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焦天!大剣豪―遙か7武蔵ルート感想

本稿では『遙かなる時空の中で7』の「宮本武蔵」個人ルートについて感想を言ったり考察したり八葉「天の朱雀」の解釈をみたりしていきます。

 

遙かなる時空の中で7

遙かなる時空の中で7

  • 発売日: 2020/06/18
  • メディア: Video Game
 

 

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 『遙か』シリーズの中での『遙か7』のテーマ位置づけについてはこちら

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 『遙か』シリーズ全体で「八葉」に共通する核となるイメージについてはこちら

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 一周目プレイ長政ルートを終え、マジ良ゲーすぎて次にどこから手を付けたらいいかわからずジタバタ暴れていたのですが、フォロワーさんのおすすめにより武蔵ルートをプレイしました。こんなん週刊少年ジャ〇プじゃん、と聞いていたので前半にやるのにもうってつけでしょう。

長政→武蔵は我ながらテーマ理解的にも模範ルートだなあとおもうので順序を迷っている方にはおすすめです。

 

 

武蔵のキャラクターデザイン

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 武蔵はかの「宮本武蔵」なので、フィクションでの圧倒的知名度はありますが、戦国大名家出身の武将たちとはちがってお家伝来の意匠や甲冑や馬印などのシンボルがありません。しかし対で有名な剣士「佐々木小次郎」と違って明らかに実在していたらしい史料が残されている人物であり、『遙か7』の武蔵のデザインや人物像にもチマチマと織り込まれています。

まず「宮本武蔵」のイメージ先入観から武蔵を一目見たときの印象は「カワイイッッッ!!」です。天の朱雀の例に漏れず(サザキは例に漏れてますがあいつは精神年齢が少年なので)年下の活発な男の子で、宮本武蔵と聞いて思い浮かべるバガボンドな劇画タッチとはギャップがあったことでしょう。

バガボンド(37) (モーニング KC)

バガボンド(37) (モーニング KC)

  • 作者:井上 雄彦
  • 発売日: 2014/07/23
  • メディア: コミック
 

しかし実は宮本武蔵は晩年の史料に残っている年齢から逆算するに、関ヶ原の戦いの時期には15~16歳ほどとなり、この年齢設定は史実通りなんですよね。

また、先入観からの意外性といえば「宮本武蔵が、黒田長政の近習として仕えている」というのもエーそこつないでくるのか!?という驚きがありますが、これも実はまったくありえない話というわけではありません。宮本武蔵の出身地や晩年世話になった人は「播磨の国」現在の兵庫県、姫路のあたりにあり、また『天守物語』や最近のFate/Grand Orderの女武蔵ちゃんで有名になった「宮本武蔵と、姫路城の城化物・刑部姫」の逸話なんかもあって宮本武蔵と播磨・姫路には深いつながりがあります。

そして『遙か7』の作中でも「ずっと姫路でお育ちかと思っておりました」と言及がありましたが、日本一ともうたわれる白鷺姫路城の歴史で唯一の「姫路生まれの姫路城代」こそは黒田長政なのです。武蔵の父とも養父ともされ、『遙か7』ではハッキリ実の父って言ってる「新免無二」お父さんが黒田氏に仕えていたという証明になる職場の文書も存在しています。『遙か7』の時点では黒田家は豊前(九州中東部)を領国としているのでサラッと流されますが播磨は黒田氏と宮本(新免)氏の共通ルーツなんですね。だから関ヶ原の戦い前の少年時代の武蔵が長政に仕えてるというのは現実的にありうる話なんです。

 

 また、武蔵が雀とか人相書きとかけっこう上手な絵を描くことが作中にもありますが、宮本武蔵が剣豪であり文人であり絵師であったことは有名です。中でもチマッとした鳥さんの絵が有名で、武蔵のストーリーの中で雀の絵のくだりはいっそう心なごむ感じに挿入されてるなあ。ちなみに自画像とされる絵は白いフワッとした小袖の上に赤い肩衣(ベスト的なあれ)をベルトインしていて天の朱雀みがありますし、肩衣の色こそ違えど武蔵の衣装に似たものがあります。

