本稿では、『ファイアーエムブレム 風花雪月』における「ジェンダー・イクオリティ」(あるいはジェンダーバイアスフリー)……男女の性別役割固定の撤廃へのとりくみにまつわる表現と、作品テーマとの絡みについて整理・考察します。
この記事のその①はこちら↓
爵位の相続性差についての話の前に爵位の説明はこちら↓
前回は、『風花雪月』作中での「女好きナンパ野郎」というジェンダー的ポリコレの問題になりやすい属性持ちキャラクターの描き方の倫理観・丁寧さから、この作品はジェンダー関連の描写にちょっと信頼をおいてもよさげ、という序文を書きました。
今回は本論として、今までのファイアーエムブレムシリーズ歴代作品のジェンダー問題取り扱いの変遷と、その中での『風花雪月』の位置づけ、そのこととフォドラの社会規範との関わりまで見ていこうとおもいます。
歴代FEのジェンダー・イクオリティ取り組み
人によってはフィクション作品において「ジェンダーフリー」とか「ポリコレ」とかうるさく言いだしたのは最近のように感じられているかもしれませんが、「女性の解放」「男性の新しい生き方」などのモデルを示すフィクションというのは昔~~からいっぱいあります。最近はそういうコトバで語られるようになっただけですね。
作品はその属する社会の水準より進んでだったりちょっと遅れてだったりしつつ、いまを生きる人の生き方のモデルを示します。
ファイアーエムブレムシリーズはシリーズ共通の
「さまざまな国や社会階層の上下、多数の老若男女の諸事情を巻き込んだ戦争で軍を率いていく」
という性質上、自然とさまざまなジェンダーのありようを描くことになってきました。ファイアーエムブレムが生まれたふた昔前くらいの(女性向け以外の)フィクションでは、まともに登場する女性が一人か二人みたいなことも珍しくはなく、そうなっちゃうと女性の役割って「母ちゃん」か「ヒロイン」くらいにあてはめられざるを得ないからです。
そういう背景があるので、最初期のファイアーエムブレムは今より明らかに女性の数が少なくその描かれ方もそんなに多様ではないのですが、その頃の常識からしたらけっこうすごいのですよね。
女性だけが戦うエンターテインメイントではなく、男女混成で男性メインの戦場なのに、女性もいっぱいいてそれぞれ個性があって戦うんですから。いっぱいってところがポイントです。日本の会社管理職や議員に占める女性比率が先進諸国に比べてメチャンコ低いままであることが近年問題となっていますが、女性が一人や二人なら先述のとおりその人は「女性である」ということを代表してそこにいることになってしまいます。マイノリティは見える数が多くなることでようやく多様な本来の個性である「こういう女性」「こういう人」を示すことが可能になります。
タイトル順・女性比率とジェンダー関連内容
というわけで歴代ファイアーエムブレムタイトルのジェンダー・イクオリティ取り扱いの変遷をみるために、「仲間キャラの女性比率」「特筆すべきジェンダー関連内容」をとりあえずざっくりと整理していきます。比率は今ざっくり計算したから細かい数字は大目に見てください。
(ジェンダー・イクオリティ的ポリコレを考えるとすると、ほんとは性別を男女に分けての性別二元論みたいな見方もよくないんですけど、現時点での便宜上)
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●『暗黒竜と光の剣』(1990)……女性比率24%
☆それでも11人も女性を作るとはたいしたもんだよ
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●『紋章の謎』(1994)……女性比率25%
●『聖戦の系譜』(1996)……女性比率42%(親世代)、36%(子世代)
☆「男女ペアが結婚し次世代が生まれる」というシステムの都合上飛躍的に女性比率が向上。しかしそれでも男性は4人余り、子世代の女性比率は下がる。
☆「血筋の者だけが使える神の武器」が貴族の嫡嗣に継承されている(『風花雪月』の英雄の遺産に相当)が、それは明確に「聖痕」という武器の使い手の証(『風花雪月』の紋章に相当)があるため継嗣問題に男女の別があまりない。
●『トラキア776』(1999)……女性比率32%
●『封印の剣』(2002)……女性比率37%
☆「男性ヒーラーと不美人な女性護衛」のバディが登場。「華」でなくてもいい女性の提示
