湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

生き様、星となれ―キャラ紋章で読むドラクエ11

 本稿では、ドラゴンクエストⅪの各キャラにデザインされている「紋章」の意味について読み解いて考察していきます。みなさん紋章ピンバッジつきの『ドラクエⅪS』ゴージャス版・夢のゴージャス版の予約はされましたか?

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 どれも美しくキャラらしいデザインですね。真ん中のシンボルデザインがゲーム中のスキルパネルのカタチだった(というかスキルパネルがシンボルのカタチをしていたのか?)というのも激アツで大好きです!

 服の色の記事を書いていたら次キャラ紋章の話するよ~て言ったロトの紋章の記事から一か月近くも経ってしまいました。服の色の記事でも述べたように西洋の紋章には本来は色ってメッチャ重要なものでとりあえず先に書いておきました。

 今回はキャラピンバッジ紋章のおおむねのモデル形式である、西洋の大紋章のポイントをふまえて話していこうと思うので、実在の西洋の紋章だとここに色の意味が乗ってくるのね~くらいに思っていてください。

 

 

 

紋章とは?

 今回はいつもより多めに前置きがくそなげ~~~ので、「西洋の紋章の知識は別にいいわ」という方はキャラ紋章読みまでスキップだ! ただし説明の中で用語とか出すので、必要あったら戻るといいです。

 

 ロトの紋章の記事②でも「紋章とは何か」について書いたのですが、そもそも紋章というのは何で、どういう分類や機能があるのかをまず整理しておきましょう。

 紋章は現代においては「エンブレム」と同じ意味にとらえられ、あらゆる団体や商品などのロゴマーク、シンボルマークとして使われていますね。本来の「紋章」と呼ばれるものの起源は十字軍遠征などの乱戦で指揮官を見分け、手柄をアピるための個人識別用ハデハデ軍装にあります。

 ゆえに、正式の「紋章」は「Cort of Arms(軍装の塗り)」といい、騎士においては盾がいちばんお絵かきしやすく、また常に携行していたので、自然、「うちの紋章はコレでーす!」と言うときには盾を掲げるかっこうになり、紋章は原則盾型デザインをしていることになります。

 つまりこういうことだよ。

 実際の西洋中世の場合、「ロトの紋章」というのはとりさんデザインだけではなく、『ロト紋』の丸型でもなく(丸型の紋章は日本の家紋なので日本人には理解しやすくてよい)、

この青地の盾に金の神鳥というまとまりがロトの勇者の紋章ということになります。これで手柄をアピる! 乱戦どころかパーティは1~4人ですけど!

大紋章

 でも盾形の「紋章」は今回見ようとしている、ドラクエ11のキャラ紋章とはカタチが違いますね。ドラクエ11のキャラ紋章のおおむねのモデル形式は、さっき言ったように大紋章(Achievement)といいます。

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 こういうのね(てきとうに要素パーツ組み合わせて作った存在しないやつです)

 なんかかえってさっきの、「盾! 色! 終了!」ていうのよりも、「紋章」っていうとこういう感じのやつイメージしません? 華やかだし。だからこっちの形式がとられたんだとおもうんですけど。

この「大紋章」は個人を見分けるハデでわかりやすい記号の盾の役割ではなく、時代が下って、もはや騎士というか貴族になった者たちが盾をもって戦場に出ることがなくなり、したがって戦場での視認実用性ではなく家格の権威や個人の称号を誇示するものとして使われだしたものです。

 だからドラクエ11においては完全に「※この紋章はイメージです」ではあるんですけど(このことについては最後にまた述べます)、だからこそ描かれていることにはキャライメージを表す意味があることになります。

 ちっちゃくて複雑な図形なので、要素に分けて見ていきたいとおもいます。まず現実の大紋章じたいの基本要素から。

 

大紋章の構成要素

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 こうじゃ。

 赤くて太い丸でかこんだところが例の、装飾をする前の「本来の紋章」コート・オブ・アームズです。あとの要素を項目ごとでかるく説明していくね。

エスカッシャン

 紋章が描かれている「地」の部分の盾です(地自体のことを「フィールド」といいます)。じゃあ「シールド」でいいじゃんってなるかもですが「シールドじゃないカタチの地」もあるので(仲間の中にもいますね)。「騎士」じゃなきゃ盾に紋章は書きませんからね。だからここのカタチはまずわかりやすく読み解けます。

チャージ

 エスカッシャンの「地」の上のレイヤーに書いてある「図柄」のことです。この例では赤地に「百合の花三つ」です。同じ家門でもここにチマチマと変化をもたせたり追加をしたりすることで兄弟関係にある個人を識別したりします(仲間の中にもいますよ)。

