湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

タロット初心者『ペルソナ3』にハマれ!―「物語」を読むタロットの勧め

本稿は、2024年2月2日発売の『ペルソナ3 リロード』を特に「タロットの学習」に着目して紹介するものです。

重要な展開の具体的ネタバレはしないつもりですが、テーマやざっくりした流れについても初見で味わいたいわ~という方はご遠慮いただいた方がよいかと存じます。

 

『ペルソナ3』はいわずとしれた名作なのですが、占いとして、なんかカッコいいモチーフとして、タロットのことをもっとわかれたらいいな~と思っている人にはあてもなく本を探すよりもわかりやすい教科書の役割をはたしてくれるんですわ~という話をします。

序盤のレビュー記事も書きました

www.homeshika.work

 

 

まずおまえは誰

 当方は普段ここのブログでゲームの読解をしており、主な観点分野はタロットとユング心理学と料理と歴史(日本前近代史、中世西洋史)。

『ペルソナ』シリーズが始まったオカルトブームのころ幼少期をすごしたのでタロットはもともと好きでしたが、『ペルソナ3』でさらになるほど~!となり、ちゃんと勉強するにいたりました

その後10年以上を経て、同様にタロットカードの大アルカナを一部のキャラクターのモチーフとする『ファイアーエムブレム風花雪月』をタロットから読解する記事シリーズと、その自費出版書籍を出しています。

www.homeshika.work

www.homeshika.work

タロットやユング心理学、歴史文化などの観点からゲームを読解するYouTubeチャンネルなどもやっております。

湖底よりゲーム読解 - YouTube

 

『ペルソナ』シリーズとは

 『ペルソナ』シリーズはアトラスが製作するRPGブランドのひとつです。神や悪魔、妖精や妖怪、神格化された英雄概念などのオタクが大好きな伝説の存在たちがこの世に具現化し、それらの力を借りて世紀末の世を戦う新しい神話RPG『女神転生』シリーズのスピンオフ的な感じで、現代の現実を生きる少年少女が、人間の精神によって生まれた異界で戦うジュブナイルRPGとしてつくられているものです。

プレイヤーの分身である主人公と仲間たちは、「ペルソナ(仮面)」と呼ばれる神や英雄の名をもった「心の中のもう一人の自分の力」にめざめます。ちまたには何かしらの奇怪な噂、都市伝説的なできごとが起こっており、多感な時期の仲間たちはペルソナの超常能力を駆使して人の心の深淵の謎に立ち向かっていくことになります。

ペルソナシリーズの背景とテーマについて詳しいことは↓こちらの記事↓で。

www.homeshika.work

ナンバリング最新作である『ペルソナ5』はシリーズ全世界累計1000万本セールスを突破した大ヒット作。一年弱の学校生活に沿って物語が進む「カレンダーシステム」、本筋と関係なかったりもする周囲の人々と絆を深めることで戦闘力が増すし多面的にテーマを描く「コミュ(コープ)システム」、おしゃれでカッコいいボーカル入りBGM、テーマとシナリオライティングとプレイング要素とグラフィックと音楽とユーザーインターフェース…などのすべてが高度に有機的に融合しているところが特徴的な魅力です。

この現在まで続く大人気のゲームのつくりや洒脱な雰囲気、キャラクターの見せ方を確立したのが、シリーズ中興の祖である『ペルソナ3』であったというわけです。ペルソナ3はもう18年も前の作品になりますがいまだに根強いファンが多く、『ペルソナ5』などから入った人にも現在の『ペルソナ5』と同じハードとプレイ感で原点的な名作を味わってみてほしい……という願いから、『ペルソナ3 リロード』はつくられました。

 

タロットカードとオタク文化

 そもそも「タロットカード」とは、ヨーロッパで中世ごろから現代のトランプに似たカードゲームに使われてきたカードセットのことです。日本では主に占いのカードとして使われています。トランプの四種類のマークの数札とキングやクイーン等の絵札にあたる「小アルカナ」56枚と、トランプでいうジョーカーのような切り札的な強い絵札の「大アルカナ」22枚で構成されています。