剣客なので伝わってない甲冑や馬印とか、いちおうあるけどあんま有名でもない宮本武蔵の家紋は武蔵の衣装デザインに使われていないっぽいですね。武蔵にデザインされているのは肩衣の「金の反り鯉」とルートメッセージウィンドウの地の「波模様」です。これは「宮本武蔵」からではなく武蔵のテーマに合わせてありますね。

鯉は美しく大きな鱗とヒゲをもつため「滝を上って龍に変ずる」という中国の伝説がある縁起のいい魚です。「登竜門」と言いますよね、それ。ブリとかのことを成長にしたがってハマチだのメジロだの名前を変える「出世魚」と呼ぶように、鯉が龍になるなら出世も出世、大出世。しかも天にまで昇るわけですから、武将にも好まれました。そして武蔵の肩衣に描かれている絵のように「金色」「立派な鱗とヒレの太い魚」「左右対称」「反って」いたら、しかも時代が安土桃山時代というなら連想するべきものはそう、「しゃちほこ」です!

この、『遙か7』主人公の父信長も好み、今も尾張の名古屋城のシンボルとなっている「しゃちほこ」っちゅうもの、これは海のギャングで逆パンダの白黒模様がかわいい「シャチ」さんとは関係なくて「シーサー」「狛犬」のような伝説上の生物です。その姿は鯉をゴツくして虎とミックスしたみたいに描かれ、つまり鯉より一段階龍に近付いたみたいな、コイキングとギャラドスの間にもうひと段階作ろうぜみたいな幻想モンスター左/右なんですね。鯉や鯱(しゃち)は信長をはじめ武将たちが龍となり天に昇る願いをかけたシンボルなのです。

そこにメッセージウィンドウの「波模様」はさらにダメ押しです。「潮流」が『遙か3』の敦盛の必殺技になっていたように「炎」である天の朱雀に海って本来関係ないじゃないですか。しかし家紋などでも波模様は海だけでなく「水の神」すなわち「龍神」をあらわします。鯉、大海を泳ぎ龍に変わるぜ!

武蔵の衣装とウィンドウデザインの個人的イメージは大漁旗ですね。また、「海を越えていく」という見果てぬ夢のイメージは『遙か4』のサザキにも通じます。

E大漁旗 26900 大漁 商売繁盛 W1000 ポンジ

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  • メディア: オフィス用品
 

 

武蔵のシナリオ描写

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 武蔵のストーリーは彼の一途でスカッ!!とした性格もあわせて完全にスポ根少年漫画、その中でも今時珍しいような王道の友情・努力・勝利みたいな話です。

しかもこの話の胆力のあるところは、ふつう王道スポ根少年漫画はヒロインとの関係ってたまに華や祈りやカーチャン的存在として出てくるなど、扱い的には安心やオマケ的サブ要素に終始することが多いんですが武蔵は恋に純粋に向き合って力に変えるというところです。憧れの女性への恋はトロフィーでもこっ恥ずかしいものでもなく、素直に真面目に見つめることで心を豊かに強くするものです!という、目がつぶれるような正しさと明るさと強さ、これは新時代の少年少女マンガですね! あるいは『ガラスの仮面』とかみたいな。

ガラスの仮面 48 (花とゆめCOMICS)

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こういう「人間と人間の縁、友愛によって、自分と世界に向き合い、切磋琢磨する!」という燃えは『金色のコルダ』シリーズで特に重視されているネオロマンスらしい青春のあり方であり、武蔵と大和は世代的にもそこらへんにあたっていますね。『コルダ』的な少年少女の友愛っぷりに燃える方には今回の朱雀は激アツなはずです。

金色のコルダ3 AnotherSky feat.神南/至誠館/天音学園 - PSVita
 

『金色のコルダ』系の友愛切磋琢磨の燃えだよ~!と言いましたが、『金色のコルダ』無印は伝説的な難易度と渋みを誇ったネオロマンス作品で、ぶっちゃけ恋愛が存在しているかの判定は難しいところだったレベルでした。武蔵のルートも恋愛的な「ときめき」「甘さ」的なところには期待しないでねと言うべきかもしれません。しかしそこには「少年少女の初恋が実る」ことのドドド王道で思う存分熱血で晴れやかな世界があり、今まさに恋とはどんなものかしら?と考えているティーンたちに、そして反対に青春の輝きが遠く過ぎ去ってしまったように思っているレディス&ジェントルメンにはめっちゃおすすめできます。おれはジェントルマンなので泣いた。