サポーター

 両横に描く動物だったり幻獣のことをこう呼びます。左右別のこともあるし、動物じゃなくて人間や植物であることも。力強さなどの意味をゴージャスに付加。

クラウン

 コート・オブ・アームズの上に王冠(クラウン)だけでなく兜(ヘルメット)、帽子などを置きます。それぞれまた別の名前もあるんですが、地位の高さを明確に示します。

マントル

 クレストの両横からヒラヒラしてる布っぽいやつ。外套(マント)のことです。例のように白地に黒のテンの毛皮の模様がついているマント、よく王様がつけてますね。王族を意味します。このへんから垂れてる布状のものは位階服(ローブ・オブ・エステート)や天幕(パヴィリオン)などいろいろ種類がありますが、これも地位を、特に威厳をもたせるような意味合いをもちます

スクロール

 下のリボンみたいなやつです。家訓や個人の信念(モットー)とか字を書きます。

うしろでクロスしてる持物

 剣がクロスしてるイメージあると思うんですけど(実際仲間にも多いし)刃のついてないバトンとかが実際は多いです。例に描いた「二本鍵」は初代ローマ教皇と設定されている聖ペトロが授けられた「天上の鍵と地上の鍵」を表し、バチカンと教皇の紋章であることを示します(だからこんな紋章は実在しないんだぜ)。だいたい手に持つ長い道具なわけで、その人の権能や活躍の仕方をあらわす持物(アトリビュート)が飾られます。

 

 こんな感じで君も紋章を作れる!

 でもドラクエ11のキャラ紋章はルールどおりに配置されてるわけではないので、「それっぽい」要素を上のような色分けして見ていこうとおもいます。

 

大紋章じゃないやつ

 実はピンバッジの中にべつに大紋章のおおむねのカタチじゃない仲間外れがあって。

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それがコレじゃ。

(拡大して色分けするため以降当方のユルい手書きで進むよ!)

 まあこれはキャラ紋章じゃなくてオマケみたいなもんなので別扱いといえばそうなのですが、このデルカダール国章にはキャラ紋章を読み解いていくうえで重要な意味があるので先に話をしておきます。デルカダール国章についてはこの間の中ボスの人の服みたいに別記事をたてようと思ってるのでサラッとで。なんじゃこれはの部分について説がある人はたのむ…おしえてくれ…

 これは、大紋章の要素を見てもらったのでわかりますが、少なくとも大紋章ではありません。まあ大紋章を鎧にはつけないっていう話だったからね。

でも国章って書いてあるやんけ!

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 最後の砦、王のいる建物にはガンガン吊るしてあります。これをみるに、モーゼフ3世の紋章は「赤地盾形に金の双頭鷲」であることがわかります。

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なので正式な個人紋章でいうとこう。すごくローマ皇帝って感じ。誓いのペンダントにも盾形に赤い石がはまっていましたしね。

 「金の双頭鷲」というチャージ(図柄)自体は、デルカダール王国の「標章」扱いとみられます。標章というのは国王などの簡易サブ紋章みたいなもんで、使い方としては、イギリスの「薔薇戦争」の際は二つの家門が王位をめぐって対立し、それぞれの勢力に属する者たちが個人の紋章とは別に白薔薇マークと赤薔薇マークをつけてました。わかりやすい! ゲームなのでそういう感じが助かる!

実際に鷲のチャージのバリエーションは神聖ローマ帝国において「皇帝側」の者の個人紋章に多用され、「皇帝側じゃない」有力者の個人紋章には獅子が人気でした。別作品の話になりますが、今月発売する『ファイアーエムブレム 風花雪月』で「帝国」が「赤(最も高貴で強い色)に黒鷲」、対立する「聖王国」が「青(敬虔で聖なる色)い獅子」新興諸侯連合が「黄色(卑しく奇妙な色だが黄金にも転じる)い鹿」なのは勢力の標章としてすごくマッチしています。

【追記】この国章についてはデルカダール国のモデルの読解をふくめ、別記事をたてて解説しました 。

homeshika.hatenablog.jp

 

 あとこの鷲のチャージ、ルイーダの酒場のホメロスとグレイグのドリンクについてるなんかチョコ……クッキー? 飲んだことないので食べ物としての詳しいことは知らんのです、見たことがある方にはイメージしやすいと思うのですが、なんかレリーフ的というか、ハンコみたいじゃないですか? 鷲の顔もなんかけっこう古代風の描き方を思わせます。これは推測できることとかじゃなくポワポワ考えてるだけなんですけど、これデルカダールの国璽でもあるんじゃないかな? 紋章よりはるか昔から「印章(王の見ましたハンコ)」は使われてきました。グレイグのクッキーとホメロスのクッキーが合わせるとバッチリはまるらしいじゃないですか。すげー! 『カリオストロの城』の指輪みたいじゃないですか! あれも印章として使われていました。

 そういうチームマークなので、別にデルカダール王家の者ではないホメロスとグレイグがデカデカと鎧に表示できるわけです。王が二人をマジで養子的に遇していたという可能性もワンチャンあるかもですが、家中のカラーならいいけど主君の紋をそのまま鎧にバチコンとつけるのは無礼どころじゃないからね……。

 

関係を表す紋章

 そのままって言いましたが、一方で、主君の紋や先祖伝来の紋をアレンジして使ってるということは多くみられます。主君と似た紋を使うのは、勝手にやるとやっぱ失礼にあたり、何かの褒美に栄誉として与えられた(加増紋)からです。

