本稿では『ファイアーエムブレム風花雪月』および主に『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』の中の「ダフネルの紋章」と「イングリット=ブランドル=ガラテア」およびガラテア家、「ブレーダッドの紋章」と「ディミトリ=アレクサンドル=ブレーダッド」「先王ランベール」および紋章をもてなかった「リュファス=ティエリ=ブレーダッド」と「戦車」「力」のタロットの対応について考察しています。紋章と大アルカナの対応の目次はこちら。
以下、本編および無双の各ルートのエンディングまでのネタバレを含みます。
風花雪月の紋章のタロット読解本、再販してます。
この『FE風花雪月とアルカナの元型』シリーズでは、作中に登場する英雄の遺伝表現型「紋章」の描写とタロット大アルカナがひとつひとつ対応して設定されてるみたいだぞ、という話題をずっと書いてきて全紋章の読解を同人誌にしたため上梓しました。
そしてこのたび『「無双」増刊号』として、より高解像度に印刷したおまけタロットカードをセットにしたご愛読者様限定のミニ本を6月発行いたしました。パフパフ~~ 今回の記事はその内容のWeb収録第三弾です。
物理本のお求めはこちらのリンクから。パスワード式の限定品ですので、お手元に『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』の本をご用意ください。
うっかりお手元に本がなくてパスがわからない方は記事の最後にヒント書いたよ
今回の記事内容は「ダフネルの紋章」と「戦車」のアルカナ、および「ブレーダッドの紋章」と「力」のアルカナの読解です。
前提、「戦車」と「力」
古の十傑直系の本家であるダフネル家では途絶え、ガラテア家にギリ伝わる「ダフネルの紋章」はタロット大アルカナの「Ⅶ 戦車」に、ファーガス王家に伝わる「ブレーダッドの紋章」は「Ⅷ 力」に対応しています。
すでに本編から読み取れる各アルカナのモチーフについては単独記事をもうけています。↓このへん↓を前提としたうえの追加で今回はしゃべっているので、よろしければまずこちらをご参照ください。
すでに当該記事、または拙著『紋章×タロット フォドラ千年の旅路』を読了されてる方は、ざっくりした「戦車」「力」の性質(各アルカナの意味に特に関連深いところは以下赤字であらわします)だけおさらいして本題へどうぞ。
「Ⅶ戦車」と「Ⅷ力」はウェイト版では番号が隣接しているだけでなく、風花雪月のファーガス神聖王国においては「戦士・騎士の光と闇」のような意味合いをあらわすセットです。それは、イングリットが光でディミトリが闇という単純なことじゃなくて、どちらにも別のライトサイド/ダークサイドがあらわされているっていう意味で。
「戦車」の主な意味
正の意味
体育会系の若者、栄光の旅立ち、勝利、開拓、有利な情勢、成功体験
負の意味
未熟、挫折、前しか見えない、直情的、復讐、知性に欠ける
「力」の主な意味
正の意味
武道の師、無限の力、獣性を抑える理性、堅忍不抜、意志強固、寛大
負の意味
暴走、欲望に負ける、決着がつかない、自責、苦痛を受ける
戦車 ダフネルの紋章(ここから本文)
本編でも「ペガサスナイトといえばイングリット」、地の猥雑なぬかるみに足をとられないさわやかな機動性と清廉な若き英雄の絵面では他の追随を許さなかった物語の理想の騎士・イングリットです。
無双では彼女の実家ガラテア家の土地がただ貧しいだけでなく天馬の好む牧草地を有していること、ガラテアの天馬騎士は精強でよく統制のとれた騎士団として他国にも名を響かせているということが新たにわかりました。ガラテア天馬騎士団と英雄の遺産が、新参のガラテア家をして目の据わった北部名門諸侯と肩を並べるほどの「ご恩を賜り、他の名家に劣らぬ待遇を得」させたゆえんなのでしょう。
それにしても人間の食べるものもないのに軍馬の産地で、領主は空腹に苦しみながらも輝く槍を振るうキラキラの英雄であることを皆に求められ、自分もそれに応えたいと思っているとはまさに武士は食わねど高楊枝、ガラテア家はアネットとはまた少し違う側面から「ザ・王国貴族」の苦しみの典型例を高解像度で示してきています。
