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ゴネリルの紋章(運命の輪)―FE「無双」風花雪月とアルカナの元型⑤

本稿では『ファイアーエムブレム風花雪月』および主に『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の中の「ゴネリルの紋章」「運命の輪」のタロットの対応を、紋章をもたない「ホルスト=ジギスヴァルト=ゴネリル」中心に考察しています。紋章と大アルカナの対応の目次はこちら

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以下、本編および無双の各ルートのエンディングまでのネタバレを含みます。

風花雪月の紋章のタロット読解本、再販してます。

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中世近世ヨーロッパ文化からみるフォドラの文化舞台裏シリーズのまとめ、紙の同人誌も4冊完売したやつのまとめ本を11/16スパコミで出します!

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先行予約もはじめてます。Xのフォロワー様には電子版の閲覧もしていただけるようにする予定です。

 

 

 

 この『FE風花雪月とアルカナの元型』シリーズでは、作中に登場する英雄の遺伝表現型「紋章」の描写とタロット大アルカナがひとつひとつ対応して設定されてるみたいだぞ、という話題をずっと書いてきて全紋章の読解を同人誌にしたため上梓しました。

そして『「無双」増刊号』として、より高解像度に印刷したおまけタロットカードをセットにしたご愛読者様限定のミニ本を昨年6月発行いたしました。今回の記事はその内容のWeb再録第四弾です。

物理本のお求めはこちらのリンクから 本編の読解本をお持ちでない方はセットでお求めください。

 

 今回の記事内容は「ゴネリルの紋章」と「運命の輪」のアルカナの読解です。

 

前提、「運命」のアルカナ

 古の十傑直系のゴネリル家のもつ「ゴネリルの紋章」はタロットだと「Ⅹ 運命の輪」に対応しています。

すでに本編から読み取れる各アルカナのモチーフについては単独記事をもうけています。↓このへん↓を前提としたうえの追加で今回はしゃべっているので、よろしければまずこちらをご参照ください。

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すでに当該記事、または拙著『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』を読了されてる方は、ざっくりした「運命の輪」の性質(各アルカナの意味に特に関連深いところは以下赤字であらわします)だけおさらいして本題へどうぞ。

「Ⅹ 運命の輪」は実際に宿していてキャラクター描写があるのは本編・無双通してヒルダちゃんだけですが、その兄ホルストさんは無双において「血に紋章を持ってなくてそのことをキャラクターとしての重要テーマに持っているけど、家紋としてのゴネリルの紋章を背中にしょってる」という、カード外から見た「運命の輪」というか、運命の神と神ならぬ人とのかかわりを描く存在として登場しています。

 

「運命の輪」の主な意味

正の意味

運命対自由意志、ターニングポイント、幸運、大きな変化、調和

負の意味

アクシデント、不運、定めに縛られる、タイミングが悪い、流される

 

 

運命の輪 ゴネリルの紋章(ここから本文)

 本編では級長以外の生徒キャラの並び順がなぜか昭和のように男女別だった弊害もあり、「エーデルガルトにはヒューベルト」「ディミトリにはドゥドゥー」といった明確な副官がクロードには存在しなかったのですが、ヒルダのみ少し引き抜き制限があるなど「ヒルダが実質副官」ともいわれていました。無双ではついにヒルダちゃんはキャラ名簿でクロードの隣に!  正式な副官キャラとなりました。やったー!

もちろんヒルダは従者ではなくむしろリーガン家とタメを張れる名家のお姫様なのですが。実はそこが、クロードとレスター地方のテーマを表現するために重要なところです。

 もともと本編から「Win-Win の経済サイクルを回す」「美と娯楽」「自由」というレスターの尊ぶものを体現した女神のようなヒルダちゃん。

無双ではクロードが弱さや挫折を見せていくシナリオ上、レスターの民は支配者にひたすらついていくのではなく、それぞれに自由に考えて自立して支え合うことができるし、そうするべきだということが描かれたため、「制約のうちに生まれても自由意志で生きようとする」「ないものを出し合って広い世界の中で調和をとる」をあらわすヒル
ダがクロードのそばにいることは意味深いです。

ヒルダはクロードに仕える使命があるわけでも、不可欠な力があるのでもありません。おうちに帰って大事に守られてても全然いいのに、なんの強制力もなく、いたいだけそこにいて、別に何するでもなくクロードの愚痴を聞いて笑ったり泣いたり、ほっとけなくなって奮闘したりする

