湖底より愛とかこめて

ときおり転がります

「ネオロマンス」ブランドと主人公のあり方①

【追記修正】この記事は当初の「『金色のコルダ スターライトオーケストラ』に男性主人公は可能なのか?①」というタイトルが刺激的すぎて、ギョッとした方に「コイツ、乙女ゲームに男性主人公入れるべきだ!って言おうとしてる!?」という方向に誤解されていたため、タイトルを変更しました!

 

 本稿では、スマートフォン向けソーシャルゲーム『金色のコルダ スターライトオーケストラ』とその属するブランド「ネオロマンスシリーズ」「ルビーパーティー」、それらをとりまく「女性向けゲーム」界や「コンピュータゲーム」界の歴史における「主人公の性別の自由度」について、背景と論点を整理していきます。

 

記事の概要や筆者のスタンスを示した序文はこちら。まずはここから読むと読みやすいです。

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starlight-orchestra.gamecity.ne.jp

つまるところ、「女性のための・女性主人公ゲーム」に「男性主人公」も選択できるよう導入することが話題となります。

ちょっとヤベェことに、実はこの話題は、「そうだったら嬉しい」「進歩的だ」という推進派と、「このままでこそ良さがある」「変えようとしないでほしい」という保守派との間にたちまちに感情が噴出しやすく、拒否感や敵対心をかき立てやすい話題です。【追記】この「保守派」という言葉に傷ついたという方がいたと聞きました! 現代日本で「保守」「保守的」とは旧体制を維持・復古させようとする古臭い人間という意味で使われることが増えており、進むのがいいこととみなされがちな世の中ですが、「保守」の中心的な意味は「今あるものを守る」ということです。よいものを守るのはとても大事なことです!『アンジェリーク』でいうところの地のサクリアです。

ちなみに、筆者のスタンスとしては「今作の『スタオケ』に男性主人公を追加することには、総合的に判断して反対」です。

しかし、この話題には複数の観点があり、筆者の「総合的に判断して反対」の中にいろいろな観点の判断が入っているように、みなさん一人一人の中にも複合した背景や、理由や、希望があることでしょう。たんに「需要がある」「抵抗がある」というだけのせめぎあいで語ると、それらの観点や前提が不明瞭なまま対立の溝だけが地割れしてしまうことになりますので、それはアカン、話題が持ち上がったことを契機として観点と歴史の備忘録を、また、『金色のコルダ』シリーズへ託す希望について書いておくものです。

youtu.be

 

 

章立て

 記事の全体の目的や要約は↓こちらの序文↓をお読みください。

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 序文記事の全体要約を読めばだいたい話はわかるのですが、細かい話をダラダラする記事ではまとまりごとに記事を分けています。なので、全体の章立ての予定を先にお出ししておきます。章立ての文言は変わるとおもうんですが流れはこんなかんじです。

 

ことのおこり……今回の話題の発端について

問題の背景……「コルダに男性主人公」に関わる複数の観点の整理←今回この途中まで

ネオロマンスの特性……『金色のコルダ』およびネオロマンスブランドのカラーとテーマについて

「女性向け」の役割……「女性向け」文化およびネオロマンスブランドが果たしてきた役割と展望、男性主人公が選択できないことの意味について

「女性向け」とコルダ……「女性向け」文化において『金色のコルダ』が特に持つ役割と展望について

 

今回の記事では赤字のところをまずやってきたいとおもいます。

 

 

ことのおこり

 当方がこの話題について最初にオッとなったのは、2021年2月25日、「Apple storeのアプリレビューに、『男性主人公も選べるようにしてほしい』という旨のレビュー文言がみられた」という伝聞からです。

金色のコルダ スターライトオーケストラ

金色のコルダ スターライトオーケストラ

  • KOEI TECMO GAMES CO., LTD.
  • ゲーム
  • 無料

apps.apple.com

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「金色のコルダ スターライトオーケストラ」をApp Storeで より引用

【ここから追記】その後「伝聞だとボンヤリした情報でファンが女主人公派と男主人公派でケンカしてるみたいな誤解を招きやすいからちゃんと元発言見た方がいいよ、Googleで調べられるよ」とのご助言をいただき、マジその通りだな!となってレビュー全部読んで調べたものがこちら!

