湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

グロスタールの紋章(隠者)―FE「無双」風花雪月とアルカナの元型④

本稿では『ファイアーエムブレム風花雪月』および主に『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の中の「グロスタールの紋章」と「ローレンツ=ヘルマン=グロスタール」「エルヴィン=フリッツ=グロスタール」およびグロスタール家と「隠者」のタロットの対応について考察しています。紋章と大アルカナの対応の目次はこちら

www.homeshika.work

以下、本編および無双の各ルートのエンディングまでのネタバレを含みます。

風花雪月の紋章のタロット読解本、再販してます。

booth.pm

 

 

 

 この『FE風花雪月とアルカナの元型』シリーズでは、作中に登場する英雄の遺伝表現型「紋章」の描写とタロット大アルカナがひとつひとつ対応して設定されてるみたいだぞ、という話題をずっと書いてきて全紋章の読解を同人誌にしたため上梓しました。

そして『「無双」増刊号』として、より高解像度に印刷したおまけタロットカードをセットにしたご愛読者様限定のミニ本を昨年6月発行いたしました。今回の記事はその内容のWeb再録第四弾です。

物理本のお求めはこちらのリンクから 本編の読解本をお持ちでない方はセットでお求めください。

 

 今回の記事内容は「グロスタールの紋章」と「隠者」のアルカナの読解です。

 

前提、「隠者」のアルカナ

 古の十傑直系のグロスタール家やその親戚、あと「闇に蠢く者たち」の血の実験で無理矢理大紋章を付与されたっぽいリシテアのもつ「グロスタールの紋章」はタロットだと「Ⅸ 隠者」に対応しています。

すでに本編から読み取れる各アルカナのモチーフについては単独記事をもうけています。↓このへん↓を前提としたうえの追加で今回はしゃべっているので、よろしければまずこちらをご参照ください。

www.homeshika.work

すでに当該記事、または拙著『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』を読了されてる方は、ざっくりした「隠者」の性質(各アルカナの意味に特に関連深いところは以下赤字であらわします)だけおさらいして本題へどうぞ。

「Ⅸ 隠者」は本編だとローレンツという若者が代表していましたが、本来は「隠居老人」的なアルカナです。『無双』のゲーム中で実際にご隠居あつかいになったりもするグロスタール伯=ロレパパが登場することで、よりアルカナの個性が補強されました。それだけでなく、グロスタール家がまさに「レスター諸侯同盟」の代表たる意味が示され同盟という政体の意味が充実したのも大きなポイントでした。

「隠者」の主な意味

正の意味

助言者、賢者、思慮深さ、精神世界の充実、瞑想、経験豊富

負の意味

陰険、頑迷、邪推する、消極的、社会性の欠如、秘匿する

 

隠者 グロスタールの紋章(ここから本文)

 グロスタール家の描写の大幅増強により、グロスタールの紋章の表現も増えました。

 一方リシテアは「帝国に自領をいじくり回された恨みと拒否感をよく口にし、干渉されないために闘志を燃やしています

また、リシテアとグロスタール伯に関する外伝ではグロスタール伯がリシテアの父コーデリア伯と激しく議論を戦わせながらも政治的同志、戦友として対等に尊重信頼し合っていることが描かれました。本編ではリシテアが「早く父母を貴族の責務から解放してラクをさせてあげないと」とばかり焦るのでコーデリア伯には弱弱しい老人のようなイメージがありましたが、グロスタール伯と遠慮容赦なく論戦するとはなかなか力強い。そんなにご老体でもないのかも。コーデリア伯が何の紋章を宿しているかはわかりませんし将来的に家を畳もうと思ってもいるのでしょうが、「父母のために早く隠居しなきゃ!」とやっきになっているのはリシテア個人の感覚なのかもしれませんね

 

グロスタール伯の「隠者」―もう一つの深謀遠慮

 ローレンツの父・エルヴィン=フリッツ=グロスタール(いわゆるグロスタール伯)が無双の「隠者」代表であり、ローレンツは彼との対比的に比較的若々しい面が描かれています。
とはいってもグロスタール伯は本編のローレンツに顕著だった「偏屈」「頑迷」「自分なりの真実を目指す」という特徴を示しているわけでもありません。彼が表すのはクロードのすべてを疑う「土」元素の深謀遠慮と対をなすもう一つのレスターらしい「土」の深謀遠慮です。

www.homeshika.work

ちなみに、小アルカナの四つのスートに四大元素が対応しているだけでなく大アルカナの各カードの性質にもどの元素寄りかがあり、頑固さや自分の領域の固守、利己をあらわす「隠者」のアルカナはもちろん土元素の性質がバリバリ強いアルカナ。各勢力の支配家の紋章が作中での勢力のテーマ四大元素に対応しているということは全然ないのですが、グロスタール家こそリーガン家よりもレスター諸侯同盟の代表たるにふさわしい! という態度にも納得です。

www.homeshika.work

 