作中の時代ではかなりレアものになってしまっているダフネルの紋章(十傑の直系である本家でさえ数代途絶えている)をもつと考えられるキャラクターが、無双にはイングリットの他にもう一人語られました。イングリットの祖母です。
シェズとイングリットの支援会話の話の中で「先代のガラテア伯」として語られること、その息子ということになるイングリットの父の代は正式にはイングリットへの中継ぎとして暫定的に領地を相続している状態であることから考えて、イングリットの祖母はダフネルの紋章を持った最後のガラテア伯だったということになります。
シェズがベルラン団長から聞いたことのあった逸話は、最初は単なる雇い主だった領主に忠誠を誓った「トビアス傭兵団」は剣を捧げるだけでなくその領地の発展のために尽力したというものでした。傭兵団は傭兵の仕事の枠を越え、領主のほうも「傭兵は戦いのときだけ金で雇う、貴族とは暮らす世界が違うもの」という固定観念を越えて互いに両の車輪のごときビジネスパートナーシップと友愛で結ばれた……という奇縁の逸話の「領主」というのが、イングリットの祖母だったのでした。
「トビアス傭兵団は貧しい土地を必死で開墾した」という話からして祖母の代からすでにガラテア領の実りの乏しさは目立っていたようです。さらに、イングリットの父の代ではどうしても紋章持ちの子が得られなかったという事情、そして「祖母」が女性であることからして間違いなく跡継ぎをつくって産んで無事に育てるという大事業にも途方もない力を使ったはずです。
ダフネルの紋章を持っていたなら小器用でないまっすぐな性情をしていたであろうイングリットの祖母が「やることが……やることが多い……!」と大わらわになったであろうことは想像に難くありません。その「やることの多さ」を柔軟に支え、ともに難局の坂道発進S字クランクを乗り切った友が彼女にはいたのです。
そして、本編からイングリットは自領の農業事情の改善につくす進路が多めですが、トビアス傭兵団が彼らの主に「農地の開墾」「商売」を捧げたというのもイングリットの「戦車」が進むべき道の暗示です。カードイラストの構図でもそうした通り、馬のひく車は戦車にしか使ってはいけないものではなく畑を耕すトラクターにもなるし、荷馬車にもなる。
そして柔軟なやり方を考え仕事の手綱を誰かと分かち合うことで、かえって夢見た正しき騎士のあり方に近付けることもある。それも「運転」「操縦」の神秘です。
力 ブレーダッドの紋章
本編ではディミトリ自身を引き裂かんばかりの悲しみの暴威の激しさとしてエモーショナルに描かれていた「力」アルカナの性質。無双では本編よりも序盤から、そしてより細やかな部分でブレーダッドの紋章の複雑さが描かれることになりました。
序盤に現れるのは伯父リュファスです。
彼は紋章とは別のブレーダッド王家の特質としてかなり膂力のある騎士でありながら、幼少時から英明で知られ政の才があるということが無双で新たに語られました。紋章とディミトリ以上の猪武者の素直な善良さと天稟の軍才をもった弟・ランベールと思い合い助け合えれば、まさに「力」のカードの伝統的構図に描かれている理知の乙女と獅子のようになれたでしょう。紋章ゆえに王位を継ぐことになったランベールもそれを望み兄に友好的に接していたようです。しかし、そうはならなかった。
「コルネリア……私は、あの化け物どもの目が恐ろしくて堪らない。
獰猛な獣が、なぜ人と分り合えぬのかと本気で悲しむ素振りを見せるのだから……
……心の底から気味が悪い。」「ふ……ええ、そうでしょうとも。
そのお気持ちは、私にもよくわかります。」「弟を殺した日から、いつも同じ夢を見る。
獅子が私の首を食い千切る夢だ。(中略)
……私はただ、疲れたのだよ。
恐怖にも、己自身にも……何もかもにな。」