(ちなみに「容量がデカすぎてやっててられるかよ」というレビューが最も多かったです)

このレビューはどのような人からどのような需要と展望があって投稿されたものかはまったく不明ですが(短すぎるぜ)、日付からするに、このひとつのレビューをきっかけに25日の「ネオロマに男主人公……だと……?!」というざわめきは生じたようです。

備忘のためそのざわめきのときの雰囲気を記しておくと、まああんまりいい空気じゃなかったというか、モヤッとイラッとした仮想敵にシャドーボクシングみたいな感じのものだったので、この記事でモヤを切り分けてサンドバッグや足元をはっきり見えるようにし、みんなが怪我をせぬように、今後のネオロマンスファン界をちょっと明るくしとこうと書き始めた次第です。【追記ここまで】

 

「ネオロマンス」シリーズの良質のゲーム内容に対し「女の子主人公の恋愛ゲームでなかったらより手が出しやすい」という多方面からの需要は以前から存在しているので、「そう思っている人がいる」のは事実でしょう。それがもしゲームの本質を無視したフライドチキンのチキン抜き、生魚食えない人が行く回転寿司屋みたいなものだったとしても、ケンタッキーのスパイスがKFCでしか手に入らない以上は揚げ衣だけ食いたい人がいてもなんの不思議も悪いこともないですからね。寿司が回ってんの見るの楽しいし(だからおれはネタを回遊させない回転寿司屋が多くなってきた現在でもカバーかかってちゃんと回ってるくら寿司派だ!)(関係ありません)。

ちなみに、当方のスマフォはAndroidなのでグーグルプレイストアのアプリレビューを50件ほどさらってみたのですが、男主人公希望の感想を含むものはそこにはみつけられませんでした。【追記】話題のAppStoreのレビューでも、2021/03/25時点でたくさんある中に2件くらいでした。【追記ここまで】よって、「あるけど、そうそう表立つ声がデカいわけでもない需要」と考えてよさそうです。需要のデカさ=声のデカさではないことには注意が必要とはいえ、このぐらいの状況のときに話を整理しとかんとな。

 

当方がその話題を目にしたのはコーエーテクモゲームスや「ネオロマンス」シリーズのもとからのファンの多い環境でしたので、「ええっ、『コルダ』に男性主人公はちょっと……。いつものように女の子がいい……」という反応が多くみられ、「それってアリなのか?」という否定的・懐疑的論調のなかで、この話題について考えはじめた、という経緯です。

乙女ゲーム、と呼ばれている範囲に属するとはいえ、男が惚れる硬派ないい男や、そんな男たちとバチバチ友情努力勝利する激アツスポ根展開があるのが、『金色のコルダ』シリーズの中心的魅力のひとつですからね。今作も序盤からそういうノリで魅せてきています。

そうした『金色のコルダ』や「ネオロマンス」シリーズの作品性、「女性向けゲーム」の状況とも絡めて、今回の問題の現在までの背景をいろいろ書いていきます。

 

 

問題の背景

 『金色のコルダ スターライトオーケストラ(以下、スタオケ)』に男性主人公は可能なのか、あったほうがよいのかよくないのかに関しては、複数の観点があります。

おおむね、

①プレイヤーの好みの問題

②似た客層のゲームの現況

③ゲーム的・開発的・市場的に成立するか

④「ネオロマンス」および『コルダ』のテーマとの整合

⑤「いわゆる乙女ゲームでなくなる危惧

あたりじゃないかな~とおもわれます。

これらはそれぞれ視点が違うどころか、たとえば①なら個人の好みなので感情としてパッと燃え上がりがちな反面、自分以外のもんの関係する「可能か」とか「あったほうがいい悪い」とかみたいな話とは混ぜるな危険なのでそこらへん「だからどうなのか」を注意して分け分けするべきです。

①は個人の問題、②は業界の空気の問題、③~④は開発側的な問題です。なので、②~④については考えたり意見交換したりが有意義にできます。そのうえで判断は開発側がするんですけど、②~④の観点の議論は株主総会とかに出すのもアリですね。感染症の情勢が良くなったらいつかコーエーテクモの株主総会で僕と握手しようぜ!

