湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

「女教皇」アルカナのキャラモチーフ―ぺるたろ②

本稿はゲーム『ペルソナ』シリーズとユング心理学、タロットカードの世界観と同作の共通したテーマキャラクター造形とタロット大アルカナの対応について整理・紹介していく記事シリーズ、略して「ぺるたろ」の「女教皇(Ⅱ HIGH PRIESTESS)」のアルカナの記事です。歴代の「魔術師」アルカナのキャラ、園村麻希、山岸風花、天城雪子、新島真の描写の中のタロットのモチーフを読み解きます。目次記事はこちら。

 

『女神異聞録ペルソナ』『ペルソナ2罪』『ペルソナ2罰』『ペルソナ3』『ペルソナ4』『ペルソナ5』およびこれらの派生タイトルのストーリーや設定のネタバレを含みます。今回の記事では『4』『5』で指定されたことのある公式のネタバレ禁止区域に関するネタバレは含みません。

ちなみに筆者はシリーズナンバリングタイトルはやってるけど派生作品はQとかUとかはやってない、くらいの感じのフンワリライト食感なプレイヤーです。

↓前置きにペルソナシリーズとユング心理学とタロットの関わりの話もしています↓

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2023年1月19日『ペルソナ3』『ペルソナ4』がリマスター発売予定なので、ペルソナ3の読解実況動画を予定しています。よかったらチャンネル登録よろしくね。

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 以下、タロットとユング心理学の関わりや大アルカナの寓意についての記述は、辛島宜夫『タロット占いの秘密』(二見書房・1974年)、サリー・ニコルズ著 秋山さと子、若山隆良訳『ユングとタロット 元型の旅』(新思索社・2001年)、井上教子『タロットの歴史』(山川出版社・2014年)、レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)、鏡リュウジ『タロットの秘密』(講談社・2017年)、鏡リュウジ『鏡リュウジの実践タロット・リーディング』(朝日新聞出版・2017年)、アンソニー・ルイス著 片桐晶訳『完全版 タロット事典』(朝日新聞出版・2018年)、鏡リュウジ責任編集『総特集*タロットの世界』(青土社・ユリイカ12月臨時増刊号第53巻14号・2021年)、アトラス『ペルソナ3』(2006年)、アトラス『ペルソナ3フェス』(2007年)、アトラス『ペルソナ4』(2009年)、アトラス『ペルソナ5』(2016年)、アトラス/コーエーテクモゲームス『ペルソナ5 スクランブル』(2020年)などを参考として当方が独自に解釈したものです。

風花雪月の紋章のタロット読解本、年明けに再入荷します。

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『ペルソナ』シリーズの中の「女教皇」アルカナ

 ペルソナシリーズは第一作『女神異聞録ペルソナ』からタロット大アルカナになぞらえてキャラクターをデザインしてきました。特に一作で大アルカナすべてにキャラクターが当てられるようになったペルソナ3以降は「今回の〇〇アルカナ枠」みたいな「キャラ枠」の見方をすることができるようになってて、ある程度役割の文脈をみることができます。戦隊ヒーローで赤がリーダー主人公みたいなやつ。

その「役割の文脈」の中で、ペルソナシリーズの「鍵」である「心の世界」「二面性」のミステリアスさを特に表現するのが、「女教皇」のアルカナのキャラクターです。

以降、当方が考える『ペルソナ』シリーズの作中で「女教皇」アルカナモチーフとして描写されてるっぽい重要なところ赤字で表記します。

 

 ペルソナシリーズにおいて「女教皇」アルカナのキャラクターは「魔術師」と同様いつもプレイ前半からのパーティーメンバーに配置されています。常に女性であり、女性キャラのタイプの中でも「清く正しく美しい」「正統派美少女」的な清楚系の枠です。セーラーマーキュリーです。

