本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』(FE3H)の黒鷲の学級(アドラークラッセ)の生徒キャラクターたちの名前の意味・由来について考察します。
風花雪月のジェンダー考察、ごはん考察、紋章タロット対応考察などいつも読んでくださってありがとうございます。
現在、銀雪→同盟→帝国ときて最後に王国ルートをプレイしはじめたところです。本来ならFEっぽいストーリーのドラマティックさを味わっておくには最初にやっておくべきルートともいえる青獅子ルートですが、最後にやるとテーマ性の描写がしみいることひとしおです(まだ6月なのにいうとるわ)
というわけで銀雪と帝国ルートクリア、すなわち黒鷲の学級をクリアした記念にまた黒鷲の子らの名前の意味や由来について簡単にまとめたいとおもいます。ざっくりと考察と言いましたが特に考えて察するとかではなく今回はけっこう淡々と書いていくのでほんとにおつまみ程度にどうぞ。
『風花雪月』は他のFEに比べてもとにかく名前の実在感が強く、十傑の名前や神話からとられている姓を除けば、帝国はドイツ風などネームルールもかなりヨーロッパ的な現実に寄せてはっきりしていますね。だからこれからするのは作品の中での意図の話というより、現実のその名前がどういう由来・意味なのかを挙げていくような話です。
当然、日本のキャラ重視ゲームなんだから「現実のその名前がヨーロッパ世界でどういうものか」なんてことよりキャラに合わせた響きを大事にしているだろうことはわかるので、そういうのもあるんだ~って感じでかるーい読み物として楽しんでいただければ。
あたりを参考文献にしています。
以下、この記事は金鹿の学級のまあまあネタバレを含みます。
エーデルガルト
エーデルガルト(Edelgard)はドイツ語で用いられる名前で、同じようなつづりで北欧だとエーデルガルドとかエデルガルデとかになります。フェルディナントとかもそうですが帝国風のドイツ発音になると簡単に言えば最後のド(d)はト(t)、グ(g)はク(k)と濁らずに読みます。だから彼女のもつ皇家の姓「フレスベルグ」というのは帝国風の名付けの関係ないたんにこっちの世界の固有名詞です。貴族の家名(領地名)はとにかく神話や物語から特に深い意味なく引用されてるかんじですね。
なんで上の謎のアマゾンリンクを貼ったかっていうとエーデルガルトの名前の概形はハイジ、つまり本名「アーデルハイト(ド)」と似たかたちだからです。
ハイジの洗礼名アーデルハイトは「アーデル」部分と「ハイト」部分に分けることができ、金鹿の「マリア」+「アンヌ」のマリアンヌと同じ高貴な雰囲気の複合名となります。ハイジの場合、「アーデル」は「高貴、気高さ」、「ハイト」は「位階」という意味ですから、「貴族たる高貴な魂なのだよ!」みたいな意味になってますね。
この「アーデル」はお察しのとおり「エーデル」と同じもので、エーデルガルトは「エーデル」部分と「ガルト」部分に分けられる複合名です。アーデル、エーデルは古ドイツ語のAdalを由来とするものでこの「高貴、気高さ」の語はほんといろんな言語のいろんな名前になってます。単独でアデルとか、アデレードとか、アデライドとかですし、アルバートとかのアルももとはこのAdalです。「ガルト」は「ガード(gard)」であり「守り、守護者」を意味するわけです。
だからエーデルガルトは「気高さを守る者」、「高貴なる護り」といったところでしょうか。
ヒューベルト
ヒューベルト(Hubert)も当然ドイツ語読みで、英語読みとなるとヒューバートさんとなります。
語源は古ドイツ語のHugubert、これも複合名ってほどでもないですが「ヒュー」と「ベルト」に分けられます。
「ヒュー」部分、huguという語源、これはFE的にはヒュウ(当方、めっちゃ好き!!!!)とかユーグの名に対応し、姓でもヴィクトル・ユーゴーとかにみられます。
北欧の大神オーディンのペットちゃんである二羽のワタリガラス(最近ではFGOの北欧異聞帯に飛んでいましたね)は片方がフギン(Hugin)、もう片方がムニンといい、フギンは思考や心、ムニンは認識や識別の力を司ります。これはオーディンの父性的な論理・理性神としての性質を示しています。つまりHugiっていうのは「頭いい、よく考えてる」をあらわす言葉です。エドガー・アラン・ポーの『大鴉』の詩に出てくるワタリガラスもプルート(冥界の神ハデス)の使いであると描写されたり、このフギンとムニンを暗示しているともいわれます。
