身の孤児ツィリルと関わるヒマもなく、本編でツィリルを見てクロードが得た「父さん(パルミラ王)や俺の考えてたような大雑把なものの見方じゃ、困る奴もいるんだよな……」という気付きをゲットする機会も逃してしまったでしょう。

士官学校生活が短く切り上げられたことで、無双2年後クロードには本編5年後クロードに比べて

  • フォドラの人々の感覚に対する体感的な理解度、肌なじみがまだ低い
  • 価値観や心を豊かにする機会が減り、心の余裕や選択肢減少
  • 級友たちは「他の人間に比べればだいぶ信頼できるが、そこまで関係性を構築できていない」程度

という違いが出てきています。そりゃ元気ないし焦りもするわ。

無双クロードは「功を焦ったシャハドを撃退した武功」をゲットし、シャハドが武功を得てパルミラの大王に認められようとしていたみたいにはからずも「あの若者は力がある、我々同盟の利益を守る盟主としてアリアリ」と認められることになりました。しかし、地盤こそ雨降って地固まっても、立派な盟主様クロードの中身はまだまだフォドラについてよく知らなくて友達もいなくて不安でいっぱいだったのです。

おい無双、士官学校生になったら友達百人できるかなと思ってたクロードくんがかわいそうだろ(百人で食べたいな喉元の上で乾酪を)

 

エーデルガルトの戦争シナリオの変化

 イエリッツァ先生の担任化とシェズの戦力というエーデルガルトにとってのプチラッキー、そして『先生』がフォドラに発生しなかったことのさらなる余波は、実は案外クロードと同盟に対してけっこうな逆風としてはたらいていました。整理してみましょう。

帝国と闇うごの決別による変化

 本編に描かれた、闇うごをバックとしたエーデルガルトの本来の戦争計画は、「士官学校在学中に秘密裏に工作してエーギル公排除とガルグ=マク急襲の準備を進める」というもの。本編のエーデルガルトは闇うごパワーを背景に一気呵成に中央教会をプチッ!!し、1179年の終わりにフォドラは戦乱の渦に叩き込まれることになりました。

それに対して無双世界ではエーデルガルトが闇うごと早々に決別。1179年時点での瞬間的戦力は大~~幅に低下し、一気にプチッ!!は不可能になりました。代わりに二年間人間の力のみによる戦争のリソースを整えたり、女神信仰を憎む闇うごと一体化していたらできない「中央教会にも伺いを立てて南方教会の再興をする」という作戦を実行して宗教組織による大義名分や民生の安定もカバーしたりと、着実に計画の穴をふさいできました。

しかるのちに、中央教会への宣戦布告。全フォドラの諸侯へ檄文を飛ばし、「帝国は臣従した者を必ず守る」と表明しました。

この宣戦布告は、エーデルガルトは本編でも似たようなことを言っているので同じに見えますが、文脈上の意味はけっこう違ってきます。ひらたく言えば

邪魔な者は何者であろうと問答無用で踏みつぶすから覚悟することね(本編)」から

「私たちに同意するか、しないか選んで。死んでも同意できないと言うなら踏みつぶすまでだけれど、それはあなたの選択よ(無双)」に変わったような感じです。

この変化はクロードにとってどう影響するでしょうか?

 

 問答無用で弱い者ごと踏みつぶしには来なくなった、脅し方が猶予のあるマイルドなものになった、と考えれば「良いこと」みたいに思えます。ディミトリにとっては間違いなく良い変化であり、「すごく急に戦争を始め、非戦闘民の避難もろくにできていないガルグ=マクを襲った」本編のエーデルガルトの罪状と比べればはるかに政治のルールにのっとった方法だと感じられているはずです。(ディミトリのエーデルガルトへの態度が本編とだいぶ違うのは、彼女がダスカーの悲劇と関係がなかったことがわかっただけでなくこういうところも大きいです)しかし、実はこのマイルドさや大義みが、かえってクロードにはキツく影響しているところもあります。

本編のエーデルガルトのやり口は「圧倒的武力でフォドラ全土を征服しようとしている」ことが諸侯の目にも明らかでしたから、無双よりも諸侯らの心理的抵抗感というか、「武力で帝国の支配を受けるのか、嫌だね~」ノリが強かったはずです。結局臣従せざるを得ないにしろ、抵抗するにしろ、「帝国は敵」「同盟はがけっぷち」というノリが共有できていればこそ、クロードは開き直って同盟を見せかけ上新帝国派と反帝国派に分けて戦っとるごっこを指揮したり姑息な策でしぶとくかわせたのです。そんな芸当ができるのはクロードしかいなかったし、諸侯もゴチャゴチャ言っとる場合ではないので、結果的に好きにやれました。ページ1でお話ししたようなクロードの「月」アルカナ的性質にも、「大破壊が起こった真っ暗闇」の中だからこそ開き直って活路を見出していけるゲリラ戦適性があります。