「大アルカナ」は切り札なので、神話的なエッセンスをつめこんだ人物像や「正義」「節制」などの美徳の擬人化など特徴的・象徴的な絵柄が描かれ、強い意味が凝縮されています。まさしく人々の心の中で純化される神や悪魔や英雄のイメージのように。オタクが好きなやつだ。

『ペルソナ』シリーズでは第一作目からペルソナの特性を分類するのにタロットカード大アルカナが使われています。「世界全体の中でキャラクターひとりひとりが担当する個性」のモチーフとしてタロット大アルカナが使われるのはペルソナシリーズにかぎったことではなく、以下の多くの作品でも採用されています。

  • 『ジョジョの奇妙な冒険』三部『スターダストクルセイダース』のスタンド
  • 『オウガバトルサーガ』シリーズ
  • 『ザ・ハウス・オブ・ザ・デッド』シリーズ
  • 『ミサの魔法物語』
  • 『バロック(スティング)』
  • 『X(CLAMP)』
  • 『伯爵カインシリーズ』
  • 『タブロウ・ゲート』
  • 『トゥルーフォーチュン』
  • 『アルカナ・ファミリア』
  • 『消滅都市』
  • 『魔法使いの約束』
  • 『ファイアーエムブレム風花雪月』

ほか多数。

作中で明言されてるとか設定に使われてるとかがはっきりわかる作品でなくても部分的にタロット元型が用いられているとか、作中にタロット占いが出てくるとかの作品ももっとたくさんありますし、結局は人間が思い描く象徴的な人物像や物語展開がカードになっているので、作者が特にタロットをモチーフにしていなくても「タロットでいうと〇〇」みたいに考えると豊かな理解の助けになることが多いです。

タロットがモチーフになったキャラとか展開とかが出てきたとき、カードにzip凝縮された神話的な意味をブワッて展開してみたくね?

て話です。

それぞれのカードのメインの意味だけでなく、あてられたキャラクターのエピソードや性質が蓄積されていけば、「このキャラとそのキャラが同じカードかあ~」となったときに今までのキャラクター全員分の読みが深まるみたいな楽しみもあります。一生味が出る。

その教科書として『ペルソナ3』を一本プレイすることはいい入門になるんですな。

 

『ペルソナ3』タロット体験学習

 ペルソナ3がなんでタロットカードの読解の入門教科書になるかっていうと、大アルカナをモチーフにしたキャラクター造形もさることながら、タロット大アルカナの流れを体験できるからです。

ペルソナ3の中でタロット「占い」の練習ができるとかではまったくないのでそこはあしからず。あくまで占いの解釈のベースとなるカードの意味感覚を体感して知るというかんじです。

タロット大アルカナには、たとえば0番(または番号なし)の「愚者」のカードには「自由」「無謀」「旅」「秘めた可能性」といったリーディングの教科書のコトバ上の意味がありますが、いろんな本に書いてあるそういったコトバを丸暗記するより前に、「要はこういう感覚」「こういう展開のこと」と芯をとらえられると情報が入ってきやすいんです。

ペルソナ3では上画像の主人公(あなた)が「モサいようでおしゃれでカッコ良いようでもある、無垢そうにも謎めいても見える、中性的で、プレイヤーの解釈の幅が広い」という玉虫色に見えるようにデザインされています。これは主人公にあたるアルカナ「ワイルド(愚者に近いもの)」の「何者でもなく、なんにでもなれる、無限の可能性」という意味を体現したものです。

 

 また、上で述べた大アルカナの「芯」の意味には、ひとつの考え方として展開の「流れ」が存在します。大アルカナだけで22枚もカードがあって正位置の意味と逆位置の意味があって……と考えると覚えることが膨大だし番号もごっちゃになってしまいますが、「流れ」を理解することでカードの間の意味のつながりがわかり、自然に整理することができます

