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「月」の旅人―タロットからみる『メタファー:リファンタジオ』序盤レビュー

本稿はRPG『メタファー:リファンタジオ』(アトラス 2024年)の序盤ストーリーを紹介しつつ、演出のテーマ的意図をモチーフと思われる「タロット」および今作のクリエイターチームの関わってきたここ十数年の橋野ゲーからの流れから読み解くものです。

ほかにモチーフになっている「英雄元型」「英雄の旅」についての解説も書いてたんですけど長くなり過ぎたのでそれは次回で~!!

楽しんでくれるプレイヤーが増えると嬉しいなの紹介意図で書くもののため、体験版や発売前情報の範囲を超えるネタバレは避けていますが、物語のテーマ的なネタバレは多くなっているとおもわれるので、まっさらな状態から自力で解釈を楽しみたい方はご遠慮ください。

いつも当ブログをご愛読くださっている方々には最近めっきり更新が途絶え、「ぺるたろ」の続きも上げられていなくてすみません。

「戦車」の記事でも近況をのべたのですが、まるまる半年体がカチ壊れておりやっとこさ座ってゲームができる状態まで持ち込んだため、今回の記事はリハビリ的なものとなります。みまもってね。

 

 

まず筆者は何者

 当方はしがないペルソナシリーズ好き。ペルソナシリーズをきっかけにユング心理学をとおした物語読解やタロットについて学ぶことになって二十余年、ペルソナシリーズほかユングやタロット絡みのゲーム等の読解記事とか本とか書いております。近年では『ファイアーエムブレム風花雪月』とかも。

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そんな当方がメタファー:リファンタジオの序盤はたぶん過ぎたかなくらいの感慨をのべています。

 

『メタファー:リファンタジオ』とは

rpg.jp

 メタファー:リファンタジオ(以下「今作」とも)は、『ペルソナ3~5』『キャサリン』等にかかわった代表的なクリエイターたちが次回作のRPGとして開発してきた、これまでの現代劇ベースとはまったく異なった完全異世界を舞台としたファンタジーRPGです。いつもとちがったかたちで現代劇とも接続してるのですが、ともかく舞台じたいは現代劇ではありません。

制作の早い段階から「ファンタジーRPGの王道中の王道」を作ることを強調し、公式サイトのドメインときたら「rpg.jp」ときたもんだ。自負がヤバすぎる。

そして、「ファンタジーなるものの真の中核」を求めた結果として、

「幻想の物語に思いをめぐらせる意味とは何か?」
「なぜ『物語』『異世界』の夢想が人の心の中にあるのか?」

という、かえって逆説的に「物語という額縁の枠組み」を疑い、揺るがせる挑戦をふくんだストーリーになっています。

 

物語序盤のあらすじ

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 ゲームを立ちあげるとデモムービーとして流れるのは、なんと王の殺害の場面です。『銀河英雄伝説』のラインハルトじみた天才青年将校・ルイが、理想を失い腐敗した王国を放置するようになって久しい王をブッスリいったのです。

おやすみ中の王を刺したところでただの罪人であり、クーデターが成功するとも思えませんが、「王が亡くなられた!」「王の魔法の継承が途切れる」とアワアワする有力者たちは「間違いなくヤッたのはコイツだろ……」とわかっているのになんとルイを裁くことができないのです! だってそれができる王権は宙ぶらりんだし、ルイの勢力は国教に迫るほど強いので力や権威で平定することも不可能です。

 一方で、王都の近くには馬車に揺られる主人公の姿がありました。主人公は10年ほど前にルイと思わしき賊に死の呪いをかけられた王子の親友です。主人公の出身地の隠れ里にかくまわれた王子はいよいよ容態がかんばしくなくて眠り続けており、もう術者のルイをヤるしかない! 国軍に潜伏していた同志と合流し、王の国葬の人ごみに紛れて暗殺を実行しようとします。

 しかし国葬では「王の魔法」が発動、王宮が空に浮かび上がって巨大な王の顔をなし、王の顔は「国民の信託を最も集めし者が次なる王となる」という選挙魔法を宣言。有力候補であるルイなどへの闇討ちは王の魔法でピピーッてされ防がれる仕組みになってしまいました!