学生の中ではえてして「ハデじゃないほうの女子」というのが「優等生」でありがちですが、キレるとヤバいことが起きるのもこういう女性です。

「魔術師」の軽薄な若者が始めた「自分ってなんだろう?」という最初の疑問から踏み出し、心の果てしない奥行き、表と裏、意識と無意識の世界の深遠さを伝えてくれるミステリアスなヒロインの謎を旅していきましょう。

 

「女教皇」の元型

 まずはカードを見てみましょう。

 左が一般的に「マルセイユ版」と呼ばれるもののひとつ、右が「ウェイト版(ライダー版)」と呼ばれるデッキの「女教皇」のカードです。

そして『ペルソナ3』『ペルソナ4』で使われたオリジナルデザインのカードがおおむねこんな感じ(ぼのぼのさんの作成。ゲームで使用されたデザインそのままではありません)。このオリジナルデザインのことを以降便宜的に「ペルソナ版タロット」と呼びますね。

『ペルソナ5』ではUI全体のデザインに合わせマルセイユ版をベースとしたカードに変わってますが、ペルソナ版タロットはかなり大胆にシンプル化するアレンジがされているので、制作側がカードの本質をどうとらえているのかがダイレクトに伝わっくる~~。

図像学的にいろいろ象徴アイテムが織り込まれているタロットの中でもダントツに暗号的なカードなので、ペルソナ版タロットに抽出されている特に重要な要素を軸にカード絵の意味を確認しますね。肌を隠す立派な聖なる衣をまとった女性が、カードナンバーである「Ⅱ」をあらわすような二本の柱の間にいます。柱の向こうには奥行きのある神秘世界が垣間見られてが描かれています。で、明らかに意味ありげな「B」と「J」の字。

カードナンバーの「Ⅱ」、そして二本の柱は、とにかく始まったばかりの世界に「手前と奥」「明るいところと暗いところ」「オンとオフ」といった二項対立の奥行きが生まれたことを表しています。月は女性性神秘性変化、ときに狂気をあらわし、Bは「神の慈悲、やさしさ」、Jは「神の試練、厳しさ」という見守る神の二面性をあらわす頭文字です。

"女教皇"は精神の成長とそれに欠かせない知識を与える存在。

――『ペルソナ3』保険の江戸川

 「魔術師」の若者は炎のように、魔法の杖からほとばしるエネルギーのように一方向に伸びて飛び出しましたが、心の世界は上に伸びるものではなく、奥行きや見えない地下に向けて深まるものです。それを「知」を通して教えてくれるのが「女教皇」です。幼児に読み聞かせをしてくれるなんでも知ってる司書さんのような存在です。

ペルソナシリーズでは一人のキャラクターに落とし込むにあたって、「女教皇」アルカナのキャラクターはこの「司書さん」と「幼児」の両方の性質を持っているのもカードの意味に合った表現です。人は自分の心の中にふたつの相反するかのような自分をみつけ、葛藤し、自分と自分で手を取り合うことで精神を成長させていくからです。ペルソナシリーズのコンセプトのド真ん中でしょ。

 

アニマ/聖なる母

 タロット大アルカナの中でも「最初のほう」、つまり1番~7番くらいまでの段階のカードは特に誰でも覚えがある神話的な人物像(ユング心理学では「元型」と呼びます。ユング心理学や元型とペルソナシリーズの関わりについて詳しくはこちら)が描かれていてわかりやすく個性的なため、『ペルソナ』シリーズの仲間キャラクターは伝統的にこれらの神話的な元型から作られています。パンチがきいてて誰にでもわかりやすいからな。

そのユング心理学の元型でいうと、「女教皇」アルカナのキャラクターは「アニマ」を内包しています。また、「女帝」とあわせて「グレートマザー」でもあります。

 

 この記事はユング心理学メインの記事じゃないのでサラッとやるのですが、「アニマ」とは一言で言うと「(男性の)心の中にある女性イメージ」のことです。逆のものは「アニムス」。