『遙か』シリーズではイノリ、詩紋、布都彦、遠夜、シャニ、龍馬、チナミ、コハク、虎、九段のシナリオが好きな方にはいいなと思います。特に布都彦!ですね! いまどきこんな汗のにおいがさわやか極まりない男子なかなかいないですよ。他ネオロマでいうと『アンジェリーク』のランディやマルセル、ティムカ様(様)、『金色のコルダ』の火原、ハル、至誠館高校関連のシナリオが好きな方に。武蔵のシナリオに燃えたかたにはぜひ『パレドゥレーヌ』のアストラッドやエリオットのストーリーもプレイしてみてほしいですね

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無限への飛躍

 タイトルは同コーエーテクモゲームス制作協力の『ファイアーエムブレム 風花雪月』のツィリルから。

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 武蔵、天の朱雀の八卦は「離」の卦であり、これは炎や熱や鳥の華やかさと軽やかさ、上昇気流をあらわしています。天の朱雀は「上」や「向こう」など、「まだ見ない、今・こことははるかに違うすごい場所」を志向してチャレンジをやめません。武蔵は「一度も試合で勝ったことがない」という状態なのに「日の本一の剣豪になる」という途方もなさすぎる夢を疑いもしていません。とりあえず叶うと思って夢みなければ上には昇れないからです。そこに「本当に叶うのか」「こういう障害があって」とかそういう重みはまずは必要ありません。

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誰に負けても、父に否定されまくっても、「上に昇ろうとする」ことは武蔵の全然止められない性質です。しかも「上に」行くために武蔵は他の人間を踏み台にするとかなぎ倒すとかそういう感じでもなく、自分一人でも「よーし!上に行くぞー!」というエネルギーが常時湧き出ています。熱い空気が上に昇るのを止められる人はいないし、空気自身にもそれを止められないのです。たとえ天井があって空回りになったとしても上がるもんは上がります。武蔵の情熱は熱い空気のように重さも実体のしがらみもなく、気持ちは無限に燃え続けます。

 

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 「熱い空気」は空間の中で上に行くだけでなく、天井がなかったりあるいは突き破ったりすればどこまでも天に昇るものです。熱気球をイメージしてもらうといいですね。熱い空気が布幕をポコポコに押し上げる力で、ぐんぐん空に昇ることができます。武蔵のストーリー展開が王道スポ根なのは「試合にも大和にも勝てない!未熟!」という序盤の状況から「父のように強く、父を超える!」という目標を思い出し、「武者修行で自分を鍛える!」「師匠に勝つ!」とどんどん際限なく上にステップアップしていくプロットだからです。戦闘力たったの5か……ゴミめ……から19000……20000……ピピピ……ボンッ!!

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武蔵のストーリーの中で唱えられた「父を超える」「師匠に勝つ」というキーワードは、神話や古来の物語にも「父殺し」として繰り返し描かれてきた類型です。そこには「エディプス・コンプレックス」とかだと「母親(女)の愛と王権、一人前の男としての承認を奪う」とかグチャッとしたものがついてくることもありますが、武蔵の場合はかなりキツい親である父の罵倒にもあっけらかーんとしているなど、そういう恨みつらみや愛憎ではなく、ただ単に尊敬する強いものを超えていくんだというスカッと熱血側面が強調されています。これは大和の父子関係と対照的に描かれているんですね。

「父」を、「尊敬する強いもの」を子が超えていくことは世代間の継承であり、そうあるべき正しい摂理です。親を子が超えていくことをずーっと繰り返すのが人間の営みであり、子は、正しい方向かどうかなんて細かく気にしなくても、とにかくめくらめっぽうに旧世代の作った城の天井をぶっ壊し、天に向かってアンパンチすべきです。

武蔵はかつての自分を武者修行で乗り越え、試合で少しずつ勝てるようになり、ついには師にうち克ちます。「試合に勝てない」という宮本武蔵のイメージとは反対の弱さだった武蔵が段階的に強くなり、二刀流などという達人技を振るえるようになり、剣豪将軍にさえ勝つストーリーはまさしく「出世魚」です。武蔵の「金の反り鯉」と「波模様」があらわす「鯉の滝登り」武蔵という負け続けのコイキングが、いずれ最強のギャラドスとなり天へ昇る!という元気のいい勢いを描いているんですね。そういえば、武者修行して「しゃちほこ」くらいまで相貌が進化した武蔵と再会したのは彼が「滝行」をしているときでした。よくできているなあ。