コルネリアが馬鹿にした憐憫だけでなくわかりみを示しているのは、ランベールやディミトリの怪獣の力と裏腹の慈愛の態度が女神の眷属たちに似ているからです。たとえ善意であっても強力な力をもつ者は余人に怖がられ、対等に信頼されることが難しく、感覚も違う。
その恐怖と難しさと不断の擦り合わせに耐えることが「力」のアルカナに描かれている戦いなのですが、リュファスはその戦いに負けてしまったのだということがこのシーンにありありと描かれています。
猛獣と近く付き合うためには、圧倒的な力への恐怖と戦い、ときには指の一本や二本うっかり食いちぎられることもある覚悟をし、愛をもってコミュニケーションを試みつづけ、決して目を離さないことが必要です。ランベールがダスカーに対して示したような覚悟と愛と忍耐。とほうもなく、眠る間もないような、忍耐です。恐ろしいほどの体力を消耗することだとわかると思います。
リュファスの顔貌には弟に王位を譲った恨みや野望なんかはなく、彼が言う通りの「恐怖」「疲れ」ばかりが刻まれていました。
リュファスだって弟の示す友好的な態度に応えたいと思わなかったわけではないでしょう。ただ、疲れ果てて、猛獣を「もううちでは飼えないんだ、ごめんねごめんね」と殺処分しようとした瞬間、彼の心は食い殺されてしまった。
ディミトリはケタ違いの忍耐の力(それでも本編では復讐の暴威のほうが強力に振り切れてしまった)で明らかに敵でマジ好きじゃない伯父をも包容しようとし、そういうことをするから悲痛が増えます。「死んで当然、せいせいした」って切り捨てれば楽なのに。
ディミトリが守ろうとする「国」はダスカーの悲劇の一党をはじめとして騎士本来の高潔さもなんもない腐った屋台骨に満ち満ちており、無双ではそれらを次々粛清、頭を挿げ替えていく怖い政治をしくことになりますが、それすら彼は背負う罪と思い、全く「せいせい」なんてしません。
ディミトリは民を「無辜なるもの」「守り、与え、(アッシュのように)活躍したいと望むなら支えて後援すべきもの」と考えています。民を信じ愛するディミトリの考え方には、「民草は善良なわけではなく愚かで、力がないからおおむね無害な存在なだけ。食い詰めて賊徒と化すことがあるだけでなく、余裕ができてもどうせ大衆は愚かな悪をなすだろう」という穴があるようにも思えます。
しかし、ディミトリはおそらくそうした愚かさや危険さをひっくるめて民を信じ愛している、愚かさや危険や遅遅とした歩みや苦難に根気良~く付き合うことこそが王侯の仕事だと考えているのだと思います。
本編の煤闇の章や、無双のユーリス支援ではディミトリが決して清らかで美しいとはいえない卑小な民の暮らしに分け入って、危険をなんとも思わず図太く平然と民への愛情を示し、むしろお綺麗に整えられた表通りよりも愛しているさまが描かれています。
エーデルガルトならばしばらくショックを受け「なんとかしなくてはね……」と眉間をおさえ、ヒューベルトに「エーデルガルト様はこのような小さなこと臣下に任せて大事をお為しください」つって首根っこ掴まれてひっこめられるようなところです。卑俗なる民草の代表者であるユーリスも「今のところディミトリの政の評判は上々だから、早死にされると困る」と評しています。
庇護する民のお尻を叩いて産声を上げさせより高みへ引っ張り上げるエーデルガルトとも、強い王者をやめ弱みを見せ合うことで自主性と自律性をもった小リーダーたちを育てるクロードとも違う、愛情無双、体力無双の英傑ならではのディミトリのリーダーシップです。
次回の「無双」増刊号は「0 愚者」と「Ⅰ 魔術師 聖マクイルの紋章」の二本を一記事に収録予定。愚者は紋章の話ではなくシェズ&ラルヴァの立ち位置の話なので、物理本のアルカナとの対応記述にラルヴァの正体と思惑と無双テーマについての読解も追加するかも? 体調が最悪なのでゆるゆるやっていきます。
ペルソナシリーズのアルカナの旅路もよろしくね!! この記事シリーズと対応させるためにもペルソナ版の「力(剛毅)」アルカナも書いていかないと……。
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