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「正義」アルカナのキャラモチーフ―ぺるたろ⑧-1

本稿はゲーム『ペルソナ』シリーズとユング心理学、タロットカードの世界観と同作の共通したテーマキャラクター造形とタロット大アルカナの対応について整理・紹介していく記事シリーズ、略して「ぺるたろ」の「正義(Ⅷ Justice)」のアルカナの記事です。下の対応キャラを見ていただいてもすごい多いせいで激烈に長くなってしまったので、今回は前編です。

歴代の「正義」アルカナのキャラ、上杉秀彦(ブラウン)、周防克哉、(伏見千尋、天田乾、堂島菜々子、明智五郎(後編))の描写の中のタロットのモチーフを読み解きます。目次記事はこちら。

『女神異聞録ペルソナ』『ペルソナ2罪』『ペルソナ2罰』『ペルソナ3』『ペルソナ4』『ペルソナ5』およびこれらの派生タイトルのストーリーや設定のネタバレを含みます。

ちなみに筆者はシリーズナンバリングタイトルはやってるけど派生作品はQとかUとかはやってない、くらいの感じのフンワリライト食感なプレイヤーです。

↓前置きにペルソナシリーズとユング心理学とタロットの関わりの話もしています↓

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2024年2月2日に『ペルソナ3 リロード』が発売しましたので、逆に(?)ペルソナ3「フェス」のほうの読解実況動画を配信完結しました(アイギス編含む)。現在『メタファー:リファンタジオ』を読解中です。よかったらチャンネル登録よろしくね。

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 以下、タロットとユング心理学の関わりや大アルカナの寓意についての記述は、辛島宜夫『タロット占いの秘密』(二見書房・1974年)、サリー・ニコルズ著 秋山さと子、若山隆良訳『ユングとタロット 元型の旅』(新思索社・2001年)、井上教子『タロットの歴史』(山川出版社・2014年)、レイチェル・ポラック著 伊泉龍一訳『タロットの書 叡智の78の段階』(フォーテュナ・2014年)、鏡リュウジ『タロットの秘密』(講談社・2017年)、鏡リュウジ『鏡リュウジの実践タロット・リーディング』(朝日新聞出版・2017年)、アンソニー・ルイス著 片桐晶訳『完全版 タロット事典』(朝日新聞出版・2018年)、鏡リュウジ責任編集『総特集*タロットの世界』(青土社・ユリイカ12月臨時増刊号第53巻14号・2021年)、アトラス『ペルソナ3』(2006年)、アトラス『ペルソナ3フェス』(2007年)、アトラス『ペルソナ4』(2009年)、アトラス『ペルソナ5』(2016年)、アトラス/コーエーテクモゲームス『ペルソナ5 スクランブル』(2020年)などを参考として当方が独自に解釈したものです。

風花雪月の紋章のタロット読解本、再販してます。

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『ペルソナ』シリーズの中の「正義」アルカナ

 「正義」アルカナは1〜7番の定番キャラクター像からすると配置されているキャラクターの個性の幅がかなりとっちらかっています。ブラウンと菜々子が同じアルカナて。

これは「正義」が反対のものの釣り合いを意識する天秤のアルカナであることと、あと「正義」アルカナに2通りの番号があることにも関係しているんじゃないかなーとおもいます。

広く流通している二種類のタロットカードセット「マルセイユ版」と「ウェイト(ライダー)版」の大きなちがいは、「正義」と「力(剛毅)」の位置の入れ替わりです。古くからある「マルセイユ版」系のタロット(左側)では「正義」が8番、「力」が11番なんですけど、比較的新しく作られたウェイト版(右側)の解釈ではそのふたつの順番が入れ替えられており、「正義」は11番になっています。描かれている象徴はほぼ同じですけどね。

ペルソナシリーズにおいてはどっちなのかっていうと、アルカナ対応キャラクター描写が強化された3以降で8番として扱われている関係上今回の記事は8番にすべてまとめたけど、システム上の表記では異聞録と罪罰の正義は11番になっています。

特にペルソナ3から明確に意識されている、タロット大アルカナの順番が魂の成長過程を表すという「愚者の旅」の見方からすると、「11正義」は「8正義」に比べてより進んだ、成熟した段階を表しています。……というより、「8正義」がまだ幼い正義をあらわしていると言った方が理解しやすいかもしれません。「正義」という言葉から受ける印象にストレートな正義の大人であるのはやはり罪罰の克哉で、むしろ異聞録と罪罰両方に同じアルカナの別キャラがいるのは「正義」アルカナだけなので、ブラウンは「8正義」寄りなのかもしれないですね。