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このパパを見てください。

 このパパは騎士としていい感じに正統派な服を着ていて、この服を見れば、ソルティコ領主家で実際に使われている紋章が「白地に赤い双頭鷲と百合」だということが一目瞭然なのです。ソルティコ領主家は何代も前にデルカダール王国の名門騎士が水門の管理を任されて移り住み、周辺を治めたのがおこりですから、当時の王から厚い信頼を受けて紋章のチャージの意匠を賜ったものと推測できます。たいへん栄誉なことです。

おそらくもともとの紋章のチャージは赤い百合で、そのとき賜った紋章と組み合わせるかたちで新デザインにしたのです。日本でも出世街道を行く武士の子が主君から名前の文字をひとつ賜って元服する(今FGOのイベントで話題の森長可くんとか)ということがありますが、そういうやつです。名前と違ってそれを家で受け継いでいるのでずーっと栄誉ある名門なことが表示できます。

 紋章の中には地位や職能や概念のシンボルだけでなく、勢力との関係を表す要素が大きくみられ(実際の盾形紋章はもっぱら親族関係を表示するものです)、ドラクエ11のイメージの紋章の中にも読み取れます。

 それではいよいよ個別に紋章を見ていきましょう!

 

パーティーメンバーたちの紋章

 順番はいろいろ考えたんですけど、

"悪魔"と釣り針―主人公

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 主人公から行きます。構成要素は、盾型のエスカッシャン釣り針のチャージ、大剣ドラゴンです。

こんな感じで色分けをしていきます。今のところ単に装飾だなーと思われるところは色をつけていません。

 主人公のエスカッシャンは定番の盾型をしています。彼は王族ですし、盾や重鎧といった騎士の軍装も装備できるので当然ですね。やや縦長の盾と剣ひとつずつというのは「ロトの勇者カッコいいセット」なので外せません。勇者の剣の鍔ではないけど。

  特筆すべきなのはサポーターがドラゴンであること、従来のロトの「鳥」チャージから明らかにチャージが変形し「釣り針」みたいになったことの二点です。

 ドラゴンが紋章に登場する例は確かに現実でも見られます。「ウェールズの赤い竜」や、ドラゴン騎士団のことです。しかし、ウェールズはブリテンの中央からすれば異族でしたし、ドラゴン騎士団もかの「ドラキュラ」ヴラド三世の所属したものです。ドラゴンに関する東西意識の違いの記事でも書きましたが、西洋においてドラゴンは基本的には悪しきもの、倒すべきものであり、日本で言う「鬼」のような扱いであったのです。

homeshika.hatenablog.jp

 われわれプレイヤーは「ドラゴンクエスト」だからして主人公にふさわしいカッコいいシンボルだと思ったりしてしまいますが、そもそもドラゴンクエストはりゅうおうを倒すことから始まったことを忘れてはなりません。日本における「鬼」みたいなものなので、あのように高貴で澄んだ目をした主人公の紋章につくシンボルとしては違和感をおぼえなければなりません。ましてドラクエ11主人公はホムラのハリマとか、ドラクエ8主人公とかのような竜種との深い関係もないのです。

 先程述べたドラゴン騎士団のヴラド三世、「ドラキュラ」ですが、「竜の子」を表します。実はこれは同時に「悪魔の子」を表す言葉となります。日本でも「鬼武蔵」とか言うと強そうでカッコいいですけど「鬼っ子」とは悪い意味ですよね。強さと、"悪魔"は表裏一体であるというドラクエ11の投げかけてくる問いがここにもあらわれています。

 

 チャージ、勇者のアザは釣り針のかたちです。ケトスを呼び出すときに勇者のアザのかたちの光を釣り竿の糸につけているので、あれが釣り針であることは間違いありません。

 「釣り」は主人公の物語の中で要所要所に登場します。「人を恨んじゃいけないよ」と唐突にテーマめいたことを告げるテオじいちゃんは釣りをしており、無意識の夢で出会う預言者と並んで釣りをし、かかる時を待つよう言われます。そして大樹が落ちおさかなとして保護されていた主人公が地上に戻るとき、彼は漁師に釣り上げられるのです。

日本というか中華文化圏からすると、この「不遇の運命を恨まず雌伏し、時を待ち、大きなものを釣り上げて大成する」というモチーフは『封神演義』などでも有名な周の軍師太公望・姜子牙を思わせます。彼はまさにを釣り上げたのです。龍というのはもののたとえで、王の軍師として望まれる時が来たということなのですが、その時を待っているあいだ太公望はなんと釣り針をまっすぐな針にしていました。それでは魚がかかるはずはありません。しかし太公望の釣りは「時」が来たときには釣り針をなし、龍をみごと釣ったのです。

 「かかるはずのない釣り針」は11主人公にもありました。ウルノーガにそれまでの勇者の力を奪われ、スキルパネルの下方、すなわち釣り針のフックの底が抜けてしまったのです。正確に言うと、大樹の記憶を読み取る力などはバリバリ残っていることから勇者の力はスコッと抜けてしまったのではなく、セレン様の「勇者とは決してあきらめない者のことです」という名言からも「あきらめない勇気をくじかれてしまった」だけの状態だったと考えられるのですが。