また、⑤「いわゆる乙女ゲーム」でなくなる危惧 については、たぶんこの中でもさらに問題が複雑~に絡み合っているので、別項でも掘っていきます。気になる方は先に序文記事の全体要約をどうぞ。

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今回の記事では、①の個人の問題②の業界の空気の問題までについて整理していきます。

 

①プレイヤーの好みの問題

 「好みの問題」としてひとつの項目にしましたが、「好みの問題」って誤解されやすいフレーズですよね。

確かに「個人的好み」は、他者にどうこう言える観点ではありません。他者にもまた個人的好みがあり、そこに優劣はないからです。かといって、軽い問題であるというものでもありません。なぜならゲームは生活に必須のものではなく好みでやることで、好みに合わなきゃどうしようもないからです。

『コルダ』に男主人公を入れるのはどうなの?っていう「A 保守派」の「個人的好み」には、観測された中でたとえば以下のようなものが該当します。

A-1「女の子が主人公としてがんばるのが好き」

A-2「女の子と男の子が恋あるいは友情をするのが好き」

A-3「最も自分の目に入る操作キャラが女の子のほうが目に楽しい」

A-4「中性的なものでなく、女性的でかわいらしい全体のゲームデザインが好き」

A-5「自分の性自認が女性であるなどで、女性が操作キャラであるほうが移入しやすい」

A-6「男性同性愛、あるいは男性同性愛的なねらいの女性向け作品に抵抗がある」

特にA-1~3の意見が、おそらくA-4~5も背景として観測されました。「ネオロマンス」シリーズには女性向けゲームの中でも特に「操作キャラ=ヒロイン」のファンが多いという特徴もあります。「ネオロマンス」シリーズが最も想定してきた客層の需要といえ、こうした意見が多いのは想像できることです。

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 一方、男主人公もあったらいいなという「B 推進派」の「個人的好み」としては、

B-1「男の子が主人公としてがんばるのが好き」

B-2「男の子と男の子が恋あるいは友情をするのが好き」

B-3「最も自分の目に入る操作キャラが男の子のほうが目に楽しい」

B-4「女性的なものでなく、中性的でニュートラルな全体のゲームデザインが好き」

B-5「自分の性自認が女性でないなどで、女性以外が操作キャラであるほうが移入しやすい」

B-6「異性愛、あるいは異性愛的なねらいの女性向け作品に抵抗がある」

Aの「個人的好み」と反転しただけ状態ですが、実際おおむねの需要がこのどこかに入るのではないかとおもわれます。

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ここで、「女性向けゲーム」がリーチするのは「女性的な好みの、女性」だけではないことに注意が必要です。また、この①で問題にしているのは「個人的好みがある」ということなので、「メインターゲットとなる客層のボリュームゾーン以外はマーケティング的に気にする筋合い/余裕がない」というひとつの市場戦略についても、問題が別です。

個人的好みの問題においてはA-1~4とB-1~4は「本来女性的な好みの女性に向けたブランドである」という「ナワバリ」的なことを抜きにすればまったく等価なことです。女の子を見たい人もいれば、男の子を見たい人もいる、そこは同じことです。何度も言いますが「男の子主人公を見たい奴はここに来るなよ」という「鳥肉食わないKFCスパイス好き排除」のようなことはよろしくありません。個人的好みなんですからあるもんはあるんですよ。「好みがあること(存在)」と「それでどうするか(希望)」は別なので、自分以外の他人がどうあってほしいかの希望は個人的好み以外の観点で考えるべきです。A-5、B-5もじつに個人的なことで曲げようとして曲がるものではありません。

6に関しても、どちらも一見同性愛排除(同性愛好みの排除)・異性愛排除(異性愛好みの排除)という不寛容な偏見のようですが、不寛容だったり反社会的だったりするものでも、それが「個人的好み」であって実際に他者を締め出したり害したりする理由として使われないのであれば、まったく自由な内心です。何もかもを自分ごととして大歓迎する必要はないわけです。「自分は好きじゃないな」「思ってるのと違うな」という気持ちを、「だからやめろや」的な論調と絡ませるべきではないというだけですね。どうしても絡んじゃうことがあるのも、また当然として。

 

テイストの需要

 ちなみに、A保守派には女性らしい女性の物語を自分に近いものとして好む女性が多いようにも見えますが、A-3「最も自分の目に入る操作キャラが女の子のほうが目に楽しい」A-4「中性的なものでなく、女性的でかわいらしい全体のゲームデザインが好き」に関しては、「萌え」的な意味で男性ゲームプレイヤーにもそのような需要は多くみられます(「バ美肉おじさん」などにもみられるように、成人男性は操作キャラとしてかわいい女の子を望みがち)。

当然、萌え的な需要をもつゲームプレイヤーに性別が女性の人も存在するでしょう。「萌え」需要を「カッコいい」需要に置き換えれば、B-3「最も自分の目に入る操作キャラが男の子のほうが目に楽しい」B-4「女性的なものでなく、中性的でニュートラルな全体のゲームデザインが好き」にも老若男女問わず好む人がいることが考えられます。