しかし無双のエーデルガルトの戦運びはそこまで突然の大大大破壊ではなく、なるべく帝国との付き合いで有利をとりたいクロードも同盟諸侯も開き直れず、かえって利害や保身に右往左往する余裕が生まれてしまって長~~~い話し合いを余儀なくされました。

そりゃ元気ばっかりすり減るし、も~パルミラ流に俺が全部決めて責任を負ってみんなを守らなきゃだろ~~ッ!?!?と焦るわけです。

 

大司教レアの動静の変化

 そしておそらくクロードにとって最も良くない無双の情勢とは、「大司教レアと中央教会の権威がバリバリ現役」であるということです。ここが、かなり、重要です。

本編で『先生』がフォドラに現れたことには、「新しい神話を作るチート英雄」であるだけでない、全体のテーマ的に重要な役割もありました。特異なシナリオの紅花ルート以外では、『先生』が新しい時代の神として目覚めつつあることで、レアは安心して自分の役目を終え託すことができたのです。「子供たちを……皆を、頼みましたよ」、つまり、フォドラの小さく愚かで愛おしい人間たちをあなたが導いてほしい、と。

さらに本編では、エーデルガルトの戦運びの影にあった闇うごには、「『フレンの血』『教団秘蔵の紋章石』『実験体となる生徒』などなどを手に入れ、戦争までにエーデルガルトの最強武器や『白きもの』を抑え込めるだけの人工魔獣を開発する」という思惑がありました。

わりとエーデルガルトの意に反してされていた闇うごの非人道実験ですが、結果的に闇うごの人工魔獣技術がレアを抑え込む力になったのは確かです。先生に後事を託して特攻したレアは人工魔獣と人間の多勢の力によって闇うごに捕らえられ、ガルグ=マクは陥落、中央教会の秩序はほとんど崩壊し、先生が目覚めるまで混沌のうちに五年が経過しました。

 

 どうでしょう? 

  • 強大で厳しい母であるレアが若い力に後事を託し消えた
  • 中央教会の絶対的権威が失墜しゴチャゴチャな世となった

これら2つの本編のファクターは、はからずもクロードの望みが叶いかけているといえませんか? 中央教会が隠し事だらけなことと、戦争が続いていることさえなんとかできればクロードのアガリですよこんなん。

つまり、「無双のクロードが元気ない」というのはむしろ逆で、本編の状況がクロードにとってスーパーラッキーに転んでいたのですごい元気だったといったほうがいいのです。このラッキーがあったから、偶然ツィリルとも対立しないで済んだし。

本編翠風ルートのクロードは中央教会の軍と協調し、銀雪ルートとほぼ同じで続けてやるとつまらないくらいの戦運びをしてレアを救出しましたが、言っちゃえば、お互いに利用し合えるものを利用して目的を達しただけです。そして今まで見てきたように、そういう利用し合いはクロードにとって善意です。弱ってすっかり先生に後をゆずるつもりのレアを救出しても害はなく、世界の謎も聞き出せて、先生が作る新しいフォドラの秩序に対しても官軍側で恩を売れるし顔もつなげる、クロードの利害にとってもいいことずくめだったのです!

 

 一方、無双世界の2年間はカビ生えた秩序の象徴様がバリバリ君臨してたのでクロードくんは元気しおしお(太陽に弱いコンスタンツェか?)(ある意味クロードも「夜の住人」なのでそう)、「どうやったら中央教会の絶対的な法にご退場願えるもんかねえ~、それとも別の方法があるか……?」と頭を回転させつつ来るかもわからない機を伺っていました。

それがこの問題発言に。言い方! 言い方!

言い方や見栄えにだいぶ差はできましたが、クロードは本編でも無双でも「変えられる手段がそこにあったから腹をくくって動いた」だけなことは同じだったわけです。

 

 

 無双のどういう状況が、どういう理由で、どんなやり方の変化を生んだのかを整理したところで、次(最後かな?)はいよいよ具体的な「なにそれ!?」描写に逐一読解やツッコミを加えていきます。

以降の見出しは

無双クロード/同盟キャラの言動の意味

(中見出しでそれぞれのツッコミどころを個別に読み解き)

 

ですね。

この男、機に臨みては応変する変幻自在の思惑に注意。

次回、月の裏側 無双クロードは「何だったのか」〔3〕へ続きます。

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↓ブクマしといて気長に続き待っててもらえるとうれしいです

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まあここらへんでも読んで待っててくださいよ

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