「男性ジェンダーらしい"よさ"」イメージであるアニムスが「行動力」や「論理性」などを担当しているのに対し、アニマは「魂」「情緒性」「恋愛」といった、心身のやわらかく繊細な世界とのつながりを担当します。男性が男性らしく生きるうえで「自分」に取り入れてこなかった、つまり「男の子なんだから泣かない」「男はこのくらいなんとも感じない」「男子たるもの女性にうつつを抜かしていてはいけない」……と抑圧してきた性質がアニマとして男性の心に現れ、理想の女性像として心をかき乱します。

これは男性の心に限ったことではなく、特に男女関係なく優秀で強く自立することを評価される現代の若者はみんな、こうした抑圧されたアニマの声を聴くべきだといえるでしょう。だからアニマは無意識にある否定された自分「シャドウ」と近いもので、特に「女教皇」は無意識の声を聴けと無言で訴えかける女性像です。だから、ヘタこいてシャドウに吸い込まれて戻ってこられなくなる可能性もある、なぜか危険な致命的な女でもあります。

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 「グレートマザー」は産み育てる偉大なる母としての女性像です。「女帝」に表れているのは増殖する豊かな自然のイメージ、「女教皇」に表れているのは肉感を離れた聖処女、聖母、教育する母親のイメージです。聖母マリア様や、マリア様の母(イエスのおばあちゃん)アンナのような偉大でちょっと非現実的な清き母親像です。磯野フネとか。

「魔術師」キャラたちがプレイヤーの等身大の若者らしさを映し出すもう一人の分身だったのに対し、歴代の「女教皇」キャラはプレイヤーから「ちょっと遠い、美しい客体として憧れ敬慕の視線を集める対象としてつくられています。

 

『女神異聞録ペルソナ』マキちゃん

【!!注意!!】マキちゃんの項では『女神異聞録ペルソナ』の展開の根幹に関する重大なネタバレをします。ヤベッと思ったらペルソナ3のとこまで飛ばそう。

 

 園村麻希、通称マキちゃん。高校二年で主人公のクラスメート……ですが、体が弱くたびたび入院していてあまり学校に通えていません。美術部に所属していて抽象画に才能があり賞をとっています。

体が弱い薄幸のクラスメート、という看板通りにおとなしくて儚げで心優しい美少女です。「女教皇」の元型に基づいた社会的ペルソナだといえます。

主人公たちは病院に行く用事のついでに彼女の病室を見舞い、急に容態が悪化し彼女がICUに運ばれたところで街が「異界化」、彼女は行方知れずとなってしまいます。序盤、主人公たちは彼女を探すためにダンジョンを探索することになります。そしてもう少し物語が進むと、健康で明るくキャピキャピした、彼女と同じ顔と名前を持つ、もう一人のマキちゃん?が現れ、パーティーメンバーとなります。

彼女はいったい何者なのか?

「本物の園村麻希」は、どこにいるのか?

『女神異聞録ペルソナ』は、少女の心の謎に迷い込み、旅していくことになります。

 

白と黒の心

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 PSPリメイク版『Persona』のオープニングムービーには、『異聞録』のキーでありペルソナシリーズの最初のコンセプトでもある「心の二面性」「白と黒に分かれたような心」がよく表れています。曲調、歌詞の両面でユング心理学の「個性化の過程」、意識と無意識の明暗二面性とその葛藤・統合が表現されています。

あなたがいる それだけで良かった
ただ一つの 真実だったの

 

だけどそれは夢で
(Swaying and dissolving like bubbles in the dark ocean)
気付けば誰もいない

確かなものは何も
(Reaching for the shimmering shape in vain)
ここには無いと解った

 

うつろうこの世界 何を信じて生きればいい?