 「8正義」は1〜7番までの「価値観の学習」「守られた子供時代」を終えたすぐあとのアルカナ。

ペルソナシリーズの「8正義」キャラクターの顕著な特徴は、「失われた正義のバランスをどうにかとろうとしている、傷ついた子供」です。

以降、当方が考える『ペルソナ』シリーズの作中で「正義」アルカナモチーフとして描写されてるっぽい重要なところ赤字で表記します。

 

「正義」の元型

まずはカードを見てみましょう。さっきも見たけど。

左が一般的に「マルセイユ版」と呼ばれるもののひとつ、右が「ウェイト版(ライダー版)」と呼ばれるデッキの「正義」のカードです。

そして『ペルソナ3』『ペルソナ4』で使われたオリジナルデザインのカードがおおむねこんな感じ(ぼのぼのさんの作成。ゲームで使用されたデザインそのままではありません)。このオリジナルデザインのことを以降便宜的に「ペルソナ版タロット」と呼びますね。(『ペルソナ5』ではUI全体のデザインに合わせマルセイユ版ベースのブラックジョーク盛り盛りカードに変わってます)

基本的にはカード名になっていることもある「裁判の女神」が描かれている(彼女のもつ象徴的な意味は次の項で述べます)のですが、ペルソナ版タロットの「正義」アルカナは裁判の女神そのものは描かれていません。「剣」「天秤」という彼女のアトリビュート、ブツのみに図柄をきわめてシンボル化しているんですね。そして剣の中央線を境に白と黒、白と赤を線対称の左右として強調して描いています。

「正義」アルカナの本体は左右のバランスをとることと、それらを「裁断」する剣であることを表しています。裁判の「裁」。

なんだけれども、この天秤は地についているのが剣の切っ先であったり、垂れた鎖で吊られていたり、天秤の両皿が爪楊枝のようなものでチョイと引っかかっているだけであったりとバランスゲーム危機一髪やじろべえです。なんというあやうさ。重い刃物がついてんねんぞ!

この「刃物がついてる危険なやじろべえ」こそ「8番の正義」、子供時代を旅立ったばかりの孤独な少年たちです。

 

徳性「正義」

 「女帝」にあるグレートマザー元型のようなかんじで心の中のはたらきが人物のかたちをとるのとはちょっと違って、タロットの中には「人間の意識すべき理想像」つまり「美徳」を擬人化した人物が描いてあるやつもいくつかあります。「正義」のタロットの別名にしてふつうカードに描かれている人物である「裁判の女神」も徳性の擬人化のひとつです。

この女神は「正義」を、「公正(フェアネス)」という美徳を擬人化したものですね。法治の象徴として一般的にも使われてて、『ペルソナ5』の異世界でカジノ化してすら裁判所にはこの女神の美徳の像が輝いています。

イカサマカジノ化したペルソナ5の裁判所の女神像(もう女神じゃないよこれぇ)は、「WIN」の文字のネオンが片方の皿にデカデカと乗って均衡も何もぶっ壊れでしたが、つまりここでいう正義の美徳とは司法のことだし、法の正義は「天秤の均衡」だということです。

天秤はゆれるから、永遠絶対に正しい法などなく、常にサボらずバランスを考え続けなければなりません。そして永遠絶対の正しさなどないとわかったうえで、その時その時で正邪を剣によって「裁断」する覚悟をもたなければならないのが裁判というものです。特に11番のウェイト版の「正義」アルカナは、そういうバランスの覚悟について描いています。

公正の美徳を描いた11番っぽい「正義」は『風花雪月』のキッホルの紋章のほうに強く現れてるのでそっちもご参考までに。

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女神異聞録ペルソナ ブラウン

上杉秀彦(うえすぎ ひでひこ)、通称ブラウン。高校二年生で主人公のクラスメイト。ペルソナ使いの仲間です。

「でひゃひゃ」という底抜けに陽気な笑いとしょうもないダジャレが特徴的なお調子者の道化者。ムードメーカーで、数年後はお笑い系MC芸能人としてわりと人気者になっています。

コイツが「正義」ってマジで言ってる?