殺して解決ができなくなってしまった王子の呪い。考えられる方策は、複雑な魔法には必ずある「設計図」をルイからちょろまかすこと。力を示してルイの身辺に取り入るため、また王となるべき王子を位につかせるため、主人公は玉座をめぐる「王権競技会」にエントリーすることになるのでした。

混迷に陥る広大な王国全土を駆け抜ける王への旅が始まります……。

 

「月」の物語

 今作は、タロット大アルカナでいえば「月」のアルカナをメインテーマとしているとみてよいでしょう。

どういうことか?

愚者の旅

今作の初期イメージ画と、タロット大アルカナ「愚者」のカードです。

制作のスタジオ・ゼロは、ロゴや初期のイメージ画をみるにタロット大アルカナのあらわす「愚者の旅」を下敷きにする気がまんまんに表れています。上画像のタイトル下にサブタイ的に書かれている"A Fool's Journey Begins"とは「愚者の旅、始まる」という意味です。

「愚者の旅」とは、タロット大アルカナ(「魔術師」とか「死神」とか)のナンバーの順番は人間の成長過程や問題解決の過程の一巡を描いたものであり、ナンバーのない(あるいはゼロ番の)「愚者」の旅人がその段階を巡っていく……という考え方です。

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それは人間の人生の場面の流れにもあてはまるし、それなりの長さを持った「旅」の物語の展開の骨子にもなります。そう、たとえば、長編RPGとか……。今作のクリエイター陣の代表作のひとつである『ペルソナ3』はモロに大アルカナのナンバーの流れを追って物語を展開させてあり、なんと夏期講習で講義までしてくれます(上動画のシリーズで江戸川先生と当方が解説しています)。

今作のクリエイター陣の関わった代表作といえば『ペルソナ3~5』ですが、「13死神」のアルカナをテーマとしていたペルソナ3に始まり、ペルソナ4は「14節制」、『キャサリン』が「15悪魔」と「16塔」、ペルソナ5は「17星」を制作テーマに置いて作られていました。

『ペルソナ5』は、タロットで言うなれば“星”の物語。ディレクター・橋野桂氏が初めて明かした、『ペルソナ3』以降の作品と“タロット”の関係とは?【特別コラム後編】 - ファミ通.com

  • 『ペルソナ3』「死神」のアルカナ:死すべき運命、限界と向き合う
  • 『ペルソナ4』「節制」のアルカナ:死の危機の後で落ち着いてさまざまな情報や視点を並べ精査する
  • 『キャサリン』「悪魔」のアルカナ:欲望と逃避と誘惑、「塔」のアルカナ:破滅
  • 『ペルソナ5』「星」のアルカナ:世界が崩れたどん底の闇の中の小さな希望

ペルソナ5は主人公たちが「トリックスター」と呼ばれ、デザインにも星型が多用されていますね。

 

「月」のアルカナ

今作は発売前は俗に『ペルソナ6』と呼ばれることもあったくらいで同じライン上に存在し、であるならば「17星」のつぎの「18月」のアルカナがテーマとなる可能性が高いと踏んでいたのですが、まさにそんな感じとなっています。

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「月」のアルカナのテーマが今作にどのように表現されているのかは、序盤が終わったくらいの今ですらメチャメチャに語れます。

闇の中の希望のラッキー・スターであった「星」のアルカナの次を歩む「月」のアルカナの意味するものをまず一言で言うと、クリエイターズメッセージで橋野氏が言う通りの「不安」「恐れ」です。

これが「月」のカードです。

守られた砦を出て、野犬などの生き物が徘徊する広大で不明瞭で危険な荒野を行こうとするあなた。夜は暗く、道は曲がりくねり、月は冷たく見下ろしているばかり。月は人の内面の影の部分をあらわす天体です。見る者によって、時によって、そして心の状態によっても見え方が異なるふしぎな光でもあります。

今作の空気中に漂う不安のエネルギー「マグラ」はこのカードの月の下に漂うヒラヒラの雫を思わせます。この雫は右のマルセイユ版タロットでは人の想像力をあらわしているともいわれ*1、それを吸い上げ太る月は町中のマグラ集積機やマグラ結晶、雫を食べる犬たちは序盤から出てくるマグラによって恐化した野犬や軍用犬たちによってなぞらえられています。

先行きの暗さと見通しにくさが恐怖を増幅し、疑わなくてもよいものを疑い攻撃すべきでないものも警戒する狂気を育てる、過ちと変容に満ちた旅立ちのときを示すカードです。ひたすらにあっけらかんとした「愚者」の旅立ちとは、見える景色が違います。