それが、まだヒルダのようなほんの一部の人間にしか叶わない、クロードの目指す自由な世界の人間のありかたです。

 

ホルストの場合―女神の勇者

 本人が紋章をもたず、本人の気性的には「確かにこれは『運命の輪』じゃないわ」と納得のいく感じであることが判明したホルストですが、キャラの表すテーマや立ち位置としてはおおいに「運命の輪」とともにある表現がされています。

まず、拙著『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』でもすでに述べたのですが、ホルストは本編の情報からして重い運命の輪を「正攻法で回そうとするほう」の人間です。ヒルダのように先天的な要領の良さ運命と調和を分ける線が見える天才のセンスをもつのではなく、怠けず腐らずズルをせず鍛え挑み続けるまっすぐな努力の天才そんな人間に運命の女神は微笑むのです。彼の性格と血に紋章はなくとも、彼が背中のマントに負ったゴネリル家の車輪型の紋章は彼を祝福してやまないでしょう。

 

 そして「レスターの自由の女神」ヒルダが自由意志を謳歌できているのは、ホルストの頑張りの賜物でもあります。

ヒルダとシルヴァンの境遇が似ていることは本編から周知の事実です。どちらも外敵への切実な備えのために英雄の遺産を管理する家柄で、紋章をもたぬ上のきょうだいが嫡子としてしっかり教育されているところに、紋章をもつ下の子として生まれました。そこまで同じにもかかわらずこの違い。

シルヴァンがかわいそうとかマイクランに問題があるとかいうよりホルストが異常なのです。ホルストが紋章もないのに 120%の成果を叩きだしている努力ゴリラだから。

ところで、黄燎ルートではレスター連邦国は中央教会トップに敵対して東方教会を国教に立てるという、こすっからくてスーパードライな方策をとることになります。敬虔なセイロス教徒として知られるジュディットや真面目で正しきセテス系人間であるホルストがこれに全然OKを出すことに違和感をおぼえた人もいるかもしれません。

近年の同盟諸侯の中では、「主とは人の幸せを支え導いてくれる感謝すべきものであって聖地におわす大司教の権威は不可欠なものでもなく、もし人を幸せに導かないとしたら現在正しい主の教えとはいえない」という感じの、現代社会における伝統宗教のような感覚なのでしょう。たとえばキリスト教でも近年同性愛者は罪であるといえない、同じ神の作った命だとの立場をローマ教皇が示し、同性愛者への差別的表現を口にしてしまったことを謝罪するという事件までも起こりました。

時代が変わるならば信仰も変わり、そして人の意思と行動には、運命よりも強く時代を変える力があるはず――それがホルストの信条です。ホルストがクロードのこすっからいやり口にもノリノリなのは、中央教会が代表する古いセイロス教の秩序では自分は領主に向いていないことになり、愛しのヒルダの自由な人生が「ゴネリル公」に縛り付けられることになっているからです。

紋章を持たざる身で素晴らしい領主、名将として名を轟かせ、「生まれのガチャで、紋章の有無で人生は決まらない。誰でも自分のがんばりたいことをがんばればいい。いろんな人生があっていい」と証明することが彼の夢です。貴族として将としてがんばりたい自分のためでもあるし、「あたし嫡子じゃなくてよかった~。ゴネリル公って響きがかわいくないもん」とか言うヒルダを守ることにもなります。

クロードを支持するホルストの戦いは、ヒルダの自由を可能にするレスター地方のユルい気風を堅守し、問題がなければパルミラと戦う家業の強制もなくすための思想と利害が一致した戦いなのです。

 

次回こそは、次回こそは(毎回言ってる)「無双」増刊号は「0 愚者」と「Ⅰ 魔術師 聖マクイルの紋章」の二本を一記事に収録予定。愚者は紋章の話ではなくシェズ&ラルヴァの立ち位置の話なので、物理本のアルカナとの対応記述にラルヴァの正体と思惑と無双テーマについての読解も追加するかも?

 

ペルソナシリーズのアルカナの旅路もよろしくね!!

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文庫50ページとタロットカードのセットの書籍版、通販してます。本編の分厚い本をまだ持ってない方はこれだけ読んでもいまいち意味わかんないのでセットでお求めくださいね。

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