『週刊少年ジャンプ』などの「男の子向け」とされるマンガアニメゲーム文化は「一般向け」の主軸となっていますから、女性にも「男の子向け寄りにニュートラル」なものを好み男性主人公のほうが物語に入り込みやすい人が多くいることは十分考えられることです。

ただし、女性文化の中で「男性」と「一般」が同一視されるというこの状況は、「個人的好み」以上の問題もおおいに含んでいるので、それも別口で考えるべきです(当記事の続きで述べていきます。気になる方は序文の全体要約へ)。もちろん、どのような問題があろうとも、「個人的好み」は「個人的好み」なのですが……。

 

男女界、男男界

 また、A-6「男性同性愛、あるいは男性同性愛的なねらいの女性向け作品に抵抗がある」B-6「異性愛、あるいは異性愛的なねらいの女性向け作品に抵抗がある」に関しても、これまた「個人的好み」の枠を超えた複雑な絡まりがあります。いわゆる「"ノマカプ"あるいは"異性愛夢"を好む人々」と「”BL”を好む人々」との間に、お互いの好みへの抵抗が生じて「陣営」のようになることがあります。

”ノマカプ”はノーマルカップリングの略で、NLともいいました。異性どうしの恋愛関係(カップル)やその創作をさします。この用語は「異性愛以外はアブノーマルである」「カップルや愛には”普通”である型が存在する」という差別的考えに荷担してしまうことから、現在はBG(ボーイ&ガール)、男女カプなど別の呼称が広がりつつあります。”夢”とは架空のキャラクターや世界観に自分の意思を介在させたオリジナルの人物を関わらせた想像や創作をしたり、自分自身がキャラクターや世界観に関わりたい気持ちをもったりすることの主に女性向け界での総称です。”BL”は主に女性向けに楽しまれる男性同性愛的創作ですね。む、難し~~~~~

難し~のでスゲー乱暴に言うと「男女がくっつくのが好き派」と「男男がくっつくのが好き派」の対立です。スッゲー乱暴に言うとですよ。望まれている「くっつく」は必ずしも恋愛とは限りませんし、"夢"にはBL夢も存在し、それぞれの需要をもっている人の性別も女性に限らずいろいろです。

この2つの勢力は必ずしも背反でもないし、会えば必ず喧嘩がおこるわけでもないのですが、不文律的に「住み分け」というお互いの領域に近付かない規律が語られることがあったり、一部の人がお互いに排斥しあったこともあったりの歴史をもつ2つの村みたいなものです。しかもこの2つの村の歴史には「女性向け」や「女性ジェンダー」そのものが受けてきた抑圧がメッチャ関わっており、本来争いてぇから争ってるわけではない、どっちが派として悪いわけでもない、構造的な問題です。(もちろん人間の集団なのでどこにでも悪い奴は一定数いますが)

しかもその「女性向け」をとりまく構造は全然まだまだ続いているので、A-6とB-6の「好み」が内心の自由を超えてお互いを警戒しがちなのは無理からぬことともいえます。派閥などに属しているつもりのない人も、知らず知らず「女性向け」をとりまく構造には影響されます。このあたりのこともあって、この話題に関しては冷静に話がしづらいことを、まず前提として織り込んでおくべきでしょう。

 

②似た客層のゲームの現況

 現在「乙女ゲーム(女性向け・女性主人公の主に恋愛を題材としたゲーム)」を含む「女性向けゲーム」として一定の客層帯へ向けてリリースされているゲームコンテンツの状況も、男性主人公選択の可能性には大きく関わってくるでしょう。

業界で多く採用されていることほど、先行モデルが多くて開発しやすいという意味でも、奇異に見られて避けられないという意味でも、なにより「顧客がそれに慣れていてプレイしやすい」という意味でもアドバンテージがあります。食傷するほどよくある要素になってしまうとまたダメなのですが。

逆に言えば、「いまどきこれがふつうなのになんでやってくれないの?」と思われることは十分に難点になりえます。いまどきのゲームでストーリーログのふりかえり機能とか救済的な難易度設定とかが皆無だと非難ごうごうでもしょうがないですよね。『スタオケ』に魅力を感じた顧客のうちの一部にとっては、「女性主人公でしかプレイできない」ということがそういった「いまどきこれがないの?」という難点と感じられた可能性があります。