旅の道に踏み出そうとしても不安のあまり慣れた暗い水の中に留まろうとしてしまう小さなザリガニは、あなたの弱さと、進歩への不安と退行を象徴しています。しかし、ザリガニは脱皮して成長することもできるものです。たとえ何度逃げて間違っても……。

タロット大アルカナ21枚の中でも、最も「薄暗い」「複雑微妙」なカードであるともいえ、世の中一般としてはなかなか物語のメインのモチーフになることは少ないのではないかとおもわれますが、それだけにアトラスらしいやりがいのあるテーマです。

(ちなみに、『ペルソナ2罪・罰』はたったひとつのメインのアルカナ……とまではいかなくても「月」アルカナがかなりフィーチャーされていたストーリーでした)

 

序盤からいきなり後半

 詳しくは「愚者の旅」の項のほうに貼った動画の江戸川先生の夏期講習などを見ていただきたいのですが、愚者の旅は
1~7番くらいは幼児から少年のすこやかな成長と旅立ちのターム
8~14番が自分と社会や理想と現実のバランスをとり大人になっていくターム
15~21番は社会とかを超えて「本当の自分の生き方」を実現していくまでのターム
を描いています。

『ペルソナ3』では学生の成長物語らしく「1魔術師」から律儀に愚者の旅をなぞっていたのですが、『ペルソナ5』くらいになるとオープニングがすでに「勝ち目がない閉塞した状況に囚われる」という「12刑死者」を意識した緊張から始まります。

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今作のテーマをあらわす「月」は21番まである大アルカナの中でも18番と、か~なり終わりのほうなので、序盤から「ワクドキの旅が始まる♪」とか「若者の伸びやかな成長♪」とかお気楽なことは言ってません。オープニングから王が死んで王宮がブッコ抜かれ社会のコトワリが変わるという、タロット大アルカナでいう「16塔」の状態。

現代社会を舞台としているこれまでのペルソナシリーズにあるあるの「なんとなく閉塞感をおぼえながらも、裏で起こっているヤバを知らずに平和に過ごす一般民衆」など最初からいなくて、みんなアワアワのもうだめ世モードです。そのへんに普通に死体も転がっとる。

ペルソナ3であれば3学期、ペルソナ4でいえば町が常に霧ってるようになったあたり、ペルソナ5なら獅童撃破後のような世界にいきなり叩き込まれます。じっさいカレンダーの季節感も学生生活ベースのペルソナ3~5でいう「わりと明るい序盤」にあたる4~6月がなく、7月からの風雲急を告げる秋冬に向かうところから始まっています。

 

危険な荒野をゆく

 ペルソナシリーズは精神がつくる異界を冒険するとはいえベースは現代日本なので、まったくの自然や普段から怪物の巣窟である人里離れたダンジョンを探索するという要素はほぼありませんでした。そういう「ファンタジー冒険物語」の王道の醍醐味をたっぷり搭載してきたのが今作となります。というか、むしろ現実ベースの舞台を冒険することになるほうが『メガテン』や『ペルソナ』の特別な強みなのであべこべな感じなのですが……。

王都の外には広大な「トラディア砂漠」が広がっており、ここから主人公を自由に動かせるプレイング部分が始まるのが象徴的です。自由に動かせることは動かせるのですが、ちゃんと感情移入しているなら「よっしゃまずスライムで経験値稼ぎをしてェ……」とかいう場合ではない過酷な雰囲気です。弱くてたった一人で大自然の中では丸裸同然の主人公は、とほうもなく遠いように見える王都へ野生動物たちをヒエーと避けながらオロオロ走っていくことになります。

堅固な壁で囲われた外は危険生物の徘徊する荒野であり、文明を離れて冒険する旅人は弱っちい生き物にすぎず、チョコマカ逃げ惑い相手の隙をうかがいながら進んで行くしかないというのは「月」のカードの絵面の再現です。トラディア砂漠に徘徊してるのも野犬の群れだし。

盗人をやってた『ペルソナ5』同様に、今作では相手が気付いてない背後を突いたり戦いを避けたり嘘こいて潜入したりという誉れ(ゴーストオブツシマ用語)も何もあったもんじゃない戦法が推奨されており、混迷の中で弱者が身をよじるっていうのはそういうことなのだという現実的な戦い方が表現されています。