そして「ベルト(bert)」部分、これはさっき出てきたアルバートさんとかいろんなバートさんベルトさんがいますが、この部分があらわすのは「輝かしい」。合わせるとヒューベルトは「輝く知性」「思考の光」となり、これはマジ合ってんな。
フェルディナント
フェルディナント(Ferdinand)は、みなさん「『王都フェルディア』となんか似とるな……」と考えたことないですか? 当方は思ったし、語源的にもキッチリ関係があります。だからこれは王国に関係する項です。
フェルディナントはやはりドイツ語読みで、フランス語にファーディナンド、イタリア語にフェルディナンド、スペイン語系でフェルナンド。サン・フェルナンドといえばレコンキスタに成功し列聖されたカスティーリャ王フェルナンド三世であり、その高名な聖人名はいろんな地名にも使われ、堂々たるイメージの名前です。「フェルディ(ferdi)」部分と「ナント(nand)」部分に分けると古ドイツ語・ゲルマン語で「旅」と、なんか「出過ぎだぞ自重せよ」みたいな……かんじになります。
王国との関係ですが、ゲルマン語由来でキリスト教世界の語であるフェルディナントとフェルディアは実はどちらもケルト由来の「ファーガス」という言葉自体と同一視され、なんとそのファーガスの語源というのはFEでいうフェルグス、つまりケルト・アルスター神話の英雄フェルグス・マック・ロイです。
やはりFGOをやってる人には通じやすいのですが、フェルグスはスコットランド王家の祖たるアルスターの英雄王にして虹の剣の使い手、豪快無双の勇士、男の中の男!という人物です。その名Fergusはfer部分が「男」、gus部分が「力」を意味し、これだけでももうわかったわい名は体をあらわすという感じなのに、さらにこの「男」というのは生殖力としての男を表し、つまり「精力絶倫です!!」の意味なのです。わかった、わかったから。
ファーガスが「強い男の国」だっていうのもなんか同時にわかってしまった。
リンハルト
リンハルト(Linhardt)は、名前として見るとなんか珍しいって気がしますね。ラインハルトではなく!?ってなる(FEにもういるけど)。おまえはラインハルトではなくヤン・ウェンリーだろリンハルト。二つを混ぜたのか?
姓ならリンハートっていう英語姓は見たことあるのですが。
ともあれリンハルトの名もとりあえず前後に分けることができるタイプの名前です。「リン」部分と「ハルト」部分でしょう。ハルト部分はラインハルトとかと同じ「hard(堅い、つよい)」あるいは「harti(心、つよい)」を語源とします。つよい。
問題はリン(Lin)のほうで、なんでしょうこれ。レオンハルトやラインハルトの音をキャラにあわせてカワイく変化させたものであるセンが濃厚ですが、意味としてムリを通すとスコットランド英語の「lin(やめとく)」をくっつけたい気がしますね。
やめとくの心、かたくつよい。
カスパル
カスパル(Caspar)は濁ってガスパール、つまりアッシュのお義父さんの領地である町と同じ名前です。リサとガスパールとかのガスパールでもあります。かわいいね。
語源的には、イエスが生まれたときに救い主が生まれたと知ってやってきて贈物をした東方の三賢者のひとりの名前です。すまんこれ以上何も言えることがねえ。
ただこの名前、ジャスパー(Jasper)と同じ名前であり、それはドラクエ11のホメロスの英語名でもあります。デルカダールの人間はみんな宝石の名前をしていてジャスパーは碧玉のこととはいえ、性格の違いがおもしろすぎる、でもカスパルはグレイグのほうに似ているかというとそんなことはなかったぜ。なぜならカスパルは竹を割ったようないい男なので。
ベルナデッタ
ベルナデッタ(Bernadetta)は、デッタ、というところからイタリア語読みの女性名で、男性名でいうとバーナードです。ドイツ語のベルンハルト、フランス語のベルナール、イタリア語やスペイン語のベルナルドに対応します。
聖人ベルナルドゥス、セント・バーナード犬のイメージや『ベルばら』のジャーナリスト・ベルナール、同じくジャーナリストである『ネオアンジェリーク』のベルナール兄さんなどからなんか頭と行儀がよさげなうつくしい響きですが、デンマーク語読みの「ベアンハート」となると意味が露骨に顔を出します。「ベアン」部分は「熊」、「ハート」部分は「かたくてつよい」です。
『TIGER & BUNNY』のバニーちゃんこと「バーナビー」という名前とかもたぶんそうですが、「Bern」部分を頭にもつ名前はこの「くまさんつよい」の意味が入っており、そしてこの「くまさんつよい」に対するヨーロッパの意識は「ベルセルク」つまりバーサーカーという言葉にあらわれています。ベルセルクの原型ベーオウルフのベーオ部分もくまさんをあらわし、北欧神話では熊は獅子的な百獣の王、高貴で強い動物と敬われました。