――川村ゆみ『Dream of Butterfly』(2009年)

このムービー・主題歌における主人公というか視点人物はマキちゃんです。上に引用した歌詞の第一連部分はキラキラした白っぽい曲調、第二連部分は突然黒く塗りつぶすようなダークなロックギター、この二面性で驚かせておいてからの、第三連で不確かに漂うような浮遊感、その後のサビに向かって白と黒が交錯していきます。

白いのはマキちゃんが定義している自分の光の当たる部分(ペルソナ、意識)、黒いのはマキちゃんがふだん否定している暗い部分から湧き出てくる思い(シャドウ、無意識)をあらわしています。白と黒が解離し、矛盾する複数の自分の間でのたうち傷だらけになりながら前に進んでいく彼女の、そして若者たちのの物語を表現した曲です。『ファイアーエムブレム風花雪月』の「女教皇」アルカナにあたるキャラクター・エーデルガルトもこの要素を持っています。

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 マキちゃんに(というか、すべての人の心の中に)複数の矛盾する心があり、それが代表的には「白と黒」「天使と悪魔」に分かれる……というのは、リメイク版のオープニングじゃなくもともとの『女神異聞録ペルソナ』の中でも大きく取り上げられていました。メインルートである「セベク編」には大きな力をもったキーキャラクターとして「黒い女の子」と「白い女の子」が登場します。

黒い女の子は怒りにまかせて思い通りにならないものを残酷に破壊する悪魔のような「あき」、白い女の子は寂しがりで甘えん坊で主人公たちに導きを与える天使のような「まい」。これは「女教皇」のBとJ、白と黒の2つの柱です。二人はマキちゃんが首から下げているのと同じ、円形のコンパクトミラーをそれぞれ半月ずつ持っており、「なんでも願いが叶う魔法のコンパクト」だと言います。それらは融合し、ひとつの丸に還ります。二人の名前を合わせると「まき」、二人は抑圧され二極に割れたマキちゃんのシャドウだったのです。二つに分かれたコンパクトは二つに分かれた心の力であり、本来絶大な力を持っているものです。

 

 誰の心にも天使と悪魔がいるものですが、マキちゃんの心が特に極端にブチ分かれたのには母親との関係が強く影響していました。マキちゃんのママはシングルマザーで優秀なエンジニアであり(「父親がなくても子をもっている母」、「優しく理知的な女性」は女教皇の要素です)、マキちゃんは経済的に不自由することがなくても寂しい思いをしてきました。ママは仕事で忙しくてマキちゃんが入院してもなかなかお見舞いに来ることもできません。

マキちゃんはそんなママに対して、「私がこんなに心細くて寂しいのにそばにいてくれないなんて、ママはひどい」という心と「お仕事をしなかったらどうやってこんな足手まといの私を養うの? ママを責めちゃだめ」という心に強く引き裂かれ、病室で一人、矛盾に苦しみ続け……、そこから逃避する、「ママなんていない世界」を夢想するようになりました。

 

心の世界

 病室で矛盾と葛藤を肥大させたマキちゃんの心パワーは、ママが開発に携わっているとあるプログラムと同調してしまいます。異聞録で街を異界化させた「デヴァ・システム」です。本来目指された用途は空間転送(テレポーテーション)とかだったのですが、野心家若社長の方針転換で「思った通りの世界を構築できる装置」に転用されたものです。これがウッカリ発動したことで主人公たちの街は人の心の中の想像上の悪魔が闊歩する異空間となり、またマキちゃんの心パワーと同調したことで「マキちゃんの思い描く世界」をベースとすることになりました。

マキちゃんは「楽園の扉」という抽象画で賞をとったことがあります。彼女は楽園、つまり心の奥のもうひとつの世界を、扉の向こうにもつ力に優れており、異界化した都市には彼女にとっての理想があらわれています(もちろん暴走しているし野心家若社長の干渉もあるのでいろいろおかしなところは多いんですが)。そこにいるマキちゃんは例の、明るくて健康で「みんなのアイドル園村麻希ちゃん」とか自分で言っちゃうような強いマキちゃんで、ちゃんと学校に通っており、ママはいません。

異界化した街のマキちゃんはマキちゃんの心の「理想の自分」、つまりペルソナそのものですが、彼女自身はそのことを知りません。「理想のマキちゃん」は主人公たちとともに、いわば自分の心の謎を解き、自分の心を救いに行くために旅をします。そして物語の最後にマキちゃんの心の全体は統合され、「理想のマキちゃん」というマドンナは本当に目に見えない理想(イデア)となり、儚く姿を消すことになります。