 

情熱の燃える核

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 ソードマスタームサシの挫折と成長パートのテーマとなったのが、「お前の剣には心が足りない」という宗矩や師の言葉です。これもまたスポ根マンガの挫折成長パートにはよくある言葉で王道なのですが、大和も「心の欠け」のことを宗矩に指摘されて葛藤しており、「少年に足りない心」のありようが2パターン描かれていることになり描写が丁寧です。

武蔵にとっての「足りない心」とは、強くなる!という意思――つまり、武蔵の「熱い上昇気流」――の核となるビジョンのことでした。熱い空気はただずっとあったか~いだけでは天井をぶち壊すことはできません。「熱い空気」でなく「炎」となったときに何物をも焼き焦がし天へ昇るギャラドス(色違い)となるのであり、そして炎が燃えるためには燃料となる有機物が必要です。「烈焔陣」を使うときの「木生火」の五行関係にもそれは示されていますね。「木の気」「有機物」っていうのは薪とか油とかってことですよ。しかも武蔵に必要なのは「ずっと尽きない燃料」となる何かです。武蔵の師にとってそれは「弱き者を守る」という信念であり、武蔵にとっては「初めて日の本一の剣豪を夢みたときの気持ち」でした。

「炎の核」ってぶっちゃけなんだっていいんですよ。大事なのは、ただはやる上昇気流があるだけでは空回りしてしまい、めちゃくちゃ頑張っているはずなのに自分をいじめているだけになってたりする、ということです。しかも悪いことに「なぜがんばるのか」を見失った人は「がんばること」「自分を痛めつけること」自体が目的化し何も成せずに自滅するんです。これは現代のブラック部活動や社畜社会人にも通じることですよね。

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本当は、自分は何をしたかったのか、どうありたいと思っているのか――それを見つめ直すことで、現在のがんばりが過去と未来とのつながりを取り戻し、狭くなっていたことにさえ気づいていなかった視野は開け、くすぶっていた炎は一瞬で燃え上がってあの天井を打ち破ります。

 

恋の炎が翼となるぜ

 タイトルはご存知異色の天の朱雀、『遙か3』のヒノエ氏の協力技のかけ声から。まさかこれを回収してくるとは思わないじゃん!?

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 武蔵は師に言われなかったら姫様への気持ちを恋だと認識しなかったセンが濃い、危なかった、師匠ありがとうなのですが、それは武蔵に「恋」なるものへの先入観がなかったということでもあります。

令和の世となっても男女の色恋に世間は嫌ンなるほど敏感で、男女がちょっと仲良かったら付き合ってんのかとはやしたり、少しドキドキしたり優しくされたりしたらすぐに自分はあの人が好きなんだ!あの人も自分のこと好きかも!となったりするのは過剰反応っつうか、人間関係の解像度が低いっつうか、とにかくそれぞれ無限に違う人と人との関係の繊細な機微に向き合う前にビッグウェーブに押し流されて型にはまってしまうことって不自由です。それってその人の「本心からの気持ち」とは言いがたいですしね。武蔵はそういう「一般的な話に聞いて知ってる型」に自分の心をはめこむことなく、恋というのはどういうものですか?といろんな信頼できる人に聞いて、自分で考えて、自分なりの答えを姫様に捧げます。クゥ~ッ、青少年の成長はかくあるべきだよな(おじさん)。

恋は人を迷わせ、葛藤させ、憎しみや妬みのもとにもなり、ときに邪魔なものです。しかし恋もまた「心の炎の核」になる永遠の燃料の気持ちのひとつであり、武蔵は姫様への恋のその側面を掴むことができたのです。恋が障害の原因となっても、それは恋が邪魔なものだからではなく、そういう状況になっちゃっただけ、状況への対処はそのとき考えます!というのが武蔵です。