この「流れ」はゲームが中盤にさしかかるときに、ゲーム中のキャラの口からバッチリハッキリ「授業」をされるので、おそらく『リロード』にもあるその授業をぜひよく聞いていただきたいのですが、ざっくり言うとタロット大アルカナの「流れ」は人間の自我が成長し、葛藤し、自分だけの答えをみつけていく人生の過程を意味しています。

タロット大アルカナ22枚の序盤のナンバーだと、こんなかんじ。

なんにでもなれる可能性を秘めた何者でもない赤ちゃんである「0愚者」が、
→未熟ながら目的をもって新しい挑戦をはじめ(「Ⅰ魔術師」)、
→目に見えない心の声に関心をもち(Ⅱ女教皇)、
→母なる無償の愛(Ⅲ女帝)や
→父なる厳しい評価(Ⅳ皇帝)に育てられ、

→勝敗や現世を超えた道徳(Ⅴ法王)を理解して、
→やっと自分だけの選択をする思春期を迎え(Ⅵ恋愛)、
→若い挑戦や挫折の旅立ちをする(Ⅶ戦車)……

というような感じですね。このあとも流れが続いていき、中盤の「授業」でも解説されます。詳しくは↓ペルソナシリーズのタロット読解記事シリーズ↓を展開中です。

www.homeshika.work

タロット大アルカナの流れは授業で説明されるだけでなく、実はペルソナ3のストーリーはこの流れに沿った順序で展開するように作られています。ペルソナ3のテーマとなる大アルカナは「ⅩⅢ 死神」なのですが、これは具体的な死の瞬間というよりは「自分の命には限界がある」という逃れ得ない事実にぶつかったショックをあらわすカードです。そのショックにどのように惑い、対処し、考えて、腹をすえていくのか……というそれ以降のアルカナの展開が終盤で描かれることとなります。

この「大アルカナの順序に沿ったストーリー展開」は特にペルソナ3に顕著ですが、以降の『ペルソナ4』『ペルソナ5』にも基本は受け継がれています。というか、ストーリー展開の王道である「序破急」とか「起承転結」とかをより長く細かく長編向けにしたものともいえるので、タロットに関係なく作られている物語にも「この中盤の衝撃展開『死神』だな……」とか構成の王道をみることができます。

 

ジャケ絵のカッコいい主人公のペルソナは「タナトス」。ギリシア神話の死そのものである神です。牙をむく白い頭蓋骨をデザイン化したような仮面をつけ、いくつもの棺をまとっています。

横たわる死者像の彫刻がほどこされた西洋の棺、あるいは頭蓋骨が積み上げられた教会の地下墓所(カタコンベ)、死を描いた芸術は、いかに権勢をほこった王侯や敬虔な聖者でも死からは逃れられず、ただしらじらとした骨と名が残るのみであるという死の真理を常に人々に刻み付ける、「死を想え(メメント・モリ)」というメッセージです。

不確かな生きる意味、揺れる自分のありかたを見つめるために、人は「自分の人生の限界」を知りそこから逆算して生を見返す覚悟がいる、誰も自分の代わりに死んでも生きてもくれないから人生はかけがえがないのだというペルソナ3のテーマこそは、「ⅩⅢ 死神」のカードの意味です。

『ペルソナ3 リロード』をプレイして、自分の人生がタロットの旅路のどのへんにさしかかっているのか、いっちょぼくといっしょに全体を眺めてみませんか?

 

 

www.youtube.com

『ペルソナ5 ロイヤル』のタロットや心理学や神話モチーフ、シリーズネタ、シリーズを通じた社会問題視点などからの読解実況やってます。そろそろ終盤の予定。

 

 

おもしろかったらブクマもらえるとはげみになります

このエントリーをはてなブックマークに追加

 

 

風花雪月の紋章のタロット読解本、重版してます。

www.homeshika.work

 

www.homeshika.work

↑ブログ主のお勉強用の本代を15円から応援できます

 

あわせて読んでよ

www.homeshika.work

www.homeshika.work