つまり、現在の女性向けゲームの業界では「女性以外の主人公でもプレイできること」がけっこう一般的に見られているのではないか?という観点です。

まあしかし、これも「一般的」で「需要がある(あるいは多い)」からといって、それに合わせるべきかどうかにはまだまだ他の観点もあるのですが。ニホンジン(巨大主語)、「みんなそうしてる」に過剰に合わせようとしがちなので、この点にも注意が必要です。業界がみんなそうしてるからといって「あえて」外すことも当然アリでしょう。もちろん「みんなが青信号になってから渡ってるから俺はあえて赤信号で進むぜ!!」というのはダメなわけですが。

 

家庭用ゲームソフト

 まず、『金色のコルダ』シリーズのもともとのフィールドである家庭用ゲームソフトの女性向けゲーム界隈についてです。家庭用ゲームソフトとはプレイステーション系列機などの据え置きハード、パソコン、ポータブルゲームハードでプレイする専用ソフトをさします。現在は実質的にニンテンドーSwitchのソフトのことですね。その前の10年くらいではプレイステーション2、3、ニンテンドー3DS、PSP、PS Vitaのソフトが該当します。

A保守派には従来の『金色のコルダ』シリーズを好んできた人が多いと考えられるので、こちらの家庭用ゲームソフトの過去から現在の状況を常識としてインストールしているはずです。

 

 ここ十数年の家庭用の女性向けゲームでは、「主人公は若い女性(の姿)」というのがおそらく9割以上を占めています。ただし、BLゲームを除きます。

すなわち家庭用の女性向けゲームは「乙女ゲーム(女性主人公、男性攻略対象)」と「BLゲーム(男性主人公、男性攻略対象)」のふたつに大別され役割分担をしてきたということです。ゆえに、A保守派の多くの人が「男性主人公ならこのジャンルと関係ないのでは……?」という感覚をもっても無理のないことです。ネオロマンスシリーズのブランドとしても、一貫して女性主人公の顔をうち出していっています。

少しの例外として、現在もSwitchで新作を出し続けているメーカー「TAKUYO」が2000年代中期に数本の「男女両視点恋愛アドベンチャー(主人公の性別を選択できる恋愛ゲーム)」を売り出したことがあり当方としてはたいへん盛り上がったのですが、そのジャンルには残念ながらあまり後続は出ず、一般にそんな知られてもいないとおもいます。

また、「女性向けゲーム的に男性キャラクターの攻略を楽しむこともかなりできる」タイプの一般向けゲームとして『ガンパレードマーチ』や、『サモンナイト』シリーズや近年の『ファイアーエムブレム』シリーズ、あるいは『無双』シリーズのファンディスク(猛将伝、Empires、Chronicle)などが楽しまれており、これらは主人公の性別を選べることが多いのですが、いかんせん女性向けゲームの客層に好まれやすいライトなゲーム性に比べるとシンドすぎるし腰をすえてプレイする時間もかかるという難点があります。難点というかコスパ的にはいいことなんですが、このことで女性向けゲームと客層がそんなにかぶらなくなってるんですよね。

戦国無双 Chronicle 3 - 3DS

戦国無双 Chronicle 3 - 3DS

  • 発売日: 2014/12/04
  • メディア: Video Game
 

ただし、ゲーム性の奥深さとプレイ時間のヘビーさに着目するならば、それは『アンジェリーク』シリーズや『遙かなる時空の中で3』や『7』、『金色のコルダ』初代などの「ネオロマンス」シリーズにもわりとある特徴です。そのため、このあたりの「ネオロマンス」を好んできた歴戦の猛者たちには上記のような「キャラ攻略も楽しめる一般向けゲーム」を積極的にプレイしている人も多く、その層に関しては(男性主人公を選ぶことがあるかどうかは別として)男女選べる主人公システムにも親しんでいます。「女性向け」の集合の中でいえば、ネオロマンスの硬派さに惹かれる層の一部は、やや男女選択制主人公に慣れがあるのかもしれないといえます。

また、特定のジャンルのゲームにハマらない「一般」の人のプレイする家庭用ゲームでも、『ポケモン』『あつ森』『リングフィット』などプレイヤーキャラクターの姿が女性的か男性的かいろいろ選べるのが一般的になってきています。

ファイアーエムブレム 風花雪月 -Switch

ファイアーエムブレム 風花雪月 -Switch

  • 発売日: 2019/07/26
  • メディア: Video Game
 

コーエーテクモゲームスが実質的に制作を担当しているのでものすごくネオロマンスのいいにおいする『風花雪月』です。

 