「恋」が力になるものでもあり、道を誤らせ不幸を招く危険性のあるものでもある、というのは、さきほど武蔵ルート好きと親和性があると推した『遙か4』の布都彦ルートのテーマでした。恋なるものによって兄と一族の誇りを失った布都彦は「恋情とは、それほどに大切なものなのでしょうか」と血を吐くように叫びました。自分の立場と運命をふまえれば、姫に恋などしてはならない、と戒め苦しんだのが布都彦ルートであり、そのエンディングは爽やかなものでしたが、やはり主人公と彼の立場上あの後姫と結ばれるとか二人だけで生きていくとかは不可能なことであっただろうと考えられます。

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神と運命に縛られて抗った『遙か4』と、神と人間の間のへその緒を適切に断ち切って乗り越え、人が自立することを描いた『遙か7』にはちょくちょく再話構造がみられます。武蔵の「そのとき、考えます!」は大和とか布都彦とかからしたらおめでたい楽天家の考えなしお花畑に見えますが、武蔵の楽観もまたひとつの真実です。起こってもいない悪しきこと、すばらしい気持ちがいつか心をむしばむかもしれないことなんかは、そのとき考えてもいい。もはや神や仕方のない運命から自立して、自分の足で歩いていくことができます。武蔵にはそのときのことはそのときにならないとわからないし、そのときまでは軽やかに高らかに燃え続けます。恋の炎の翼で大空を飛べたなら、きっとそれで見えてくるものだってあるでしょう。

 

俺の屍を越えてゆけ

 武蔵のストーリープロットをいま一度整理すると、

「試合で勝てないしがんばりが実らない武蔵」

→「師と出会い、心や恋について学び気付く」

→「武者修行でたくましく変わる」

→「師と戦い、師に勝って成仏させる」

→「旧い世を蘇らせようとする平島を止める」

といったかんじです。この中には「己に克つ」「師を超える」「旧き世を乗り越える」という3つの超克が用意されています。

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『遙か7』の武蔵の師匠は作中で明らかになったとおり「足利義輝」の亡霊でした。足利義輝は史実から武勇で名高く、武蔵がその中から二本の刀を取って使うことになった「足利義輝公の念がかたちになった、地に突き立つ無数の刀」も、彼が殺害されることになった襲撃を伝える後世のフィクションで、所有する名刀を畳にブスブス突き立てて戦い、刃こぼれするたび新しい刀を抜いて奮戦した…という壮絶な「剣豪将軍」の逸話をもとにしています。

足利室町幕府最後の将軍は信長に擁されたり対立したりした足利義昭(義輝の弟)ですが、足利の世が覆されたショッキングなポイントといえばやはり三好氏による足利義輝の弑逆です。戦国の世の終焉を描く『遙か7』にここがちゃんと描かれているのは丁寧ですね。三好氏は義輝の時代、将軍がいるにもかかわらずほとんど天下人のように畿内を支配しており、信長がトドメをさすまでもなくこの足利義輝殺害で足利という絶対的権威は死んだみたいなもんだったんですよね。ちなみに、このへんの事件からギリワン(松永久秀)が大暴れしてきます。三好が畿内を支配していた時期は信長-秀吉-家康のいわゆる戦国の三傑の時代より前なのであまり一般に知られていないですが、「女上杉謙信」の若き日を描いた『雪花の虎』に三好長慶や義輝まわりの人物の事情が描かれてておすすめです。

雪花の虎 (7) (ビッグコミックススペシャル)

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『遙か7』の三人のラスボスの一角である「平島義近」は史実の系譜には存在しない名前ですが、「平島」「義なんとか」という名前からしてわかる人にはすぐわかる足利の血筋の者です。足利氏のネームルールが義なんとかなことは小学生も知っていますし、「平島」というのは足利将軍家のスペア的分家……徳川将軍家にとっての尾張・紀州・水戸御三家のような「平島公方(公方とは幕府将軍のことです)」の家をさします。加えてディオゴ結城とみられる結城氏の親類をもつことから、義近は室町幕府14代将軍・足利義栄(よしひで)の子もしくは近い子世代の縁者であることを匂わされています。(義栄が将軍になるにあたって義栄に改名する前の名前は義親(よしちか)です)