いっとき勇気をくじかれた主人公は、預言者に魚がかかる時を待てと言われます。変わってしまった世界を見、グレイグと出会い直し、おじいちゃんの決意やマルティナの変貌、いつも支えてくれた相棒の弱弱しい姿を見て、世界をとらえ直していきます。そんな世界をやはり守りたいという、勇者の生まれ変わりの運命だからではない自分の心からの気持ちが、抜けてしまった心の底に溜まりはじめたとき、あとはもう「勇気を胸に いかずちを手に」するだけです。

 水の中にいる魚はまた、無意識や認めたくない弱さの中にいる人間の心を象徴します。釣り針が表すのは強さや自由さではなく、弱さを知り不遇を知り、待つ日々の中でも腐らず、時が来れば踏み出す勇気なのです。

 

心のホーム、心の檻―カミュ

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 カミュ兄貴はエスカッシャンが独特だなぁ。構成要素は角が出た珍しい盾?型のエスカッシャン、錨型のチャージ、短剣です。

 エスカッシャンがあまり見ないかたちをしているのは正しいことです。先述の通りエスカッシャンの「盾」型は騎士=王族・貴族階級を表すのでカミュがそれを持っているはずはありません。装備もできないし。でも角が出ていてヴァイキング的で、エスニックな装飾がワイルドな盾が描かれています。あとこれは象徴関係ないのですが、こんなにワイルドが入っているのに完全に左右対称で、全体に端正な印象を与えるのも薄汚れてるのにスーパーイケメンなカミュ兄貴さすがっすという感じ。

 目立つのは短剣・鎖・錨の連続性です。

 カミュのチャージ、スキルパネルのカタチとなる象徴物は「錨」です。紋章バッジの北国の海の色しかりヴァイキングに育てられたことを連想させるだけでなく、これは主人公の釣り針とかたちが似ているし、どちらも水のためのものだけど、役割が違うものです。カミュは相棒として主人公を支えとどめ安心させてくれます。勇気を出すためには飛び出す勢いだけではなく、地盤となる愛のアンカーが必要です。補ってくれる人がいるから、人は自分の仕事をがんばれるのです。

 というのがカミュの最高さなのですが、ところでこの横の鎖。絵のうえでは錨とくっついていなくても錨を使うためには鎖が必要なことはわかりますから、これらは連続しているでしょう。しかし、なぜか二本ある鎖は、短剣の柄頭のやけにでかい丸穴にバッチリつながっています。

 これ手枷ですよね

 だってカミュの短剣にこんなでかい柄頭の穴ないし、こんな穴短剣に一般的じゃないもん。

 つまりカミュは両手の短剣とともに常に両手に手錠をしていて、その手錠には長い鎖がついていて、それが錨につながっているんですよ。

これは彼の言う「贖罪」のことでしょう。彼が主人公の支えとなるのも人にやさしいいい男なのも、逃れ得ぬ罪をいつも抱えている重みと表裏一体のことなのです。

 

めぐる命の大樹―ベロニカ、セーニャ

 騎士や貴族階級じゃないカミュも準・盾みたいなエスカッシャンだったので、ここで盾型じゃない方々を。

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 おそろいだ~~!!!! かわいい!
 ベロニカ、セーニャです。構成要素はオーバル(楕円)型のエスカッシャン、大樹のすがたと膨大な根まわりのリボンがのたうったようなのです。

 エスカッシャンのかたちはいろいろあるって言いましたが、だいたいどこの国風の盾かが多い中、「女性」は菱形、「聖職者」はオーバルかカルトゥーシュあたり、というバリエがあります。女性と聖職者はふつうは戦場に出ないので盾形ではないのですね。双子は聖地から遣わされた人間なので聖職者扱いというわけです。ちなみにここでいうカルトゥーシュというのはエジプトの王の名を刻むドッグタグみたいな護符のことではなく(もとにしてるかしらんけど)

 これではなく

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こういう厚紙とかリボンの端がクルン巻いたみたいなデザインあるじゃないですか。

これを紋章の地にしてもいいし、細くヒラヒラクルクルさせたものはフチの装飾にも使えます。バロック様式のクルクルフニャフニャした線の組み合わせでできた枠なんかは、明らかに植物じゃなければこのカルトゥーシュです。双子の紋章の横の青い部分は紙が巻いたように見えます。これは聖職者の知識と伝承を司る性質を表しています。

 シンボルマークについては色の記事のときに、二人は大樹というひとつの植物の「炎のような花」と「枝と葉」という相補的な関係にあると書いたとおりです。また、同じ家門のきょうだいは紋章の中身にちょっと差異を加えるという実際のルールに沿っていますね。

 おもしろいのはその立体的な「包む」構造です。

 まず二人のオーバルは大樹の根にくまなく包まれています。これは丸っこいことで、上から下まで世界全体を大樹の根が覆っていること、二人がその根の中で育まれたことを示しています。それはこの二人だけでなく世界の誰もがそうともいえるのですが。

また、青で塗ったカルトゥーシュみたいなやつ。これ、わたしの写し方がへたっぴだからわかりにくいんですけど、奥から手前へ卵を紙で包んでるみたいになってるんですよ。大樹に包まれ、それをまた伝承に包まれた、ロトゼタシアという世界……という感じの紋章です。彼女たちは世界の真理を宿して生まれてきたのです。

 青い部分はまた、青く塗ってなくても、落下しては大樹に吸いあげられ空へ還る流水のようにも見えます。時は進み、世界は変わり、しかしすべては循環していきます。

【追記】

青い部分について読者さんより情報提供がありました! ありがとうございます!