☆女性職である「踊り子」と同じチア職能の男性ユニット「吟遊詩人」、事実上ゴツ男性専用職であった「アーマーナイト」にかわいい女性が登場
☆主人公ではなくヒロインにあたる幼馴染の美女が連合の盟主の位にある
●『烈火の剣』(2003)……女性比率31%
☆「3人の主人公」という初の取り組みの一部ではあるが、女性ロード主人公が初登場。(【追記】『暗黒竜と光の剣』の後の『外伝』を含めると女性主人公サイド自体は「セリカ編」があります)男女問わず好評を集め、現在でも全シリーズ人気投票で常に女性キャラトップクラスの人気を誇る。
☆どう見ても美しい女性にしか見えないグラフィックの男性神官が登場
●『聖魔の光石』(2004)……女性比率38%
☆兄妹主人公システムであり、女性主人公が堂々たる存在感を見せる
●『蒼炎の軌跡』(2005)……女性比率26%
☆女性比率は低いが、それが普通ではなく「男っぽい雰囲気の作品」であることがわかる
☆「戦えない」と明言されたチア職能の男性キャラ、意識されることさえなく男性のみだった「兵士」のクラスの女性キャラが登場【追記】ただし「見習い兵士」という特殊クラスの女性キャラは『聖魔の光石』ですでに登場している。
●『暁の女神』(2007)……女性比率34%
☆前作の男くさい主人公ものちに登場するというサポートはあるが、ついに女性がメイン主人公となる
●『覚醒』(2012)……女性比率50%(親世代・プレイヤーキャラの性別を女性にした場合)
☆結婚システムの再採用も手伝い、『聖戦』を超えて男女半々に
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●『if』(2015)……引き続きほぼ半々
☆『覚醒』と同様の結婚システム、男女半々
☆なんかいろいろ問題はあるけどともあれ同性婚を初採用
☆女性職「ペガサスナイト」と類似のクラスの男性、クラスとしては実現しなかったが記述上踊ってるらしい男性の踊り子が登場
このような感じで、ファイアーエムブレムシリーズは問題やあと一歩さをはらみながらも、少しずつなんやかんやしていっています。
兵種における性差
ファイアーエムブレムには、女性の比率やメインストーリーへの関わり方だけでなく、「兵種」というまさに性別役割にかかわる要素の変遷もあります。
すなわち、「女は白魔導士ばっか問題」のままに、最初期のファイアーエムブレムでは女の兵種といえば「僧侶」すなわち武器をとって戦うことのできないシスターであり、ザ・ケア役割のかよわい女の子だモンという風情のキャラが11人中3人もおる。
それでも正ヒロインであるシーダ様が天馬を駆り槍をとって戦うペガサスナイトであるというところに面目躍如があるのですが、しかしこのペガサスナイトだよ、これが11人中4人もおるんですわ。以降の作品でも「ペガサスナイト三姉妹」はファイアーエムブレムの戦場の華の基本であり、『暁』までなんらかの形で必ずいる。
つまり「シスター」と「ペガサスナイト」は「女職」であり、「魔導士」もやや女職、特殊な種族であるチキちゃんを除くと、騎士戦士のたぐいをしている仲間女性キャラクターはじつに2人だけなんですよね。しかしそのうちの一人は「ジェネラル」という将軍格の上級職女性軍人であるところはすごい。
おおむねこのような偏りに「踊り子」というややエッチな踊りの力で味方をチアする「女職」も加わったものをベースとして、ファイアーエムブレムの女性兵種は分布してきました。「男職」の偏りだってもちろんあります。「アーマーナイト」にはイケてないメンが当てられ、「斧戦士」系の兵種には高貴でなく粗野で汗くさいイモ男というベースのイメージがつきまとってきました。
そこに「例外」がちらほらと示され、増えながら、ここまで来ました。
『風花雪月』の男女比率と兵種
『風花雪月』でも、男女比率はほぼ半々に保たれています。青獅子の学級のみ級長バディが男・男なことによって5:3になっていますが、男社会ぎみの騎士の国の雰囲気を演出していていいんじゃないでしょうか。大人たちも男女同程度に社会に参画しています。
マジ共同参画
「男女共学の学級」という舞台上、プレイヤーには男女半々であることが普通なように感じられることでしょう。しかし、プレイヤーの常識にとっては見慣れた光景を演出していても、「騎士」とかやってる時代の「士官学校」が男女半々というのはよく考えたら驚くべきことじゃないですか!? 我々の世界だったら!!