スマホゲームアプリ

 家庭用ゲームソフトのフィールドに代わって現在の女性向けゲームのメインフィールドとなっているのが、スマホゲームアプリです。これには「女性向けゲームというわけではないが、女性も多くプレイしている」ものや、『刀剣乱舞』『グランブルーファンタジー』などのブラウザ版を初出あるいは並行とするものも入ります。

 

 グラブルは一般向けゲームですが、魅力的な男性キャラクターをガチャッたり育成したりイベント見たりの女性向け的動機をきっかけにプレイするプレイヤーもかなり多く、制作側に意識もされているため、客層のパイは女性向けゲームともカブっています。『Fate/Grand Order』なども現在は同様に女性向け的需要を意識しています。この二つに代表されるような「キャラをガチャる一般向けスマホRPG」にはかなり男性向けな要素もかなり女性向けな要素も混在しており、多方面の需要にはたらきかけることで覇権を握っているコンテンツが現在ではふつうだということになります。『原神』『アークナイツ』も同様ですね。これらは主人公の性別を選択できる(グラブル、FGO、原神)かほぼ不明(アークナイツ)です。

GRANBLUE FANTASY グランブルーファンタジー GRAPHIC ARCHIVE VI

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  • 発売日: 2020/05/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 一方、客層をはっきり女性方向と想定しているスマホゲームアプリにも、実は大きく分けてふたつの流れが存在しています。

 ひとつは、従来の「乙女ゲーム」的な目的に近い、女性ヒロインの視点でイケたメンどもとラブラブハッピーエンドを迎えるドラマを体感していくもの。そのものずばり『イケメン戦国』『イケメン幕末』などを現在も提供している「サイバード」製のものや、最近Switch移植もした『恋人は公安刑事』など「恋愛ドラマアプリ」と銘打って乙女ゲームのキラキラっぽい気恥ずかしさを薄めて夜9時ドラマっぽくしている「ボルテージ」製のものが代表的です。

これは女性向けのちょっとえっちで私どうなっちゃうの~!?な恋愛小説やマンガ、いわゆる「ハーレクイン」や「ティーンズラブ」「レディコミ」的な需要をもつ層に、小説やマンガよりもビジュアルやサウンドの演出を楽しみやすく提供したものといえます。さらに、小説やマンガではふつう一つの筋しか楽しめませんが、王道ストーリーではサブキャラや悪役になってしまうようないろんなタイプのキャラクターを味わえるという利点があります。

つまりこのあたりはゲームというより女性向け恋愛小説やマンガの発展形といえ、したがって10代~30代くらいの女性がヒロインとなるジャンルで間違いありません。客層も「ハーレクイン」や「ティーンズラブ」「レディコミ」と同様、20代~40代の女性(ティーンズラブってめんどくさいことにティーン向けじゃないんですよ、えっちだし)、特に主婦層です。

「ネオロマンス」は息が長いのでファンの中には中年の層がありますから、そのへんでこことカブっている可能性も十分にあります。その層からすると「ネオロマンスに男性主人公?????ロマンス??なのに????」と混乱しまくりでしょう。ただし半面で、このタイプのゲームの顧客へのアプローチは「おまえが可愛すぎるのが悪い…」とか「強引な彼に身を任せて…」とか「運命に翻弄されるあなた…」とかなどの、受動的で古めかしい男女観にうったえるレトロめな感じのものなので、「イケメンたちに敬意を抱かれるように強く賢く能動的に行動し、対等に尊敬し合う関係を築いていく」ネオロマンスの特徴を愛する新時代の女性層向けにはならないのかもです(もちろん両方の好みを併せ持っている人もいるでしょう)。

あと、ここでは余談ですがこのようにハッキリとえっちさやラブラブさの娯楽方向性が定まっているドラマゲームとしては、BLゲームアプリもわりと(男女のラブドラマゲームよりは圧倒的少数ですが)存在していますし、男男も男女も女女もアリだぜ!!というものも少数あります。いずれにせよ、えっちさやラブラブさの娯楽性をわかりやすく顧客に訴求する作品は性別のことをはっきりさせておく文化があるといえるでしょう。

 