  ムッ? 確かにラムダの紋章が「大樹の苗木を支えるふたりの(双生児的な)女性」なので気にしてはいましたが……見えな……見え……

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見、見え~~~~!!!!

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コレです。

双子の紋章は、後述のロウがユグノアの紋章を、マルティナがデルカダールの紋章を基本形にアレンジしているように、ラムダの紋章(の、さらに包んでいる大樹)に包まれているみたいですね。それをシルエットデザインにするにあたってカルトゥーシュっぽいヒラヒラで意匠化しているみたいです。

【追記ここまで】

 

 あとチャージの花と枝葉が顔みたいに見えて、ベロニカの花はキリッバチッとした表情に、セーニャの枝葉はなんかオットリとぼけた表情に見えてカワイイ。見えない?

 

清濁と気高き国主―マルティナ

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 一番大紋章らしい装飾の揃った堂々たる紋章は、さすが強国の女王となるマルティナです。構成要素は盾型のエスカッシャン、白黒を左右反転した地、同じく左右反転した蝶のチャージ、双頭鷲王冠多数の槍スクロールです。すごいぞカッコいいぞ。

 マルティナは武闘家装備なので盾を装備できないのに、明らかに盾型のエスカッシャンで紋章が作られているのがポイントです。また、女性ですが菱形エスカッシャンでもありません(「姫君」など貴婦人は通常菱形を用います)。これは彼女が姫君というより騎士の国の長たる国主となるべき人であるという堅牢な表示とみるべきです。戦闘スタイルは違いますが彼女は王者であるという意味で騎士なのです。また、中身は書いてなくてもモットーを書くべきスクロールは彼女の貴人として信念の通ったことを表します。

 関係を表す要素として、デルカダール王家を示す双頭鷲が背後を固め、本来唯一の王太子であることをあらわすクレスト(冠)が鷲たちの頭の中央に載せられています。デルカダール国章の双頭鷲はそれぞれひとつずつ、合わせてふたつの王冠を戴いていますが、実在の双頭鷲の紋章にも中央ひとつ冠、両方にひとつずつ冠はどちらも存在します。これはマルティナの個人紋章なので特にふたつにすることはないでしょう。なぜならこの紋章にはすでに「双頭鷲」「5本の槍」「左右二色に分けたコートオブアームズ」という「複数さ」がえっらい存在するからです。中央ひとつの王冠は、それらを統合したマルティナの強さを表しているとみられます。

 槍はマルティナの武器ですが、5本の槍は、主人公の大剣、カミュの二本短剣と同じように「マルティナの持物」とみるには明らかに数が多すぎです。イラストでマルティナが持ってる槍も関羽の青龍偃月刀みたいなやつですし見た目も違う。よってこれはマルティナの将来従える多数のデルカダール兵士たち(騎士でない兵士は槍を装備している)の力を表していると考えられます。

作中でマルティナは幼少期の悲しい経験から「主人公を守ることが自分の使命」とひとり思いつめていましたが、「あなたの守る世界をあなた(たち)といっしょに守る」と視野を広げる成長をします。「気高き武闘家」はあの日守れなかった主人公と過ごし、仲間と連携し合い、いずれ多の力を使うことができる王者になるでしょう。5本の槍はまた王冠を延長する輝きのようにも見えます。そういうマンパワーこそがデルカダールという国本来の美徳なのです。

 そしてここではじめて、エスカッシャンが白黒に塗り分けられているという事態が出てきます。マルティナとグレイグがそうです。左右分割紋章自体は何も珍しくなく、父系と母系とか加増紋ともともとの紋章とかを左と右に表示することはよくあります。しかしマルティナとグレイグの盾形紋章のチャージ(図柄)はちゃんと中央に位置しているので、これらは異なるふたつの紋章を左右に置いたものではなく、ひとつの盾の地をふたつに塗り分けたものなのだとわかります。グレイグについてはまた彼の項で読みます。

 布の色のロウの項で「模様」の構造ルールについて述べたり、シルビアの項で「縞模様」のルール破壊力について述べたりしました。西洋中世の図像読みはもっとも重要な「地」に出発して手前のレイヤーに「模様」を重ねていくもので、「白と黒のどっちが『地』なのかわからない」ことから縞模様は秩序を破壊するのです。マルティナの盾形紋章はそういう意味で特殊であり、秩序を破壊しています。