 

ゆれる天秤

 ブラウンは底抜けに明るくデリカシーに欠けるようでいて、実はとても繊細で気が小さいやつです。武器が「槍」なのも彼の「カッコよく活躍したいのはやまやまなれど、前衛のみんなのちょっとだけ後ろに調子よくついていってチクチク敵にダメージを与えたいぜ~」という気弱さのあらわれ。武器と銃の性能上、こいつを仲間にしていると自然~とそのポジに配置することになります。

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ところで、「お調子者」といえば「魔術師」のアルカナにも多く登場しましたね。ブラウンの「お調子者」はそれとはちょっとニュアンスが違っています。

運やムラッ気に左右される「魔術師」の少年たちの「お調子」とは違い、ブラウンのそれは「強きを助け弱きをくじく」「虎の威を借る狐」「自分が強者側のときはとことんデカい態度、旗色が悪くなると土下座」という周りの空気と力関係を読んでバランスをとるもの。だから軽薄でも先生や上の立場の人間には案外ウケがよく、生存戦略を展開できているというわけです。調子のいい奴。

まさしく「天秤」ですが、これは基本的には「正義」としては逆位置的な、未熟な天秤の使い方です。じつは「正義」のアルカナには「不正義」「断罪される」という意味もあって、いくら逆位置でもそこまでド真逆に振り切ることなくね?と思ってしまいますが、なぜ「正義の天秤」の考え方が「不正義」につながるのか、ブラウンを見ているとわかります。

ブラウンほど笑えるレベルの極端さでなくとも、「処世術」は「道徳」や「正義」と見かけ上似ているところがあって、われわれはしばしばそれを混同してしまうのです。しかしその精神は逆と言ってもいいもの――つまり、卑怯――だからです。

この曲すき

 

正義なき世の正義の価値は

 ゲーム本編では終盤の一瞬に語られるだけなのですが、ブラウンがこうした未熟な「天秤」の性質を強めたきっかけは中学時代に経験したいじめでした。

授業中にウンコをもらしてしまったことから「(茶色)ブラウン(こ)」とからかわれいじめられ、繊細な彼はひどく屈辱と傷を負いました。「ブラウン」というあだ名自体は諸事情で変えられなかったけれど、彼は同中(おなちゅう)の人間がいない遠い高校に進学し過剰に陽気なオモロ人間として高校デビューすることに決めたのです。

はっきりと意識的なウソとして今のキャラの「仮面」を被っている数少ないキャラクターなんですね。こういうのも元型的な大きな人物像を描く「1〜7番」のアルカナの世界とはひと味違う人間らしさかもしれません。

本当は、授業中に大便を漏らしてしまうなんてめちゃくちゃショックで、心細く、そのときの彼の心は何より守られるべきものであったはずです。もっと小さい子供が家の中で漏らしてしまってショックを受けていたならさ、親が「びっくりしたね、でも大丈夫だからね。着替えだよ。まだおなかが痛かったりする?」とか優しく介抱し励ましてくれたはずでしょ? でもそこは安心な家の中ではなく、彼はもう中学生で幼児ではなかったのです。もう人生の流れも8番とか11番だからさ……。

「傷ついた者は保護されるべき」という正義は教室の中には輝かなかった。それどころか彼は追い打ちを受けまくりました。ブラウンは、正義の味方が自分を助けてはくれないことを知りました。「戦車」のシーンで育った家を旅立った英雄は、もう安全な壁の中の教科書通りの常識に守られない海千山千の道をゆくことになります。子供時代の終わったその先――それが「正義」の世界のそれまでと違うところです。

人が正義について考え、卑怯や保身に惑いながら行動しなければならないのは、皮肉にも現実では神やヒーローが正義を示してはくれないからなのです。

「処世術」はたどり着くべき理想の答えではないでしょうが、どうあれブラウンは絶対の正義が守ってくれない世界でありものの天秤と剣を使ってサバイブしていくという決断をしました。それは確かに自分の人生に責任をもった大人への立派な一歩であり、彼はそれから先も「生存戦略」を調整し続けていけるでしょう。

 

ペルソナ2 周防克哉

周防克哉(すおう かつや)、25歳刑事。『罪』では主人公の周防達哉の兄であるNPC、『罰』ではペルソナ使いの仲間です。

生真面目で正義感が強く優秀有能。悪魔相手にも「現逮(現行犯逮捕)だ!」と言ってしまうほど。逮捕してその後どうするんだよ。シリーズ中最も一般的な「正義」アルカナらしさのイメージのど真ん中にいます。