そういう「よく考えたら」にハッとなってるうちに、修道院にいるモブたちや戦うモブ兵士らにも女性が多いことに気付きます。しかも「修道女」や「信徒」、「ペガサスナイト」や「ヒーラー」「魔導士」ではない、「司祭」「枢機卿」や「騎士」、「ごろつき」や「アーマーナイト」にまでゴロッゴロ女性がいるのです。いにしえのファイアーエムブレムだったら、「村人や商人以外のNPCや敵兵の中に女性がいる」というのはそれだけで彼女が仲間になったりなんだりする特別なユニットであると考えてもいいくらいだったのです。それがいまや、何者が女性でも何も特別なことなんかではないと、言葉もなく当たり前のこととして表現されているのです。
仲間ユニットの兵種も、いちおう適性とか得意技能とか男女でなれない兵種がわずかにあるとかそういうのはありますけど、基本誰でもなんにでもなれる。正ヒロインであるエーデルガルトは「重装」の適性を伸ばしてほしいと申し入れてくるし、露出度の高いかわいい衣装と踊りでチアしてくれる踊り子は好きな子を選べるのです。ついに男踊り子の実現です!! 当方はこの瞬間をずっと待っていたんですよ! 踊り子フェリクス、最強だし格好いい!
なぜ男女の職業偏りが少ないか
当然のように我々の社会より進んだかんじの男女共同参画社会をみせつけるフォドラですが、どういう社会的要因によってその差があるのでしょうか? 「女の花が咲き誇る時間は短いんです」というドロテアの発言や、「妹」を過剰にかわいがりいいところを見せたがるヒルダの兄たちなどをみるに、フォドラの「性別」に関する常識が我々の社会の常識とまったく異なっている、ということではなさそうです。
そこには「そういうもんなんだよ」ではなく、ちゃんと理由として読める我々の社会とと違ったファクターがあります。
①女神を信仰し、女性であるレアが大司教をつとめている
我々の世界のキリスト教に「神はみずからの似姿としてアダムを作った」的なことが語られてるように、主神、および最高指導者と同じ性別っていうのは強いでしょ。しかもフォドラにおける女神ソティスは多神教の中の一柱としての女神ではなく、事実上の唯一神、ヤハウェの神に相当するのです。
レアがフォドラ最大の組織であるセイロス聖教会の最高指導者としてずーーーーっと実権をもっている以上、「女性が管理的役職に就くなんて……」とか言うわけがありません。レア=セイロスであることからキリストにあたるセイロスも女性なわけ。
②貴族社会の継承権が紋章に依存している
ベルナデッタ=フォン=ヴァーリのプロフィールを見て違和感をおぼえたことがあります。
ベルナデッタはヴァーリ伯爵家の「嫡子」と書かれています(第一部では)。アトツギという意味で。
我々の世界では、その意味でなら「嫡子」というより「嫡男」という言葉が使われることが普通だから、違和感を感じたのです。いやベルナデッタは女性なのでそう言うわけはないんですが。「嫡子」という言葉はむしろ「庶子」=正妻腹でない子 の反対語として使われることも多いくらいで……。
そこで改めて感じることとして、フォドラでは「嫡」と「それ以外」は母親の立場や性別や長幼の序といった我々の社会でのファクターよりも「紋章」が優先することが多いのです。たぶんベルナデッタは一人っ子なのだと思われますが、明らかに心と行動を病んでおり、現当主との関係もブチ壊れていて、養子のアテさえあればこんなん普通嫡子にしないですよ。でも紋章持ちなので、こんなんでも跡継ぎとしていい婿捕まえようとムリヤリ学校に入れさせられてしまった……。かわいそうに……。
そしてこのベルナデッタ、祖国を投げてきたフェリクスと結婚した場合のペアエンド文がまた面白くて、「ヴァーリ伯爵家領地を継ぐが、外に出ないので領民たちは婿のフェリクスを新しい領主だと思ったりしたみたいで、文書には『ヴァーリ領主フェリクス』の記述もみられる」というのです。このエピローグからわかるのは、「生まれも才覚もいい婿が来て」も、「領民たちが婿を領主だと思うほど婿が実務をして」も、「それでもベルナデッタこそが領主である」という厳然たる事実です。本人にやる気などないのにこれなのですから、フォドラの常識ではベルナデッタが女性であることが彼女の爵位・領主位の相続にかげりを落とすところは全くないということになります。
以上のおもにふたつの理由から、フォドラの教会や貴族社会といった上流では(騎士の国である王国は男社会寄りですが)女性であることは特に問題にされず、貴族社会ではむしろ「紋章があるか」が我々の世界にあった「男かどうか」という基準と同じように重視されるのだと整理できます。
「紋章」と「性別」
このように、(エーデルガルトが撤廃したがっている)フォドラの貴族社会の規範では、「紋章の有無」が我々の思う「性別」のように人の生き方を決めてしまっています。ここで思われるのは、「紋章」と「性別」には社会構造の中で共通点が多く見いだせるということです。