また、マルティナの衣装色の「明るい緑」は「移ろいやすさ」を意味するがゆえに「悪魔的セクシー」を示すとも述べました。チャージである「蝶」も「移ろいやすい人間の魂」を意味し、社会に対する人間の心の二面-多面性をテーマとした『ペルソナ』シリーズのシンボルともなっています。ていうかこの中央の盾形紋章、もはやペルソナシリーズかっていうデザインですよね。

  マルティナの心には信念の力と悪魔の力があり、対立しながらも排除し合うべきではなく、それらを統合したものが真の強さ、王者の力なのです。ゲーム全体のテーマとしても、「モンスター騎乗」システムが重視されていることからして、魔の力を統合して戦うことはむしろ奨励されています。

 

法皇の聖なる魂―ロウ

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 変則的にエスカッシャンとみられるものがないのがロウです。構成要素ははばたく鳥のシンボル、王冠型のクレスト、ユグノア王家の紋章の一部、天幕(パヴィリオン)、なんかもう一個てっぺんのクレストです。エスカッシャンがないのはロウだけであり、彼が社会的仕事人としてはもはや引退していることをイメージさせます。しかし、輝く赤の服の上の規則的金刺繍のように、威厳を示すシンボルはちりばめられています。

 まず基本は関係を表す要素、上部のユグノア王家の紋章です。ユグノアの鎧の背面のマントに描かれている紋章の上部分が入っています。そこから天幕(パヴィリオン)、りっぱな布が垂れています。天幕というのは遠征などのときに王者のいる場所にたてるテントやかける布飾りのことで、

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まあつまりさっきのコレですよコレ。「王侯の軍の威容」を表します。日本の言葉で言う「幕府」ですね。かつ、ロウの紋章の布垂れははためくようなデザインではなく垂直に下りているので、金刺繍の反復と同じように静的さを表します。

 シンボルマークの「はばたく鳥」は、ロトのシンボルと同じであるため勇者ゆかりの血筋であることと、ロトの紋章の記事でも述べたように「魂の自由」を表します。おじいちゃんは賢者職ですが、ドラクエにおいて賢者というものは「遊び人」から転職できたことが広く知られています。また、『浦島太郎』や仙人譚などで老人=大きな鳥となって飛び去るというイメージがあったり、「鶴は千年」と長寿のめでたい象徴として扱われるように、老境に達し「さとり」を得た人は鳥になって飛ぶのです。『三國無双』シリーズの黄忠とか老境に至った者独特の幼子のような自由闊達さを描いています。実際ロウじいちゃんは性格だけじゃなくこのとりさん型のスキルパネルもトリッキーっていうかかなり自由だよね……。

 おもしろいのはクレストのようなものが2つあることです。鳥のすぐ上に華美でない王冠のようなものがあり、これは先王の位を表していると考えられますが、いちばん上、ユグノア王家の紋章にはない縦長の出っ張りと十字が見えます。

こういう縦長の出っ張りは実際のロウのユグノア前王装備の冠の前立て部分にもある飾りなのですが、この図形があたまについてるイメージの意味合いとしては

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/bc/Benedict_XVI_Blessing-2.jpg


コレだー!

あとダメ押しにコレ

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/ef/Emperor_Shirakawa.jpg


なんで宗教的指導者あたまの周りに縦長の高さ作るん? それはたぶん光背(仏やキリストの絵のあたまのうしろが丸く光ってたりするアレ)的な聖なる権威を出してるんじゃないのかな?

 つまりロウはドゥルダ郷とのつながりからしてもタロットカードでいうところの「法王(政治的・実力的ではなく精神的な大人、指導者)」の位置にいることが示されてるのですね。西洋ではそういうことはありませんが、日本では上の人とかの位をゆずった天皇が出家して「法皇」とかになってたわけで(日本の法皇はめっちゃ政治実行力あるんですけど)。

 

いつか一緒に輝いて―グレイグ

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 光背といえばグレイグの個人シンボルマークです。構成要素は(デルカダールの)盾型のエスカッシャン、白黒左右反転した地、同じく左右反転した点と光背のチャージ、お花片手剣2本なんか植物的なクレストみたいなやつです。

 なんだこのかわいさは……。盾型のエスカッシャンは当然騎士身分をあらわすだけでなくデルカダールの盾と同じところが出っ張っているので、これはデルカダールの盾を授かった、夢のとおりの王国いちの騎士であることを表しています。

それを包むようなお花のつるは彼の出身国、花の国・バンデルフォンのモチーフです。王族でなくとも英雄であり、世界最大の都市の最も高位の軍事責任者であるわりに、地位の高さを示すクレストの位置の描きこみが植物的で非常にささやかなこととあわせて、彼の無欲で素朴で繊細でロマンチストな愛すべき内面を表しています。いかつい盾と好対照ですね。ひょっとしたら彼は邪神を討伐して魔物たちが鎮静した後地位を退いたのかもしれません。