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序盤が過ぎると鎧戦車(がいせんしゃ)という街宣車とかけたデケェ乗り物でひとまず荒野の移動は便利になるのですが、それでも夜は問答無用で進んではいけないとか、うろつく怪物たちの気配を警戒しながら……とか、毎度毎度のナレーションが「月」の危険な荒野の前では本来人間なんてちっぽけなのだということを強調してくれます。

 

不安、疑心暗鬼、危険

 最初から世界がわりとブッ壊れていることによって、今作の全体には秩序は信じられるものではなく、誰もが社会不安といいようのないフラストレーションを抱え、そこからくる狂気・奪い合い・酷薄が蔓延している「月」アルカナそのものの空気が漂っています。

硬直した秩序が壊れ(「16塔」のアルカナ)、何もかも失った暗闇にひとすじの希望の光(「17星」のアルカナ)があっても、そんですぐに自分の生き方の答えにたどり着けるかって言ったらそんなワケがありません。既存の秩序が信じられるものではなくなったということは、判断基準を自分で作っていかなければならないということ。子供が正しい大人から判断基準を教わるのとは違い、絶対に「もうなんもわから~ん!」という困難な暗中模索をすることになります。

しかも暗い中でさ迷ってるとさー、もちろん陰にまぎれて人から奪おうとするやつもいるし、暗いとこで混乱しながら誰かとぶつかると、その人がなんも悪くなくても「攻撃された!」「自分から奪おうとしてるんだ!」って思いこんだり、過去の恨みが関係ないやつに対して爆裂したりするんだよね。

でも怖くて恨めしくてメチャクチャに腕を振ったら、よく見たら罪もない子供がペチョ……ってなってるかもしれないんだよ。傷つけられることも危険ですが、取り返しのつかない傷を思わぬ誰かにつけてしまう危険もあるのが夜の闇。それで「自分はもう悪いことをしてしまったんだから」ってやり直せないと思って心を閉じたり……。

それが恐ろしい「月」の旅のみちのりです。今作では、誰もがその旅路に投げ出されています。

 

八つの種族、八つの星

 タロットの「18月」のカードの前には、『ペルソナ5』のテーマでもあった「17星」のアルカナがあります。

タロットの終盤段階のカードにはかなり強めの連続性があり、「16塔」で信じた社会秩序が崩壊したのちに、身を守り光ってた塔がない真っ暗闇ゆえに「17星」の小さな希望が見えるようになり、「18月」で希望を追い育てる危険で薄暗い旅をゆくことになる……という感じです。

今作の仲間キャラは能力覚醒の際に、天の声から「王道を照らす輝ける星よ」と呼びかけられています。伝統的構図のタロットの「星」のカードに描かれる星はたいてい八つの輝きのトゲトゲをもつ八芒星で、八つ

主人公の旅の仲間は基本「全員が違う種族」だそうですし、主人公のエルダ族のような少数種族でない王国の主な種族は八つ、鎧戦車の作戦室の円卓も八芒星型。

仲間の一人は永久欠番となるので、主人公を入れて最終メンバーが八人だとするならば、すべての主な種族から主人公の王道を照らす星が出ることになります。

 

惺教

 今作の舞台となっている連合王国では「惺教(せいきょう)」なる宗教が国教とさだめられており、もはや王の権威を飲み込まんばかりの勢力をほこっています。

「星」のアルカナや八芒星の象徴が主人公の王の道を助けるものという話をしたあとだと、「惺」という字の「心の星」という漢字のつくりはステキにも見えます。しかし、惺教はゲームの時点ではあんまり社会にとっていいはたらきをしてないですね……という「限界」として描かれています。

惺教の教義は、「人間は生まれながらにして心に罪を負ってるので、ウダウダ言わず神に祈り許しを請いなさいよ、そうしたら安心だから」って感じのものらしいです。

祈りの文句である「コージュラ」は、使われ方のニュアンスからするに「神よ、許したまえ」みたいなのが近いでしょうか。

祈りのポーズはこんな感じ。

目を伏せ、自分の心の闇に閉じて謙譲の礼をとるのみならず、おびえて身を守るように顔を覆い、他を寄せ付けない手のポーズです。うわーんイヤーッ(´;ω;`)のポーズ(ちいかわ?)。