真面目で優秀な「かっちゃん」と周りに心配をかける「たっちゃん」の兄弟というあだち充『タッチ』由来のネタとみられる関係性も、「二者のバランスをとる正義」を思わせます。


不完全な決断

克哉は今はけっこうデキるデカ(国立法学部卒)として活躍していますが、本当はお菓子づくりが大好きで学生時代にはパティシエになるため製菓学校に進むつもりでいました。

しかし達哉と克哉の父が刑事としてヤバ事件で謎の汚名を負い殉職してしまったので、克哉は早く幼い達哉を守れるようになるため、いつか父の死の謎を解決できるかもしれない日のためにも、大好きなものにかかわる夢の人生を捨ててもうひとつの道に進むことに決めたのでした。この筋書きは『ペルソナ5』の新島姉妹でもアレンジ再話されています。いや冴さんはお菓子作りの人ではないけど。

他にもカレーが大好きなのに刺激物が苦手な体質であったり、猫が好きなのに猫アレルギーであったり、弟を大切に思っているのにうまくいかないとか、好きになった女性が弟の運命の人だったりと、克哉にはなんの非もなくともなんか愛するものに近づけません。克哉の人生はそんなのばっか。

しかし克哉はそれらを内心残念に思いながらも腐らず、夢に見たのとは違う刑事の仕事も社会正義に対する責任感と誇りを持ってマジにやっています。

これは克哉が真面目善良な好人物だからでもありますが、人生は結局「自分のここがこうでなかったら」「あのときあんなアクシデントがなければ」「うまくいくところだったのに、あいつがいるせいで」という不本意な選択の連続でしかありえないのです。完全無欠な「進路」「正解」「正しさ」を選べる人生など、実はどこにもない。人は仕方無しに選んだそのときそのときの最適解の先を自分の人生として引き受けて生きていくしかない。

それが「正義」のあらわす「決断」ということの意味です。

 

人はやり直せる

克哉だけでなく、ペルソナシリーズには警察や公安、ジャーナリズムが出てきがちな伝統があるといえます。中高生の社会的な成長を描くジュヴナイルとして、これらは社会正義の価値や不完全さについて考えさせる役割を果たしています。

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『罰』において現職刑事の克哉は君子的な「法の下の正義」を担当し、公安を辞めて義侠的な「超法規的報復」の象徴であるパオフゥの正義のありようと対照をなしています。

『罰』は大人の現実的社会のつらみを描く物語なので、表社会の法律やきれいごとだけではうまくいかないことを痛感させられる場面も多いです。しかしそれでも法やきれいごとを守り続けることは価値を失わないという覚悟と心の強さで、克哉は輝いています。

超法規的な仕事人の「裁き」は法が裁けない悪を物理的社会的にサツしたり十倍返ししたりします。人に罪を着せた罪悪感にかられ、超法規的に「裁かれること」を求めて自己犠牲のうちに死のうとする人もいます。確かに、そうすれば「スッキリ」はすることでしょう。でも克哉はそれを認めず、同じ警察組織の中で贖罪のため死にゆこうとする人にちゃんと法の下で裁かれ罪を償ってほしいと言う。

それは法の裁きの目的は「スッキリ」「スカッと」などではなく、人に罪と罰を受け止めさせやり直させることだからです。

人の人生は不完全な選択の連続で、それが「正義」アルカナに含まれている教訓だとさきほど言いました。しかし、やむを得ず過ちを選択したからといって、開き直って生きていってはいけない、軌道修正ができるし、しなければならないというのもまた、「正義」の天秤の意味です。間違ったからといって、終わりにするのがいいのではない。終わらせず、向き合って越えるほうがずっと大事で、勇気がいる。それが「11正義」の、「間違いながらも覚悟と勇気をもって社会をやっていく」という意味だ。

それが、『ペルソナ5』に代表されるようにどうしても超法規的な力で世直しをすることになるペルソナシリーズに、あえて無力なように見える警察組織を登場させ続ける理由だとおもいます。また、この「間違いながらも覚悟と勇気をもって社会をやっていく」ペルソナ系社会正義のありようは新作『メタファー:リファンタジオ』のテーマのひとつにもなっています。

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後編も本文はもうできてるので近日中に後編も更新したいところです。

 

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ペルソナ5ロイヤルの読解実況完結してます。再生リストからアーカイブが見られます。

↓おもしろかったらブクマもらえると今後の記事のはげみになるです。今後もswitch版のプレイによって参考画像とか引用とか加筆充実してくかなっておもいます。

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