 「理想のマキちゃん」が召喚する初期ペルソナは「媽祖(マソ)」、道教で信仰される航海を守護する女神です。霊力が強く厚い信仰を集め「天后」「天上聖母」とまで呼ばれ、ペルソナも青いヴェールとドレスの貴婦人のような姿をしています。「海」はウェイト版「女教皇」の衣装の波のようなドレープにも表され、無意識の心の世界を象徴します。月明かりの中深くはかりしれない心の海を進んでいく主人公たちの旅を導き、守護するペルソナです。

 

『ペルソナ3』山岸風花

 山岸風花、高校二年生で主人公とは同級生だけど別のクラス。ペルソナ使いの仲間です。

優しく物静かで理知的、フィジカルが弱めで学校を休みがちらしい……という表面要素はマキちゃんと似通っています(実は別に体は弱くありませんでした)。彼女を仲間にする際の「行方不明のか弱い女生徒の謎を解き、救出するために探す」という筋書きも実はマキちゃんと同じ「女教皇」要素ですね。マキちゃんのママのようにたいへん優秀な理系女性であり、ストレートにセーラームーンの亜美ちゃんっぽい。

またこれも亜美ちゃん要素ですが、戦闘では『ペルソナ3』から新採用された「オペレーター」の役割を担います。彼女のペルソナは直接戦闘に不向きな特殊タイプで、敵の性質をアナライズし、実況中継のように応援する声を聴かせてくれます。また、効果は指定できないが絶大な力を発揮する支援技「オラクル(天啓)」は、目に見えず人の思うままにならない神の力を現実に顕すという「女教皇」の力そのものです。

 

受難者

 風花のペルソナは「ルキア」。サンタ・ルチアとして知られるキリスト教の殉教聖人です。聖人への祈りによって母の病を癒されたルチアは敬虔なキリスト教徒となり、神の奇跡を忘れた母によって異教徒と政略結婚させられそうになるとこれをかたく拒んで迫害を受けました。彼女はいかなる迫害を受けても決して動かず、ついには両目をえぐり出されても神の奇跡によってものを見ることができました。ペルソナの姿でも目や頭部に包帯を巻いており、迫害を受けた痛々しい印象を与えます。

風花もまた迫害、クラスメートからのいじめを受けていました。間違って本屋の本がカバンにドロップしてインしてしまいアワアワしているところを「うわ、万引きだ~」と写真に撮られ、それをネタにつつかれるのです。父母との関係も良くありません。ルチアが「母にはおまえしかいないのだからいい相手と結婚してラクをさせておくれ」と異教徒と政略結婚を迫られたように、医者一族の中でポツンと一軒医者じゃない家である風花の両親はやっきになって医者になれ圧をかけてきます。

もちろん、

「ハァ? 万引き? してねーよ! そんなヒマなら本屋に在庫確認いくか? ア゛?」とか

「医者医者うるせーな! 親のメンツに子供巻き込むなやりたいことがあんだよこっちは!」

とか風花が言えればいいだけの話なのですが、風花はそんな口調にならないし成績もいいしノーと言えない日本人女性なので犠牲になり続けます。よく「いじめっこはやり返してこないような相手を選んでいる」と言います。風花のような控えめな人、多くの女性や社会的弱者は常に主張の強いものの都合の犠牲となり、その声はかき消され、意思など最初からなかったことにされます

風花はいじめられ、いつも受け身で言われっぱなしの、ネガティブな弱い自分に落ち込み、学校を休みがちになりました。不登校気味なんて進学に響くから、担任と両親の「配慮」で体が弱くて休んでいるってことになりました。事件に巻き込まれ一週間以上も行方不明となったときさえ、同じ処理。誰も風花の本当のことを話さないし、本当の風花の声はずっと隠されたまま……。