ハァーッ、仏像がハンドサインで恵みを伝えるように象徴的な手の動きってのはすごいね、いろんなことを詰め込めるんだ。

希望を追って「月」の危険な旅をゆく者たちと惺教の祈りにすがる者たちを対照的な表現だと考えるならば、これは少なくとも今はまだ危険な心の旅に出ることができない弱い者たちがひとまずの安心を求めている……というだけではない、複雑で現代的な意味もあらわしているようにおもいます。

現代社会にも作中世界と同様にさまざまな根深くキツい問題が存在し、それと戦ってもがく人も少なくないですよね。えてして社会問題の解決には「絶対の正解」などなく善意でがんばっても主張に欠けるところは必ずあり、誰かに誹謗されたり誰かを傷つけたり普通にやりすぎたりすることもあります。「正義の暴走」とか「これだから活動家は怖い」とかの言葉を聞くと、それが自分に向けられたものでないときでさえ「間違いたくない、矛盾したくない」「正しさを求めず、他人にはたらきかけず、中立で穏やかに祈ることこそ『正解』なのではないか」と委縮してしまう。そしていつしか社会通念の中で「難しい社会問題」に対しては沈黙が常に金とされるようになる……。

そして、「自分は罪あるものだって自覚して、そんな罪ある自分にはたいしたことはできないのだからおとなしく祈るのが最も正解」という考え方を下々が持っていれば「オカミ」が何をするにも超便利~♪というわけです。オカミのすることしないことで下々に凶事が起ころうとも、むしろおめーらの祈り方が足りないせいとか、分断した社会グループ(作中では種族)のどれかの厄介者たちのせいとか言っとけばいいのですから。

「黙って祈ってればなんかうまいこと救われる」というのはもちろん幻想、夢物語、現実逃避です。「惺」という字のつくり、「心の星」とは人の心に眠る幻想や、輝ける英雄像のことでもありますが、惺教のありようは「幻想をどう使うのか」のひとつの(あまりよくない)例としてテーマを際立てています。

幻想は無力どころか、現実をとらえ直し戦う力にするのに使うこともできるし、人を盲目にさせ理不尽な支配を行う道具にすることだってできる……。

 

星は月へ、そして夜明けへ

 タロット大アルカナの終盤、「月」のカードの周りは強めの連続性があると言いましたね。

「星」の暗闇の中の小さな希望が、惺教の項で述べたような逃避的な使われ方にとどまることなく歩き出して、「月」のおっかなびっくり危険な旅路を迷走しながら進んだ先に迎えるのが、「太陽」……夜明けです。

この天体の名前のアルカナ三連続は人の精神の輝きがだんだんと上昇していくさまをあらわしています。

主人公の人間パラメーターを表示する図形は「星」アルカナがテーマのペルソナ5だと五芒星型であらわされててたいへん秀逸でしたが、今作では主人公の頭の中身が水平線からのぼる夜明けの太陽の輝きになぞらえられています。苦しく気長な「月」の旅の果て、主人公の王の資質といういまはまだ見えない太陽が世を照らすのです。

スゲー!! テーマと象徴をシステムとUIにめちゃくちゃからめて図示してくるじゃん!! これが『ペルソナ3』以来のシナリオとシステムを有機的に融合させる美しいユーザーインターフェースの面目躍如ですよ!

(あと、イベントを進めるために人間パラメーターが必要になるっていうのは『ペルソナ3』以降の定番として、それに「王の資質を鍛える」っていう意味がついているのが個人的に『ネクストキング』で良い)

「国民の信託を最も集めしものが次なる王となる」って銀河万丈が言ったとき最初「ネクストキングってことじゃん」て反応したもんな(女にモテるやつが次の王様になるんじゃ!)

 

次回は今回字数的に入らなかった「英雄元型(アーキタイプ)」「ユング心理学」にもとづく「英雄の旅」元型の解説と今作の表現との関わりの読み解きを書いていきたい……んですけど先に一周終わらすかも~~

二周目は体調が許せばゲーム読解YouTubeチャンネル「湖底よりゲーム読解」で読解実況しようとおもってますので、いま休止中ですけどご興味のある方はチャンネル登録よろしくね

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「月」アルカナをメインテーマとした物語はけっこう珍しいんですけど、近年ちょうど『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の黄燎ルートがまさにそれで今作もかなり同じ話しとる!と思うところが多いので「月」のテーマに興味がある方はこちらもオススメ。

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*1:井上教子著『タロットの歴史』(山川出版社・2014年)210頁