 もうひとつの女性向けスマホゲームアプリの流れは、これが市場規模やプレイヤー数的には現在最もメジャーだといえるタイプなのですが、イケたメンたちを、明確に恋愛するでもなく、育成したりキャラ同士のストーリーを見たりして、キャラクター性を愛でるというものです。現在の女性向けカテゴリに入るスマホゲームの売り上げトップである『あんさんぶるスターズ』などの男性アイドル系ゲームや、旬の『ツイステッドワンダーランド』『魔法使いの約束』、堂々たる『刀剣乱舞』などもここに該当します。ちなみに、『スタオケ』も同様の売り上げランキングで現在上位にランクインしています。

家庭用ゲームハードの「乙女ゲーム」ソフトやスマホゲームアプリの「恋愛ドラマゲーム」にアドベンチャーゲーム方式、すなわち小説や脚本のようなシナリオに絵や音声や選択肢、好感度システム、あとたまにちょっとしたミニゲーム要素を加えたタイプが多いのに対し、こちらの「美男ゲーム」とでも呼べるような群はゲーム部分がメインとなっていることが多いです。ここでいうゲーム部分とはざっくり言って「シナリオをセリフ送りする」のではない、プレイヤーがなんらかの戦略をはたらかせてアクションしたり、その結果を見たりすることを繰り返す、「パズル」や「指揮」や「育成」や「リズムアクション」などのことです。

注意すべき点として、「美男ゲーム」はゲーム部分がメインとなっているとはいっても、必ずしもゲーム性が優れている(おもしろい)わけではありません。パズルゲームやリズムゲームは難易度が高くなるごとに当然やりごたえは出ますしそういう楽しみはありますが、さすがにそれ専門のゲーム、『ぷよぷよ』や「ビーマニ」ブランドなどと比べても独自のおもしろさがあるとかではありません。「育成アイテムを集めてレアカードをひたすら育成する」「ひたすら周回してイベントポイントのランキングを戦う」ことの虚無さはよく「ソシャゲだから仕方ない」とネガティブに語られます。いまや押しも押されもせぬ超ビッグコンテンツとなっている『刀剣乱舞』も、最近はだいぶイベントとかのゲーム性が改善されましたが当初はキャラクターコレクションを除いたゲーム部分はだいぶ虚無で、ファンの中にもたまにしかゲームにログインしない、あるいはプレイしていない人も多くいます。

いやこれは悪口じゃなくて、それでも多くの「女性向け」層プレイヤーの時間とお財布の占有率を高く保っている、つまりこれにはこれならではのいいバランスがあるのだということです。そして、そのからくりに「美男ゲーム」の多くが「主人公の性別を選択可能、あるいは不明としていること」が関係あると当方は考えました。

 

 「すごくおもしろい、というわけではないけれど、ゲーム性が設定されている」というのはつまり、「このゲームには『恋愛の成就』ではない本筋の目的・物語がある」ということになります。なりますっていうか、「恋愛の成就」ではない本筋があり、かつその本筋ストーリーをできるだけ引き延ばして時間とお財布を占有しようとすると、ゲーム性をとりつけるのが良策となります。

出陣

出陣

  • 発売日: 2017/07/13
  • メディア: Prime Video
 

「恋愛の成就」ではない本筋っていうのは、『刀剣乱舞』なら「歴史改変を防げ」、アイドル系ゲームなら「トップアイドルをプロデュースせよ」、『ツイステッドワンダーランド』なら「(いつか家に帰るため)曲者たちと魔法学校生活を送れ」、そして『スタオケ』なら「世界一のオーケストラを作れ」といったようなもののことです。すべてサザエさん時空しようと思えばできるタイプのデカめでゴールの不明瞭な目的です。これはソシャゲ商売上有利なことの一点目です。人気がある限りいくらでも引き延ばしてイベントおこしておマネーがとれるので。

(ちなみに、『金色のコルダ』シリーズのソシャゲの先代である『100万人の金色のコルダ』でも「星奏学院で音楽学生生活を送る」というサザエなベースに季節のイベント(ガチャあり)と個人との恋愛イベントが逐次投入されるという形式がとられており、中心構造は『スタオケ』とあまり変わらないですね)

 

 じゃあ「『恋愛の成就』ではない本筋の目的・物語」とそのゲーム性をお題目として掲げておくことの有利なこと二点目って何かというと、「乙女ゲーム」を越えた広い客層へのリーチです。すなわち、「乙女向け」にも「BL好き向け」にも同時に対応する、どちらも排除しないということが、この「恋愛」をフンワリさせたゲーム設定で可能になるのです。