 グロスタール伯の「隠者」の示すこの土元素らしさは、クロードと同様レスター地方の土元素の社会的な観点での「短所」「限界」も顕著に表しています。

ローレンツの「隠者」は偏屈で頭が固い老害みたいという土元素の個人的な短所をあらわし、クロード率いる同盟の方向性が利害中心でやり方が小汚く節操なしで悪徳商人と紙一重という土元素の社会的短所をあらわしていた(クロードの詳細については拙著『月の裏側―無双クロードは「何だったのか」』もご参照ください)のに対し、グロスタール伯は保身のため長いものに巻かれ、社会が悪いほうに転がっていっても言いたいことが大っぴらに言えないという土元素の社会的短所をあらわしています。

命や穏やかな生活、経済活動を至上とするレスター地方の土の価値観は現代日本人には最も共感しやすく、本編でも無双でも「クロードが戦争を止められるならとりあえずのハッピーエンドに最も近いのでは」という感覚を無意識にもちやすいです。しかし現代の日本がどんどん「平穏な生活が大事だから主張して波風立てたくない」「家族の安全のためには告発や真実追及はできない」という傾向を強めていくように、「命が軽かった」時代のほうが「どうせいつ死ぬかわからないんだからやるだけやってやる」と踏み出せた側面はあります。

悲しく難しいことに、身近な人の命や安全の価値の比重が重くなると人は正しいことのためにも戦えなくなってしまうことがあるのです。それが同盟にとっての戦いです。

www.homeshika.work

 

陰湿

 本編ではグロスタール伯は「早々に帝国派になる」「早々に復活ネメシス軍に吹っ飛ばされる」「前リーガン公やラファエルの父母が亡くなった魔獣襲撃事件を手引きした疑いがかけられている」など、めちゃ悪い奴というわけではないが、ローレンツをやな方向に進化させた感じの卑怯で気位ばかり高く陰謀体質な骨川スネ夫系貴族なのか?という印象がもたれるような描写でした。

フォドラ的にもそういう評判であるようで、現実的な政治の解像度を上げてきた無双のモブ会話では「伯爵は自ら戦う気などない(怒)でも伯爵のご機嫌を損ねてはのちのち厄介だから言うこと聞いてご子息にも気を遣わないと」だの「伯爵が盟主になって得をするのはおそらく伯爵だけだからそうはならなかった」だのなかなかの言われようです。「エドマンド辺境伯はま~た金しか出さない」とかより悪印象の評判だよ。

 

 実際はグロスタール伯としてもいろいろ考えて領主としての最善を行い、コーデリア家の窮地が感じとれたのに見殺しにしたのも帝国との関係を考えれば無理からぬこと、前リーガン公事件も闇うごに裏操作された濡れ衣だったことが無双では判明しました。それにしても普段から陰湿な性格ややり口であることは事実のようです。

ジュディットは「(クロードとグロスタール伯は)あくどい企てに長けている点で案外気が合うのかも」と言っていますし、グロスタール伯はミルディン大橋付近において帝国軍の動きを抑えるため、黄燎ルートでは嫌がらせをして進軍を遅らせる、赤焔ルートで帝国に臣従し隠居の身になったら帝国の管理するところとなったミルディン大橋でこれ見よがしに毎日釣りをして牽制し続けるという策をとっています。デバフデバフ。

青燐ルートでクロードがグロスタール伯について語った「面従腹背」という言葉がまさにそれですが、正面衝突ではなく「いや~私はただの老人であって敵意とかじゃありませんよ~?」というおとぼけ面をして相手にデバフをかけるタイプの座り込み型プロテストは戦士でも王者でもない隠遁賢者の戦い方です。

 

泥をかぶっても

 前リーガン公事件は濡れ衣だったのですが、普段の行いの「印象」がよくない(行為が善でも)と、高名な人ほどあらぬ疑いをかけられてしまうものです。しかしグロスタール伯は自分の評判が悪辣っぽくなることは意に介していないようです。たとえばこれが王国的な騎士貴族の感覚であれば、なんやかんや大義をつけて行いを名誉化正当化し自分にもそれを信じ込ませられる範囲の行動をしたいものですが、伯にそんなのは必要ない。ドライな判断です。こういうところはクロードやエドマンド伯などの代表的レスター諸侯に共通点する信条でもあります。

「我が子同然」「私の子供たち」と呼び責任をもって慈しむ領民たちの安全と利益を守るためどんな状況でも自領の有利をつかもうとし、体裁や格好のよさよりも汚れても実をとるグロスタール伯はまさに土元素を体現した名士です。

誰になんと悪口を言われようと、恥じることはありません。自分の心だけが本当のことを知っていればいいのです。

 

次回こそは「無双」増刊号は「0 愚者」と「Ⅰ 魔術師 聖マクイルの紋章」の二本を一記事に収録予定。愚者は紋章の話ではなくシェズ&ラルヴァの立ち位置の話なので、物理本のアルカナとの対応記述にラルヴァの正体と思惑と無双テーマについての読解も追加するかも?

 

ペルソナシリーズのアルカナの旅路もよろしくね!!

www.homeshika.work

 

文庫50ページとタロットカードのセットの書籍版、通販してます。本編の分厚い本をまだ持ってない方はこれだけ読んでもいまいち意味わかんないのでセットでお求めくださいね。

shojiro.booth.pm

 

 

www.homeshika.work

↑ブログ主のお勉強用の本代を15円から応援できます

 

あわせて読んでよ

www.homeshika.work

www.homeshika.work