たぶんそれで風花が死んでも、「体が弱かったあの子が儚く死んじゃった、よう知らんけど」になってすぐに忘れられます。弱者の受難はそういう二段構えです。それを救出しに行き、風花の声を誰かに届くものにする、それが風花が仲間になるイベントです。

 

センシティブネス

 風花のペルソナは感知能力に優れ、なんとペルソナとして召喚していないしそもそもペルソナなんて知らんときの「素」の状態でもなんとなく地形がどうなってるのか、シャドウたちがどう動いてるのかわかるから簡単に逃げ隠れできるほどでした。

これは女教皇アルカナの「目に見えない世界への深い叡智」の力でもありますが、その力が風花の現世的性格において「空気を読む」「周りに合わせる」という出方をしているのを示す能力でもあります。「魔術師」アルカナの少年たちもトレンドを読んで軽薄に周りに合わせていましたが、「女教皇」アルカナの少女の「周りに合わせる」はニュアンスが違って、生き延びるために人の期待を鋭敏に読み取り、自分を覆い隠し、周りの望む「いい子」に擬態するという、確かに女性が身に着けがちな悲しく痛々しい生存戦略です。

風花をいじめていた同じクラスのいじめっこ黒ギャル・森山夏紀は、風花のことを「いい子ぶってるけど根っこが私らと同じ、だからどこを踏めば痛いかわかった」と言いました。「魔術師」アルカナで述べたトロとアヤセの関係と同じように、人が嫌悪したり痛烈に攻撃するのは自分の影、自分と同じ嫌なところを持った似た存在です。夏紀もまた周りの空気を読んで合わせることで必死に生存している、いつも周りの期待から外れないかビクビクしているか弱い少女だからこそ風花をいじめたのです。

ペルソナ能力に覚醒したとき、風花は自分自身の影でもある夏紀を守り、和解します。二人はその後親交を深めて親友となり、夏紀が「親の都合で突然転校させられる」という「周りに合わせていい子になるしか生き延びる術がない弱い女の子」そのものの運命をたどって離れ離れになるときにも、「お互いに関わって変われた、成長できた」「離れても心にいてずっと一緒」と心の自由運命を受け入れる芯の強さを示すようになります。

 

『ペルソナ4』天城雪子

 天城雪子、高校二年生で主人公のクラスメート。ペルソナ使いの仲間です。

クラスや学校はおろか街で随一のマドンナ高嶺の花的な清楚系和美人で、生家のせいもあって有名人です。風花と同様おとなしい「いい娘」の仮面をつけて暮らしており、対照的な親友の千枝以外とはあまり関わらず感情をあらわに見せないため、傍からはショーケースの中のお人形さんのように見えます。しかし実は気を許すと大笑いの沸点が低く、かなりユーモラスな天然ボケであることがヴェールの向こうに隠されています。

 

籠の中の姫君

 ヴェールに隠されている、と述べたとおり雪子は深窓の令嬢です。かつては温泉街で栄えたがもうすっかりガランガランな田舎町の、唯一のウリとして残っている高級老舗旅館「天城屋」の一人娘として着物を着、日舞など和の教養を習い、家の仕事を手伝う、そんじょそこらの田舎娘とは一線も二線も画した超越的な存在です。

皆が町の名家の跡継ぎ娘として常に一目置くし、特別な存在である雪子お嬢さんに庶民が絡んで邪魔をしてはいけないから……という感じで少し遠巻きにされるし、あるいは逆にマドンナを手に入れようとする知らん男たちから頻繁に突撃アタックをかけられてもいます。離れるも突撃するもどちらも雪子の本当の気持ちや実像に寄り添うものではなく、雪子自身の心を知って付き合ってくれるのは千枝だけ。

いかに「いい扱い」「モテ」「ちやほや」があったとしても、そこに本人の意思の尊重がないのなら黄金の鳥籠に幽閉されているのと同じです。雪子は「本当の私のことは誰も見てくれない、いなくていいと思っている」「この鳥籠から出たい、誰か連れ出してほしい」と思うようになります。