「乙女向け」と「BL好き向け」と分けましたが、現在の「女性向け」で想定される層には性別とか明確に恋愛かどうかとかを問わない「人間関係の機微」「クソデカ感情」を愛好する人が多くいます。これが「主人公の性別を選択可能または不明」につながってきますし、主人公が女性転校生ちゃんだと決められている『あんスタ』においても「登場人物とプレイヤーの間」「登場人物どうしの間」のどちらの関係性も売りとして重視していることは同様です。実は、引き延ばしや追加課金のない買い切りゲームでも、「ネオロマンス」ブランドにはずっと前から一貫してこの「登場人物みんなの間の人間関係の機微」という長所があるんですよね。

遙かなる時空の中で6(4) (KCx)

遙かなる時空の中で6(4) (KCx)

  • 作者:水野 十子
  • 発売日: 2017/07/07
  • メディア: コミック
 

(たとえば、この表紙の右の男性キャラクターと関りが深い左の美少女は主人公ではありません。攻略対象の男性キャラクターです)

名目上の本筋を用意し「恋愛」をフンワリさせることで可能になるのは「恋愛イベントを起こしても起こさなくてもいい」「プレイヤーがクソデカ感情だと思うところを好きに楽しめばいい」という自由だけではありません。「恋愛をしていない『素』のキャラクター性」や、「対プレイヤーだけでない、多様なキャラクターどうしが関わる中でじわじわと見えてくる、個人や関係性の個性」を深めることが圧倒的にいっぱいできるようになるのです。このことによってこの手の「美男ゲーム」は現在幅広い層に、かつ強く心をつかんでリーチして女性向けゲームの覇権をとっているのではないか……というわけです。

この利点も『スタオケ』にはバッチリあてはまっています。先日開催された初の期間限定イベント『Bitter Sweet White Day』は「ホワイトデーイベント」とか名乗っておきながらその実『金色のコルダ2』風にいう「弓原凛と榛名流星・成宮智治との対立イベント」でした。コルダ2の「対立イベント」とは男性アンサンブルメンバー2名の全組み合わせに音楽性や人生観の違いによる摩擦がおこり、ケンカを乗り越えてお互いの考え方への理解と連携が深まる…というものでした。それが、今回のホワイトデーイベントでは「ソシャゲの恋愛が主軸ではない期間限定イベントの、ピックアップキャラとイベントシナリオ」という形式を用いることによって、コルダ2より格段にボリュームアップして豪華にそれぞれのキャラの物語の絡み合いを描き、個性の解像度をグンと上げるスポ根ドラマを成立させていたのです。ホワイトデーイベントだよな? まあバレンタインになんもあげた覚えない(サービスが開始していなかったため)から文句言えんけど……。

というわけで、「キャラと主人公の間の恋愛的なドラマ」だけでなく「キャラ同士の間のドラマ」や「キャラと主人公の間の恋愛だけでないドラマ」にも売りを見出していくタイプの「女性向け」スマホゲームアプリの現在の常識としては、「主人公の性別は選択可能であるか、不明」であることに一定の妥当性があり、それがみんなの目にたくさん触れているんだろーなと考えられます。

そして、「ネオロマンス」はずっと女性主人公が恋をするゲームでありながらも、同時にずっと「キャラ同士の間のドラマ」や「キャラと主人公の間の恋愛だけでないドラマ」に異様に強いブランドであり続けているのです。よって、その観点からも「そういうタイプのゲームが今時やっていること」としての「主人公の性別は選択可能であるか、不明」をやらないのかな?という感覚をもつ人がいること自体は自然なことなのでしょう。

 

 

繰り返しますが、このへんのことはあくまで一般的さや慣れの感覚の観点であって、他にも判断材料はあるんですけどね。ただ「今時の/ジャンルの常識だろ」と思っているだろうことにさえ、これだけ違いがあり、「『金色のコルダ』をやるような人たち」は一枚岩ではないどころか、ボリュームのある岩が林立しているような状態だということを認識しておく必要があるってことです。

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 次の記事では「他の判断材料」、

③ゲーム的・開発的・市場的に成立するか

④「ネオロマンス」および『コルダ』のテーマとの整合

⑤「いわゆる乙女ゲーム」でなくなる危惧

について整理していく予定です。書いてるうちにどんどん壮大な話になってきてしまいめちゃくちゃくじけそうなんだけど応援よろしくです。なんの得になる誰が読む記事なのかぜんぜんわかんねえけど……。

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↑ブログ主のお勉強用の本代を15円から応援できます。というか今回の記事用にもうビデオゲームの歴史みたいな本数冊買って読んだ

 

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