この「平島公方」足利義栄の運命もまたツレェもんで、三好が足利義輝の弑逆(しいぎゃく:王者を臣下が殺すこと)というヤバすぎる行動に踏み切れたのもスペアである平島の家があるからそっちから言うこと聞く将軍を立てればいっかー☆というもくろみがあったからで、義栄は次の将軍としてイトコを殺した不遜で信用ならねえ奴らに担ぎ出されます。この時点で苦すぎるのに、京ではギリワン(松永久秀)が大仏を焼いたり三好とドンパチやったりと精力的に爆発しており、ぜんぜん京に入れない。そうこうしてるうちに、俺が将軍だ!と主張する義昭を擁して信長がパラリラパラリラと三好を蹴散らしてきてしまうわけです。織田暴走族チームから避難した義栄は避難先で持病が悪化して亡くなりました。義近が地上のワチャワチャした争いの愚かさを憎み、足利将軍家が権威を失ったことに憤っているのにはこういう背景があります。

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と、いうような感じで武蔵ルートには「足利の世の正統なる権威の終焉」とか「天下の跡目争いのゴタゴタや悲しみ」とかが影の部分にこれでもかと詰め込まれています。ついでに言えば足利氏というのは日本の有名な武家の中でほとんど一番「血筋正しい」氏族でした。そりゃ源氏や平家はもとは臣籍降下した姓だとはいえ若き日の清盛は悪ガキ、義仲や頼朝は田舎武者でしたし、戦国の三傑たちもわりとさっき興隆した家、みたいな感じでした。それに対して足利氏は鎌倉幕府が開いたときからの将軍家一門扱いの超名門御家人であり、室町幕府を開く前から権威にあふれた血筋だったのです。

そういった「聖なる血筋」や積み重ねてきた苦悩、そういうもの全部から自由になれない前世代の大人たちを打ち倒し、軽やかに飛び越えていってみせるのが次の世代の子供たちの役割です。ゴチャゴチャしたことをとりあえず考えない!などということは歴史ある大人にはできません。ゴチャゴチャを台無しにする子供のアンパンチは「なんてことをしてくれるんだ!」でもありますし、大人をやっと解放してくれる一撃でもあります。

なおかつ、旧いものを存続させようとしてあがき、しがみついてしまう大人たちは愚かで邪悪なのではなく、それがあったから次の世代はもっと高みに行けるのだ、ということを武蔵ルートは描いています。武蔵は怨霊である師匠を憎むことなく純粋に戦い、わるものである平島にも「平島殿が師匠を呼び戻してくださったからオレは師匠に会えました」と運命に対して感謝します。

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武蔵は人の過去のしがらみや弱さを否定しません。それを受け入れた上に、歩けるように歩いていけばいい。平島の妄執が生んだ怨霊が武蔵を強くすることもあるし、恋というよくわからないものが力になることもあるし、姫が武蔵に「おんぶ」されることで、見える景色もあるのですから。

恨まず、憎まず、旧き世の想いを燃料にして燃え上がっていく、新しい炎。武蔵が何かに打ち勝った道のあとには屍の山が築かれるのではなく、それを越えてより高く燃え上がる「昇華」の翼があることでしょう。

俺の屍を越えてゆけ (通常版) - PSP

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  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: Video Game
 

武蔵って俺屍の一族にいそうなビジュアルだよね(天の朱雀だから額に石あっても自然だし)

 

 火は木より生ず。炎は薪とかの有機物、さらには「足の下の」「過去の屍」の堆積物である石炭や石油を燃やして、思い出と心と人の弱さまでも永遠に燃やして、それを屈託なく抱きしめて空へと昇ります。

昔の自分に克ち、尊敬する人を超え、世界の果てを乗り越えていく少年の炎はわれわれの心を燃やし、いつか天をも焦がします。

五輪書 (ちくま学芸文庫)

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  • 作者:宮本 武蔵
  • 発売日: 2009/01/07
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 さて、この次は宗矩をクリアしました! どのルートもボリュームとテーマ表現が濃すぎて休み~休み~でしかできてませんが、その次は直江いっています。ムリ……ムリだよ……おれ、越後人だから…………。

 

遙かなる時空の中で7 トレジャーBOX

遙かなる時空の中で7 トレジャーBOX

  • 発売日: 2020/06/18
  • メディア: Video Game
 

 

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