そんな雪子のシャドウは「西洋のドレスを着て王子様を逆ナンパするお姫様」「鳥籠の中の巨大な炎の鳥」の姿をとりました。P4のテレビの中の世界におけるシャドウは「本人が抑圧している本心の力」だけでなく「町の皆が話題の人物をエンタメ化して見たい気持ちによるデフォルメ」が入って融合しているという設定ではあるのですが、雪子のシャドウのありようには普段望まれて受け入れている「いい娘」のイメージと極端に真逆のイメージが採用されています。和風と洋風、貞淑と男漁り、儚く白く怜悧な「雪」と情熱的で赤く苛烈な「炎」。「女教皇」らしい二元の対立ですね。シャドウが大々的にマヨナカテレビの番組やダンジョンを形成するのは雪子が初めてですから、シャドウというもののわかりやすい紹介にもなっています。

 

世間知らず

 雪子は賢い優等生ですが、幼いころから老舗旅館の次期女将として箱入り令嬢してきたことで世間の常識に疎い浮世離れしたころがあります。女教皇はなにせ「世間から真理を隠すヴェール」ですから、知識や心の真理に通じていても具体的で猥雑な世俗には触れたことがないのです。この性質は『ペルソナ5』の真にもより強くあらわれています。

鳥籠から抜け出したい、と思っても世間を知らないために自分をさらってくれる「王子様」を求めてしまったり、それじゃアカンな自分を変えないとな……と思っても現状と離れた構想を持ってしまったり。実際の世界は身近でファジーな手探りスモールステップでだましだまし動いていくものなのですが、「女教皇」の理想には白か黒か、すっかり変わるか変わらないかという現実離れした苛烈さがあります。『ファイアーエムブレム風花雪月』の「女教皇」にあたるキャラクター、エーデルガルトとレアにもその性質がよく描かれています。

雪子の歩みは危なっかしいし、「世間知らず」「構想が極端」と言うと悪いことのようですが、実はそれだけとも限りません。パッキリとした変化の構想を示してくれることはリーダーに求められるカリスマ性のひとつです。浮世のベチャベチャした重力から離れた、燃え上がる導きの灯りが人間には必要です。現実的なスモールステップは、彼らを支える者たちが補えばいいのですから。

やがて雪子は、家族や旅館の従業員の皆が自分を縛り決めつけようとしているのではなく、自分を愛し支え盛り立てていこうとしてくれているのだと気付きます。天城屋旅館は雪子姫の鳥籠ではなく、女主人雪子が愛する皆を守っていくためのマントになるのです。

 

『ペルソナ5』新島真

 新島真(まこと)、高校三年生で主人公の通う学校の生徒会長。ペルソナ使いの仲間です。怪盗団を追う検事・新島冴の妹でもあります。

全国模試でも好成績を収め、スポーツ万能品行方正、容姿も端麗、家事全般できる、という将来を約束された、理想的模範的な学生です。その「いい娘」ぶりは大人社会に利用され、最初は大人社会に都合の悪い主人公たちを嗅ぎまわる「汚い大人の走狗」として登場し本人も悩みます。しかしその正義感は本物であり、思い詰めると一変、エキセントリックなまでの行動力を爆発させて向う見ずに突撃します。

 

 彼女のバイク型ペルソナである「ヨハンナ」こそはまさにタロット「女教皇」のアルカナのモデルである「男装の教皇ジョアン(ジョアンナ)」。もちろんカトリックの歴史に女性の教皇がいたという記録はないのですが、「いたのかもしれないが、もみ消されたのかもしれない男社会にとって不都合な存在」の伝説としてまことしやかに語られてきた物語です。

真のように非常に優秀な少女ジョアンナは男装してジョアンを名乗って神学を学び、傑出した才覚で高位聖職者として取り立てられることになりました。しかしパレードの最中皆の前で、突然ジョアンは赤子を出産したというのです。カッチリした偉容の教皇のパレードにもたらされた突然の陣痛の悲鳴、大量の血、そして赤子の泣き声というコントロールできない神秘にうろたえた教会は、ジョアンナが女性だったこととその存在を抹消したのだ……というあらすじです。