何言ってるのか? ひとつずつ挙げていきます。
ちょっとだけ強い力
「紋章があると適合する英雄の遺産を使える」なんてのは、確かにものによっては激烈な力ではありますが平時には全然使いません。外敵から領地を守るのも貴族のつとめとはいえ、そこまで強大な力をふるう必要はないわけで、英雄の遺産はないならないでもいいものです。
リンハルト=フォン=ヘヴリングが考察しているように、紋章は明らかに戦うときにちょっと役に立つ追加能力としてつくられており、平時には「力が強くなる紋章を宿してるので力仕事に向く」ぐらいの特徴しか発揮しないものです。じっさい、プレイ中に紋章が発動しても
「そ……んなすごい能力ではないな……」
「え、あったんだ……」
となることのほうがむしろ多く、確かに同程度の力をもつ紋章持ちと紋章なしがデスマッチしたら紋章持ちが勝つんでしょうが、それを貴族の資質とするのはあまりに野蛮というものです。
●少しだけ力が強く、
●荒事ではない平時においてはあってもなくてもさして変わらず、
●権力の条件のように思われているが、
●社会的権力の根拠とするには原始的にすぎる
という特徴は……
見たことあるやつだ。……
遺伝の乱数
一周目第一部途中での予想考察↓でも書いたのですが、
紋章はその特徴からして「遺伝子に組み込まれた形質」であることに間違いなく、遺伝子なので
●その形質が表現型として出てくるかはランダム だし
●自他の意思では基本どうにもならない し
●生まれ持ったら一生続く ものです。
たとえば血液型みたいなもんですよ。家族の血液型がみんな同じなわけないし、特殊な血液型じゃなくても、A型とB型からO型が生まれることだってあるわけです。どうする!? AB型以外は要職につきづらいみたいな世の中だったら!? 父母の性細胞のどういうのとどういうのがミートするかで人生の可能性の大枠が決まっちゃうんですよ。たまったもんじゃないですよね。
でもそういう遺伝形質を、我々はひとつ知ってるんですよ。
生育とバイアス
たまったもんじゃなさのひとつの例として、「紋章なしの貴族の子は肩身の狭い思いをすることが多い」以外のこともちょこちょこ挙げられています。紋章学の統計研究の結果として「紋章持ちは精神的に不安定な傾向にある」「紋章持ちは辛いものより甘いものを好む傾向にある」などの因果関係不明な説がいろいろ出てくるのです。
しかしリンハルトやハンネマンの言うことを総合すると「紋章が精神に影響を及ぼしているのか、逆に精神的な気質と紋章の発現に関係があるのか、それとも紋章を持っているということ(社会的な立場)が精神を不安定にさせるのか、そこんとこはよくわからない」のです。
血液型占いとかもそうですが、血液型占いを信じる日本人は自分がその血液型らしい人間であると信じて少しずつ行動に影響が出ます。人間の精神や生活のクセは当然変化するものなので、「そういうものだ」と教えられ、信じ、そのように行動したなら、生来のものというわけではない性質をいくらでも獲得するのです。
たとえばそれが「男性」などであれば、本当に「男性は乱暴で、共感的ではない生来の傾向を示す」とか言っていいのでしょうか?
それは、「男の子は少しくらい乱暴でも元気があって良い」「男の子なんだから泣かないの」という無数の教育がなされてきた弊害にすぎないのでは?
「女性は細やかな気遣いが得意で……」「男性は理性的で……」というのは、偏見を文化としてたえず強化し続けているだけなのではないか?……
差別の「ずらし」
『風花雪月』の「性別役割」はあまり固定されず、「男女」という観点においては、我々の世界の中世~近世に比べると段違いに平等な社会!であるように見えます。実際そこにはちらほらと新しい男や女の生き方のモデルを見ることができます。それはこの作品のすばらしい輝きのひとつです。
しかしその実は、我々の世界で「男女」にあったバイアスの多くが「紋章」にそっくり移転しているだけであり、さらには「性別」「紋章」と同じようにバイアスを受けがちな生来の要素である外国人への差別などの問題もちょいちょい目立つように描かれており、
問題の量は減ってないということが示されているのです。
次回まとめはこの差別の「ずらし」構造とストーリーテーマとの関わりをさらに書くつもりなのですが、そうするともっとエーデルガルトのことを理解したほうがいいので……いま教会ルート終わって同盟一部やってるなうで……次帝国しようとおもってるので……。
なるべく急ぎます。
明日ドラクエ11Sが発売じゃん……と呆然の照二朗でした。
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ぜんぜんプレイ終わらないから箸休めにごはんの記事書いたよ