だから実はベルナデッタの名づけはあのレオニーさんと似たような由来、しかもバーサーカーつきだったのです。
ドロテア
ドロテア(Dorothea)はドイツ語あるいはイタリア語スペイン語の女性名で、英語のドロシー、フランス語のドロテに対応します。
実はマリアンヌの友達の馬・ドルテもこれと同じ名前で、FE作品では『封印の剣』のドロシーと同じ名前です。すごい。歌姫・馬・不美人。
男性名では「ドロ」部分と「テア」部分を入れ替えた「テオドロス」(テオドーア、セオドアなど)がよく使われていますね。「ドロ」部分はギリシャ語の「doron」、「贈物」をあらわし、「テア」部分は同じくギリシャ語の「theos」、「神」をあらわします。「神の贈り物」。『封印』のドロシーが不美人であることや、ドロテアが紋章をもたず父親に棄てられたこと、それでも母はドロテアを神からの授かりものだと思ったかもしれないこと、などを考えると、なんともいえない気持ちになります。
この「神から何かを授かる」という言葉はまた、「祝い」や「祭」「神殿」「巫女」とかと似通った感覚のものであり、「神託を賜る」のような意味も帯びます。『サクラ大戦』シリーズがそうであるように歌姫とは巫女的な性質をもつものです。
余談
アドラステア帝国は『ドラゴンクエスト11』のデルカダール王国と同じように、現実の世界でいう「古代ローマ帝国」と「神聖ローマ帝国」が地続きになった存在っぽく、それが鷲の国章にもあらわれています。
で、この双頭鷲の国章、神聖ローマ帝国、現在のドイツに通じる重要な部位のひとつである「プロイセン」には「聖女ドロテア」信仰がありました。
聖女ドロテアは殉教聖人なのですが、処刑されるときに若者に「なぁばあさん、あんたの信じる楽園に行ったら、そこの果物でも俺に贈ってくれよな、ハハハ」とか揶揄われ、彼女が祈ると天使が現れ、そいつにリンゴと薔薇の花を与えた…という逸話をもちます。この聖ドロテアはやがてプロイセンの守護聖女としてあがめられるようになり、そういうわけでドイツ的な地方では非常にポピュラーな名前となりました。
ポピュラーなもんでフィクションにもよく登場し、イギリスやアメリカでは庶民的な名前として『オズの魔法使い』とかにも出ていますね。「ドロテア」の名前が出てくるフィクションの中でも注目したいのがゲーテの恋愛もの『ヘルマンとドロテーア』です。何が言いたいかわかりますね。このお話、けっこう「彼ら」っぽいので、よかったらあらすじとか調べてみてください。
ペトラ
ペトラ(Petora)はドゥドゥーと同じく異民族の名前なのでヨーロッパ語源的に見てもしゃあない全然別の体系のブリギット語なのかもしれませんが、ペトラという名前自体はヨーロッパ名前にもあります。
それはローマ・カトリック教会首座聖人、ローマ教皇の元祖である聖ペトロ、『聖☆おにいさん』の漁師兄弟の兄の方ですね、ギリシャ語の「ペトロス(Petros)」の女性形です。もちろん風花雪月にローマ教皇はいねえので(いるとしたらそれはレアなので)語の意味で考えると、ペトロスはキリストが彼を呼んだあだ名「ケパ、ケファ」と同じ「石、岩」という意味です。つまりリンハルトの「ハルト(かたい、つよい)」と同じような感じですね。
現代日本人が「石」とか「岩」とか聞くとあんまいいイメージないですし、古にも「木石」といえば人間の情や風情を解さない朴念仁野郎という意味だったのですが、旧約聖書の世界で「岩」といえばけっこういい意味があります。つまり、堅牢で守ってくれるもの、確固たる強い信念、永遠性という意味です。
ブリギットは自然物に宿る精霊を信仰します。岩の精霊、というのがいたとしたら、確かに王者としての強さや誓いを助けてくれるものでしょう。
おしまい~! 以上サクッとスナック記事でした。
今、最後の青獅子ルートが6月まで行ったところなのですが、この、青獅子ルート!黒鷲以上にテーマ見せがハッキリしていて全方位からくる!うますぎる!とジタバタしているので、まだ6月なんですが忘れないうちに一周目に黒鷲で作品テーマを予想したこれ↓みたいな記事にまとめときたいと思ってます。
次回は『青き獅子の心臓―FE風花雪月考察覚書き④』でお会いしたい(したい)
早めに
【追記】早めにかけたよ
↓おもしろかったらブクマもらえるととてもハッピーです
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