出産という、神秘を現実世界に登場させ開帳するいと聖なる大イベントが起こるとき、男性的な社会の秩序はうろたえ、ぶち壊されます。真が真の正義のヴェールを開帳して爆走するとき、今まで訳知り顔をして真を従順に飼い馴らしているつもりだった軽薄な大人の正しさなどには、もはやどうすることもできません。

 

全知の書物

 真は怪盗団の参謀・頭脳担当。モルガナが怪盗団に与える「狡知」とは違うタイプの知、「英知」を持っています。「高校生クイズ」とか「東大王」とかそういう感じに、およそ知りうる一般知識や思考してわかることのすべてをカバーしており、こともなげ~にその知を引き出します。彼女が仲間になるカネシロ・パレスでは子供の世界にはない金融世界や金庫の知識を適切に使ってみせて凄みを示しました。「どう使うか」は狡知の「魔術師」の担当、「女教皇」は膨大なデータベースの書を持った存在です。

女教皇の持っている「全知の書物」は単に知識が表面的に羅列されているだけではなく、人間には到達しがたい無限の真理の奥行きがあるのも特徴です。真は表面に見えている世界の奥の、「どうしてそうなっているのか」「どういう理があるのか」になめらかに潜行・分析していく感覚を持っており、コープアビリティの「シャドウ微分積分」「シャドウ因数分解」の名にもそれが表れています。真は風花のようなサポートキャラではないので、かえってこうした数的分析が「女教皇」の個性なのだとわかりやすくなっています。

ちなみに日々の食事でも常に栄養価を計算している健康オタクでもあります。

 

穢れなき白炎を秘めて

 真はブチキレて「汚い大人のイヌ」であることをやめ、ヨハンナが女性であることを隠して神学を学んだように反骨の怪盗団であることを隠して表面上いい子ちゃんを続けて大人社会を利用し返しながら、自分の思う本当の正義を行っていくことにしました。その正義の志は、父親から受け継いだものでした。

彼女と姉はもともと幼少のころ母をなくした父子家庭で、さらに父も亡くして姉妹ふたりきりになってしまいました。警察官だった父は自分の正義にのっとって殉職してしまったのです。真はまだ小さかったので、「いつも正義のために働いている尊敬するお父さん、正義を貫いて死んでしまったんだ」と感じましたが、母の代わりにも父の代わりにもなって一人で真を守り導かなければならない状況になった姉・冴は、「少々強引で汚いことでもやって勝たなければ大人の世界では生きていけない、父のような正義ではしょせん愛する者を守れず使い潰されるだけ」と自分を追い詰めるようになりました。これは『ペルソナ2』の達哉・克哉や『ペルソナ3』の「皇帝」アルカナのコミュキャラ小田桐の父に関する過去の再話で、わりとペルソナシリーズのお家芸でもあります。

冴は真を「子供は正義とかお花畑なこと信じられてお気楽ね!」「ちゃんと世間でなめられず強く生きていけるようにならなきゃダメ!」的に厳しく叱りはするのですが、なんだかんだ追い詰められながらも冴が守りかばい正しく育てようとしてきた真はまっすぐな正義を濁らせずに育つことができました。「何が何でも勝てばいい」「力ある者だけが意見を通せる」のではない、弱き者を守る本当の正義が行われる世を実現するため、真はヨハンナが教皇を目指したのと同じように警察官僚を目指して邁進していきます。

 

 

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年明けからはペルソナ3の移植をやる予定です。

↓おもしろかったらブクマもらえると今後の記事のはげみになるです。今後もswitch版のプレイによって参考画像とか引用とか加筆充実してくかなっておもいます。

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風花雪月の紋章のタロット読解本、年明けにまた追納します。

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『風花雪月』の「女教皇」キャラ周りの話です。