 問題はマルティナの項でも話が出た、白黒が左右反転した地とシンボルマークです。

 マルティナにおいてはそれは彼女の心の中の悪魔の力の統御をあらわすものだったのですが、グレイグにそういうエピソードやスキルはありません。彼のイメージカラーは黒なので、白黒を半々にするなどおかしなことです。いや、ピンバッジの地が黒だからこそ、塗ってある半面は金色に明るく光って見えるのですが。

 彼の魂の反対の面、「背中を預けたもう片方」とはつまり、そろいの白い鎧の相方のことです。二本の片手剣(柄の長さと刃幅が完全に片手ロングソードです)が紋章の背後にクロスしていますが、本来グレイグのメインウェポンは大剣であり、こうした細身の同じ片手剣二本は相方の武器あるいは彼ら二人の騎士の剣を交差させた誓いのシンボルとみられます。桃園の誓い。

 かつて少年のころグレイグは「おれたち二人の力が合わされば王国一の騎士になれる」と言いました。この発言は言葉として見れば矛盾しています。この矛盾に関してはデルカダール国章についての追記で詳しく書く予定ですが、紋章のうえでは、「二人」は王国一の騎士の証であるデルカダールの盾を半分半分でひとつに得ているのです。後世の伝承で神話となったころには彼らは一人の人間として伝わっている可能性もあります。ともあれこの白黒のデルカダールの盾は二人でなしたひとつの誓いを叶えています。

【追記】デルカダールと国章についての記事書いたよ

homeshika.hatenablog.jp

 「ホメロスとグレイグ」であることはグレイグの人生の大半を占めてきました。グレイグは自分の人生の暗部に出会うがごとく、かつて「光」と見て背中を追っていた男の変貌に出会います。

盾の中央に描かれているチャージは双頭鷲ではなく、左右で反転した光背です。真ん中の小さな丸(もっと近付いてよく見ると「誓いのペンダント」と同型のたこ形・盾形をしています)が星のように光っている図柄ですが、星と光のトゲトゲとの距離がまるく空いていることから聖人像の頭の後ろの丸い光の輪に見え、また、下も夜明けの山際のように空いていることから、逆光の人間の後ろ姿のようにも見えます。グレイグは幼いころ兄のように先を行ってくれた彼を「光だった」と言い、光だった男は「ずっとオレはおまえの影だった」と言いました。二人はずっとお互いにお互いの、光る背中を互い違いに追っているようだったのかもしれません。それは良いことなのか、悪いことなのか、何が、どうしてなのか……。

少女革命ウテナ 絶対進化革命前夜

少女革命ウテナ 絶対進化革命前夜

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三位一体の花―シルビア

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 なんと華やかでゴキゲンな紋章! 最後を飾るのはシルビアさんです!

実はこのシルビアさんの紋章、かなり洗練されてモチーフが折り込んであるのです。さすが高貴の生まれかつ洒落者です。まるく四角いかたちに整った双子を除けば左右対称さはカミュに次ぐもので、いろいろ詰まっていてハデなのにたいへん端正です。

 構成要素は盾型のエスカッシャン、華美な花のチャージ、シルビアの剣羽飾りそしてさらにお花三つです。

 先程ベロニカとセーニャの項でもちょっとそういう見方をしましたが、シルビアちゃんのシンボルマークのお花、笑ってるように見える~(^♡^) 上の二枚の花びらの下方の頬が盛り上がったようなラインからして、これは本当にそう見ていいでしょう。エスカッシャンはもちろん騎士たる盾型。

 一見して読み解きづらい目立つものは左右のバサバサですが、これは剣の白抜きの切っ先が羽の軸を兼ねた、パレードシルビアさんのサンバスタイル・羽飾りとみられます。派手!

華麗な盾とシルビアの剣で洗練された美しい騎士であることを、笑顔のお花ちゃんとハデハデな羽飾りでスーパースター旅芸人であることを、とっ散らかることなくシュッとまとめています。さらにお花を飾ることで、彼がふるさとソルティコのお花畑を愛している感性豊かな人間であることが示されています。

 

 これだけで十分完成されているのですが、ここでもう一度、

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もう一度このパパを見てみましょう。

 先程「関係を表す紋章」の項で、ソルティコ領主家の紋はかつてデルカダール王家から加増された双頭鷲を含んだ「白地に赤い双頭鷲と百合」であることを述べました。マルティナが王家の双頭鷲を紋章に含んでいるように、シルビアさんも実家の紋章をベースにしていることは十分考えられます。

 そのつもりでシルビアさんの紋章を見てみると、なんとサンバスタイル・羽飾りがちゃんと双頭鷲の翼の位置にあるではありませんか。すると剣の華麗な柄と護拳の部分は鷲の両足、下部の単なる装飾に見えた部分は鷲の尾羽を意匠化したものとなります。ぱっと見では見えない感じにさりげなく、実家のルーツを継承して表示しているのです。

しかしそうするとおもしろいことに、上部のお花双頭の鷲の頭に相当することになり、さらに頭増えて三つになっちゃう。ケルベロスかよ。

 いや冗談ではなく「3」という数字は非常に示唆に富んでおり、特に「2」と比べた違いが現代的にもかなり重要なテーマになっています。シルビアさんは「格好いい騎士であり、愛らしい乙女であり、美しくたくましいオネエさまである」という、二分法、二元論を破壊する第三の道を示す人です。「第三」というのは厳密に「3つめ」だけを意味するのではなく、「そのあといろいろたくさんが出てきていい」ということを示す多様性(ダイバーシティ)の数字なのです。

 また、「2」は「1」ではない、「他者との出会い」や「対立」「違い」「協力」「異質なものとの和合」を表し、それもドラクエ11では主人公とカミュ、ベロニカとセーニャ、ホメロスとグレイグなどで大事にされていることなのですが、「3」はさらにその先を行きます。最近、幾原邦彦アニメ作品『さらざんまい』が最終回を迎えましたが、このタイトルは「皿三枚」であることを暗示し、主人公たち(カッパに変身するので皿を持っている)も三人の少年です。

三者関係は、単に、二者関係に1人の主体を追加しただけのものではなく、二者関係には還元し尽くせない「社会」としての関係性を有する。これは、社会学や心理学、コミュニケーション理論やゲーム理論あたりでもよく知られていることである。この手の理論においては、追加された1人は、二者関係の安定的なつながりを乱す者として位置付けられることが多い。というのも、三者関係においては、常に、二者と一者という対立が生じうる緊張感があるためだ。二者関係であれば「私」と「あなた」は互いにかけがえのない相手であったはずのものが、三者関係になった途端、そのかけがえのなさは失われ、誰しもその「一者」の側になりうる可能性が生じる。すなわち、つながれないことへの不安が生じることになる。
しかし、この作品では、三者関係が、極めてポジティブに描かれている。鍵となるのは、その「一者」を担う、燕太であろう。燕太は、ともすれば、一稀や悠に比べてエピソードが薄く、彼らよりも一段落ちる脇役のような印象を抱かれがちである。しかし、そうではない。

 

snobocracy.hatenablog.com

 

 先程のグレイグの項のタイトルに引いた「いつか一緒に輝いて」というのは同じ幾原邦彦監督のアニメ名作『少女革命ウテナ』の最終話のタイトルです。『ウテナ』は二者関係において対立する性質のお互いを友情でつなぎ、限界を越えて成長していく話だったのですが、『さらざんまい』、つまり『ウテナ』から20年とか経った「いま」においてはもはや、二者関係の限界を越えて「三者(そしてそれ以上)」によって「社会」とつながることで生き抜こうという望みが示されたのです。

もう「しかし、二人なら……Lになれる! Lを越せる!」(ヤガミオドルのリズムで)でいける時代ではない。

nico.ms

 モンスター騎乗のほかに、ドラクエ11では「れんけい」技がシステムとして重視されています。それは2人の連携だけでなく、ミナデインを除けば「三人」の連携が非常に強力です。双頭の鷲にもしも「3」があったならば。3という数字には現代の希望があります。

 

 

架空の紋章

 何度も言うようですが、当然「権威と称号を誇示する紋章」ていうのをマジに持ってる可能性はロウとグレイグくらいにしかなく、今読んできたこともすべて「※この紋章はイメージです」。でもロマンですよね。

このロマンは中世末期の、大紋章を飾り立ててたころの人々にもあったもので、彼らは大昔の人気の聖人や物語の登場人物(アーサー王とか)、神や天使や概念にまでも紋章を作りました。

 まあちょっとこれは商品名がアレですけど

 西洋には図像学がありますから、先述の色の記事のように、紋章の要素にはすべて意味がありました。実在の個人の服や紋章は家に受け継がれたものだったり偶然それになっただけだったりして、そこまで厳密な意味として読み解かれない要素も、フィクションの中では明確に個人の性質を暗示する表現となります。現実の人間が何座で血液型が何かが人格を決定するわけがないですが、ジェミニのサガが双子座のAB型であることには確実に意味があるでしょみたいな話です。

 中世の人々は架空のカッコいいキャラクターや、悪いやつ、聖人たち、いろいろな美徳に、ひとつひとつの要素に意味をこめて紋章を創作しました。今でいう、推しキャラにCVをイメージしたりイメソンやキャラソンを想定したりするみたいなことです。

 ドラクエ11はロトシリーズの世界のずっと昔の話だともみられる終わり方をしています。制作側のことを忘れて物語世界に没入して語るならば、伝承の中で彼らは神話の登場人物となり、紋章を創作されたのかもしれません。

後世に彼らの生きた道が伝えられ、それぞれに個性的に輝く人の心の星となって、それが紋章という「読み解けるしるし」に刻まれて残ったと思うと心ときめくことです。

 

 次は、しばらく間は空くんじゃないかと思いますがデルカダール国章とかデルカダールの国の象徴性の話を追記記事にする予定です。【追記】しました

 やっぱシルビアさんのバッジにしときゃよかったわと思う照二朗でした

(実際のゲーム中のグラフィック資料に使えるやつと思ってデルカダール国章にしちゃったんだよ)

 

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